レアアース磁石1万トンを目指す米EMAT——装置は発注済み、原料は「月12トンの目安」

📌 この記事は公開情報(米国の上場企業の開示資料、各社の発表、米商務省の報告書)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月12日時点のものです。
🔄 2026年9月19日に追記しました。 公開のあと、EMATが2026年9月17日に総額3,093万7,835ドルの転換社債を発行する契約を結んだことが分かりました(第1回分の2,200万ドルは同日発行済み)。記事で「会社のお金は厳しい」と書いた部分が動いたので、装置と原料の章に追記しています。
韓国で強力な「ネオジム磁石」を作る米国の上場企業EMATが、工場の生産量を一気に増やすと発表しました。
本当に作れるのかを決めるのは、製造装置ではなく原料です。 装置は納期つきで発注済みですが、公表されている原料の調達は、必要な量のごく一部にとどまります。
EMATとは、なぜ1万トンを急ぐのか
EMATは、韓国の工場で磁石を作る、ナスダック上場の会社です。

エボリューション・メタルズ・アンド・テクノロジーズ
Evolution Metals & Technologies Corp.
米国の上場企業ですが、工場は韓国にあります。韓国の4社を子会社にして、ネオジム磁石とその材料を作っています。
出所=同社の四半期の決算報告書(2026年8月17日提出)と2026年9月10日の発表。ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=Evolution Metals & Technologies Corp. 公式サイト)。改変していません。白いロゴのため、紺の背景の上に置いています。当サイトと同社の間に提携関係はありません。
1万トンを急ぐ理由として会社が挙げているのは、米軍の磁石の買い方が2027年1月から厳しくなることです。
米国の国防総省には、兵器などを買う契約で「中国などを通った磁石は使わせない」という調達ルール(DFARS)があります。これが2027年1月から、磁石の原料を掘ったり精製したり分けたりした場所まで調べるようになります。会社は、中国を通らない磁石の需要がそこで生まれると見ています。ルールの中身はこちらの記事で解説しました。
⚠️ ただし、会社のお金は厳しい状態でした。 6月末の現金は530万ドル。会社自身が決算の報告書に、「1年後も事業を続けられるかに大きな疑いがある」と書いています。
🔄 2026年9月17日、その資金繰りが動きました。 会社は投資ファンドのヨークビルと総額3,093万7,835ドルの転換社債を発行する契約を結び、第1回分の2,200万ドルを同日に発行しました(残りは登録届出書の提出時に200万ドル、効力発生時に692万7,835ドル)。発行価格は額面の97%、金利は年4.0%(債務不履行のときは18.0%)、満期は2028年9月17日です。
株式に換えられる値段は、1株5.02ドルか、直前5営業日でいちばん低い出来高加重平均の95%のうち、低いほう(下限あり)。株価が下がるほど、同じ金額がより多くの株に換わります。株価が下限を5営業日下回るなどの場合は、毎月の現金返済が始まります。
未払いだった装置の約定1,590万ドルは、この2,200万ドルで払える規模になりました。 ただし原料の調達が月12トンの目安のままなら、この記事の見立ては変わりません。お金がついたのは装置の側です。
装置は「発注済み」、原料は「目安」
装置は納期つきで発注済みですが、原料はまだ「目安」の段階です。
磁石を作るには、製造装置と、原料の金属の両方が必要です。原料の中心は、ネオジムとプラセオジムという2つのレアアースを合わせた金属(NdPr)です。
| 製造装置 | 原料の金属(公表されている中国以外の調達先) | |
|---|---|---|
| 買う相手 | 日本のアルバックの韓国子会社 | ベトナムのSRE社(日本の商社・東海貿易の子会社) |
| 量 | 13台 | 月12トンほど(目安) |
| いつまでに | 2026年11月30日 | 決まっていない |
| 約束の強さ | 拘束力のある正式な発注 | 量の約束はない。量・時期・値段は毎回決める |
月12トンで、磁石はどれだけ作れるか
公表されている月12トンの原料では、1万トンに必要な量の5〜8%にしかなりません。
米商務省の報告書によると、ネオジム磁石は重さの約30%がレアアースです。耐熱用に入れる別のレアアースの分を差し引き、NdPrを磁石の重さの19〜29.5%として計算しました。
- 月12トン(1年で144トン)の原料から作れる磁石は、約490〜760トン
- 1万トンの磁石に必要なNdPrは、約1,900〜2,950トン
- 月12トンは、その5〜8%
ただし、防衛用途だけで見ると話は変わります。 米商務省の報告書は、米国で使う磁石のうち防衛用途は2〜10%という推計を紹介しています。量にすると約320〜1,610トンで、月12トンから作れる量はこの範囲に入ります。これは米国全体の推計との比較で、EMATが米軍向けに売れる量を示すものではありません。
つまり月12トンは、防衛用途の推計には届いても、1万トンの工場には届きません。 会社は、売上の見込みのうち米軍向けがいくらかを明らかにしていません。
原料はどこから来るのか
原料をどこで掘り、どこで精製したかは公表されていません。
原料の金属を作っているのは、ベトナム北部のSRE社です。東京・赤坂の商社東海貿易の100%子会社で、2008年から投資しています。
EMATは、この金属を「鉱石から金属まで、すべて中国以外」と説明しています。ただし、どこの鉱山で掘り、どこで精製し、分けたのかは書いていません。 米軍が1月から調べるのは、まさにその場所です。
そのベトナムが、9月9日に動きました。 ベトナム政府(商工省)が、レアアースを当面、輸出してよい鉱物のリストに入れない案を示したと報じられています。まだ案の段階で、SRE社の金属がどう扱われるかは分かりません。
関連企業と日本の接点
日本の会社は、装置と原料の両方にかかわっています。
| 会社 | 上場 | この話での位置 |
|---|---|---|
| EMAT | 米ナスダック(日本の取引所には上場していません) | 韓国で1万トンを目指す。原料は買う |
| アルバック | 東証プライム: 6728 | 韓国子会社がEMATに製造装置13台を納める。この種の炉で世界シェア7割以上(会社発表) |
| 東海貿易 | 未上場(個人は株を買えません) | 子会社のSRE社が、EMATに原料を売る |
EMATの株価は、Yahoo Financeで取れる最初の日(1月7日)の19.00ドルから、9月11日には3.08ドルになりました。 アルバックは、欧米の磁石メーカーからの受注が約3倍になる見通しを発表した5月7日のあと、指数176まで上がり、いまは107です。どちらの値動きも、この話だけでは説明できません。
フクリの見方
EMATの1万トンを決めるのは、
装置ではなく「どこで掘ったか示せる原料」です。
装置は13台を納期つきで発注済みです。公表されている中国以外の原料は月12トンの目安で、1万トンに必要な量の5〜8%です。
米軍が2027年から調べるのは掘った場所や、精製・分離をした場所です。EMATの説明は「中国以外」だけです。
月12トンから作れる量は、米国の防衛用途の需要の推計と比べると範囲内です。ただ、それでは1万トンの工場は埋まりません。
この見立てが外れる条件
では、何を見ていればいいのか
| いつ | 何を見るか |
|---|---|
| 2026年11月ごろ | EMATの7〜9月の決算報告書。原料をどれだけ買ったか |
| 2026年11月30日 | 製造装置13台の納期 |
| ベトナム政府の決定 | レアアース製品が輸出してよいリストに入るか |
| 2027年2〜3月ごろ | 2026年の売上(見込み500万〜800万ドル)の実績 |
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まとめ(3行)
情報源
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米国SEC:EMAT 四半期報告(Form 10-Q・2026年8月17日提出)、売上見通しの発表(2026年9月10日)、原料の供給契約の発表(2026年7月7日)、初の原料受け取りの発表(2026年7月22日)
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米商務省産業安全保障局(BIS):ネオジム磁石の輸入に関する232条調査の報告書(官報掲載2023年2月14日)(重さの約30%がレアアース、防衛用途2〜10%の推計、2020年の米国需要1万6,100トン)
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東海貿易:会社概要
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株価:Yahoo Financeの日次終値(EMATは2026年1月7日〜9月11日、アルバックは2025年9月11日〜2026年9月11日・2026年9月12日取得)。指数化は自前。原料から作れる磁石の量の計算も自前
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