調査

東海カーボンの株価はなぜ上がったのか 米国の黒鉛電極の関税より効いた3つの材料

2026.10.06
東海カーボンの株価はなぜ上がったのか 米国の黒鉛電極の関税より効いた3つの材料

📌 この記事は公開情報(東海カーボンの決算短信・適時開示、米国の官報、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年10月6日時点のものです。

東海カーボンの株価がこの1年で大きく上がったのは、米国の黒鉛電極の関税のおかげなのでしょうか。

株価が大きく上げたのは、株主還元の強化と業績の見通しの引き上げを発表した日と、証券会社の評価が変わった日です。米国の関税は東海カーボン自身が勝ち取りにいった追い風ですが、黒鉛電極は利益のごく一部です。

稼ぎ頭はカーボンブラックとSiC、黒鉛電極は約5%

東海カーボンの社名から黒鉛電極を思い浮かべる人は多いですが、利益の柱は別の事業です。

東海カーボンは、炭素からさまざまな素材をつくる会社です。2026年1〜6月の売上高は1,737億円、営業利益は151億円でした。事業ごとの営業利益を並べると、次のようになります。

いちばん大きいのはカーボンブラックです。タイヤやゴム製品を黒く強くするための炭素の粉で、1〜6月の営業利益は72.4億円でした(前の年より11%減)。

2番目のファインカーボンは47.2億円です。主力は、メモリ半導体の製造装置の中で使う「ソリッドSiCフォーカスリング」です。半導体の材料を薄く削る工程で、ウエハーの周りを囲む消耗品の輪です。会社は、メモリ向けの販売数量が大幅に増えたと説明しています。

黒鉛電極は7.9億円で、事業の営業利益の合計(160億円)の約5%です。黒鉛電極は、電炉(電気で鉄くずを溶かして鉄をつくる炉)で使う太い炭素の棒で、使うたびに減っていく消耗品です。東海カーボンの主な市場は米国の電炉です。

大きく上げたのは決算と証券会社の評価の日、関税の日は向きがそろわない

この1年で株価が大きく上げたのは、決算の日(5月14日・8月6日)と、証券会社の投資判断の変更が伝えられた日(8月31日・9月9日)です。米国の関税の手続きの日は、下げた日も上げた日もあり、向きがそろっていません。

東京で反応した日東海カーボン(TOPIX連動ETF)その日にあったこと
2026年2月13日−10.2%(−1.5%)2025年12月期の決算と今期の見通し
2026年2月25日−2.9%(+1.0%)米国で関税の申し立て(2月24日)。ほかの材料の報道は見当たらない
2026年3月17日−1.4%(+0.5%)米商務省が調査を始める(3月16日)
2026年4月10日−0.5%(+0.1%)米国際貿易委員会の仮の判断(4月9日の投票)
2026年5月14日+18.5%(−1.0%)1〜3月期の決算、通期予想の上方修正、株主還元の方針の変更
2026年7月28日−3.5%(−2.4%)米商務省が相殺関税の仮の判断を発表(7月27日)
2026年8月6日+8.3%(+0.3%)1〜6月期の決算、通期予想の上方修正
2026年8月31日+7.7%(0.0%)株探は、証券会社の投資判断の引き上げ(観測)を材料に挙げた
2026年9月9日+9.3%(−0.3%)株探は、証券会社が新たに付けた投資判断を材料に挙げた
2026年9月24日+6.8%(−0.2%)反ダンピング関税の仮の判断(9月22日)。株探は「社長インタビュー報道など材料視」
2026年9月29日+4.8%(−0.5%)米商務省がインド製の駆け込みを判断(9月28日)。株探は「半導体関連事業の拡大期待が継続か」

3月23日の909円からの上げは、3つの時期に分かれます。

  • 安値から5月13日まで:47%上げました(TOPIX連動ETFは14%)。株探は、4月30日に韓国の子会社の好決算、5月11日にデータセンター関連としての買いを伝えています。
  • 還元策を出した5月14日:1日で18.5%上げました。そのあと6月11日までに市場より13ポイント上げてから戻し、8月3日には5月14日とほぼ同じ位置(市場より3ポイント下)でした。
  • 上方修正のあと:8月5日から10月5日までに47%上げました(TOPIX連動ETFは3.5%)。会社の発表があったのは8月6日の決算だけで、ほかの大きな上げの日は、証券会社の投資判断の変更や社長インタビューの報道が材料として伝えられています。

5月14日の150億円の自社株買いは、野村證券が借りた株で先に応じ、借りた株を返すために市場などで株を買う方式(FCSR)でした。最終的な株数は5月15日〜8月3日の平均の株価で決まり、883万株になっています。この期間、株価は市場とほぼ同じ動きで、2回目の大きな上げはこの期間が終わったあとです。

関税の手続きの日は、6回のうち3回で株価が普段の日より大きく動きました。申し立ての翌日の2月25日は、市場より3.9ポイント下げています(普段の日の動きの2.7倍)。9月24日と29日は上げましたが、この2日は別の材料が報じられています。調査の開始・米国際貿易委員会の仮の判断・相殺関税の仮の判断の3回は、普段の値動きの範囲でした。関税だけの効き目は、株価からは取り出せません。

米国の関税は、東海カーボン自身が申し立てた

米国で関税を求めたのは、東海カーボンとレゾナックの米国子会社です。中国製には、仮の判断で合わせて約200%の関税がかかります。

2026年2月24日、米国の黒鉛電極メーカーの団体「LDGE Fair Trade Coalition」が、中国製とインド製の大口径の黒鉛電極(直径425mm超)について、反ダンピング関税と相殺関税を求める申し立てを米商務省に出しました。反ダンピング関税は、輸出先で不当に安く売る分にかける関税です。相殺関税は、政府の補助金で安くなっている分にかける関税です。

米国の官報によると、この団体の会員はレゾナック・グラファイト・アメリカと東海カーボンGEの2社です。どちらも日本の会社の米国子会社です。

輸出元反ダンピング関税(仮)相殺関税(仮)
中国(すべての会社)98.79%103.49%
インド:グラファイト・インディア12.22%3.68%
インド:HEG4.97%6.99%
インド:そのほかの会社6.95%5.87%

米商務省は、関税の前に輸入が急に増えた「駆け込み」があったとも判断しました(中国は9月24日、インドは10月1日の官報)。この判断があると、仮の判断より最大90日前までさかのぼって関税をかけられます。

本決定は、反ダンピング関税の仮の判断(9月22日)から75日以内の12月上旬で、延長されれば2027年2月上旬になります。そのあと、米国際貿易委員会が米国の産業への損害を最終判断します。

上げた材料は、続くものと一度きりのものに分かれる

株価を押し上げた3つの材料のうち、株主還元の方針は続き、政策保有株の売却益は一度きりです。業績の見通しは、メモリ向けの数量しだいです。米国の関税は、続くとしても小さい追い風です。

米国の関税の効き方を試算します。1〜6月の黒鉛電極の営業利益は7.9億円でした。仮に米国での値上げで黒鉛電極の利益が倍になっても、増える分は年に十数億円で、今期の営業利益の見通し350億円の5%前後です。黒鉛電極の米国向けの売上の割合は開示されていないので、これは上限の目安です。

関連企業と日本の接点

米国で関税を申し立てたのは日本の2社の子会社です。同じ黒鉛電極をつくる日本の会社でも、株価の上げ方はそろっていません。

会社(市場:コード)黒鉛電極・関税との関わり株価(10月5日)
東海カーボン(東証プライム:5301)米国子会社の東海カーボンGEが申し立てた。黒鉛電極は利益の約5%2,380円
レゾナック・ホールディングス(東証プライム:4004)米国子会社のレゾナック・グラファイト・アメリカが申し立てた。会社の利益の柱は半導体材料18,000円
日本カーボン(東証プライム:5302)黒鉛電極をつくる。申し立てには入っていない5,230円
SECカーボン(東証スタンダード:5304)黒鉛電極をつくる。申し立てには入っていない2,351円

インドの電極メーカー(グラファイト・インディア、HEG)は、日本の取引所には上場していません。

株価の差を、黒鉛電極の関税で説明することはできません。黒鉛電極をつくる日本カーボンとSECカーボンは、この1年でTOPIXより弱い動きでした。申し立てた2社のうち、レゾナックは利益の柱が半導体材料の会社です。

次の山場は11月上旬の7〜9月期決算

次に株価が動きそうなのは、11月上旬の7〜9月期決算です。ファインカーボンとカーボンブラックの数字が、上げを支えた材料が続くかを決めます。

12月上旬(延長されれば2027年2月上旬)米商務省の反ダンピング関税・相殺関税の本決定
本決定のあと米国際貿易委員会の最終判断(関税が確定するか)
2027年2月2026年12月期の決算。新しい配当の方針で何円になるか、次の自社株買い

で、儲かるのか

この記事の答え

東海カーボンの上げを支えているのは、株主還元の方針と、メモリ向けのSiCフォーカスリングなどの数量だ。米国の関税は自ら勝ち取りにいった追い風だが、黒鉛電極は利益の約5%で、上げを説明する大きさではない。次の決算で見るべきは、関税ではなくファインカーボンとカーボンブラックの数字だ。

続く材料

配当は配当性向40%程度か株主資本の5%の高いほう。メモリ向けのSiCフォーカスリングは数量が伸びています。

一度きりの材料

純利益の見通しの引き上げ(120億→220億円)には、政策保有株の売却益が入っています。

米国の関税

中国製に仮に約200%。ただし黒鉛電極の利益が倍になっても、営業利益の5%前後です。

情報源

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フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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