調査

ヨウ素の輸出単価は2倍になった。それでも伊勢化学工業が減益になった理由

2026.09.25
ヨウ素の輸出単価は2倍になった。それでも伊勢化学工業が減益になった理由

📌 この記事は公開情報(財務省貿易統計・伊勢化学工業の決算短信および決算説明資料・市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月25日時点のものです。

ヨウ素の値段が上がっています。日本は世界2位の産地で、その値上がりは国内の会社の利益にそのまま効くはずです。ところが最大級のメーカーは減益になりました。

値段が上がっても、売る量が取れなければ利益は増えない。 その当たり前が、いま数字に出ています。

いくらで売れているのか

1キロあたりの金額が、4年で2倍になりました。売る重さはほとんど変わっていません。

見るのは統計品目番号2801.20、品名はそのまま「よう素」です。ほかの物質が混ざらない、珍しくきれいな番号です。

1キロあたりの金額は、2022年が5,010円、2024年が8,681円、2025年が9,241円、2026年1〜7月は10,171円。4年で2.0倍です。

一方で重さは、2022年の5,106トンから2025年の5,575トンへ9%増にとどまります。2026年1〜7月は3,318トンで、このペースなら年5,687トン。ほぼ横ばいです。

金額は2022年の256億円から2025年の515億円へ2倍になりましたが、増えた分のほとんどは値段によるものです。

買っているのは、太陽電池ではなく病院だった

輸出先の1位はノルウェーです。2025年の輸出額の23%を占めます。

2025年の内訳は、ノルウェー120億円(23.2%)、中国93億円(18.0%)、インド85億円(16.6%)、ドイツ50億円、イタリア42億円、米国31億円。この6か国で8割です。

顔ぶれを見て分かるのは、行き先が医薬の国だということです。ノルウェーはエックス線やCTで使うヨウ素造影剤の一大生産地で、インドは医薬品原薬、ドイツ・イタリア・米国も製薬です。

日本でヨウ素が話題になるとき、よく出てくるのはペロブスカイト太陽電池です。ヨウ素はその主原料にあたります。ただし、いま値段を動かしているのはそちらではありません。 太陽電池が本格的に量産に入るのはこれからで、輸出の行き先はまだ医薬に寄っています。ペロブスカイトとヨウ素の関係はヨウ素の記事にまとめました。

値上がりの型も特徴的です。どの国向けも上がっています。 ノルウェー向けが3,945円→8,518円、中国向けが5,398円→9,657円、ドイツ向けが4,325円→9,583円。特定の用途だけが高くなったのではなく、ヨウ素という素材そのものの相場が上がったと読めます。

それなのに、会社は減益になった

国内最大級のヨウ素メーカーである伊勢化学工業は、2026年上半期に営業利益が14%減りました。理由は作った量です。

同社の売上高は2021年の203億円から2025年の393億円へ、営業利益は27億円から95億円へ伸びました。営業利益率は13.3%から24.2%です。ヨウ素の相場が上がった4年と、そのまま重なります。

ところが2026年1〜6月は、売上高192億円(前年同期比0.4億円減)、営業利益41億円(同7億円減・14.4%減)。営業利益率は25.1%から21.5%へ下がりました。

会社の説明はこうです。

ヨウ素市況は引き続き堅調に推移したものの、一部のお客様向け販売数量減少および減価償却費等の費用増加の影響により減収減益。

相場は良いが、量が出なかった。 実際、上半期のヨウ素生産量は2,122トンから1,872トンへ11.8%減りました(うち日本が1,952→1,731トン)。

通期の予想は2026年7月30日時点で据え置きです。売上高380億円・営業利益80億円で、2025年の実績(393億円・95億円)から減収減益の計画になっています。

関連企業と日本の接点

ヨウ素は千葉県の地下にたまった「かん水」から取り出します。天然ガスと一緒に汲み上げるので、掘る会社とガスの会社が重なります。

東証スタンダード: 4107

伊勢化学工業

ISE CHEMICALS CORPORATION

千葉県でかん水からヨウ素を取り出して売る会社です。売上の9割近くがヨウ素と天然ガスで、2027年に創立100周年を迎えます。AGC(東証プライム: 5201)が議決権の53.5%を持つ親会社です。

株価(9月25日)3,890円
2026年2月6日の高値から50.5%安
2025年の営業利益率24.2%
上半期のヨウ素生産量11.8%減

ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=伊勢化学工業株式会社)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

同じ千葉のかん水を扱う会社として、K&Oエナジーグループ(東証プライム: 1663)があります。天然ガスが主で、ヨウ素も手がけています。株価は2026年3月30日の高値から31.4%下げました。

もう1社、AGC(東証プライム: 5201)が伊勢化学工業の議決権53.5%を持っています。ただしAGCはガラスと化学品の大企業で、ヨウ素は売上のごく一部にあたります。

2月に買われ、そこから戻されたという形は共通しています。 この差をヨウ素の相場だけで説明することはできません。2社は事業の構成も規模も違い、株価は別の要因でも動きます。

で、儲かるのか

相場が上がっても、掘れる量が増えなければ利益は増えません。次に効くのは、米国での増産が立ち上がるかどうかです。

伊勢化学は2026年6月、米国のセレクト・ウォーター・ソリューションズと契約を結びました。同社が油田から出る水(油田かん水)を集めている設備を使い、そこからヨウ素を取り出すというものです。

  • 契約期間は10年(最長20年まで延長できる選択権つき)
  • 設備投資は全額を伊勢化学が負担する
  • 目標生産量は年3,000トン(2030年)
  • 2026年7月にテキサス州で第1プラントの建設を決め、2027年中の稼働を目指す

会社が示した生産量は、2024年4,111トン、2025年4,291トン、2026年は4,005トンへ減る見通し。そして2030年の目標が7,500トン——いまの1.8倍です。増える分のほとんどが、この米国の協業によるものという絵になっています。

資金の計画も置かれています。2026年から2028年の3年間で、既存の設備投資に100億円超、これとは別に100億円の戦略投資枠。3年間の営業キャッシュフローの見込み290億円のうち、大半を投資に回す形です。

この記事の答えはこうです。伊勢化学は儲かる会社になった。ただし2月の株価は、値段が上がるなら量も増える前提で買われていた。実際には量が減った。半分に戻ったのは、その差だと見ています。

崩れるとしたら2つです。テキサスの第1プラントが予定どおり2027年に立ち上がるか、国内の新しい坑井が生産量を戻すか。 どちらも、決算より先に貿易統計の月次の重さに出ます。

日本が握っている素材という同じ型は硫化カルボニルの記事に、事業の伸びと株価の倍率を分けて見る考え方は三菱重工の記事とガラスクロスの記事に書きました。

情報源

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フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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