帝人の株は上方修正の上げを暴落で失った? 市場と比べれば上げは残り、稼ぎ頭の部門の下期の見込みはまだ控えめ

📌 この記事は公開情報(帝人の決算短信・決算説明資料・質疑応答の要旨・中期経営計画、報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年11月6日時点のものです。
帝人(3401)の株価は、11月5日に16.7%上げ、翌6日に9.7%下げました。5日の昼に上期(4〜9月)の決算と今期(2027年3月期)の利益の予想の引き上げを出して上げ、6日は東京市場全体の暴落に巻き込まれました。
引き上げたのは「事業利益」です。本業の稼ぎから、事業の売却益や減損のような一度きりの損益を除いた利益で、帝人はこれを主な物差しにしています。予想は300億円から400億円になりました。
6日の前の晩、米国では半導体株の指数が12.2%下げました。ロイターは、クアルコムの決算が予想に届かなかったことと、中間選挙で上下両院の多数を取った民主党のもとでAIの設備への投資が遅れるとの懸念を挙げています。日経平均は6日の1日で6.0%下げました。
6日の下げで、5日の上げの7割が消えました。ただ、市場全体と比べると、2日で約11ポイント上にいます。稼いだのは、樹脂と、スマートフォンの電池・半導体に使う膜をつくる部門です。会社はこの部門の下期を上期の3割と控えめに見ていますが、8月の見込みも3か月で超えていました。10〜12月も会社の見込みを上回ると見ています。答えが出るのは2月上旬の決算です。
決算の日は10年でいちばんの上げ、翌日の暴落で上げの7割が消えた
帝人が上期と通期の決算を出した日の株価を、この10年の21回で並べると、今回の上げがいちばん大きく、2番目の日の7倍でした。翌日は、市場全体の暴落よりも大きく下げています。
1年前の2025年11月5日は、上期の決算で今期の予想を下げ、株価はこの1年でいちばん安い値段まで下げました。そこから戻り、2026年5月には中期経営計画(2026〜2028年度)を出した翌日に9.0%上げています。
5日の上げは、帝人だけのものでした。6日は市場全体が大きく下げ、帝人はそれよりも大きく下げています。
| 11月5日 | 11月6日 | |
|---|---|---|
| 帝人 | +16.7% | −9.7% |
| TOPIX連動ETF | +0.5% | −6.3% |
| 素材・化学の業種ETF | +0.5% | −5.7% |
| 日経平均 | −1.8% | −6.0% |
2日を続けてみると、帝人は+5.3%、市場全体(TOPIX連動ETF)は−5.9%です。帝人の上げは、市場と比べれば約11ポイント残っています。
時価総額(株価×株の数)は、5日に約517億円増え、6日に約352億円減りました。
第1・第3四半期の決算の日を入れても、この10年で帝人の株価が決算の日にこれより大きく上げた日はありません。
では、決算で大きく上げた株は、そのあとも上げ続けるのでしょうか。東証の大きな会社が2024年8月〜2026年10月に出した決算で、決算をはさむ2日に業種ETFより10%以上上げた例を数えました(数え方は情報源の欄に書きました)。
上げたあとの終値で買った人が、1か月後(20営業日後)に業種ETFを上回っていたのは半分弱です。業種で分けると、機械や鉄鋼、自動車のように半分を超える業種もありますが、素材・化学は5割を下回りました。
同じ数え方(発表の前の日の終値から、発表の次の日の終値まで)で帝人をみると、素材・化学の業種ETFより約10.6ポイント上でした。前例の598回と同じ、10ポイント以上の側に入ります。
次の決算でも、素材・化学で大きく上げた会社が続けて上げた例は半分を下回っています。上げた日の勢いに乗るだけでは、前例では得をしていません。差がつくのは、その会社の次の決算の中身です(増益でも株価が下がる決算の数え方は好決算なのに株価が下がる理由の記事にあります)。
稼いだのは、樹脂と電池・半導体の膜の部門
上期の事業利益の半分を超える分を稼いだのは、「エレクトロニクス&エナジー」という部門です。会社全体の増益のうち、4割をこの部門が生みました。
帝人は2026年4月から、事業の分け方を「何をつくるか」から「どの客に売るか」に変えました。エレクトロニクス&エナジーには、樹脂の事業と、電池・半導体向けの部材の事業が入っています。
| 事業 | 主な製品 | 使われるところ |
|---|---|---|
| 樹脂 | ポリカーボネート樹脂「パンライト」 | 車や医療機器、電子機器の部品 |
| 電池の部材 | セパレータ「リエルソート」 | スマートフォンやタブレットの電池 |
| 半導体向けの膜 | 微多孔膜「ミライム」 | フォトレジストをこすフィルターの材料 |
セパレータは、電池の中でプラスとマイナスの極を分ける薄い膜です。フォトレジストは、半導体の回路を焼き付けるときに使う、光で性質が変わる液です。細かいごみが混じると回路が欠けるので、工場では使う直前にフィルターでこします。ミライムは、そのフィルターの材料になる、細かい穴のあいた膜です(半導体の材料の「一段下」の話は硫化カルボニルの記事やガラスクロスの記事にもあります)。
帝人は2018年2月、ミライムの量産設備を松山事業所に建てると発表し、理由に、半導体の「フォトレジスト用途をはじめとする液体フィルター向けの需要」の広がりを挙げていました。今回の説明資料でも、この部門の販売が堅調だった中身に、樹脂・電池部材と並べて「メンブレン(主にフォトレジストフィルター用途)」と書いています。
上期の増益は、販売量、製品と原料の値段の差、円安の3つから来ています。いちばん大きかったのは値段の差で、値上げが原料の値上がりより先に効きました。4〜6月には、中東の情勢を受けて客が在庫を積み増し、出荷が前倒しになったと会社は説明しています。
樹脂や電池の部材、半導体の材料では、ほかの日本の化学会社も同じ市場にいます。
| 会社 | 上場 | この記事での位置 |
|---|---|---|
| 帝人 | 東証プライム(3401) | 樹脂・電池部材・膜の部門が、上期の事業利益の半分を超えた |
| 旭化成 | 東証プライム(3407) | 電池のセパレータの大手。10月に、帝人の繊維の子会社と旭化成の繊維などを売る子会社が統合した |
| 東レ | 東証プライム(3402) | 電池のセパレータをつくる。炭素繊維でも帝人と競う |
| 三菱ケミカルグループ | 東証プライム(4188) | ポリカーボネート樹脂をつくる。11月5日に自社の上期決算を出した |
| 東京応化工業 | 東証プライム(4186) | フォトレジストの大手。帝人の膜は、フォトレジストをこすフィルターの材料になる |
11月4日までの1年でみると、帝人の上げは業種ETFと同じで、同業の4社のどれよりも小さいものでした。5日の1日で4社を抜き、6日はそろって下げています。
会社は、この部門の下期を上期の3割と見ている
会社は、この部門の下期(10月〜3月)の事業利益を、上期の3割と見ています。去年の下期も下回る見込みです。ただ、8月に出した見込みは、7〜9月の3か月で超えていました。
会社全体でも同じです。上期の事業利益は、それだけで期初の通期の予想を超えていました。それでも通期の予想は400億円にとどめたので、下期は上期を大きく下回る計算です。
下期が減る理由を、会社は数字で示しています。去年の下期と比べて、販売量はわずかに増えるものの、製品と原料の値段の差が縮み、電池のセパレータの特許の使用料の収入もなくなります。値段の差が縮むのは、上期に遅れていた原料の値上がりが、10〜12月以降に効いてくるからだと説明しています(製品と原料の値段の差で決算が動く例は軽油の利ざやの記事にあります)。
8月の見込みも、同じ考え方でした。会社は、4〜6月に客が積み増した在庫は元に戻り、7〜9月からは原料の値上がりが効くとして、通期の販売量と値段の差がどちらも去年より減ると見ていました。実際の上期は、販売量も値段の差も去年より増えています。
8月の決算説明会で、販売量が減るとした理由を聞かれた会社は、特別な理由ではなく「事業環境の不確実性を考慮したもの」と答えています(質疑応答の要旨)。
その原料のもとになる原油は、10月末から下がっています。北海のブレント原油は、10月29日から11月5日までに16%下げました。会社は下期の原油の前提を出していませんが、上期に遅れて効く分を除けば、下期の新しい原料の値上がりは、会社の見込みより小さくなる方向だと見ています。
一方、6日の暴落の前の晩に米国で広がった、AIの設備への投資が遅れるとの懸念(ロイター)は、半導体向けの膜には逆風です。データセンターへの投資が減れば、最先端の半導体の生産が減り、こすフォトレジストの量も減るからです。会社は膜だけの売上を出していないので、どこまで効くかは数字では分かりません。
5月に出した中期経営計画では、この部門の2028年度の事業利益の目標を190億円にしていました。今期の予想は、2年早くそれを上回りました。目標を見直すかどうかは、5月の本決算で分かります。
次は2月上旬の第3四半期決算
次に株価が動きそうなのは、2月上旬の第3四半期決算です。10〜12月のこの部門の利益で、下期の見込みが控えめだったかが分かります。
中間配当の支払いが始まる
1株25円。年間は50円の予定のまま
第3四半期の決算(前年は2月4日)
稼ぎ頭の部門の10〜12月が、下期の見込みのペースを上回るか
今期の決算と、来期の見通し(前年は5月11日)
中期計画の2年目。部門の目標との差をどう説明するか
去年の第3四半期決算は、2月4日の11時30分に出ました。去年の会社全体の下期は、10〜12月に利益の大半を稼ぎ、1〜3月は少ない形でした。
予想:10〜12月は、会社の下期の見込みを上回る
2月上旬の第3四半期決算で、エレクトロニクス&エナジーの10〜12月の事業利益は、会社が下期に見込むペースを上回ると見ています。
理由は3つあります。1つは、8月の見込みが7〜9月の3か月で抜かれたことです。会社は今回も、原料の値上がりがこれから効くとして、値段の差が縮む見込みを置いています。2つめは、その原料のもとの原油が10月末から下がっていることです。3つめは、去年の下期です。去年の下期は、今年の下期の計画を大きく上回っていました。
10〜12月だけで下期の計画に届けば、通期の予想をもう一度上げる材料になります。上期は、4〜6月も7〜9月も、それぞれ1つの四半期で下期の計画を超える利益を出していました。
下回るのは、客が積み増した在庫を減らして販売量が落ちる場合や、AIの設備への投資が減り、半導体向けの注文が急に落ちる場合です。
で、儲かるのか
帝人の株価の上げは、上期の稼ぎが期初の通期予想を超えたことへの反応で、翌日の暴落で多くが消えましたが、市場と比べれば上げは残っています。稼いだのは樹脂と電池・半導体の膜の部門で、会社はこの部門の下期を上期の3割と見ています。8月の見込みは3か月で超えていたので、2月上旬の決算で10〜12月がこの見込みを上回れば、もう一度の上方修正の材料になります
外れるのは、客先の在庫の取り崩しや、AIの投資の減速で注文が落ちるときです。決算で大きく上げた株を、上げたあとに買った人が1か月後に業種を上回ったのは、前例では半分弱でした。
11月6日の終値
=1,690.5円稼ぎ頭の部門は7〜9月で
↑3か月で超えた
稼ぎ頭の部門は上期の
↓3割情報源
- 帝人「2026年度第2四半期決算 および 2026年度業績見通し」(2026年11月5日)=部門別の上期の事業利益、増減の内訳(販売量・製品と原料の値段の差・為替・その他)、通期の見通しと内訳、上期の原油(ドバイ)の平均95ドル、季節による動き(電池部材の出荷は上期に集中、樹脂は毎年7〜9月と10〜12月に定期修理)、販売が堅調だった中身(樹脂、電池部材、メンブレン〔主にフォトレジストフィルター用途〕)
- 帝人「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年11月5日)=通期の予想(売上収益9,200億円・事業利益400億円・営業利益750億円・当期利益500億円・1株当たり259.04円)、発行済株式数197,953,707株・自己株式4,883,692株、配当
- 帝人「特別退職金の計上に関するお知らせ」(2026年11月5日)=7〜9月に70億円を計上、通期の予想に織り込み済み
- 帝人「2026年度第1四半期決算 および 2026年度業績見通し」(2026年8月4日)=4〜6月のこの部門の事業利益85億円、8月時点の通期の見通し150億円とその内訳、客先の在庫形成
- 帝人「2026年度1Q決算説明会」質疑応答要旨(2026年8月4日)=中東の情勢による前倒しの出荷はこの部門が最も大きかった、通期の数量減は事業環境の不確実性を考慮したもの
- 帝人「帝人グループ中期経営計画2026-2028」(2026年5月11日)=この部門の2025年度の実績(売上収益1,499億円・事業利益189億円)と2028年度の目標(1,700億円・190億円)、電池部材とメンブレンの環境認識
- 帝人「2025年度第3四半期決算 および 2025年度業績見通し」(2026年2月4日)=4〜12月の事業利益238億円
- 帝人「高機能メンブレン「MIRAIM®」の量産設備を新設」(2018年2月6日)=松山事業所・約30億円・フォトレジスト用途をはじめとする液体フィルター向けの需要
- 11月6日の暴落の理由:テレビ朝日系(ANN)「日経平均 一時4000円超の急落 AI投資に懸念広がる」、TBS(Infoseekニュース)「日経平均一時4300円以上急落、節目の6万円割る」(いずれも2026年11月6日)、ロイター(Chibuike Oguh)「Deep chip selloff drags global stocks lower on AI spending concerns」(2026年11月5日・米国時間)=フィラデルフィア半導体株指数−12.2%、理由としてクアルコムの決算と、民主党が議会を握るとAIの設備への投資が遅れるとの懸念
- 帝人の決算説明資料の公表日(2016年11月〜2026年11月の上期と通期の21回。2024年11月は15時30分の発表のため翌日の動き)
- 前例の数え方=株探の「3ヵ月決算【実績】」の発表日(TOPIX Core30・Large70・Mid400・Small 1の976社、2024年8月〜2026年10月の7,790回)。決算の2日=発表日の前の取引日の終値から発表日の次の取引日の終値まで。業種ETF=NEXT FUNDS TOPIX-17(1617〜1633)。20営業日後は決算の2日の最後の終値から数えた
- 株価・原油:Yahoo Financeの日々の終値(帝人・旭化成・東レ・三菱ケミカルグループ・東京応化工業・TOPIX連動ETF〔1308〕・NEXT FUNDS 素材・化学〔1620〕・日経平均・ブレント原油の先物)
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