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ロケットを上げるルールはできて、降ろすルールがまだない——日本が6月の法改正で残した宿題

2026.08.26 ・ 執筆:フクリ
ロケットを上げるルールはできて、降ろすルールがまだない——日本が6月の法改正で残した宿題

📌 本記事は公開情報(米政府・内閣府の公表資料、報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月26日時点のものです。

ロケットは、打ち上げれば終わりではありません。 使い終わった段が、どこかに降りてきます。

2026年8月20日、米国が国家宇宙輸送政策を13年ぶりに書き換えました。 掲げた目標は2030年に年1,000回の打ち上げと再突入です。

変わった点はいくつもありますが、いちばん大きいのは「降りてくる側」の扱いです。 再突入を許認可の問題から、国土のインフラをどう用意するかという課題へ格上げしました。連邦の土地から再突入の場所を選び、安全基準を評価し、開発計画を出す——これが各省庁に期限つきの宿題として課されています。

日本も、2026年6月11日に宇宙活動法を改正しています。

ただし、再突入の許可制度は入っていません。 内閣府の資料に、こう書かれています。

再突入に関する各論点を含め、適切な再使用型ロケット等に係る許可制度の導入ができるように引き続き検討を行う

すでに国内で、再使用型ロケットは飛んでいます。

なぜ「再突入」が制度の問題になるのか

再突入とは、宇宙空間から大気圏に戻ってくることです。

昔のロケットは、使い終わった段を海に捨てていました。 戻ってくる前提がないので、制度も「打ち上げるときの安全」だけを見ていれば足りました。

再使用型ロケットは違います。 第一段を着陸させて回収し、また使う。そのためには、降りてくる場所が要ります。

降りる場所は、誰かの土地です。 上空は誰かが飛行機を飛ばしている空域です。「許可を出すかどうか」で済んでいた話が、「場所と空域をどう割り当てるか」という話に変わります。

米国が13年ぶりに書き換えたもの

旧版は2013年11月のものでした。

ファルコン9は、スペースXが運用している中型ロケットです。第一段を着陸させて回収し、繰り返し使う方式を実用化し、いまでは世界の打ち上げの中心になっています。

2013年当時、そのファルコン9の打ち上げ実績は6回でした。 いまは約700回。 桁が2つ違う世界に、13年前の文書が残っていました。

変わった点中身
NASAへの指示2013年版の「NASAが自前の大型ロケットと有人機を作れ」という指示が消えた。商用の機体に置き換わった
周波数と空域初めて登場。商務省とFCCが打ち上げ・再突入の周波数を担当し、運輸省が打ち上げを航空管制の近代化に組み込む
即応性48時間以内の打ち上げ、臨時の射場、射場そのものの防護
再突入許認可の問題から、国土のインフラ課題へ格上げ

再突入について、各省庁に課された宿題は3つです。

連邦の土地から追加の再突入場所を選ぶこと。安全基準を評価すること。開発計画を出すこと。 報告期限は60日から240日と定められています。

⚠️ これは政策文書であって、予算ではありません。 文書自体にも「歳出の手当て次第」と書かれています。期限つきの宿題が出た、というところまでが確定した事実です。

日本の6月改正で、入ったものと残ったもの

日本の改正は、2026年3月27日に閣議決定され、6月11日に成立しました。

改正の柱は、規制の軸を「人工衛星」から「ロケット」へ移したことです。これまでの宇宙活動法は人工衛星を軌道に投入することを前提にしていたため、衛星を載せないロケットの試験飛行が対象から外れていました。

ここは区別が要ります。

第一段を分離後に着陸させて回収する形——ファルコン9がやっているようなもの——は、安全基準を整備して実用化に向けた制度整備を進めると整理されました。

一方で、軌道投入段などを軌道から意図的に大気圏へ再突入させて回収する形は、許可制度の導入を引き続き検討するとされています。

「日本は何もしていない」ではありません。 打ち上げ側の制度は大きく前進しました。残ったのは、降りたあとを受け止める部分です。

そして、日本ではすでに再使用型ロケットが飛んでいます。 内閣府の資料自体が、2025年6月の本田技術研究所による再使用型ロケットの飛行実証を背景として挙げています。

飛ぶほうが先に進み、制度が後を追う。 これが日本の現在地です。

なお、カナダも2026年4月にCanadian Space Launch Actを提出しています。 G7で唯一、自前の打ち上げ・再突入の枠組みを持っていなかった国が動きました。

この制度で、何のお金が動くのか

制度の話に見えますが、動いているのは打ち上げの値段です。

再使用が実用化される前、宇宙へものを運ぶ費用は1キログラムあたり1万ドル前後でした。 いまは約2,500ドルとされています。4分の1です。

ロケット1機あたりでも差が出ています。 ファルコン9は、使い捨てで打ち上げた場合と、第一段を回収する場合で価格が分けられていた時期があり、回収する側が安く設定されていました。 日本のH3ロケットは、打ち上げ費用の目標が約50億円です。

2025年の世界の打ち上げは324回でした。 2023年は221回、2024年は259回ですから、2年で1.5倍になっています。そのうちファルコン9だけで165回——世界の残り全部より多い回数です。

米国が掲げた年1,000回は、2025年の世界全体の約3倍にあたります。それを自国だけで目指しています。

では、日本の制度で残った部分は、この経済にどう効くのか。

⚠️ ここは区別が要ります。 ファルコン9のように第一段を着陸させて回収する形は、日本の6月改正でも安全基準を整備して進める方向になりました。残ったのは、軌道投入段などを軌道から意図的に戻して回収する形です。

これは「次の段階の再使用」にあたります。 第一段だけでなく上の段も回収できれば、1回の打ち上げで捨てる部分がさらに減ります。

制度が無いということは、その実証を国内でやる道が開いていないということです。 やるなら制度のある国でやることになります。

⚠️ どれだけ安くなるかは、まだ分かりません。 完全な再使用が実現したときの費用は各社が目標を掲げていますが、実績として達成された数字ではありません。 この記事では、実績のある「4分の1」までを事実として扱います。

関連企業と日本の接点

制度の話は、すぐに業績に結びつくものではありません。 ここでは「この議論のどこに位置しているか」だけを整理します。

日本の関連企業

企業コードこの議論での位置参考株価(終値)
本田技研工業7267内閣府の資料が背景として挙げた再使用型ロケットの飛行実証(2025年6月)を実施1,681円〈8/26〉
三菱重工業7011H3ロケットの打ち上げ。再突入型との関わりは確認できていません3,951円〈8/26〉
ispace9348月面輸送。層が違います425円〈8/26〉

米国の打ち上げ企業(3社とも上場しています)

企業コードこの議論での位置参考株価(終値)
スペースXSPCX(NASDAQ)ファルコン9を運用。第一段の回収を実用化した当事者。2026年6月12日に上場(公開価格135ドル)137.95ドル〈8/25〉
ロケットラボRKLB(NASDAQ)小型打ち上げの主力。再使用型の開発を進める66.91ドル〈8/25〉
ファイアフライ・エアロスペースFLY(NASDAQ)小型打ち上げ22.26ドル〈8/25〉

⚠️ この一覧は、話に関係する企業を整理したものであって、投資対象として推奨するものではありません。 三菱重工とispaceは、今回の政策や再突入制度との直接の関わりが確認できていない「関連が想定される」段階です。各社は事業構成が異なり、この論点以外の要因でも業績と株価は動きます。米国上場の3社を日本から売買するには、外国株を扱う証券口座が要ります。 株価は変動しますので、最新の値はYahoo!ファイナンスなどでご確認ください。

株価はどう動いてきたか。1年前を100として並べます。振れ幅が大きく違うので、2つに分けています。

ホンダは指数102、三菱重工は105です。 再使用型ロケットを飛ばした会社の株価が、それで動いた形跡はありません。 ホンダは自動車が本業なので当然ではありますが、制度の議論が株価に出るような段階ではないということでもあります。 そして、この話の当事者であるスペースXも上場しています。

スペースXは2026年6月12日にナスダックへ上場しました。公開価格は135ドルです。いまは137.95ドルで、公開価格とほぼ同じ——初日に買った人は、上場から2か月で振り出しに戻っています。

世界の打ち上げの半分を1社でこなしていても、株価はそう動きます。 打ち上げ回数と株価は別のものです。

フクリの見方

この記事の見立ては、「再突入の制度は、宇宙の話ではなく土地と空域の話として決着する」というものです。

理由は1つです。 米国が今回、再突入を許認可の担当省庁から外し、土地・周波数・空域を持つ省庁の宿題にしたからです。

打ち上げの許可は、宇宙政策の担当が出せます。 ロケットの設計と計画を審査すればよく、判断の材料は宇宙の中で完結します。

再突入は完結しません。 降りる場所は連邦の土地で、通る空域は航空管制の管轄です。今回の政策で商務省・FCC・運輸省が名指しで登場したのは、そういうことです。

日本の6月改正で残ったのが、まさにこの部分です。 内閣府の資料が挙げている論点にも、航空法制との整理が明示的に入っています。宇宙政策の側だけでは決められないから、後回しになったと読めます。

だから、日本の制度整備がいつ動くかを見るときに、宇宙政策の会議だけを見ていても分かりません。 航空・土地の側で議論が始まったかどうかが、実際の合図になります。

そして、この遅れが効いてくるのは値段です。 再使用は1キログラムあたりの費用を4分の1にしました。次の段階の再使用を国内で試せないなら、その次の値下がりに日本の事業者は乗り遅れます。 ⚠️ただしどれだけ下がるかは実績が無いので、いくら損をするとは言えません。

この見立てが外れる条件

投資として見るときの注意

制度が産業の形を決める例は、これまでも扱ってきました。 電力が政治のコストになった件は10年かけて誘致した知事が、自分で止めた、軌道上に設備を置く構想は米国人の71%が「近所は嫌だ」と答えた設備、使い終わった衛星を片づける側は軌道上サービスデオービットで書きました。

制度の文書は、誰でも読めます。 内閣府の資料も米国の政策文書も公開されています。「日本は遅れている」と言う前に、どこまで入って何が残ったかを見る。 それだけで、話の解像度が変わります。

まとめ(3行)

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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