調査

JTの株と配当はどうなる? ロシア事業が国の管理下に。同じ目にあった5社で、事業が戻ったのは1社だけ

2026.11.06
JTの株と配当はどうなる? ロシア事業が国の管理下に。同じ目にあった5社で、事業が戻ったのは1社だけ

📌 この記事は公開情報(JTの適時開示・決算短信・決算説明資料・有価証券報告書、海外の会社の発表、報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年11月6日時点のものです。

JT(日本たばこ産業・2914)の株価は、11月6日に19.3%下げ、6,269円でストップ安になりました。前の日の11月5日に、プーチン大統領が、JTのロシアの製造会社4社を「一時管理」の対象にする大統領令に署名したためです。

一時管理は、ロシアが「非友好国」の会社の資産を、国が選んだ会社に運営させる仕組みです。2023年4月の大統領令で始まりました。持ち主は元の会社のままですが、経営はロシア側の会社が握ります。

ロシアは、JTの売上の約1割、利益の約4分の1を稼いでいます。

同じ仕組みで事業を管理された海外の上場企業5社のうち、事業が戻ったのは1社だけでした。2社は管理を解かれたあとロシアの会社に安く売り、2社は戻っていません。JTの今期の配当272円は、ロシアの利益を含めて計算されています。ロシアの分が消えると約209〜223円です。来年の配当の予想は272円より下がると見ています。答えが出るのは2027年2月の決算です。

ロシアの4社が国の管理下に置かれ、JTは1日で19.3%下げた

11月6日の下げはこの1年でいちばん大きく、時価総額は1日で約2兆6,600億円減りました。売りたい注文が残ったまま、取引を終えています。

対象になったのは、ドンスコイ・タバク、ペレスラヴリ・タバク、JTIエレツ、クレス・ネヴァの製造会社4社です(ロシアの国営通信タス)。経営を任されたのは「インダストリアル・アセッツ」という会社です。JTは6日の朝8時に、4社が一時管理の対象になったことを確認したと開示し、「詳細情報、今後取り得る対応及び当社グループへの影響の確認を進めております」としています。JTは、今回の措置を「ロシア政府による国有化や接収とは異なる」ともしています(産経新聞)。JTの最大の株主である日本政府は、6日に外交の経路を通じてロシアに抗議し、措置の撤回を求めました(片山財務相の会見など)。

6日の終値は「比例配分」でした。ストップ安の値段で売りたい注文が多すぎたため、取引の終わりに、その値段の買い注文を売り注文に割り振って取引を成り立たせた、という意味です。売りたい人が残ったまま、週明けの11月9日(月)を迎えます。9日に動ける幅は、6,269円から上下1,000円(5,269〜7,269円)です。

同じ日は東京市場全体も大きく下げ、日経平均は6.0%下げました。前の晩に、米国で半導体株が大きく売られた流れです(帝人の記事)。それでもJTは、TOPIX連動ETFより13.0ポイント大きく下げています。普段の動きの6.8倍です。食品の業種の株価指数(ETF)も10.7%下げましたが、これはJTの比重が大きく、JTの下げがそのまま指数を押し下げたためです。

ロシアでJTは、ウィンストンやキャメルなどを売り、たばこの市場の約4割を持つ最大手です(報道)。JTは2022年7月の決算レポートで、ロシアのたばこ事業について「当社グループ経営からの分離を含めた選択肢の検討を継続しております」と書いていました。ただ、事業は売らずに続けてきました。11月6日の開示でも、「国内外におけるあらゆる制裁措置・規制等を順守した上でロシアにおける事業運営を継続しておりました」としています。

同じ目にあった5社で、事業が戻ったのは1社だけ

一時管理は、JTが初めてではありません。2023〜24年に管理された海外の上場企業5社のうち、事業が戻ったのは1社で、2社は管理を解かれたあとロシアの会社に売り、2社は戻っていません。

会社(上場)管理された日その後
JT(東証プライム・2914)2026年11月5日始まったばかり
フォータム(フィンランド)2023年4月25日戻ったという発表は見つかっていない
ユニパー(ドイツ)2023年4月25日2025年2月の時点で戻っていない
ダノン(フランス)2023年7月16日2024年3月に管理を解かれ、売った
カールスバーグ(デンマーク)2023年7月16日2024年12月に管理を解かれ、売った
アリストン(イタリア)2024年4月26日2025年3月26日に返された
ネスレ(スイス)2026年9月17日管理が続いている

JT以外は、日本の取引所には上場していません。この秋には、ネスレのほか、フランスの小売りのオーシャン(上場していない)や、ドイツの卸売りのメトロ(9月28日)なども管理の対象になりました。

戻ったのは、イタリアの給湯器の会社アリストンだけです。管理から約11か月後の2025年3月26日に、返す大統領令(176号)が出ました。理由は説明されていません。同じ日に管理された、ドイツのボッシュ系の家電の会社(BSH)は、このとき戻っていません。

ダノンとカールスバーグは、管理を解かれる代わりに、ロシアの会社への売却を認められました。ダノンは177億ルーブル、カールスバーグは340億ルーブル(約3.2億ドル)です。ロシアの政府は、外国の会社が事業を売るときに大きな値引きを求めていると報じられています。

フィンランドのフォータムとドイツのユニパーは、どちらも電力の会社です。戻ったという発表は見つかっていません。ユニパーは2025年2月に、ロシアの子会社の経営陣と連絡もとれていないと説明し、2024年の決算ではこの子会社を1ユーロと評価しています。

前例の会社の株価は、大統領令の翌日もほとんど動いていません。市場との差は、1日目で−1.2〜+4.1ポイントでした。フォータム・ユニパー・ダノン・カールスバーグの4社は、管理される前にロシアからの撤退や売却を決めていました。ユニパーはそのあと20営業日で市場より17ポイント上げましたが、5月上旬に、ガスの値下がりで黒字に戻った1〜3月期の決算を出し、その日に6.5%上げています(ロイター)。

JTは違います。事業を続け、利益の約4分の1をロシアで稼ぐ見込みのまま管理されました。前例の株価の動きは、JTには当てはまりません。前例から読めるのは、事業がその後どうなったかです。

配当272円は、ロシアの利益を入れた計算

今期の配当272円は、ロシアの利益を含む今期の利益から計算されています。ロシアの分がそのまま消えると、JTの方針で出せる配当は約209〜223円です。

JTは配当を「配当性向75%を目安」としています(±5%程度の範囲で判断)。配当性向は、利益のうち配当に回す割合です。今期(2026年12月期)の配当272円は、配当の元にする利益6,600億円の73.2%で計算されています。この利益は、カナダの訴訟の和解金の影響を除いたものです。

ロシアの利益が、営業利益と同じく全体の約25%だとすると、配当の元になる利益は約4,950億円になります。配当性向75%なら1株約209円、上限の80%でも約223円です。272円を保つには、配当性向を約98%にする必要があります。

下げたあとの6,269円で割ると、272円の利回りは4.3%に見えます。ただ、配当が約209〜223円になれば、利回りは3.3〜3.6%です。下げる前の7,769円で272円を受け取る場合の3.5%と、ほとんど変わりません。株価の下げ(19.3%)は、配当の減り方(18〜23%)とほぼ同じ大きさです。

管理された会社の中には、ロシアの子会社を決算の数字から外した会社があります。カールスバーグは2023年7〜9月期から外し、ロシアの資産で約70億デンマーク・クローネの減損を出しました。アリストンも外しています。JTが外せば、来年の決算の数字から、ロシアの売上と利益が消えます。

JTは2021年にも、年間の配当を前の年の154円から140円に減らしています。

次は11月9日の売買と、JTの影響の開示

次に株価が動くのは、11月9日(月)の売買と、JTがロシアの影響を開示する日です。配当の答えが出るのは、2027年2月の通期決算です。

11月9月
売買

ストップ安の次の取引日

動ける幅は上下1,000円(5,269〜7,269円)

時期未定開示
開示

JTがロシアの影響を開示

決算から外すか、損失の額、配当の扱い

2月中旬決算
答え合わせ山場

通期の決算と、来年の配当予想(前年は2月12日)

  1. 今年の期末配当136円を保つか
  2. 2027年の配当予想が272円を下回るか
3月下旬総会
総会

株主総会で期末配当を決める(前年は3月25日)

2026年の年間の配当が決まる

ロシア側の動きも見ておく必要があります。プーチン大統領は、管理した子会社は条件しだいで返すこともありうると述べています(The Moscow Times)。

予想:来年の配当予想は272円より下がる

2027年2月の通期決算で、JTは2027年の配当予想を272円より下げると見ています。

理由は3つあります。1つめは計算です。ロシアの分が消えれば、方針の上限の80%でも約223円で、272円を保つには配当性向が約98%要ります。2つめは前例です。管理された5社で事業が戻ったのは1社だけで、それにも11か月かかりました。来年2月までに戻る見込みは小さいと見ています。3つめはJT自身です。2021年にも、年間の配当を減らしています。

上に外れるのは、ロシアの事業が戻る場合や、JTが方針を変えてでも配当を守る場合です。日本政府は、ロシアに管理の取り消しを求めています。

下に外れるのは、ロシアの子会社を外すときの損失を、配当の元になる利益に入れる場合です。今年の期末配当136円も下がります。JTはカナダの訴訟の和解金の影響を配当の計算から除いており、今回も除くと見ています。

で、儲かるのか

この記事の答え

JTの株価の下げは、ロシアの利益を失う重さとほぼ同じ大きさです。同じ目にあった5社で事業が戻ったのは1社だけで、来年の配当予想は272円より下がると見ています。下げたあとの株価で見ても、配当が約209〜223円になれば利回りは3.3〜3.6%で、下げる前とほとんど変わりません

外れるのは、ロシアの事業が戻るときと、JTが方針を変えて配当を守るときです。「安くなったから利回りが上がった」とは、まだ言えません。

いまの株価

11月6日の終値

=6,269円
今年の配当

ロシアの利益を含めて

=272円
ロシアの分が消えたら

方針の配当性向で

↓約209〜
223円

情報源

  • JT「当社グループのロシア事業について」(2026年11月6日)=ロシア現地法人のうち製造会社4社が一時管理の対象、影響を確認中
  • JT「2026年12月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年10月29日)=2026年の配当予想272円(中間136円・期末136円)、配当の元にする利益6,600億円・配当性向73.2%、当期利益の予想6,620億円・1株当たり372.88円、2025年の配当234円
  • JT「2026年度 第3四半期 決算説明会資料(CFOプレゼンテーション)」(2026年10月29日)=2026年の調整後営業利益の修正見込1兆790億円
  • JT「2022年度 第2四半期 決算レポート」(2022年7月29日)=ロシアのたばこ事業について、グループ経営からの分離を含めた選択肢の検討を継続
  • JT 有価証券報告書(第41期・2025年12月期)=株主還元の方針(配当性向75%を目安・±5%程度の範囲内で判断)
  • JT「配当予想の修正に関するお知らせ」(2021年10月29日)=2021年の年間の配当140円(2020年は154円)
  • TASS「Putin places Japan Tobacco’s Russian assets under temporary management」(2026年11月5日)=対象の4社と、経営を任された会社
  • The Moscow Times「Kremlin Seizes Japan Tobacco International’s Russian Assets」(2026年11月5日)=ロシアの市場の最大4割、プーチン大統領の発言、この秋のメトロ・オーシャン・ネスレなど
  • 株探(フィスコ・みんかぶ)(2026年11月6日)=ロシアはグループの売上収益の約10%・調整後営業利益の約25%、市場シェア約37%、ストップ安の比例配分
  • ニューズウィーク日本版(ロイター)「JT資産の一時管理、日本政府がロシアに抗議」(2026年11月6日)
  • Interfax=フォータムとユニパーの子会社の管理(2023年4月26日)、カールスバーグの売却(340億ルーブル・2024年12月)、ユニパーの子会社と連絡がとれない(2025年2月25日)
  • Bloomberg「Putin Halts Danone Russia Seizure, Clearing Way for Sale」(2024年3月13日)、FoodBev(Financial Times)=ダノンの売却177億ルーブル
  • Ariston Group「Ariston Thermo Rus LLC」(2025年3月26日)、The Moscow Times「Putin Cancels Nationalization of Italy’s Ariston’s Russian Unit」(2025年3月26日)=返還の大統領令176号、BSHは含まれない
  • Interfax「Carlsberg recognizes $1 bln impairment of assets in Russia」=ロシアの資産の減損約70億デンマーク・クローネ
  • Meduza・France 24(2026年9月28日)=メトロのロシア事業の管理
  • 日本取引所グループ「制限値幅」=基準値段5,000円以上7,000円未満は1,000円
  • 株価:Yahoo Financeの日々の終値(JT・フォータム・ユニパー・ダノン・カールスバーグ・アリストン・ネスレ・TOPIX連動ETF〔1308〕・NEXT FUNDS 食品〔1617〕・STOXX欧州600・日経平均)
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