調査

インド製PFA(フッ素樹脂)に米国が関税へ——ケマーズの訴えで、インドは締め出されるのか

2026.09.21
インド製PFA(フッ素樹脂)に米国が関税へ——ケマーズの訴えで、インドは締め出されるのか

📌 この記事は公開情報(米国の官報・商務省と国際貿易委員会の発表・各社の開示・国連の貿易統計・市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月21日時点のものです。

米国がインド製のフッ素樹脂「PFA」に関税をかけようとしていますが、これでインドのPFAは米国から締め出されるのでしょうか。

締め出されない、という見立てです。 4年前にインド製のPTFE(テフロンと同じ種類の樹脂)に関税がかかったときも、米国に入るPTFEのうちインド製の割合は、関税の前より高くなりました。

PFAは半導体工場の配管の材料。米国で作るのはケマーズだけ

半導体工場で薬液を流す管や継手には、PFAというフッ素樹脂が使われます。米国でそれを作っているのは、自社の申告ではケマーズ1社だけです。

PFAは、フライパンの表面加工で知られるPTFE(ケマーズの商品名は「テフロン」)の仲間です。熱で溶かして形を作れるので、チューブやバルブ、ウエハーを運ぶ容器に加工できます。ダイキン工業は自社の製品紹介で、高純度のPFAは不純物が溶け出しにくく、半導体製造ラインのチューブやバルブで多く使われていると説明しています。

この記事に出てくる作り手は、次のとおりです。

  • 米国:ケマーズ(ウエストバージニア州のワシントン・ワークス工場)。2015年にデュポンから分かれた会社で、「テフロン」の商標を持っています
  • インド:GFL(グジャラート・フルオロケミカルズ)
  • 日本:ダイキン工業(ネオフロンPFA)、AGC(Fluon PFA)、三井・ケマーズ フロロプロダクツ(テフロンPFA)。三井・ケマーズは、三井化学とケマーズが50%ずつ持つ合弁会社で、ケマーズのライセンスでテフロンのフッ素樹脂を作って売っています

今回の関税は、次の2つです。

  • 反ダンピング関税……輸出する国の国内より安い値段で米国に売っている場合、その差の分を上乗せする関税
  • 相殺関税……輸出する国の政府が補助金を出している場合、その分を上乗せする関税

決めるのは2つの役所です。商務省が上乗せする率を計算し、国際貿易委員会(ITC)が米国の産業が傷ついたかどうかを判断します。 両方が「はい」と言ったときだけ、関税がかかります。

訴えから6週間で、米国の委員会は「損害の兆しあり」とした

訴えは2026年8月5日。9月18日には、米国の委員会が5対0で調査を続けると決めました。

ケマーズは、インド製のPFAが安すぎる値段で米国に売られ、しかもインド政府の補助金を受けていると訴えました。調べられる会社は、インドのGFL1社です。商務省も「ほかに米国へ出しているインドの会社は知らない」と書いています。

2024年8月ケマーズが決算発表で「テフロンPFAの増産の許可を得た」と発表。半導体の製造に欠かせない材料だと説明
2026年1〜3月ワシントン・ワークス工場が止まる。PFAを含む高機能材料部門の上期の販売数量は14%減り、会社はこの停止と別製品の撤退を理由に挙げた
2026年8月5日ケマーズが商務省とITCに訴えを出す。同じ日に4〜6月期の決算説明会
2026年8月25日商務省が調査の開始を決める(官報への掲載は9月1日)
2026年9月18日ITCが5対0で「損害の兆しあり」(委員1人は不参加)。調査は続く

ITCが9月18日に出したのは、「損害を受けているとみる理由がある」という入口の判断です。最終の判断ではありません。

38.78〜46.80%商務省が計算し直したダンピングの幅(ケマーズの訴えでは47.93〜56.57%)
21補助金の疑いで調べるインドの制度の数
624トン2025年にインドから米国に入ったPFA(1,432万ドル)

商務省が公表した輸入の数字は、2023年が721トン、2024年が772トン、2025年が624トンです。年で見ると、2025年は前の年より減っています。ケマーズが示した「輸入が大きく増えた」という数字は、調査期間(2025年7月〜2026年6月)についてのもので、官報や商務省の発表には載っていません。

前回のPTFEでは、関税がかかってもインドの割合は増えた

インドのフッ素樹脂が米国で訴えられるのは、今回で3回目です。前の2回は、訴えが退けられても、関税がかかっても、インドの割合は増えました。

訴えた年訴えた会社対象どうなったか
2017年ケマーズ中国・インドのPTFE2018年にITCが4対0で「損害なし」。関税はかからず、2021年に裁判所もこの判断を支持
2021年ダイキン・アメリカ(ダイキン工業の米国子会社)インド・ロシアの粒状(粒の形の)PTFE2022年3月に関税。GFLには反ダンピング13.09%、相殺31.89%
2026年ケマーズインドのPFA調査中

2回目は、関税が決まりました。ところが、その率は見直しのたびに下がりました。

相殺関税は、裁判所が、GFLとは別の会社(風力発電機のメーカー)が受けた土地の補助金をGFLの率に入れたのは誤りだと判断し、26.50%分が消えて、率は5.39%になりました。反ダンピング関税は、毎年の見直しで実際に売った値段から計算し直され、見直しのたびに2.40%、1.80%と下がっています

反ダンピング関税は、一度決まったら終わりではありません。 関係する会社が求めれば、毎年、輸出した会社の実際の値段で率を計算し直します。米国での値段を国内の値段に合わせれば、率は下がります。GFLは前回、調査に答えて、実際の値段で率を出してもらっていました。

その間、インドからの量はどうなったか。

関税がかかった2022年と翌2023年は割合が下がりましたが、2024年には34.2%と、関税の前の30.0%を超えました。 2018年に訴えが退けられたあとも、割合は22.0%から29.3%に上がっています。

⚠️ 貿易統計のPTFE(品目番号HS 3904.61)には、関税の対象になった粒状のもの以外に、細かい粉のものや水に混ぜた液状のものも含まれます。この割合は「関税の対象の品だけ」の数字ではありません。

日本も、かつては訴えられる側でした。米国は1988年に日本製の粒状PTFEに反ダンピング関税をかけ、2010年に廃止しています。 米国の生産者が延長を求めなかったためです。

決着は来年。その前に、10月末に最初の税率が出る

関税がかかるかどうかが決まるのは2027年の春以降です。その前に、仮の税率が2回出ます。

2026年12月ケマーズの2本目のPFAラインの排水許可の延長の期限
2027年1月中旬商務省が仮の反ダンピング税率を出す
2027年春〜夏商務省の最終の率と、ITCの最終判断。延長がなければ5月ごろ

仮の税率が出た時点で、米国の輸入者はその分の保証金を払うことになります。最終の判断で「損害なし」となれば、関税はかからず保証金は戻ります。

分かれ道は2つです。

1ITCが最後に「損害なし」とする
2018年のPTFEと同じ結末です。関税はかからず、GFLはそのまま売り続けます。
2ITCが最後に「損害あり」とする
関税が決まります。ただし率は毎年の見直しで計算し直されます。2022年のPTFEでは、4年で1.80%と5.16%まで下がりました。

関連企業と日本の接点(ダイキン工業・6367/AGC・5201/三井化学・4183)

訴えた側と訴えられた側のほかに、日本の3社が米国のフッ素樹脂の大きな売り手として関わっています。

NYSE: CC

ケマーズ

The Chemours Company

訴えた側。米国でPFAを作る唯一の会社だと申告しています。日本の取引所には上場していません。

株価(9月18日)14.34ドル
高機能材料部門の売上(4〜6月)3.26億ドル
同部門のもうけ(調整後EBITDA)0.26億ドル(48%減)
2本目のPFAラインの排水許可12月まで延長

ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=The Chemours Company)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

NSE: FLUOROCHEM

グジャラート・フルオロケミカルズ(GFL)

Gujarat Fluorochemicals Limited

訴えられた側。インドのナショナル証券取引所に上場しています。日本の取引所には上場していません。

株価(9月21日)4,550ルピー
米国に入ったインド製PFA(2025年)1,432万ドル
PTFEの反ダンピング率(最新)1.80%
PTFEの相殺関税率(最新)5.16%

ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=Gujarat Fluorochemicals Limited)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

東証プライム: 6367

ダイキン工業

Daikin Industries, Ltd.

「ネオフロンPFA」を作っています。米国子会社のダイキン・アメリカは、2021年にインド製の粒状PTFEを訴えて関税を勝ち取った会社です。

ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=ダイキン工業 化学事業サイト)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

東証プライム: 5201

AGC

AGC Inc.

「Fluon PFA」を作り、半導体製造装置の部材向けにも売っています。

ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=AGC株式会社)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

東証プライム: 4183

三井化学

Mitsui Chemicals, Inc.

訴えたケマーズと50%ずつ、三井・ケマーズ フロロプロダクツを持っています。同社は静岡市の清水工場などで、テフロンのフッ素樹脂を作っています。

ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=三井化学株式会社)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

日本は、米国にフッ素樹脂を売るいちばん大きな国です。国連の貿易統計で、米国が輸入した「その他のフッ素樹脂」(HS 3904.69・PFAを含む分類)を国別に並べると、日本は2017年から9年続けて1位で、2025年は4.43億ドルのうち38.5%でした。インドは6.4%です。この分類にはPFAのほか、フッ素ゴムなども入っているので、PFAだけの割合ではありません。PFAだけの数字は、10月26日までに出るITCの報告書で確かめます。

今回の関税の対象はインド製だけで、日本製のPFAは対象外です。

訴えられたGFLの株価は、1年前を100として124と、6本の中でいちばん高い位置にあります。 訴えの日(8月5日)は2.5%下げましたが、調査開始の日(8月26日)とITCの判断の日(9月18日)は、どちらも2%あまり上がりました。ケマーズは8月5日に18.6%下げましたが、この日は4〜6月期の決算の翌日でもあり、訴えの影響と切り分けることはできません。各社は事業の中身が違い、株価は別の理由でも動くので、この差を今回の関税で説明することはできません。

フクリの見方

関税が決まっても、インドのPFAは米国から締め出されない、という見立てです。

フクリの見立て

関税は、インドのPFAを米国から追い出すところまでは行かない。
前回のPTFEで、それはもう起きている。

なぜそう言えるか

反ダンピング関税は、求めがあれば毎年、実際の値段で率を計算し直す仕組みです。前回のPTFEでは13.09%が1.80%まで下がり、インドの割合は関税の前より高くなりました。

では何が動かすか

ケマーズのPFAの量を左右しているのは、関税より自社の工場です。会社は、部門の上期の販売数量が14%減った理由に、1〜3月の工場の停止を挙げています。

その日付

10月30日ごろの仮の相殺関税率と、12月のケマーズの2本目のPFAラインの排水許可の期限です。

理由は1つです。反ダンピング関税は、罰金のように一度決まって固定されるものではなく、求めがあれば毎年の値段で計算し直されます。 輸出する側が米国での値段を合わせれば、率は下がります。GFLは前回、率を下げたうえで米国に売り続けました。

2つの分かれ道のどちらに転んでも、この構図は変わりません。ITCが「損害なし」とすれば関税はかからず、「損害あり」とすれば毎年の見直しが始まります。どちらでも、インドのPFAが米国の市場から消える筋は細いと見ています。

ケマーズにとって意味があるのは、インドが値段を下げにくくなることまでです。量を取り戻せるかは、関税より自社のワシントン・ワークス工場が止まらずに動くかにかかっています。日本の3社にとっては、対象外の立場のまま、ケマーズが「安すぎる」と訴えたインド製との値段の差が縮む方向の話です。ただし、2025年のインド製PFAは1,432万ドルで、日本からの「その他のフッ素樹脂」1.70億ドルと比べると小さい規模です。

この見立てが外れる条件

1GFLが調査に答えず、推計で高い率が付く
調べられる会社が質問に答えないと、商務省はその会社に不利な推計で率を決めることができます。前回のGFLは調査に答えていました。今回答えなければ、率は下がりにくくなり、この見立ては崩れます。
22027年に、インドからの量が半分以下になる
関税が決まったあと、米国の貿易統計でインドからのPFAを含む分類の量が前の年の半分を下回るなら、締め出しが起きたことになります。前回のPTFEでは、最も落ちた2023年でも2021年の6割ほどでした。

では、何を見ていればいいのか

いつ何が出るか見るところ
2026年10月26日までITCの報告書PFAだけの輸入量と、日本からの割合
2026年10月30日ごろ商務省の仮の相殺関税率GFLが調査に答えたうえでの率か
2026年12月ケマーズの排水許可の延長期限2本目のPFAラインが動き続けられるか
2027年1月中旬商務省の仮の反ダンピング税率同上
2027年春〜夏ITCの最終判断関税がかかるかどうか
毎月米国の貿易統計(HS 3904.69のインド)量が前の年の半分を下回るか

同じように「米国で唯一」を掲げる会社の数字を読んだ記事に、TRISO燃料の工場の話があります。半導体の材料で日本企業が握る部分は、硫化カルボニル(COS)半導体の超純水でも取り上げました。米国の調達ルールの読み方はDFARSの記事、インドの株を日本から買う方法はインド株投資の入門にまとめています。

まとめ(3行)

1米国で唯一のPFAメーカーが、インドの唯一の輸出元を訴えた
ケマーズがGFLを相手に、反ダンピング関税と相殺関税を求めました。ITCは9月18日に5対0で調査の継続を決めています
2前回のPTFEでは、インドの割合は下がらなかった
2022年に決まった率は、見直しで反ダンピング1.80%・相殺5.16%まで下がり、米国のPTFE輸入(重さ)に占めるインドの割合は、2021年の30.0%から2025年は33.0%になりました。
3次の節目は、10月末の仮の税率と12月の工場の許可
GFLが調査に答えたうえでの率かどうかと、ケマーズの2本目のPFAラインが動き続けられるかが、次に見るところです。

情報源

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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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