補助金ではなく株を持つ——国防総省の「戦略資本局」が変えた、重要鉱物の買い方

📌 本記事は公開情報(米政府の公表資料、各社の公表資料、報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月7日時点のものです。
🔄 2026年9月14日に修正しました。 MPマテリアルズの「10X」工場の生産能力を「年産1万トン規模」と書きましたが、正しくは年産7,000トンです。既存のインディペンデンス工場(3,000トンに拡張)と合わせて、米国内で年1万トンになる計画です(MPマテリアルズの四半期報告、2026年8月7日提出)。
国が産業を助けるとき、ふつうは補助金を配ります。
アメリカは、それをやめました。
いまは株を持ち、金を貸し、値段の下限を約束します。 その実行部隊に名前がついています。
「戦略資本局」とは何か
Office of Strategic Capital。 米国防総省の中にある組織で、民間のお金を、国が必要とする産業へ引っぱってくるのが仕事です。
補助金の役所ではありません。融資と出資をする役所です。
原資は2025年7月4日に成立した法律(One Big Beautiful Bill Act)です。この法律が戦略資本局に5億ドルの信用補助を与えました。
そのお金は、そのまま貸すわけではありません。 貸し倒れに備える引当のような役割で、これを元手に最大1,000億ドルの融資枠を作れる、という設計です。重要鉱物の生産と、その周辺の産業が対象です。
2026年4月には、2027年度の予算でこの融資プログラムに200億ドル超が要求されました。
MPマテリアルズに出した5つの手当
2025年7月10日、国防総省とMPマテリアルズが提携を発表しました。 レアアースの採掘から磁石までを米国内で完結させる計画です。
中身は1つの支援ではなく、5つが束になっています。
4番と5番が、補助金との決定的な違いです。
補助金は建てるお金を出すだけで、建てたあとに売れるかどうかは会社の責任でした。今回は値段の下限と買い手の両方を国が引き受けています。
中国が値段を下げてきても、この会社は10年間、1キロ110ドルを受け取れるということです。
例外ではありません。株を持った会社は他にもあります
MPマテリアルズだけの特別扱いではありませんでした。
| 会社 | 分野 | 国が持った比率 | 時期 |
|---|---|---|---|
| MPマテリアルズ | レアアース | 15% | 2025年7月 |
| インテル | 半導体 | 約10%(89億ドル) | 2025年8月 |
| リチウム・アメリカズ | リチウム | 10% | 2025年秋 |
| トリロジー・メタルズ | 銅・亜鉛 | 10% | 2025年 |
| USスチール | 鉄鋼 | 黄金株 | 2025年 |
報道によれば、政権が持つ出資と準出資は30件・およそ267億ドルにのぼり、そのうちインテルの持分だけで420億ドルの価値になっています。
⚠️ この合計額と件数は報道にもとづくもので、政府が一覧を公表しているわけではありません。 リチウム・アメリカズについては「会社に5%、プロジェクトに5%」という説明と「10%」という説明が併存しています。数字は出所によって食い違います。
政府が入った瞬間に、株価は動いています
MPマテリアルズは、提携が発表された週に42%上がりました。 前の週の終値31.84ドルが、45.11ドルになっています。2年でみると指数392です。
インテルは2年で507。 米政府が約10%を持つと決まったのは2025年8月です。
⚠️ 期間の取り方で、絵がまるごと変わります
2026年9月2日に書いたレアアースの記事では、MPマテリアルズの株価指数を85と書きました。 下がっている、という絵でした。
あれは1年チャートで、起点が2025年8月末でした。提携で跳ねたあとの高い水準を100にしていたわけです。
同じ会社が、2年で392、1年で85。 どちらも計算は正しく、どちらか一方だけを見ると事実を取り違えます。
⚠️ この差を政府の関与だけで説明することはできません。 インテルは半導体の需給、MPはレアアースの相場、リチウム・アメリカズはリチウム価格の影響を強く受けます。
日本は、同じことを別のやり方でやっています
日本も重要鉱物を確保しに行っています。やり方が違います。
| アメリカ | 日本 | |
|---|---|---|
| 主体 | 国防総省・エネルギー省が直接 | JOGMECと商社が組む |
| 形 | 株を持つ・貸す・値段の下限を保証する | 出資して、引き取る権利を確保する |
| 実例 | MPマテリアルズに15%+1.5億ドル+1キロ110ドルの下限+全量引き取り | 双日とJOGMECが豪ライナスに追加出資(2023年3月)。マウント・ウェルド由来のジスプロシウムとテルビウムを最大65%まで日本向けに確保 |
| 値段 | 国が下限を保証する | 相場のまま。下限の保証はありません |
いちばん違うのは、最後の行です。
日本の仕組みは「買う権利」を確保します。アメリカの仕組みは「会社そのもの」を持ち、赤字にならない値段まで国が引き受けます。
中国が値段を下げて競争相手を潰しにきたとき、この差が出ます。
関連企業と日本の接点
確度で3段に分けています。
| 区分 | 企業 | 上場 | この件での位置 |
|---|---|---|---|
| ① 国が株を持っている | MPマテリアルズ | 米国(MP) | 15%。価格の下限と全量引き取りまで付いた最初の例 |
| ① 国が株を持っている | インテル | 米国(INTC) | 約10%・89億ドル。CHIPS法の補助金を株に振り替えた |
| ① 国が株を持っている | リチウム・アメリカズ | 米国(LAC) | ネバダのサッカーパス。融資の実行と引き換えに持分 |
| ② 同じ分野の上場企業 | USAレアアース | 米国(USAR) | 国の出資は受けていないが、同じ磁石の国産化を狙う |
| ③ 日本側 | 双日 | 東証(2768) | JOGMECと組んで豪ライナスに出資。日本のやり方の代表例 |
⚠️ この表は投資対象を推奨するものではありません。 国が株主にいることは、支援であると同時に政策が変われば方針も変わるという意味でもあります。
フクリの見方
アメリカは重要鉱物を「買う」のをやめて、「その会社を持つ」ことにした、という見立てです。
理由は1つです。買うだけでは、中国が値段を下げた瞬間に国内の生産者が消えるからです。
値段の下限が、いちばん重い一手です
5つの手当のうち、株も融資も民間で代わりが利きます。 実際、MPにはJPモルガンとゴールドマンから10億ドルが付きました。
代わりが利かないのは、1キロ110ドルの下限です。これは民間には出せません。相場が下がっても潰れない会社を、国が人工的に作ったということです。
中国側から見れば、値段を下げても相手が死なない。 価格競争という手段が効かなくなります。
反対の材料も見ておきます
「政権が変われば終わる」 ——これはそのとおりです。出資も価格保証も、次の政権が続ける保証はありません。ただし契約は10年です。 破棄には相応の代償が伴います。
「国が持つと経営が歪む」 ——ありえます。ただし今回の形は優先株とワラントが中心で、普通株を買い占めて経営権を取りにいく形とは違います。⚠️ 議決権の有無や取締役の指名権については、この記事では確認できていません。
それでも見立てを変えないのは、規模が個別の救済を超えているからです。 報道ベースで30件・267億ドル。1社を助ける話ではなく、産業の作り方そのものが変わっています。
この見立てが外れる3つの条件
では、何を見ていればいいのか
| 見るもの | どこで | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 2027年度予算の200億ドル要求 | 米議会の審議 | 通れば本気、削られれば一過性 |
| 国家安全保障ファンド融資の採択先 | 国防総省の発表 | どの分野に金が向かうか。34の技術カテゴリが対象 |
| NdPrの相場と110ドル | 市況 | 下回れば、価格保証が実際に発動します |
| 10X工場の進捗 | MPマテリアルズの開示 | 2028年の試運転に間に合うか |
新しい採択先が発表されたら、この記事に結果を書き足します。
同じ構図は他でも見ています。レアアースでは中国側が数字の公表をやめ、濃縮ホウ素では最大の客が自分で作りはじめました。パーミアンの水では規制で希少になったものを大手が買いました。硫化カルボニルやヨウ素と同じで、主役の一段下に本当の勝負があります。
まとめ(3行)
情報源
- MPマテリアルズ「Announces Transformational Public-Private Partnership with the Department of Defense」2025年7月10日(優先株4億ドル・ワラント行使価格30.03ドル・15%・DoD融資1億5,000万ドル・JPモルガンとゴールドマンの10億ドル・1キロ110ドルの下限・10X工場と2028年試運転・10年の全量引き取り):発表
- 米国SEC:MPマテリアルズ 四半期報告(2026年8月7日提出)(10X工場は年7,000トン、インディペンデンス工場3,000トンと合わせて年1万トン)
- 米国防総省 戦略資本局 公式ページ(組織の位置づけ、国家安全保障ファンド融資の仕組み、34の技術カテゴリ):cto.mil/osc
- 米国防総省「Office of Strategic Capital Announces First Loan Through DoD Agreement With MP Materials」2025年8月(初の直接融資1億5,000万ドル、One Big Beautiful Bill Actによる5億ドルの信用補助と1,000億ドルの枠):発表
- DefenseScoop「Pentagon requests more than $20B for strategic capital loan program in 2027」2026年4月6日:記事
- CNBC「U.S. government takes 10% stake in Intel」2025年8月22日(89億ドル・約10%):記事
- 米エネルギー省「Department of Energy Restructures Lithium Americas Deal」(サッカーパスと会社への持分、融資の実行):発表
- CNBC「The Trump administration equity portfolio is growing」2026年2月(出資の一覧)/Fortune「The U.S. government invested $27 billion in corporate stakes」2026年7月(30件・約267億ドル):CNBC
- 双日とJOGMECの豪ライナスへの追加出資(2023年3月・ジスプロシウムとテルビウムを最大65%まで日本向けに確保)は、当社記事レアアースを動かす中国の2社で扱った公表資料にもとづきます
- 株価:Yahoo Finance 週次終値(2024年9月2日〜2026年9月4日)
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。