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使い終わった衛星を「回収してもらう」時代が来る——米国防総省が3社に発注した840万ドルの意味

2026.08.17 ・ 執筆:フクリ
使い終わった衛星を「回収してもらう」時代が来る——米国防総省が3社に発注した840万ドルの意味

📌 本記事は公開情報(米国防総省関連機関の発表、各社リリース、業界紙の報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月17日時点のものです。

宇宙ビジネスの話は、たいてい打ち上げの話です。ロケットが何回飛んだか、1キロあたりいくらで運べるか。

2026年8月、米国防総省が反対側に発注しました。使い終わった衛星を、軌道から降ろす仕事です。

金額は3社合わせて840万ドル。宇宙の契約としては小さな部類です。それでもこの記事で扱うのは、ある経営者の一言が、衛星の作り方そのものを変える含意を持っているからです。

何が発注されたのか

2026年8月中旬、米国防総省の2つの組織が3社を選びました。

⚠️ SDA(宇宙開発庁)は軍の衛星網を作る組織、DIU(国防イノベーション部門)は民間の新しい技術を軍に取り込む組織です。

会社方式上場
ファイアフライ・エアロスペース軌道上サービス機Elytra(エリトラ)を使う上場(FLY・米ナスダック)
D-OrbitTransAstraと組み、柔らかい腕で包み込んで捕まえる未上場
カタリスト・スペースロボットアームを持つNEXUSを使う未上場

方式の違いは、「どんな衛星まで捕まえられるか」の違いです。

方式相手が回転していても捕れるか未解決の点
専用の把持部をつかむ(相手が協力的な場合)相手に専用の取っ手が付いている前提。後付けできない既存の衛星の大半には取っ手がない
柔らかい腕で包む(D-Orbit×TransAstra)形を選ばず、取っ手がなくても包めるとされます軌道上での実証がまだ
ロボットアームでつかむ(カタリスト)相手の形と回転を読んでつかむ必要があります回転している物体をつかむ制御が最難関

⚠️ 共通の壁は、相手が回っていることです。 故障した衛星は姿勢制御を失って回転していることが多く、動く物体に、動く物体を近づけて捕まえるという点はどの方式もまだ実証されていません。表は各社の公開情報からFukuriが整理したもので、性能を比較評価したものではありません。

項目内容
契約額3社合計で840万ドル
段階予備設計とリスク低減のみ
対象低軌道(地球に近い軌道)
次の段階予備設計審査を経て、軌道上の実証に進むかを判断

⚠️ 840万ドルは設計フェーズだけの金額です。 実証と量産の規模は決まっていません。「840万ドルの市場」と読まないでください。

⚠️ この金額は報道ベースです。 3社合計の契約額として複数の宇宙専門メディアが伝えていますが、各社への配分や、上限額なのか確定額なのかを示したDIU・SDAの一次発表は確認できていません。 数字の性格が後から変わる可能性があります。

3社とも「まだ選ばれた」段階です。技術の成熟度・進め方・工程・費用対効果を評価したうえで、どれが実証に進むかが決まります。全社が進むとは限りません。

なぜ軍が「片づけ」を買うのか

衛星は、寿命が来てもすぐには消えません。

低軌道の衛星は、燃料を使って自分から降りるか、空気抵抗でゆっくり落ちるのを待つかです。「永久に残る」わけではありません。 低軌道にはごくわずかに空気があり、その抵抗で高度が下がって最後は大気圏で燃え尽きます。問題は、そこまでにかかる時間です。

高度自然に落ちるまでの目安
400km前後(ISSの高さ)数か月〜数年
600km前後十数年〜数十年
800km以上100年以上

目安であり、衛星の重さ・形・太陽活動で大きく変わります。通信衛星の多くが使う500〜1,200kmは、放っておくと数十年から百年単位で残る帯です。しかも燃料が尽きた衛星は向きも軌道も変えられません。 よけられない物体が、混み合った高度に何十年も居続ける——これが問題の中身です。

関連する動きは、これまでも扱ってきました。 軌道上で衛星を整備する事業は軌道上サービスの記事で、宇宙で原子炉を使う話はNASAの記事で触れています。

本質は、衛星の設計思想が変わること

ここがこの記事で最も伝えたい点です。

D-Orbit USAのマイク・キャシディ最高経営責任者が、次のように述べたと報じられています。

このプログラムがうまくいけば、商業の衛星事業者はもっと安心して「そうだね、それをやろう」と言えるようになる

何を「やろう」と言えるようになるのか。 記事の文脈から読み取れるのは、降ろしてもらえる前提があれば、衛星の信頼性の設計を変えられるということです。

これは発言から読み取った見立てで、同社や当局が設計基準を示したものではありません。 実際にどこまで信頼性を下げられるかは、回収を前提にした設計が認められるか、捕獲がどれだけ確実にできるか、保険と規制がどう扱うか、そして回収の価格がいくらになるかで決まります。そのどれもまだ決まっていません。

言い換えると、この840万ドルは「ゴミ拾いの代金」ではありません。 衛星を使い捨ての消耗品に近づけるための入口の投資です。そこが、この産業を読むときの論点だと考えています。

関連企業と日本の接点

以下は「この分野で事業を行っている企業」の整理です。今回の選定に入っているのは3社のうち1社だけで、他は近い分野の比較対象です。

① 今回選ばれた3社

企業(ティッカー)この話での位置
ファイアフライ・エアロスペース(FLY・米ナスダック)今回の選定3社で唯一の上場企業。軌道上サービス機Elytraを提案
D-Orbitイタリア発の宇宙物流企業。米国法人は2024年設立。未上場・個人が直接買う手段はありません
カタリスト・スペース・テクノロジーズロボットアームのNEXUSを提案。未上場

② 近い分野の上場企業

企業(証券コード)この話での位置
アストロスケールホールディングス(186A・東証グロース)日本の軌道上サービス専業。デブリ除去と衛星の寿命延長を手がけます
ロケットラボ(RKLB・米ナスダック)打ち上げと衛星製造。軌道上サービスにも展開(→ロケットラボの記事

⚠️ アストロスケール以外は日本の取引所に上場していません。 また、この一覧は投資対象として推奨するものではありません。

③ 3社の株価は、この1年どう動いたか

選定に入ったファイアフライが59で、入っていない2社が上げています。 アストロスケール199、ロケットラボ185です。

この差を今回の発注で説明することはできません。 ファイアフライは2025年8月の上場で、上場からの1年で公開価格を大きく下回った経緯があります。3社は事業構成も上場時期も違います。この契約が株価にどう影響したかを切り分けることはできませんが、840万ドルは各社の事業全体に対して限定的な規模です。

むしろ読み取れるのは逆のことです。 設計フェーズに選ばれたことは、それ自体では株価に表れていません——産業として見るなら、実証と量産まで進むかを追う必要があります。

フクリの見方:この発注は「片づけ」ではなく、衛星を安く作るための投資です

見立て

この840万ドルの意味は、ゴミを減らすことではありません。衛星の作り方を変える入口が開いたことにあります。

理由は、費用のかかり方にあります。

故障率をゼロに近づける最後の数%に、いちばん費用と時間がかかる
降ろす手段がなければ、壊れた衛星は制御できないまま何十年もその高度に居続ける
だから、これまでは壊れないことに投資するしかなかった

降ろしてもらえるなら、その最後の数%を回収サービスで代替する余地が生まれます。 費用をかける場所が、機体から運用へ動く——そこがこの契約の意味だと考えています。

反対の見方もあります。 金額は840万ドルにすぎず、設計フェーズで終わる可能性もある。降ろす費用が高ければ、丈夫に作るほうが安く付く——という読み方です。

それでもこの見立てを採るのは、政府機関が発注したという事実が「制度としての需要」の入口になるからです。 商業の事業者が最初の1社になるのは難しくても、政府が先に買えば、価格と手順の前例になり得ます。

前例ができたとして、それが商業の需要に育つかは別の話です。 捕獲の成功率、サービス価格、保険と規制の扱いが揃ってはじめて成立します。

この見立てが外れる条件

何を見ていればいいのか

見るものどこで見られるかどう読むか
予備設計審査の結果DIUの発表3社のうちどれが実証に進むか
実証契約の金額各社のリリース設計の840万ドルから何桁上がるか
商業の1社目衛星事業者の発表軍以外が買い始めるか

まとめ(3行)

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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