調査

ガラスクロス不足は本当か——輸出の単価を国別に分けて見えてきたこと

2026.09.24
ガラスクロス不足は本当か——輸出の単価を国別に分けて見えてきたこと

📌 この記事は公開情報(UN Comtradeの貿易統計・日東紡の決算説明資料・市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月24日時点のものです。

AIサーバーの基板に使うガラスクロスが足りない、という話が続いています。ただ、どの製品がどれだけ足りないのかを数字で示したものは見当たりません。日本の輸出の統計を品目番号までたどって、行き先ごとに1キロあたりの金額を出してみました。

足りないのは全部ではなく、高いものだけでした。 行き先を3つに分けると、まったく違うことが起きています。

いま、どれだけ売れているのか

売る重さは増えていません。増えているのは1キロあたりの金額のほうです。

見るのは統計品目番号7019.63。「糸から成る目の細かい織物」のうち、平織りで、塗布も積層もしていないものを指します。樹脂を染み込ませる前の、素のガラスクロスです。基板を作る会社に渡る、その手前の形にあたります。日本から出ていく分の全部が入るので、特定の1社の数字ではありません。

2026年1〜7月の輸出は823トン・1億1,926万ドル。前の年の同じ7か月と比べると、重さは10.3%減り、金額は16.5%増えました。1キロあたりの金額が111.58ドルから144.91ドルへ、29.9%上がったからです。

年でならすと、2022年が90.04ドル、2023年が91.45ドル、2024年が103.66ドル、2025年が114.61ドル。2026年はどの月も2025年の平均を上回り、7月の152.31ドルは2024年以降でいちばん高い水準です。(月ごとの上下はあり、3月と6月は前の月をわずかに下回りました)

上がった理由は2つ考えられます。値上げと、売っている中身の入れ替わりです。

値上げは実際に効いています。日東紡(3110)は4〜6月期について「スペシャルガラスを中心に価格改定を進めたことが増益に寄与」と説明しています。一方で、データセンター向けの低誘電ガラス(NERガラス)については、8月5日の決算説明会で「価格改定については、今期中に実施する予定は現時点ではない」とも答えました。これまでの値上げは効いているが、この先の上乗せは限られる、と読めます。

行き先で、真逆のことが起きている

韓国・台湾・中国の3か国で、輸出の重さと金額がばらばらの方向へ動いています。

2025年の金額の内訳は、韓国が55.8%、台湾が17.7%、中国が15.3%。この3つで89%です。銅張積層板——ガラスクロスに樹脂を染み込ませて銅を貼った板——を作る会社が集まっている場所と、そのまま重なります。

行き先重さ(2022→2025)1キロあたり(2022→2025)
韓国408トン → 431トン(+6%)172.87 → 235.05ドル(+36%)
台湾302トン → 166トン(−45%)91.86 → 194.44ドル(+112%)
中国83トン → 271トン(+226%)93.64 → 102.70ドル(+10%)

台湾向けは、重さが半分近くまで減りました。その代わり1キロあたりの金額が倍以上になっています。 中国向けはその逆で、重さは3倍を超えたのに1キロあたりの金額は1割しか上がっていません。

ここで一度立ち止まります。統計が示すのは「何が起きたか」だけで、「なぜか」は示しません。 台湾向けの重さが減った理由には、①高いものに絞って出している ②台湾の会社が生産を中国側に移した ③他社の製品に置き換えられた——どれを当てはめても同じ数字になります。

ただし③については、会社自身が認めています。 半導体パッケージ基板に使う低熱膨張ガラス(Tガラス)について、8月5日の質疑応答にこうあります。

まだ当社の増産効果が本格的に発現できていないこともあり、お客様が他社の低熱膨張ガラスを使う検討を進めていることは認識している

作れないから、客が他を見始めている。これは推測ではなく、会社の言葉です。

これから伸びるのか、止まるのか

会社は増産を進めていますが、工程が2段階に分かれていて、量がそろうのは2027年度です。

会社が示した予定を並べると、今期(2026年度)に動くのはガラスを溶かす炉の新設まで。それを織って仕上げる処理の新工場が量産に入るのは2027年度、台湾での量産も2027年度です。糸を作る炉だけ増えても、布にする工程が追いつかなければ出荷は増えません。2028年度からは汎用ガラスの炉を縮めて特殊ガラスに振り替える、としています。

つまり作れる量が大きく増えるのは、これからです。 会社自身、Tガラスについて「まだ当社の増産効果が本格的に発現できていない」と述べています。値上げの時期についても「設備投資の結果として供給量を増やすことができたタイミングで検討する」と答えており、増やせるようになるまで次の値上げはしない、と読めます。

作れる量が増えないなら、限られた炉で何を作るかという順番の話になります。会社はこう答えています。

今後も需要が続く限り、Tガラスには優先度高くリソースを振り向ける

高いものを優先する。 1章で見た単価の上昇と、2章で見た重さの減少は、値上げだけでは説明がつきません。限られた炉で高いものを先に作っているなら、この2つは同時に起きます。

一方で会社の計画は強気です。中期経営計画の目標を1年前倒しで達成したとして、2027年度に売上高1,550億円・営業利益360億円という目標を置き直しました。2026年度(2027年3月期)の見通しは、8月5日に売上高1,370億円→1,410億円、営業利益260億円→300億円へ引き上げています。

関連企業と日本の接点

ガラスクロスを作る側、それを板にする側、同じガラスで競う側。3つの層で株価の動き方が違います。

東証プライム: 3110

日東紡績

NITTO BOSEKI CO., LTD.

低誘電ガラス(NE・NER)と低熱膨張ガラス(T)を軸に、ガラスの糸と電子材料向けのガラスクロスを作っています。売上の半分強が電子材料事業です。

株価(9月24日)3,065円
2026年5月7日の高値から52%安
電子材料の今期営業利益(会社見通し)280億円
同・4〜6月期の営業利益率38.7%

株価は2026年7月1日付の1株→5株の株式分割を調整した値です。ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=日東紡績株式会社)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

買っている側と、同じガラスで競う側は、日本の取引所には上場していません。

  • 台光電子材料(台湾証券取引所: 2383)=銅張積層板の大手。ガラスクロスに樹脂を染み込ませて板にする側にあたります
  • 中国巨石(上海証券取引所: 600176)=ガラス繊維の世界最大手。汎用品が中心ですが、特殊品にも手を伸ばしています
  • 台湾ガラス(台湾証券取引所: 1802)=低熱膨張ガラスを作れる数少ない会社の1つとされます

同じAIサーバー基板の話でありながら、買っている側は上がり続け、作っている側だけが戻されました。 この差をガラスクロスの需給だけで説明することはできません。3社は事業の中身も上場している市場も違い、株価は別の要因でも動きます。それでも、分野全体が下を向いたわけではないことは、この図から読み取れます。

で、儲かるのか

会社は儲かっています。問題は、その儲けが株価にもう入っているかどうかです。

まず会社の儲けから。4〜6月期は、会社全体でも電子材料事業だけでも、売上より利益のほうが速く伸びました。

売る重さが増えていないのに利益が伸びているのは、1キロあたりの金額が上がっているからです。 1章で見た貿易統計と、会社の決算は同じことを言っています。

では株価はどうか。

分割を調整した株価は、2026年の初めが2,094円、5月7日に6,390円(3.05倍)、そして9月24日は3,065円。高値から52%下げています。

2024年度上期を100として並べると、電子材料事業の営業利益は100から220(今期は会社の見通し)。株価は100から318(2025年度末)へ、さらに542(5月7日)まで行って、いま260です。

この記事の答えはこうです。会社は確かに儲かっている。ただし5月の株価は、重さも一緒に増える前提で買われていた。実際には重さは増えず、1キロあたりの金額だけが上がった。半分に戻ったのは、その差だと見ています。

この見立てが崩れるとしたら2つです。2027年度の増産が前倒しで立ち上がって重さが増え始めるか、会社が値上げに動くか。 どちらも、決算より先に貿易統計の月次に出ます。

ガラスクロスと同じ「日本が握っている半導体材料」の型は硫化カルボニルの記事に、データセンターの電力のほうは自前で発電を抱える記事に書きました。事業の伸びと株価の倍率を分けて見る考え方は三菱重工の記事とPER・PBRの記事、半導体そのものの基礎は半導体の記事が参考になります。

情報源

  • UN Comtrade:日本の輸出、統計品目番号7019.63(年次2022〜2025年・月次2024年1月〜2026年7月、2026年9月24日取得)。相手国別の重さと金額。1キロあたりの金額は金額÷重さで自前計算
  • 財務省:輸出統計品目表(第70類)。7019.63の品名「糸から成る目の細かい織物(平織りのものに限るものとし、塗布したもの及び積層したものを除く。)」
  • 日東紡績:2027年3月期 第1四半期 決算説明資料(2026年8月5日)。4〜6月期の連結・セグメント別実績、通期見通しの上方修正、能力増強の予定、株式分割後の配当
  • 日東紡績:2027年3月期 第1四半期決算説明会 主要質疑応答(2026年8月5日)。Tガラスへの優先配分、他社の低熱膨張ガラスの検討、NERガラスの価格改定の方針
  • 日東紡績:2026年3月期 決算説明資料(2026年5月)。2024年度・2025年度の半期別の営業利益、中期経営計画の目標(2027年度 売上高1,550億円・営業利益360億円)
  • 株価:Yahoo Financeの日次終値(2026年9月24日取得)。日東紡は2026年7月1日付の1株→5株の株式分割を調整済み
免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

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フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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