レアアースを動かす中国の2社——北が握る量と、南が握る「熱に耐える磁石」の急所

📌 本記事は公開情報(各社の公表資料、決算報告、報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月2日時点のものです。
中国がレアアースを握っている——という話は、よく聞きます。
握っているのが、たった2社だという話はあまり聞きません。
数字が読めるのは、片方だけです
北は上場企業なので、売上も利益も四半期ごとに出てきます。南の親会社は、一度も連結の数字を出していません。
何が起きているのか
生産枠は、その年に採掘・分離してよい量の上限です。これまでは公式に発表されており、世界中の取引業者や磁石メーカーが供給を見通す材料にしていました。 ロイターによれば、2025年は発表が無いまま各社に通知され、安全上の理由で数字を明かさないよう指示されたと報じられています。
⚠️ 「公表されなくなった」ことと「枠が減った」ことは別です。 減ったかどうかは、外からは分かりません。分からなくなったこと自体が今回の変化です。
北の数字は、伸びています
北方稀土の2025年の売上は425億6,308万元で、前年の329億6,631万元から29.1%増えました。利益総額も18億3,724万元から33億8,429万元へほぼ倍になっています。
一方、南で唯一上場している中国稀土(000831)は、2024年の売上が30億3,000万元で、前年から24%減りました。純損失は約2億8,700万元です。
この2つを並べても、南の実力は分かりません。 000831は南のグループのごく一部で、親会社である中国稀土集団の連結の数字は公表されていないからです。
なぜ「南」が急所なのか
用語を2つ置きます。
軽希土はネオジムやプラセオジムで、磁石の磁力そのものをつくります。重希土はジスプロシウムやテルビウムで、その磁力が熱で失われないようにする役割です。
車の駆動モーターは、100度を超える環境で回り続けます。 磁力が熱で落ちれば、走らなくなります。だから重希土が要ります。
そして、その重希土がまとまって採れるのは南のイオン吸着型鉱床です。江西・広東・福建・湖南の粘土層に広がっています。⚠️ 同じ形の鉱床はミャンマーやラオスにもあり、中国だけのものではありません。 ただし分離精錬まで含めて大規模に回っているのは、いまのところ中国です。
足りていないことは、最後の公表値に出ていました
ChinaTalkの分析によれば、最後に公表された2024年のジスプロシウムの枠は900トンを下回っていました。 一方、ネオジム磁石をつくるのに要る量は推定で約1,750トンです。
枠の倍近い量が使われていた計算になります。 差は、枠を超えた生産やミャンマーからの持ち込みで埋まっていたとみられます。
⚠️ 1,750トンは推定値で、公的な統計ではありません。 それでも、枠と実需のあいだに大きな開きがあることは、この分野では以前から指摘されてきました。
そのうえで、2025年から枠の数字が消えました。 もともと足りていなかったものが、いまはどれだけ足りていないのかも分からなくなっています。
中国の資源支配については、鉱山を確保しても、動かす技術が中国製だったらで「精錬する技術」の側から扱いました。レアアースとレアメタルの違いなど基礎はレアアース・レアメタルとはにまとめています。
米国では、誰の損得になるのか
米国側の当事者はMPマテリアルズ(MP)です。カリフォルニアのマウンテンパス鉱山を持ち、中国以外では数少ない大規模な採掘・分離の拠点です。
ただし、規模がまるで違います。
| 北方稀土 | MPマテリアルズ | |
|---|---|---|
| 売上 | 425.6億元(2025年) | 2.04億ドル(2024年) |
| 従業員 | 約1万人 | 約1千人 |
そして、MPが持っているのは主に軽希土です。 重希土の問題は、米国に鉱山を1つ増やしても解けません。
資源を持つ側の株価は、下がっています
北方稀土は指数79、MPは85です。 中国稀土だけが113で、わずかに上回っています。
日本では、誰の損得になるのか
日本の当事者は、資源側ではなく磁石をつくる側です。
そして日本の磁石メーカーは、南の急所を外しにいっています。
プロテリアルは2025年7月22日、重希土を全く使わないネオジム焼結磁石を発表しました。
| 材料 | 残留磁束密度 | 保磁力 |
|---|---|---|
| NMX-F1SH-HF | 1.40T | 1671kA/m以上 |
| NMX-G1NH-HF | 1.42T | 1830kA/m以上 |
保磁力は「熱で磁力が抜けにくいか」を示す数字で、高いほど高い温度まで使えます。プロテリアルは、後者を100度を超える環境で使えるものとして位置づけています。
- NMX-F1SH-HFは量産工場での試作サンプルの提供をすでに開始
- NMX-G1NH-HFは2026年4月に量産工場での試作サンプル対応が可能になる予定
⚠️ 試作サンプルの提供は、採用でも量産でもありません。 車に載って売れるまでには、評価と設計の工程が残っています。
プロテリアルは非上場です。 個人が直接この会社の株を買うことはできません。
磁石を使う側の株価は、上がっています
⚠️ この差をレアアースだけで説明することはできません。 TDKは電池と電子部品、信越化学工業は半導体材料と塩化ビニル、大同特殊鋼は特殊鋼、双日は総合商社で、レアアースはどの会社でも事業の一部です。
それでも、資源を持つ側と使う側で向きが分かれていること自体は事実です。
関連企業と日本の接点
確度で4段に分けています。
| 区分 | 企業 | 上場 | この件での位置 |
|---|---|---|---|
| ① 構図の当事者 | 中国北方稀土 | 上海(600111) | 北。軽希土の量を握る。2025年売上425.6億元 |
| ① 構図の当事者 | 中国稀土 | 深圳(000831) | 南の上場子会社。親会社の連結は非開示 |
| ① 構図の当事者 | 中国稀土集団 | 未上場 | 南の親会社。重希土を握る。個人は直接買えません |
| ① 構図の当事者 | MPマテリアルズ | 米国(MP) | 中国外で数少ない採掘・分離拠点。主に軽希土 |
| ② 磁石をつくる側 | プロテリアル | 未上場 | 重希土を使わない磁石を2025年7月に発表。個人は直接買えません |
| ② 磁石をつくる側 | TDK | 東証(6762) | ネオジム磁石の事業を持つ |
| ② 磁石をつくる側 | 大同特殊鋼 | 東証(5471) | 磁石材料の大手。重希土の削減に取り組む |
| ② 磁石をつくる側 | 信越化学工業 | 東証(4063) | 希土類磁石を手がける |
| ③ 供給を押さえる側 | 双日 | 東証(2768) | JOGMECと共同で豪ライナスに出資。重希土の日本向け供給契約を持つ |
| ④ 間接的にかかわる領域 | 自動車・産業用モーター・風力発電 | — | モーターを使う産業はすべて磁石の値段と供給の影響を受けます。ただし磁石はコストの一部です |
株価は上の2つの図で見ています。
フクリの見方
この件のリスクは、量から「測れないこと」へ移ったという見立てです。
理由は1つです。2025年に生産枠の公表が止まり、南の親会社は連結決算を一度も出していません。 つまり、世界の重希土の供給を決めている側について、外から検算できる数字がほとんど残っていません。
足りているのか足りていないのかを、価格が動いてから知ることになります。
「北の数字が読める」ことは安心材料ではありません
北方稀土は上場企業なので、四半期ごとに数字が出ます。それは読める部分が読めるというだけです。
車のモーターが止まるかどうかを決めるのは、南が握る重希土のほうです。 読めるほうを見て安心するのは、明るいところで鍵を探すのに似ています。
「どこかの国が独占している」という話は、数字を当たると形が変わることがあります。 日本が握るとされる素材を検算した記事が2本あります——日本は「硫化カルボニル」を独占しているのかと日本の「ヨウ素独占」は本当かです。今回が違うのは、検算する数字そのものが出てこない点です。
日本は「買う」と「要らなくする」を同時に進めています
日本勢が資源から手を引いているわけではありません。 むしろ、中国の外に確保する手は先に打たれています。
- 2023年3月7日……双日とJOGMECが、共同出資会社を通じて豪ライナスへ2億豪ドル相当の追加出資を決定
- あわせて、マウント・ウェルド鉱山由来のジスプロシウムとテルビウムを最大65%まで日本向けに供給する契約を結んだ
- 2026年2月……南鳥島沖の水深約5,700メートルから、レアアースを含む泥の回収に成功した
ここに、プロテリアルの重希土フリー磁石が重なります。 前者は「中国の外に、数字の見える供給源をつくる」手で、後者は「そもそも要る量を減らす」手です。
どちらも同じ問題への答えです。 中国側の数字が読めない以上、読めるものに切り替えるか、要らなくするしかありません。
2つを1つの戦略として説明したのはこの記事であり、各社がそう述べたわけではありません。
この見立てが外れる3つの条件
では、何を見ていればいいのか
| 見るもの | どこで | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 北方稀土(600111)の四半期開示 | 上海証券取引所 | この分野で唯一、外から検算できる数字 |
| 中国稀土(000831)の売上 | 深圳証券取引所 | 南の実力をのぞける、ただ1つの窓 |
| プロテリアルの量産試作 | 同社の発表 | 2026年4月の予定。ずれれば置き換えは遅れます |
北方稀土の売上が伸び続けているのに南が見えないままなら、この見立ては維持されます。逆に枠の公表が戻れば、前提は変わります。
まとめ(3行)
情報源
- ChinaTalk「China’s Rare Earths Duopoly」(2026年9月1日)
- 中国北方稀土(集団)高科技股份有限公司「2025年度報告」(2026年4月17日公表)
- ロイター「China quietly issues 2025 rare earth quotas」
- プロテリアル「EV駆動モーター用高性能重希土類フリーネオジム焼結磁石を開発」(2025年7月22日)
- MPマテリアルズの公表資料
- JOGMEC「レアアース(重希土)の日本向け供給確保〜豪州ライナス社への追加出資〜」(2023年3月7日)
- JAMSTEC・内閣府SIPによる南鳥島沖レアアース泥の回収(2026年2月)
- Yahoo Finance(株価の週次終値・2025年8月〜2026年9月2日)
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