調査

ロイバントの肺高血圧の新薬候補——「過去最大」の数字より、2029年に問われる「6分間で歩ける距離」

2026.09.16
ロイバントの肺高血圧の新薬候補——「過去最大」の数字より、2029年に問われる「6分間で歩ける距離」

📌 この記事は公開情報(米国の上場企業の発表と開示資料、米国の臨床試験登録、医学論文、日本企業の適時開示)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月14日時点のものです。

米ロイバントが9月8日に発表した新薬候補の結果は「過去最大」と説明され、株価を大きく押し上げました。

ただ、この薬の価値を決めるのは、その見出しの数字ではありません。2029年に出る、6分間でどれだけ歩けるかの数字です。そしてその数字は、いまのところ、すでに売られている薬の試験と近いところにあります。

ロイバントが発表したのは、どんな病気の薬か

発表されたのは、肺の病気に伴って起きる肺高血圧症の薬の候補で、3段階ある試験の2段目を終えたところです。

米国のバイオ企業ロイバントは9月8日、欧州呼吸器学会(ERS)の年次大会で、新しい薬の候補「mosliciguat(モスリシグアト)」の試験結果を発表しました。「肺高血圧症のランダム化試験で報告された中で、最大の低下」と説明し、株価はその日のうちに18.8%上がりました。

間質性肺疾患」は、肺の組織が厚く硬くなり、息がしにくくなる病気です(肺線維症などが含まれます)。そこに、肺の血管の圧が高くなる「肺高血圧症」が重なると、心臓に負担がかかり、息切れで歩ける距離がさらに短くなります。英語の略称はPH-ILDです。会社は、米国と欧州で最大20万人の患者がいると説明しています。

mosliciguatは、1日1回、粉を吸い込んで使う薬の候補です。もともとはドイツのバイエルが研究していた物質で、ロイバントが権利を得て、子会社のPulmovant(ロイバントが97%を保有)が開発しています。

新しい薬は、ふつう次の順で試験を進めます。

1第2相:少し多めの患者で、効き目と使う量を確かめる
今回発表されたのはここです。試験名はPHocusで、20か国・135人が参加し、16週間使いました。
2第3相:もっと多くの患者で、承認に必要な証拠をそろえる
試験名はPHrontier376人の計画で、2026年8月31日に始まり、主な結果は2029年1月に出る予定です。
3審査:国の審査当局が、売ってよいかを判断する
米国ではFDA(米食品医薬品局)が審査します。日本でいえば、厚生労働省とPMDA(医薬品医療機器総合機構)の役割です。

今回の第2相の結果は、次の3点です。「偽薬」は、薬の成分が入っていない見た目が同じもの(プラセボ)のことです。

  • 肺の血管の通りにくさ(肺血管抵抗)が、偽薬とくらべて56.3%低下
  • 6分間で歩ける距離が、偽薬とくらべて16週で35.2m、24週で52.7m長くなった(24週は参考として調べた値)
  • 副作用で多い咳が出た人の割合は、この薬のグループが12.1%、偽薬のグループが18.2%

「56%」と「35m」は、何を測った数字か

見出しになった「56%」と、承認の判断で重く見られる「歩ける距離」は、測っているものが違います。

56.3%肺の血管の「通りにくさ」が下がった割合(今回の試験の主な結果・偽薬との差)
35.2m16週で6分間に歩ける距離が伸びた分。既存薬の試験では31.1m(別々の試験)
2029年1月成否を測る大規模試験(第3相)の、主な結果が出る予定

発表の見出しになったのは「56%」ですが、2つの数字は測っているものが違います。

数字何を測ったか試験での扱い
肺血管抵抗 −56.3%肺の血管の「通りにくさ」。心臓までカテーテルを入れて測る第2相でいちばん重視した項目
6分間歩行距離 +35.2m(16週)6分間で歩ける距離。息切れの強さが表れる第2相では2番目の項目
6分間歩行距離 +52.7m(24週)同じ参考として調べた値

ところが、第3相では順番が逆になります。

米国の臨床試験の登録サイトによると、第3相PHrontierがいちばん重視する項目は、24週の6分間歩行距離で、肺血管抵抗は2番目以下の扱いです。2021年に米国でこの病気の薬として初めて承認された既存薬も、6分間歩行距離をいちばん重視した試験で効き目を示しました。

つまり、第3相が成功したかを測るいちばんの物差しは、血管の数字ではなく「歩ける距離」です。 そのうえでFDAは、安全性やほかの結果も合わせて、承認するかを総合的に判断します。

すでに売られている薬と並べると

16週で歩ける距離が伸びた分は、すでに売られている薬の試験の数字と近いところにあります。

既存薬は、米ユナイテッド・セラピューティクスの「Tyvaso(タイバソ)」です。成分はトレプロスチニルで、これも吸い込んで使います。

Tyvasoの試験(INCREASE・326人・16週)では、1日4回吸入して、6分間で歩ける距離が偽薬より31.12m伸びました(米医学誌NEJM・2021年)。

16週の数字を並べると、31.1mと35.2m。 数字は近いところにあります。

⚠️ ただし、2つは別々の試験で、参加した患者も時期も違います。同じ試験の中で直接くらべた結果ではないので、この数字から「どちらが効く」「同じくらい効く」とは言えません。

はっきり違うのは、吸入する回数です。既存薬のTyvasoは1日4回、mosliciguatは1日1回です。

既存薬の市場は大きく、ユナイテッド・セラピューティクスは2026年1〜6月にTyvaso(粉と液体の2種類)で9億1,010万ドルを売り上げました。会社全体の売上の58%にあたる額です。2025年には米リキディアの吸入粉末薬「Yutrepia」も、この病気で承認されました。

一方でロイバントは、トレプロスチニルの吸入薬を使っている患者に加えて使い、安全かどうかを確かめる小さな試験(20人)も進めています。置き換えだけでなく、一緒に使う形も調べ始めているということです。

関連企業と日本の接点(持田製薬・4534)

日本との接点は、試験に参加した病院と、既存薬を売る持田製薬(4534)の2つです。

1つめは、今回の第2相試験に日本の病院も参加していたことです。米国の臨床試験の登録サイトに載っている85か所の実施施設を国別に数えると、日本は7か所で、米国(25か所)に次いで多い国でした(会社の発表では87施設)。

2つめは、日本では持田製薬(4534)が既存薬を売っていることです。持田製薬はユナイテッド・セラピューティクスからトレプロスチニルの吸入薬を導入し、「トレプロスト吸入液」として販売しています。2024年9月、日本で初めてこの病気の薬として承認を取りました。 2026年4月30日には、粉を吸い込むタイプ(MD-712)の承認も申請しています。

会社上場この話での位置
ロイバント米ナスダック(日本の取引所には上場していません)子会社を通じてmosliciguatを開発。第3相は2029年1月に主な結果の予定
ユナイテッド・セラピューティクス米ナスダック(日本の取引所には上場していません)既存薬Tyvasoの会社。1〜6月のTyvasoの売上は9億1,010万ドル
リキディア米ナスダック(日本の取引所には上場していません)吸入粉末薬Yutrepiaが2025年にこの病気で承認。ユナイテッド・セラピューティクスと特許で係争中
持田製薬東証プライム: 4534日本で既存薬トレプロスト吸入液を販売。吸入粉末剤MD-712を申請中

既存薬の会社の株価は、発表のあと最初の取引日に大きくは動いていません。 ただし、株価はほかの理由でも動くので、この値動きを今回の発表だけで説明することはできません。

フクリの見方

フクリの見立て

この薬を見るときの物差しは「56%」ではなく、
2029年に出る「6分間で歩ける距離」です。

なぜそう言えるか

第3相は、24週の6分間歩行距離をいちばん重視します。血管の数字は2番目以下の扱いです。

いまの位置

16週の歩行距離は35.2m。既存薬の試験の31.1mと数字は近いところにあります(別々の試験)。

その日付

第3相PHrontierの主な結果は2029年1月の予定です。

反対の材料もあります。 24週では52.7mまで伸びていて、第3相が見るのはまさに24週です。吸入が1日1回で済むことも、1日4回の既存薬とくらべたときの使いやすさの材料になります。

それでもこの見立ては変えません。 24週の52.7mは「参考として調べた値」で、第2相で決めた順番どおりに確かめた数字ではないからです。第3相でいちばん重視される数字は、まだ出ていません。

この見立てが外れる条件

1歩ける距離以外の数字が、承認や処方を左右する
第3相では、症状が悪くなるまでの時間や、患者の生活の質も調べます。そちらの結果で承認の判断や医師の選び方が決まるなら、「物差しは歩行距離」という見方は外れます。
2「1日1回」だけで、選ばれる薬になる
歩ける距離が既存薬と同じくらいでも、使いやすさで医師と患者が乗り換えるなら、価値は歩行距離だけでは決まりません。
3既存薬と「一緒に使う」大きな試験が始まる
20人の試験は安全性を見るためのものです。そのあと一緒に使ったときの効き目を調べる大きな試験に進めば、既存薬と数字を並べる見方そのものが外れます。

では、何を見ていればいいのか

いつ何を見るか
2026年12月ごろ(予定)既存の吸入薬と一緒に使う試験(20人)の主な結果。安全に使えるか、効き目を調べる次の試験に進むか
随時ユナイテッド・セラピューティクスとリキディアの特許訴訟の判決(この病気の効能を表示できるか)
随時持田製薬の吸入粉末剤MD-712の承認
2029年1月(予定)第3相PHrontier(376人)の24週の6分間歩行距離

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まとめ(3行)

1「過去最大」は血管の数字
ロイバントの新薬候補は、第2相で肺の血管の通りにくさを56.3%下げ、株価は1日で18.8%上がりました。
2第3相の物差しは歩ける距離
第3相は24週の6分間歩行距離をいちばん重視します。16週の35.2mは、既存薬の試験の31.1mと数字が近いところにあります(別々の試験)。
3日本とのつながり
第2相には日本の7施設が参加。日本では持田製薬が既存薬を売っています。答えが出るのは2029年1月の予定です。

情報源

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フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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