軽油の利ざやが2年前の4倍に——ENEOS・出光・コスモの決算はなぜ通期予想を据え置いたのか

📌 この記事は公開情報(各社の決算短信・米国SECへの提出書類・市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月24日時点のものです。
原油から軽油を作るときの利ざやが、記録的な水準に広がっています。ENEOS(5020)・出光興産(5019)・コスモエネルギー(5021)の株を持っている人にとって、これは効くのでしょうか。
効きます。ただし決算に出てくる利益ではなく、「在庫の影響を除いた利益」で見る必要があります。 4〜6月期の利益は通期予想に迫りましたが、3社とも予想を据え置きました。
軽油の利ざやは、2年前の4倍を超えた
原油を買って軽油にして売ると、いくら残るか。この差が2024年は1バレル22.6ドルでしたが、2026年9月は103.4ドルになりました。
石油の精製会社の儲けを決めるのは、原油の値段そのものよりも、原油の値段と、そこから作った製品の値段の差です。この差を利ざや(クラックスプレッド)と呼びます。
跳ね上がったのは2026年3月からです。同じ時期に原油そのものも動いています。ENEOSの決算短信によると、ブレント原油は4〜6月に中東情勢を背景に120ドルまで上がったあと、和平への期待から期末には68ドルまで下げ、期間の平均は前年同期比29ドル高の96ドルでした。9月23日の終値は97.86ドルです。
原油が乱高下するなかで、軽油の利ざやだけは下がらずに広がり続けました。日本経済新聞は「軽油の供給力不足、原油より深刻」として、ウクライナによるロシアの製油所への攻撃で供給が細っていると報じています。
元売り3社は、4〜6月だけで通期予想に迫った
ENEOSの4〜6月期の営業利益は4,826億円で、通期予想6,100億円の8割に届きました。コスモは1,269億円で、通期予想1,020億円をすでに超えています。
3社の4〜6月期は、次のとおりです。
| 会社 | 4〜6月期の営業利益 | 前年同期 | 通期予想(5月公表・据え置き) |
|---|---|---|---|
| ENEOS(5020) | 4,826億円 | 503億円 | 営業利益6,100億円 |
| 出光興産(5019) | 3,075億円 | 40億円の損失 | 在庫影響を除いた税引前利益1,400億円(前期比48.6%減) |
| コスモエネルギー(5021) | 1,269億円 | 80億円 | 営業利益1,020億円(前期比29.6%減) |
数字だけ見れば絶好調です。ところが3社とも、5月に出した通期予想を1円も動かしませんでした。
それでも予想を据え置いた理由は、利益の中身にある
ENEOSの4,826億円のうち1,952億円は、原油が上がったことで生まれた在庫の評価益でした。これを除いた利益は2,874億円です。
日本の元売りは、買った原油を総平均法という方法で評価します。原油が上がると、安く買った在庫が高い原価に置き換わるまでの間、見かけの利益が膨らみます。逆に原油が下がれば、同じ理屈で利益が消えます。会社はこれを「在庫影響」と呼び、それを除いた利益をあわせて開示しています。
出光も同じです。燃料油部門の損益2,938億円について、会社は「原油コストの期ずれが長期化し、3月以降の原油価格上昇に伴いプラスのタイムラグ影響が増加した」と説明しています。
そのうえで3社の見通しは慎重です。出光は今期の在庫影響を除いた税引前利益を前期比48.6%減、コスモは営業利益を29.6%減と見ています。ENEOSも在庫影響を除いた通期の利益を5,900億円と置いており、4〜6月の2,874億円を単純に4倍した水準には届きません。
理由の1つは、売る量が減っていることです。 ENEOSの石油製品の販売数量は前年同期比9.6%減でした。会社は「自動車の低燃費化を主因とする構造的な国内石油製品需要の減少」と、輸出を絞ったことを挙げています。利ざやが広がっても、かける数量が減れば利益は伸びません。
米国の製油会社は2倍になった。差はどこから来るのか
同じ利ざやの拡大で、米国のバレロとマラソンの株価は2倍になりました。日本の3社は105〜140で、市場全体(117)から大きくは離れていません。
バレロの4〜6月期は、純利益37億ドル(前年同期は7億1,400万ドル)、精製部門の営業利益は45億ドル(同13億ドル)でした。処理量は1日300万バレルです。
差が出る理由は2つあります。
1つは在庫の数え方です。バレロは後入先出法(新しく買ったものから先に原価にする方法)を使っており、決算資料にもその調整が出てきます。この方法では、原油が上がっても見かけの利益はあまり膨らみません。日本勢の決算は在庫で膨らみ、米国勢は膨らまない。 同じ「営業利益」でも中身が違います。
もう1つは売る量です。ENEOSは国内向けの安定供給を優先して輸出を減らし、販売数量は前年同期比9.6%減でした。利ざやが広がっても、日本勢はそれを量で取りにいけていません。
関連企業と日本の接点(ENEOS・出光・コスモ)
日本の元売りは3社です。どこも石油以外の事業を持っており、利ざやの効き方は会社によって違います。
ENEOSホールディングス
ENEOS Holdings, Inc.
国内最大の元売り。石油製品のほか、石油・天然ガスの開発、機能材(合成ゴム・二次電池材料)、電気も手がけます。
ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=ENEOSホールディングス株式会社)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。
出光興産
Idemitsu Kosan Co.,Ltd.
2位の元売り。2027年3月期から国際会計基準に変え、通期予想を在庫影響を除いた利益で示しています。
ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=出光興産株式会社)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

コスモエネルギーホールディングス
Cosmo Energy Holdings Co., Ltd.
3位の元売り。石油開発と風力発電も持ち、3社の中では石油以外の比率が高い会社です。
ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=コスモエネルギーホールディングス株式会社)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。
米国のバレロ(NYSE: VLO)とマラソン・ペトロリアム(NYSE: MPC)は、日本の取引所には上場していません。
フクリの見方
利ざやの拡大は本物です。ただし日本の元売りの株価は、米国の製油会社のようには動かない、という見立てです。
決算に出る利益は、原油の値動きで膨らんだり縮んだりする。
株価を動かすのは、在庫影響を除いた利益が上がるかどうかだ。
ENEOSの4〜6月期は4,826億円の利益のうち1,952億円が在庫の評価益。それでも通期予想は据え置きでした。
在庫影響を除いた利益と、通期予想が上方修正されるかどうかです。売る量が減っていることも合わせて見ます。
11月上旬に出る3社の4〜9月期の決算です。
理由は1つです。日本の元売りの決算は、原油が上がれば在庫で膨らみ、下がれば縮むので、利ざやの効果がそのままは見えない。 4〜6月期のブレントは120ドルから68ドルまで動きました。この振れ幅がそのまま利益に乗ってくる会社と、米国のように乗ってこない会社を、同じ「営業利益」で比べることはできません。
そのうえで、利ざやの拡大そのものは、在庫影響を除いた利益にも表れています。ENEOSの在庫影響を除いた営業利益は前年同期比1,523億円の増益でした。7〜9月期の利ざやは4〜6月期よりさらに広がっています(月平均で58.3ドル→103.4ドル)。11月の決算で、在庫影響を除いた利益と通期予想がどう動くか。そこが分かれ目だと見ています。
この見立てが外れる条件
では、何を見ていればいいのか
| いつ | 何が出るか | 見るところ |
|---|---|---|
| 毎日 | 軽油の利ざや(ニューヨーク軽油先物とブレント原油先物の差) | 100ドル前後の水準が続くか、2024年並みの20ドル台に戻るか |
| 2026年11月上旬 | 3社の4〜9月期決算 | 在庫影響を除いた利益と、通期予想の修正 |
| 2027年2月 | 3社の10〜12月期決算 | 利ざやの拡大が、量の減少を上回って利益に残るか |
| 随時 | 国内の石油製品の販売数量(各社の開示) | 9.6%減という減り方が続くか |
| 随時 | ロシアの製油所の稼働と、欧州の軽油の需給 | 利ざやが縮む方向に向かうか |
原油と為替が日本の会社の利益をどう動かすかは円安の記事に、決算の数字の読み方は決算書の記事に書きました。資源を扱う商社の利益の出方は総合商社の記事、米国の石油・ガスの現場の制約はパーミアンの水の記事、発電と燃料の関係はブルームエナジーの記事が参考になります。
まとめ(3行)
情報源
- ENEOSホールディングス:2027年3月期 第1四半期決算短信(2026年8月7日)。営業利益4,826億円、在庫影響を除いた営業利益相当額2,874億円、石油製品ほかセグメントの在庫影響1,952億円、販売数量9.6%減、ブレント平均96ドル(期中に120ドル→68ドル)、通期予想6,100億円(在庫影響を除いた利益相当額5,900億円)
- 出光興産:2027年3月期 第1四半期決算短信(2026年8月7日)。営業損益3,075億円、燃料油セグメント2,938億円(プラスのタイムラグ影響)、通期の在庫影響を除いた税引前利益1,400億円(48.6%減)
- コスモエネルギーホールディングス:2027年3月期 第1四半期決算短信(2026年8月5日)。営業利益1,269億円、石油事業1,180億円、通期予想1,020億円(29.6%減)
- バレロ・エナジー:2026年4〜6月期の決算発表(2026年7月30日・米国SEC提出)。純利益37億ドル、精製部門の営業利益45億ドル、処理量1日300万バレル
- 利ざや(クラックスプレッド):Yahoo Financeの日次終値から自前で計算(ニューヨーク軽油先物×42−ブレント原油先物、月平均。2023年1月〜2026年9月23日)
- 日本経済新聞:軽油の供給力不足、原油より深刻 インフラ破壊で燃料高長期化リスク
- 株価:Yahoo Financeの日次終値(日本株は2026年9月18日、米国株は9月23日まで・2026年9月24日取得)
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