米軍のレアアース磁石は2027年から「鉱山」まで調べられる——米国防総省の調達ルール「DFARS」とは

📌 この記事は公開情報(米国の規則と法案、米国の上場企業の開示資料、国連の貿易統計)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月12日時点のものです。
EVのモーターにも、米軍の兵器にも、「ネオジム磁石」という強力な磁石が使われています。アメリカは、この磁石を中国に頼りたくありません。
そこで米軍が業者に守らせている買い物のルールが、まもなく厳しくなります。磁石の原料を掘った場所まで調べられるようになるからです。
この変化で強くなるのは、大きな工場を持つ会社ではありません。原料を鉱山までたどれる会社です。
「DFARS」とは、米軍の買い物ルールです
DFARSは、米軍がモノを買うときに業者へ守らせるルールの集まりです。
米軍の兵器や部品は、国防総省(日本でいえば防衛省)が民間の会社から買っています。
そのときに守らなければいけない決まりをまとめたルールブックが「DFARS(国防総省の調達規則)」です。
2027年1月から、原料の「産地」まで調べる
2027年1月1日から、磁石そのものだけでなく、原料を掘った場所や精製した場所まで調べられます。
食べ物にたとえると分かりやすいです。
これまでは、「どこの工場で加工したか」だけを見ていました。2027年1月からは、「原料をどこで収穫したか」まで見ます。
磁石でいえば、「どこで溶かして磁石にしたか」だけでなく、「原料をどこの鉱山で掘り、どこで分けたか」まで調べる、ということです。
つまり、韓国や日本で作った磁石でも、原料を中国で掘ったり分けたりしていれば、原則として米軍には納められなくなります。
例外は、アメリカ国内でリサイクルして作った磁石や、「ほかに手に入らない」と認められた場合などに限られます。この「ほかに手に入らない」という例外も、2026年7月の大統領令(大統領が政府に出す命令)で、2027年から認められにくくなりました。
なぜ厳しくするのか——米国の磁石は7割が中国製
米国が買う磁石のうち7割以上が中国製で、その中国が輸出管理を強めたからです。
米国が輸入する磁石は、2025年でも金額の72.7%が中国製です。4年で6ポイントほどしか減っていません。2位は4年とも日本で、2025年は6.1%です。
中国は2025年10月9日、レアアースに関係する品物や技術の輸出管理を強めると発表しました。頼っている相手が、蛇口を締められる立場にあるわけです。
しかも、貿易統計でわかるのは「最後に磁石にした国」だけです。 日本や韓国で作った磁石でも、原料が中国を通っていれば、1月からは原則として米軍向けに使えなくなります。
米国の議会も、同じ方向に動いている
米国の議会は、毎年「国防授権法」という法律を作ります。軍の方針やルールと、予算の枠を決める法律です(実際にお金を出すのは、別の予算の法律です)。議会には下院と上院があり、両方で可決して大統領が署名すると成立します。
2027年分の国防授権法は、まだ成立していません。ただ、下院の案も上院の案も、「原料までさかのぼって調べる」点は同じです。
下院の案が通れば、「どこで掘ったか」に加えて、「米国の会社が作ったか」も問われるようになります。
同じ「1万トン」の工場でも、差がつくのは原料
同じ規模の工場を計画していても、差がつくのは装置ではなく、原料の出どころを示せるかどうかです。
年1万トン規模の磁石工場を計画している、米国の上場企業3社を並べます。
| 会社 | どこで磁石を作るか | 原料はどこから |
|---|---|---|
| MPマテリアルズ NYSE: MP | 米テキサス州で計1万トン。新工場は2028年に試運転の予定 | 自社の鉱山(カリフォルニア州)で掘ったものを使う |
| USAレアアース Nasdaq: USAR | 米オクラホマ州などで計約1万トン。新工場は2028年に試運転の予定 | ブラジルの鉱山を買収する手続き中 |
| EMAT Nasdaq: EMAT | 韓国で約1,000トンから1万トンへ。装置の納期は2026年11月30日 | 鉱山は持たず、原料の金属を買う |
工場の大きさは横並びです。違いは、原料を鉱山までたどれるかどうかです。
鉱山を自社で持つ必要はありません。ほかの会社の鉱山でも、どこで掘ったかを示せれば条件は満たせます。EMATが買っている原料の中身は、別の記事で詳しく読み解きました。
関連企業と日本の接点
名前が挙がる会社は3社とも米国の上場企業で、日本は磁石を売る側として関わります。
| 会社 | 上場 | この話での位置 |
|---|---|---|
| MPマテリアルズ | 米ニューヨーク証券取引所(日本の取引所には上場していません) | 鉱山から磁石まで自社で持つ。新工場の磁石は国防総省が全量を買う約束(詳しくはこちら) |
| USAレアアース | 米ナスダック(日本の取引所には上場していません) | ブラジルの鉱山を買収する手続き中 |
| EMAT | 米ナスダック(日本の取引所には上場していません) | 韓国で磁石を作り、原料は買う。株価は別の記事に載せています |
この株価の動きを、DFARSの話だけで説明することはできません。 2社とも鉱山や金属の事業を含めて評価されており、株価はほかの理由でも動きます。
日本の接点は2つです。
- 米国の磁石輸入で、日本は4年続けて中国に次ぐ2位です。日本で作った磁石も、1月からは原料の出どころを問われます
- 下院の案が成立すると、「米国の会社が作った材料を半分以上」という条件が加わります。日本の会社の生産がどう数えられるかは、条文の定義と国防総省の細かい規則で決まります
フクリの見方
米軍の磁石選びの基準は、
「工場の大きさ」から「鉱山までたどれるか」に変わります。
2027年1月から、調べる段階が2つから5つに増えます。増えるのは掘る・精製する・分ける、つまり原料の側です。
下院の案も上院の案も、原料までさかのぼる点は同じです。下院の案は米国の会社という条件も加えます。
工場のトン数ではなく、原料を鉱山までたどれる情報を出しているかです。
この見立てが外れる条件
では、何を見ていればいいのか
| いつ | 何を見るか |
|---|---|
| 国防授権法の成立時 | 原料までさかのぼる規定と、下院の案の「米国の会社が半分以上」が残るか |
| 2027年1月以降 | 国防総省の、例外の報告 |
| 2027年(2026年の貿易統計) | 米国の磁石輸入に占める中国製の割合(2025年は72.7%) |
| 2028年 | MPマテリアルズとUSAレアアースの新工場が動き出すか |
関連する記事
まとめ(3行)
情報源
- 米国防総省の調達規則:48 CFR 252.225-7052(2024年5月版・コーネル大学LII)
- ホワイトハウス:大統領令14415「Securing America’s Defense Supply Chains and Ensuring Domestic Acquisition of Critical Materials」(2026年7月20日)
- 米国議会:H.R. 8800 国防授権法案(下院可決版・第1803条)、S. 4784(上院委員会報告版・第811条)/Breaking Defense:House passes 2027 NDAA while measure remains stalled in the Senate(2026年7月22日)
- 米商務省産業安全保障局(BIS):ネオジム磁石の輸入に関する232条調査の報告書(官報掲載2023年2月14日)
- 米国SEC:MPマテリアルズ 四半期報告(2026年8月7日提出)、USAレアアース 四半期報告(2026年8月10日提出)、EMAT 四半期報告(2026年8月17日提出)
- CISTEC:中国によるレアアース関連貨物及び技術の輸出管理規制の強化について(2025年10月9日)
- 国連:UN Comtrade(報告国=米国・輸入・HS 850511・2022〜2025年)。国別の集計と割合は自前の計算
- 株価:Yahoo Financeの日次終値(2025年9月12日〜2026年9月11日・2026年9月12日取得)。指数化は自前
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