調査

トランプ政権の薬価規則「GLOBE」、最恵国待遇の合意の外に残った武田と第一三共

2026.10.02
トランプ政権の薬価規則「GLOBE」、最恵国待遇の合意の外に残った武田と第一三共

📌 この記事は公開情報(米CMSの規則・公表データ、ホワイトハウスの発表、各社の決算資料、日本の薬価、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年10月2日時点のものです。

米国の高齢者の公的保険メディケアで、医師が投与する薬の値段に、外国の値段を物差しとして当てる規則「GLOBE」が決まりました。対象に残るのは、どの会社なのでしょうか。

政権と薬価で合意した会社は、この規則の対象から外れます。合意していない会社の中に、武田薬品と第一三共が入っています。

GLOBEは、外国の値段との差をメーカーに返させる

GLOBEは、メディケアが医師や病院に払う薬代のうち、外国の値段を上回る分を、メーカーにリベート(後から返すお金)として払わせる規則です。米国の保険当局CMSが2026年9月30日に最終規則を公表し、2027年1月に始まります。

メディケアは、米国の65歳以上の人などが入る公的な医療保険です。そのうち「パートB」は、医師が点滴や注射で投与する薬を払う部分で、メディケアは薬の平均販売価格に6%を上乗せした額を医師や病院に払っています。

差額の物差しになるのは、日本・韓国・英国・ドイツ・フランスなど19か国の値段です。各国の値段を、米国との1人あたりの所得の差で引き上げたうえで、いちばん安い国の値段に2%を上乗せした額と比べます。メーカーが自社の外国での実際の値段を出せば、その平均も計算し、高いほうが基準になります。

対象はすべての患者ではありません。CMSが地域をくじで選び、従来型のメディケアでパートBに入っている人の約25%が対象になります。薬は、がん・免疫・眼科・神経など7つの分野の、医師が投与する薬です。最初にリベートを計算する期間は2027年4月から始まり、2032年3月まで5年続きます。

合意の名簿に無いのは4社。うち2社が武田と第一三共

最終規則は、残るのは4社と見積もっていますが、社名は書いていません。規則の例示リストに載った薬の製造販売元19社を、ホワイトハウスが公表した合意の名簿と突き合わせると、名簿に無いのはバイオジェン、Apellis、武田、第一三共の4社でした。

政権は2025年から、薬の値段をほかの先進国の最も安い水準にそろえる「最恵国待遇(MFN)」の価格で、製薬会社と個別に合意してきました。合意した会社は、メディケイド(低所得者向けの公的保険)でこの価格を出すしくみ「GENEROUS」に入ります。GLOBEの最終規則は、GENEROUSに参加している四半期はGLOBEへの参加を免除する方針を示し、2026年8月17日時点でGENEROUSの参加契約を結んだ会社を外すと、例示リストの19社のうち残るのは4社と見積もりました。

例示リストは、2024年のデータで作った36の薬の一覧です。それぞれの米国の製造販売元を米食品医薬品局(FDA)の登録で確かめると19社になり、規則の「19社」と一致します。これを、ホワイトハウスが9月18日に公表した合意26社の名簿と照らしました。

米国の製造販売元例示リストの薬合意の名簿(9月18日)
第一三共の米国子会社エンハーツ(乳がんなどの抗体薬物複合体)名簿に無い
武田薬品の米国子会社エンティビオ(潰瘍性大腸炎などの点滴)名簿に無い
バイオジェンタイサブリ(多発性硬化症など)名簿に無い
Apellis(2026年5月にバイオジェンが買収)SYFOVRE(加齢黄斑変性による萎縮の目の注射)名簿に無い

残る15社(ファイザー、アストラゼネカ、メルク、ロシュ傘下のジェネンテックなど)は、すべて名簿に入っています。日本の会社では、アステラス製薬と協和キリンが8月31日に合意しました。例示リストにはアステラスが米国で共同販売するパドセブも載っていますが、米国の製造販売元はファイザー傘下のSeagenで、ファイザーも合意しています。

武田は、2025年5月の決算説明会で、のちに社長になるジュリー・キム氏(2026年6月に就任)が、最恵国待遇の価格を「基本的に価格統制だ」と述べ、支持しない考えを示していました。8月31日の発表の直前、米メディアは武田も合意に加わると伝えましたが、ホワイトハウスが公表した9社と、9月18日の26社の名簿に武田の名前はありません。2つの名簿には、第一三共の名前もありません。

かかるのは、2つの薬の米国売上の5%前後の部分

従来型のメディケアが2024年に払った額は、武田のエンティビオ(点滴)が7.7億ドル、第一三共のエンハーツが5.8億ドルで、どちらもそれぞれの薬の米国売上の2割前後にあたります。GLOBEがかかるのは、その約25%の地域の分です。

1ドル150円で換算すると、エンティビオへの支払いは約1,150億円で、武田の2025年度のエンティビオの米国売上(6,237億円)の2割弱です。エンハーツへの支払いは約870億円で、第一三共の2025年度のエンハーツの米国売上(3,863億円)の2割強です。GLOBEの対象はこのうち約25%の地域なので、リベートがかかるのは、米国売上の5%前後の部分になります。年が1年ずれ、メディケアの支払いには6%の上乗せも入っているので、目安です。

CMS自身の見積もりも小さくなりました。

提案(2025年12月)最終規則(2026年9月)
対象に残るメーカー合意した会社も含む4社(見積もり)
7年間で連邦政府が節約する額119億ドル4.4億ドル
うち従来型メディケアの給付84億ドル2.98億ドル

見積もりは96%減りました。最終規則は、合意した会社が外れることを前提に計算し直しています。4社を合わせても、従来型メディケアの節約は6年で2.98億ドル、いちばん多い年でも0.9億ドルです。

仮にこの節約額がすべて1社にかかったとしても、年平均で約75億円(1ドル150円)です。武田の2025年度の営業利益4,088億円の2%に満たず、第一三共の営業利益2,291億円の3%余りです。

日本の薬価は、所得の差で補正しても米国の5〜6割

同じ1mgに、米国のメディケアは日本の薬価(公的保険の公定価格)の3.5倍(エンティビオ)と2.7倍(エンハーツ)を払っています。GLOBEは外国の値段を所得の差で引き上げてから比べますが、日本の1.62倍にしても、米国の46%と61%です。

日本の薬価は、エンタイビオ(日本でのエンティビオの名前)の点滴用300mgが27万9,573円、エンハーツの100mgが19万2,652円です。米国は2026年10〜12月のメディケアの支払い上限で、エンティビオが1mgあたり20.95ドル、エンハーツが32.65ドルです。

GLOBEの物差しは19か国でいちばん安い値段なので、日本が基準になるとは限りません。CMSが使うのは市販の価格データで、規則は、それが公定価格のこともメーカーの出荷価格のこともあると書いています。メーカーが自社の値段を出さない場合、物差しは19か国でいちばん安い補正後の値段なので、日本の値段がデータにあれば、それに2%を足した額を超えません。2つの薬では、その額でも米国の値段の5〜6割にとどまります。

エンハーツには、すでに別のリベートもかかっています。米国では、薬の値上がりがインフレ率を超えるとメーカーがその分を返すしくみがあり、エンハーツは患者の自己負担の割合が20%から18.94%に下げられています。GLOBEでメーカーが払うのは、このリベートを超える分です。

関連企業と日本の接点

合意の名簿に無い4社は、日本の2社とバイオジェン(Apellisを含む)です。日本の会社では、アステラスと協和キリンが合意して対象から外れています。

会社(市場:コード)GLOBEとの関わり確かめたこと
第一三共(東証プライム:4568)エンハーツが例示リストに載る。合意の名簿に無い2025年度のエンハーツの米国売上3,863億円。メディケアの支払い5.8億ドル(2024年)。株価(10月2日)2,709円
武田薬品工業(東証プライム:4502)エンティビオの点滴が例示リストに載る。合意の名簿に無い2025年度のエンティビオ9,580億円(うち米国6,237億円)。メディケアの支払い7.7億ドル。株価5,643円
バイオジェン(NASDAQ:BIIB)タイサブリと、子会社ApellisのSYFOVRE。合意の名簿に無い。日本の取引所には上場していない株価(10月1日)222.82ドル
アステラス製薬(東証プライム:4503)8月31日に合意。共同販売するパドセブは、製造販売元のファイザー側も合意株価2,245円
協和キリン(東証プライム:4151)8月31日に合意。例示リストに同社の薬は無い株価2,230円

最終規則が出た翌日の10月1日、東京市場で第一三共は2.1%安、武田は0.8%安でした(TOPIX連動ETFは0.7%高)。第一三共は2026年5月に製品の供給計画の見直しに伴う損失の発生を公表しており、提案の前からの下げをGLOBEで説明することはできません。

で、儲かるのか

この記事の答え

武田と第一三共は、政権と合意しないままなら、2027年4月から日本の薬価も物差しに入るリベートの対象になる。会社として外れる方法は、合意することだけだ。払う額は小さく、次の節目は2社が合意するかどうかだ。

確かめたこと

例示の対象薬をつくる19社のうち、合意の名簿に無いのは4社。武田(エンティビオ)と第一三共(エンハーツ)が入ります。

払う額

CMSの見積もりでは、4社合わせても従来型メディケアの節約は6年で2.98億ドル。全部が1社にかかっても、武田の営業利益の2%未満です。

儲かるのか

最終規則の翌日、第一三共は2.1%安、武田は0.8%安でした。合意すれば外れますが、メディケイドで最恵国待遇の価格を出すなど、GLOBEとは別の約束を負うことになります。

2026年11月30日GLOBEの規則が効力を持つ
随時武田と第一三共が政権と合意するか(ホワイトハウスの発表)。処方薬(パートD)版の規則「GUARD」が最終になるか
2027年1月1日GLOBEが始まる。メーカーが自社の外国での値段を出す最初の報告

関連する記事:メディケアの「14%の払いすぎ」とユナイテッドヘルス/武田薬品のオーゼイフルは、なぜ米国でまだ売られていないのか/武田薬品が米国で承認を取った希少な血液がんの薬/患者が世界に900人しかいない薬と制度/決算書の読み方

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
← ホームに戻る