調査

塩野義製薬の株価はなぜIntraBioの買収で下げたのか 売上の約30倍という買値と、日本の製薬の海外買収10件

2026.10.07
塩野義製薬の株価はなぜIntraBioの買収で下げたのか 売上の約30倍という買値と、日本の製薬の海外買収10件

📌 この記事は公開情報(塩野義製薬の適時開示・決算短信、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年10月6日時点のものです。

塩野義製薬の株価は、なぜ米国の会社の買収の発表で下げたのでしょうか。

市場が嫌ったのは、売上に比べて高い買値だと見ています。過去の日本の製薬の海外買収では、発表で下げた株が戻った例は少なく、決め手は会社が月末の決算で示す業績への影響です。

開示から30分で4%下げ、翌日は2,763円まで戻した

塩野義は10月5日の15時に、米国のIntraBioを20億ドル(3,156億円)で買うと開示しました。株価は取引が終わるまでの30分で4%下げ、翌日は開示の前に近い2,763円まで戻しています。

開示の直前(14時55分)の2,773.5円から、引けは2,661円まで下げました。翌6日の終値は2,763円で、前の日から3.8%上げています(TOPIX連動ETFは0.9%)。

発表の前後2日をまとめると、塩野義は市場より3.2ポイント下げました。時価総額(約2.35兆円)でいえば、約750億円です。

買値は売上の約30倍、前回のALS薬は約4倍

今回の買値は、IntraBioの2025年の売上の約30倍です。塩野義が去年12月に買ったALS(筋萎縮性側索硬化症)の薬の事業は、米国の売上の約4倍でした。

IntraBioは、テキサス州の非上場の製薬会社です。塩野義の開示に載った業績は、次のとおりです。

IntraBio(米国会計基準)2023年12月期2024年12月期2025年12月期
売上高0354万ドル6,787万ドル
営業損益−2,243万ドル−5,622万ドル−3,529万ドル
純資産3,541万ドル1億3,534万ドル1億4,455万ドル

IntraBioの薬は「AQNEURSA」(一般名レバセチルロイシン)です。ニーマン・ピック病C型(約10万人に1人)の神経症状の薬として欧米で承認され、2026年9月18日には毛細血管拡張性運動失調症(4万〜10万人に1人)でも米国で承認されました。毛細血管拡張性運動失調症で米国の承認を受けた薬は、これが初めてです。

売上が立ち始めたのは2024年で、2つ目の病気の薬としてはこれから売り始めます。今回の20億ドルは、いまの売上より、これからの売上に付けた値段です。前回のALS薬は、田辺ファーマの米国の売上だけで2025年3月期に945億円ありました。

お金の面でも前回と違います。塩野義の現金及び現金同等物は、2026年3月末の7,114億円から、4月にALS薬の事業を引き継いだあとの6月末は2,989億円です。今回の買収額3,156億円は、6月末の現金を上回ります。

海外買収の発表で、下げた株が戻った例は少ない

過去10件の日本の製薬の海外買収では、発表の前後2日で普段の2倍を超えて動いたのは1件だけでした。発表で下げた3件のうち、60営業日後に市場を上回ったのも1件です。

10件の発表の前後2日の真ん中の値は+1.7ポイントで、多くは小さく上げています。60営業日後には、7件が市場を上回りました。

ただ、発表の前後2日で下げた3件(アステラス製薬のオーデンテス、協和キリンのオーチャード、小野薬品のデシフェラ)のうち、60営業日後に市場を上回ったのはアステラスの1件だけでした。

塩野義の前の2件は、発表のあと60営業日で市場より17.2ポイント(ALS薬)、4.5ポイント(ViiV)上げています。発表日の1日だけで見ると、今回の−5.9ポイントは11件の中でいちばん大きな下げです。

業績への影響は「精査中」、中間決算の日は過去5回とも小さな動き

塩野義は、今期の業績への影響を「精査中」としています。過去の中間決算の日は、株価の動きが小さい日でした。

今期の会社の予想は、売上収益7,000億円、営業利益2,200億円です。4〜6月の営業利益は669億円で、予想の30%でした。IntraBioの2025年12月期の営業損失(3,529万ドル、約56億円)は、営業利益の予想の約2.5%にあたります。買収で生じる無形資産の償却の額は、まだ出ていません。

塩野義の決算の前後2日(株探の17回、2021〜2026年)は、上げ6回・下げ11回でした。大きく下げたのは5月の本決算(2025年−8.9、2026年−9.3ポイント)で、10〜11月の中間決算は、過去5回ともプラスマイナス2ポイントの内でした。

取引の完了は11〜12月の予定で、各国の競争法の審査などを経る必要があります。

関連企業と日本の接点

IntraBioの買収の当事者で上場しているのは、塩野義だけです。IntraBioも、前回のALS薬の売り手の田辺ファーマも上場していません。

会社(市場:コード)この話での位置株価(10月6日)
塩野義製薬(東証プライム:4507)IntraBioを20億ドルで買う。2025年12月にALS薬の事業を25億ドルで買い、2026年1月にViiVの株を21.7%まで買い増した2,763円
IntraBio(非上場・米テキサス州)AQNEURSAの会社。株主は開示されていない。個人は株を直接買えない—
田辺ファーマ(非上場)ALS薬(米国名Radicava)の事業を塩野義に売った—
ViiV Healthcare(非上場・英国)HIVの薬の会社。英GSKが78.3%、塩野義が21.7%を持つ—

塩野義の株価は、ALS薬とViiVの買い物を発表したあとに上げ、2026年2月25日に1年前の1.41倍をつけました。そこから下げ、5月の本決算のあとに大きく下げています。10月6日は1年前の1.06倍で、医薬品ETF(1.07倍)とほぼ同じ、TOPIX連動ETF(1.30倍)を下回っています。株価の差を、今回の買収だけで説明することはできません。

次の山場は10月29日の中間決算

次の節目は10月29日の中間決算です。IntraBioの買収が今期の業績にどれだけ響くかが、ここで数字で出るかが焦点です。

11〜12月(予定)取引の完了(各国の競争法の審査など)
2027年1月末(前年は1月30日)4〜12月期の決算。AQNEURSAの売上が数字で出るか
2027年5月(前年は5月12日)本決算と来期の予想。過去2年は、この発表の前後で大きく下げた

で、儲かるのか

この記事の答え

市場が嫌ったのは、売上の約30倍という買値だと見ている。前回のALS薬は約4倍で、発表のあとに上げた。過去の海外買収でも、発表で下げた3件のうち戻ったのは1件だけだ。下げを買い場と見るかは、10月29日に会社が示す業績への影響と、AQNEURSAの売上の見込みしだいだ。

前例

海外買収10件で、発表で下げたのは3件。60営業日後に戻ったのは1件。

今回の値段

2025年の売上の約30倍。前回のALS薬は米国の売上の約4倍。

次の節目

10月29日の中間決算で、業績への影響と通期予想が出るか。

情報源

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フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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