調査

三菱重工の受注残は14兆円で過去最高。それでも株価が高値から4分の1下げた理由

2026.09.24
三菱重工の受注残は14兆円で過去最高。それでも株価が高値から4分の1下げた理由

📌 この記事は公開情報(三菱重工の決算短信・決算説明資料・市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月24日時点のものです。

三菱重工(7011)の受注残は過去最高で、利益も伸びています。会社は受注の見通しも引き上げました。それなのに株価は年初より下がっています。この会社を見ている人は、次に何を見ればいいのでしょうか。

見るのは受注残の大きさではありません。受注が会社の見通しを超えて伸びるかどうかです。 この数年、株価の上がり方は利益の上がり方を大きく引き離してきました。その差がいま、縮み始めています。

受注残は14兆円。今期の売上見通しの2.6年分が積み上がった

2026年4〜6月期末の受注残は14兆1,030億円。今期の売上見通し5兆4,000億円の2.6年分にあたります。

受注残とは、すでに受けた注文のうち、まだ売上になっていない分です。発電設備や防衛装備のように、納めるまで数年かかる商売では、この残高が将来の売上の予約表になります。

伸び方は急です。2021年度末(2022年3月末)は5兆4,885億円でしたが、2023年度末に8兆4,005億円、2024年度末に10兆2,362億円、2025年度末に13兆2,376億円と積み上がりました。この3か月だけで8,653億円増えています。

会社の実績も過去最高が並びます。2025年度(2026年3月期)は受注高7兆6,536億円(前年度比20%増)、売上収益4兆9,741億円(14%増)、事業利益4,322億円(22%増)。2026年4〜6月期は受注高が26%増、事業利益が65%増、当期利益が97%増でした。

それでも株価は高値から4分の1下げ、半年間その高値に届いていない

株価は3月2日の5,195円が高値(終値)で、9月18日は3,879円です。25.3%安、年初来では6.8%安。同じ年初からの期間で、TOPIX連動ETFは16.8%高、米国でガスタービンを作るGEヴァノヴァは38.4%高でした。

目を引くのは、良い数字が出ても続かないことです。

8月4日、会社は4〜6月期の決算を取引時間中の午後1時半に発表しました。事業利益65%増、当期利益97%増、そして通期の受注見通しの引き上げ。その日の株価は7.7%上げて4,091円になりました。ところが9月18日までに5.2%下げ、発表前の水準(3,799円)に近いところまで戻っています。

3月2日の高値のあと、いちばん高かった日は3月18日の5,000円です。半年以上、3月の高値に届いていません。年初来の安値は6月11日の3,494円でした。

増えたのはガスタービン、減ったのは防衛。会社は受注見通しを2,000億円上げた

受注残の中身は入れ替わっています。エナジーは3か月で8,314億円増えた一方、航空・防衛・宇宙は1,649億円減りました。

事業2025年度末2026年4〜6月期末増減
エナジー(ガスタービン・原子力など)6兆9,832億円7兆8,146億円+8,314億円
プラント・インフラ2兆1,028億円2兆2,861億円+1,833億円
航空・防衛・宇宙4兆632億円3兆8,983億円−1,649億円
インダストリアル・ソリューション875億円1,032億円+157億円

エナジーを押し上げているのが、大型ガスタービン(10万kW以上)です。会社は、石炭・石油火力からの置き換えに加え、データセンターを中心とした電力需要を理由に挙げています。

まだ納めていない大型ガスタービンは80台・3,500万kWです。1基100万kW級の大型の原子力発電所に置き換えると、35基分にあたります。4〜6月期の受注は10台で、前年同期の8台を上回りました。

ただし、受注した地域は入れ替わっています。米州が6台から4台へ減り、アジアが2台から6台へ増えました。少なくともこの四半期は、データセンターの電力需要といえば米国、という図式のとおりには動いていません。

会社の見方は強気のままです。米国法人の津久井隆雄社長は9月22日、2026年のガスタービンの世界需要について「25年と同様か上回る水準を見込む」と話しています(日本経済新聞の取材)。

一方の防衛です。4〜6月期の防衛・宇宙の受注高は516億円で、前年同期の2,918億円から大きく減りました。会社はこれを「前年同期の大型受注のリバウンド」と説明しています。そのうえで、通期の見通しは引き上げました。 防衛・宇宙の通期受注見通しは1兆4,000億円から1兆5,000億円へ。資料の注には「豪州向けフリゲートを除いた受注は前年度対比で増加を見込む」とあります。

会社全体では、通期の受注見通しを6兆8,000億円から7兆円へ2,000億円引き上げました。内訳はガスタービンなどのGTCCが2兆3,000億円から2兆4,000億円へ、防衛・宇宙が1兆4,000億円から1兆5,000億円へ。一方で、売上・事業利益・当期利益の見通しは5月12日の公表から変えていません。

その受注が、どこまで進んでいるか。4〜6月期を終えた時点の進捗はこうなっています。

事業通期の受注見通し4〜6月の受注進捗率(前年同期)
エナジー3兆5,500億円1兆3,593億円38%(22%)
プラント・インフラ1兆円3,688億円37%(21%)
インダストリアル・ソリューション7,500億円1,930億円26%(23%)
航空・防衛・宇宙1兆7,500億円1,209億円7%(18%)

防衛だけが極端に遅れています。 それでも会社は見通しを1,000億円引き上げたので、残り9か月で通期の93%を取る前提になります。ここが今期いちばん大きな振れ幅です。

株価は9.7倍、利益は3.4倍。差を作ったのは倍率

2021年度末(2022年3月末)からの4年半で、株価は9.7倍になりました。同じ期間の事業利益は3.4倍です。差の分だけ、市場が払う「倍率」がふくらみました。

最初の1年は、株価も利益もそろって1.2倍でした。差が開いたのは2023年度です。事業利益が1.2倍から1.8倍になる間に、株価は1.2倍から3.5倍になりました。

倍率そのものを見ます。株価を今期の予想1株利益(113.09円)で割ると、9月18日で34.3倍。3月2日の高値では45.9倍、年初は36.8倍でした。

ここで注意が要ります。会社の利益見通しは5月12日から1円も変わっていません(当期利益3,800億円、1株当たり113.09円)。つまり倍率が下がったのは、利益が増えたからではなく、株価が下がったからです。年初来の株価は6.8%安で、倍率の低下率も同じ6.8%です。

利益は計画どおりに進んでいます。 4〜6月期の当期利益1,346億円は、通期見通し3,800億円の35%にあたります。計画どおりに進んでいるのに株価が下がったということは、市場が「この伸びに、これ以上の値段は払わない」と答えたということです。

関連企業と日本の接点(三菱重工・7011/IHI・7013)

同じ重工大手でも、事業の中身と株価の動きは違います。ガスタービンで競うのは米欧の2社です。

東証プライム: 7011

三菱重工業

Mitsubishi Heavy Industries, Ltd.

大型ガスタービン・原子力・防衛・航空エンジン・製鉄機械などを手がける総合重機大手です。

株価(9月18日)3,879円
受注残(4〜6月期末)14兆1,030億円
今期の事業利益(会社見通し)5,400億円
今期の予想利益に対する倍率34.3倍

ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=三菱重工業株式会社)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

東証プライム: 7013

IHI

IHI Corporation

航空エンジンと防衛が柱の重工大手です。三菱重工と同じく防衛で買われてきましたが、2021年度末からの上がり方は三菱重工より小さくなっています。

株価(9月18日)2,852.5円
2026年初からの株価5.0%安
2021年度末からの株価6.8倍
同じ期間のTOPIX連動ETF2.1倍

ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=株式会社IHI)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

ガスタービンで世界を分け合うのは、米国のGEヴァノヴァ(NYSE: GEV)とドイツのシーメンス・エナジー(フランクフルト上場)です。どちらも日本の取引所には上場していません。 2026年に入ってからの株価は、9月18日までにGEヴァノヴァが38.4%高、シーメンス・エナジーが14.2%高でした。同じ電力需要を追い風にしながら、三菱重工だけが下げています。

この差を受注残の多い少ないで説明することはできません。3社は事業の構成も上場している市場も違い、株価は別の要因でも動きます。それでも、分野全体が持ち上がっている中で1社だけ下げていることは、材料の善し悪しよりも、そこに至るまでの上がり方の差を見るべきだと示しています。

フクリの見方

受注残の大きさは、もう株価を動かす材料になっていない、という見立てです。

フクリの見立て

14兆円の受注残は、すでに株価に入っている。
次に効くのは、会社が8月に上げた受注見通しを実際に超えられるかどうかだ。

なぜそう言えるか

4年半で株価は9.7倍、事業利益は3.4倍。差は倍率がふくらんだ分で、その倍率が今年になって縮みました。

では何を見るか

通期の受注見通し7兆円に対する上期の進捗、ガスタービンの受注台数、そして防衛の受注です。

その日付

11月上旬に出る4〜9月期の決算です。

理由は1つです。受注残は「これから売上になる金額」であって、増えても今期の利益が変わるわけではない。 納めるのに数年かかる商売では、受注残が増えるほど、それを消化する速度と採算のほうが問われます。今期の設備投資見通しは2,100億円、研究開発費は3,500億円。会社は増産の準備にお金を使っている最中です。

そして市場は、その先をすでに買っていました。年初の時点で今期の予想利益の36.8倍、3月の高値では45.9倍。この水準から株価が上がるには、会社の見通しを超える数字が要ります。 8月4日に会社が上げたのは受注とキャッシュフローの見通しで、利益の見通しは動かしませんでした。株価がその日の上げを戻したのは、そこだと見ています。

この見立てが外れる条件

1ガスタービンの受注台数が通期35台を大きく超える
4〜6月期は10台で、前年同期の8台を上回りました。通期の受注が前年度の35台を大きく超えれば、受注の伸びが続く証拠になります。
2防衛の受注が戻る
4〜6月期の進捗は通期見通しの7%でした。ここが戻れば、会社が1,000億円上げた見通しの根拠が確かめられます。
3会社が利益の見通しを引き上げる
事業利益の見通しは5月12日から5,400億円のままです。為替の前提は1ドル150円で、実勢(9月24日は158円台)より円高に置かれています。

では、何を見ていればいいのか

いつ何が出るか見るところ
2026年11月上旬4〜9月期の決算通期受注見通し7兆円に対する上期の進捗、利益見通しの修正
同上(補足資料)大型ガスタービンの受注台数・契約残80台・3,500万kWがさらに増えるか。米州とアジアの内訳
同上航空・防衛・宇宙の受注高進捗7%からどこまで戻るか
2027年2月10〜12月期の決算受注残を売上に変える速度
随時為替前提の1ドル150円と実勢の差

電力設備の需要が伸びている背景はデータセンターが自前で発電を抱える記事に書きました。受注残という数字が何を教えて何を教えないかは受注残の記事、決算書のどこを見るかは決算書の読み方の記事、燃料側の利ざやは軽油の利ざやの記事、防衛関連の見方は防衛株の記事、倍率の読み方はPER・PBRの記事が参考になります。

まとめ(3行)

1受注残は14兆円で過去最高
2021年度末の5兆4,885億円から14兆1,030億円へ。今期の売上見通しの2.6年分です。
2それでも株価は高値から4分の1下げた
3月2日の5,195円から9月18日は3,879円。65%増益を発表した日に7.7%上げましたが、6週間で発表前の水準に戻りました
3見るのは受注残ではなく、受注の伸び
4年半で株価は9.7倍、利益は3.4倍11月上旬の決算で、通期受注見通し7兆円への進捗と、防衛の受注が戻るかを見ます。

情報源

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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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