調査

ステンレスのアンチダンピング関税で中国産は激減——穴を埋めた韓国と東南アジア、日本冶金工業への効き目は

2026.09.29
ステンレスのアンチダンピング関税で中国産は激減——穴を埋めた韓国と東南アジア、日本冶金工業への効き目は

📌 この記事は公開情報(財務省の貿易統計、経済産業省・財務省の調査資料、各社の決算資料、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月29日時点のものです。

中国・台湾産のステンレス鋼板に、7月から反ダンピング関税がかかっています。関税を求めた国内メーカーの日本冶金工業にとって、追い風になっているのでしょうか。

中国・台湾からの輸入は大きく減りましたが、その穴の大半を埋めたのは関税のかからない韓国と東南アジアでした。日本冶金工業の株価が大きく上がったのも、関税の日ではなく、半導体向けの需要とニッケル高を理由にした8月の上方修正のあとです。

反ダンピング関税は、ニッケル系のステンレス冷延板にかかっている

関税の対象は、中国・台湾産の「ニッケル系ステンレス冷延板」です。税率は3.6〜42.1%で、11月21日までに本決定が出ます。

反ダンピング関税(日本の法律では「不当廉売関税」)は、外国の会社が自国より安い値段で日本に売り、国内の産業が傷ついたと認められたときに、その差の分を上乗せする関税です。国内の会社が申請し、経済産業省と財務省が調べて決めます。

今回の対象は、ステンレスの板を常温でローラーに通して薄く仕上げた「冷延(冷間圧延)」の板や帯のうち、ニッケルを0.6%より多く含む「ニッケル系」です。代表は、食器や厨房機器、鉄道車両に使う304と呼ばれる鋼種です。ニッケルをほとんど含まない「クロム系」は対象に入っていません。

申請したのは、日本製鉄・日本冶金工業・ナス鋼帯・日本金属の4社です。

2025年5月12日国内の4社が関税の上乗せを申請
2025年7月22日経済産業省と財務省が調査を開始
2026年6月19日仮決定。国内の産業に実質的な損害が出たと推定した。調査期間を4か月延ばし、11月21日までとした
2026年7月9日暫定的な関税を発動(11月8日まで)。中国は5社が27.7%・その他42.1%、台湾は6社が3.6%・その他20.1%

調査の中間報告書によると、関税の対象になった中国・台湾産の輸入は、2022年の10万6,074トンから2024年には12万3,413トンに増えていました。国内メーカーの販売量は同じ期間に2割減っています。

中国・台湾からの輸入は7割減った。減ったのは関税の対象品だけ

2026年1〜8月の中国・台湾からの輸入は、前年の同じ期間より73%減りました。同じ国から入る冷延板でも、関税の対象外のクロム系は減っていません。

財務省の貿易統計で、ニッケル系の冷延板の輸入を国別・月別に集計しました。

中国・台湾からの輸入は、調査が始まった2025年7月のあと、9月にいったん増えてから細り始めました。2026年に入ってからは月1,400〜4,700トンで、8月(速報)は中国が719トン、台湾が723トンでした。

これが関税の手続きによるものかどうかは、対象外の品と比べると分かります。

中国・台湾からのクロム系は、2025年1〜8月の1万4,519トンから2026年の同じ期間は1万5,443トンで、むしろ6%増えました。 同じ国の同じ冷延板で、関税の対象になった品だけが減っています。日本の需要が落ちたことが理由なら、クロム系も減るはずです。

穴を埋めたのは韓国と東南アジア

中国・台湾から減った約6万2,000トンのうち、6割以上を関税のかからない韓国と東南アジア・インドが埋めました。

2026年1〜8月のニッケル系の輸入を国別に見ると、韓国は2万606トンから3万5,548トンにほぼ倍増しました。ベトナムは29トンから8,618トン、インドネシアは4,568トンから9,798トンです。タイとインドも急に増えています。

中国・台湾からは8万5,191トンから2万2,838トンへ、6万2,353トン減りました。そのうち韓国と東南アジア・インドなどの増加分が3万9,694トンで、64%にあたります。輸入全体では11万2,352トンから8万9,693トンへ、2万2,659トン(20%)減っただけです。

値段も大きくは変わっていません。1kgあたりの輸入単価は、東南アジア・インド産が357円、韓国産が405円で、2025年1〜8月の中国・台湾産(351円)と近い水準です。関税で安い中国産が消えて、国内品の値上げがしやすくなった、という形にはなっていません。

日本冶金工業の数量は増えず、株価は決算で動いた

日本冶金工業の一般材の販売量はほぼ横ばいで、値上げ幅はニッケルの値上がり分とほぼ同じでした。株価が大きく動いたのは、関税の日ではなく8月5日の上方修正のあとです。

日本冶金工業は、ステンレスの板をつくる専業のメーカーです。事業を、半導体の製造装置やオイル・ガス向けの「高機能材」と、汎用品の「一般材」に分けて開示しています。関税の対象の品と競合するのは、主に一般材です。

一般材の販売量は、2025年4〜6月期も2026年4〜6月期も2万9,000トンで変わっていません。単価は1kgあたり505円から540円に35円上がりました。同じ期間に、ステンレスの原料のニッケルの国際価格(LMEの平均)は1ポンド6.88ドルから8.24ドルに上がっています。ニッケルを8%含む鋼材で計算すると、1kgあたり約37円の値上がりで、単価の上げ幅とほぼ同じです。

会社は8月5日の上方修正の理由に、半導体関連とオイル・ガス関連の需要の拡大と、原料高による在庫評価益を挙げています。反ダンピング関税には触れていません。同じ日に、一般材の通期の販売量の見通しは12万トンから11万7,000トンに下げ、高機能材を6万2,000トンから6万7,000トンに上げました。 暫定関税がかかったあとの見通しでも、一般材の量は増える前提になっていません。

2026年5月の決算短信には「輸入材の流入はピーク時に比べて減少傾向」とあり、輸入が細ったことは会社も書いていますが、数量の伸びにはまだ表れていません。

株価が動いた日を並べると、効いたのが関税ではないことが分かります。

仮決定が発表された6月19日の前日から、次の営業日の22日までに、日本冶金工業の株価は4,560円から4,750円へ4.2%上がりました。市場全体(TOPIX連動ETF)は0.5%高です。

ところが、暫定関税が始まる前日の7月8日から、決算の日の8月5日までは1.4%高で、ほとんど動いていません。株価が大きく動いたのは、8月5日の取引終了後に上方修正を出した翌日で、1日で14.1%上がりました(市場全体は0.6%高)。修正の理由は、先に見たとおり半導体向けとオイル・ガス向けの需要と、ニッケル高による在庫評価益です。

調査が始まった2025年7月22日から9月28日までで比べると、日本冶金工業は33%高で、市場全体の45%高を下回っています。申請した日本金属(25%高)と日本製鉄(19%高)も同じです。

関連企業と日本の接点

関税を申請した4社のうち、上場しているのは3社です。日本冶金工業と日本金属の足元の決算の説明に、反ダンピング関税は出てきません。

会社(市場:コード)関税との関わり決算・株価で見えること
日本冶金工業(東証:5480)申請者。ステンレスの板をつくる専業メーカー2026年4〜6月期の一般材の販売量は横ばい。通期の営業利益の見通しを130億円から160億円に上方修正(理由は半導体向けなどの需要と在庫評価益)。株価(9月28日)5,440円
日本製鉄(東証:5401)申請者。子会社の日鉄ステンレスがステンレス鋼板をつくるステンレスは事業の一部。株価682.9円
日本金属(東証:5491)申請者。薄く精密なステンレス帯鋼(みがき帯鋼)が主力2026年4〜6月期の営業利益は4億3,400万円(前年同期1億5,300万円)。理由は値上げと高収益品へのシフトで、反ダンピング関税には触れていない。株価903円
ナス鋼帯申請者上場していない

で、儲かるのか

この記事の答え

関税は中国産を止めたが、国内メーカーの追い風にはなっていない。日本冶金工業の株価を動かしたのは決算だった。

現状

中国・台湾からの輸入は7割減。そのうち6割以上を韓国と東南アジア・インドが埋め、輸入全体の減少は2割にとどまっています。

今後の株価

日本冶金工業の株価が大きく動いたのは8月5日の上方修正のあとでした。中身は半導体向けなどの需要とニッケル高による在庫評価益で、関税ではありません。

儲かるのか

関税を理由に申請企業の株を見るのは筋が違います。関税が効くのは、対象外の国からの輸入が細ったときだけです。

毎月下旬財務省の貿易統計。韓国と東南アジア・インドからのニッケル系の輸入量(2026年1〜8月は月平均約8,300トン)
随時ニッケルの国際価格。日本冶金工業は8月の上方修正の理由の1つに原料高による在庫評価益を挙げている
10月下旬〜11月上旬日本冶金工業の4〜9月期決算(前年は10月31日)。暫定関税がかかった7〜9月の一般材の販売量と、高機能材の伸び
2026年11月8日暫定関税の期限

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フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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