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10年かけて誘致した知事が、自分で止めた——テキサスで474ギガワットの接続申請が凍結された

2026.08.22 ・ 執筆:フクリ
10年かけて誘致した知事が、自分で止めた——テキサスで474ギガワットの接続申請が凍結された

📌 本記事は公開情報(州政府の発表、規制当局の資料、業界紙の報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月22日時点のものです。

テキサス州のグレッグ・アボット知事は、10年以上かけてデータセンターを誘致してきた人です。

2015年にフェイスブックのフォートワース建設で起工式に立ち、2021年には「テキサスは暗号資産にオープンだ」と宣言し、2025年11月にはグーグルの400億ドル投資を「テキサスはAI開発の震源地だ」と発表しました。

その本人が、2026年8月3日、すべて止めました。

テキサスで何が止まったのか

2026年8月3日、アボット知事が州の2つの機関に監査を指示しました。

項目内容
日付2026年8月3日
指示の相手PUCT(テキサス公益事業委員会)とERCOT(テキサス電力信頼度協議会)
内容接続手続きを進めているすべてのデータセンターの検証と監査
効果監査が終わるまで、新しいデータセンターは前に進めない
対象の規模1,800件超・474ギガワット。うちおよそ9割がデータセンター
期限設定されていない

⚠️ 474ギガワットは「申し込みの合計」であって、確定した需要ではありません。 同じ土地に複数の事業者が申し込む例も、途中で取り下げる例もあります。

それでも、審査する側が全部を見きれないほどの量が来ているという事実は変わりません。

ERCOTとは、テキサス州の送電網を運営している組織です。州の電力需要のおよそ9割を受け持ち、米国のほかの地域と系統がほとんどつながっていません。エルパソ、州の北端、東の一部だけは対象外で、そこは別の系統に属します。

電力の需給を州内だけで完結させなければならない——だから接続の順番待ちが、そのまま州の生死に直結します。

監査で提出を求められる項目は5つです。

知事の言葉は「テキサス人の安全と生活の質を守ることが最優先です」でした。 誘致の言葉ではありません。

止められた企業は、次々に「守ります」と表明した

その1週間後から、状況が動きます。

アボット知事は8月7日以降、少なくとも15社が州の基準に従うと表明したと順次発表しました。グーグル、メタ、オラクル、OpenAI、デジタル・リアルティ、コア・サイエンティフィック、ヴァンテージ・データセンターズなどが並びます。

基準の中身は5つです。

求められていること意味
電力インフラの費用を自分で払う建設や増強の費用を家庭の電気代に乗せない
水を再利用する使い捨てにしない
州民の電気代を下げることに貢献する使うだけでなく供給側にも回る
住宅地に迷惑をかけない騒音・照明・交通
時代遅れの奨励金に頼らない税優遇そのものを当てにするなという意味です

⚠️ ERCOTの監査に通らなかった企業は、承認を拒否される対象になると明記されています。表明は任意ですが、表明しないという選択肢は事実上ありません。

そもそも、誰に電気を申し込むのか

「接続を止める」と言われても、誰が誰に何を申し込んでいるのかが分からないと、話がつかめません。

米国の電力は、3つの層に分かれています。

系統運用者(ISO/RTO)とは、その地域の電力の需給を秒単位で調整し、卸売市場を運営する非営利の組織です。発電所も電線も持っていません。 交通整理をする役です。

3つの州で、それぞれこうなっています。

② 申し込む相手(送配電会社)③ 可否を決める系統運用者
テキサスオンコー、AEPテキサス、センターポイントなどERCOT(州内でほぼ完結)
ニューヨークコンエジソン(NYC・ウェストチェスター)、ナショナル・グリッド(州北部の大半)、NYSEG、RG&E、セントラル・ハドソン、オレンジ&ロックランドNYISO(州内11ゾーン)
ペンシルベニアPPL、PECO、デュケイン・ライト、ファーストエナジー系4社(メットエド、ペネレック、ペンパワー、ウェストペン・パワー)PJM13州にまたがる)

⚠️ どの州も、送配電の会社は地域ごとに1社だけです。その土地に建てるなら、電線を持っている会社は選べません。

一方で、電気を誰から買うかはテキサスとペンシルベニアでは選べます(小売が自由化されているため)。運ぶ会社は選べないが、売る会社は選べる、という構造です。

規模感も州で違います。 ペンシルベニアでは、PECO管内で検討していた最小のデータセンターが約150メガワットファーストエナジー管内では平均で約100メガワットと説明されています。テキサスで「大口」として別扱いになる線引きは75メガワットなので、いま来ている案件はどれもその上です。

なぜ、3州で止め方が違うのか

ここに、この3州の差がはっきり出ています。

シャピロ知事が「電力の接続」ではなく「環境の許可」を選んだのは、そこしか握れなかったからです。

そしてこの違いは、効き方の差にもなります。 ペンシルベニアが厳しくしても、同じPJM圏の隣の州に建てれば、送電網は共通のままです。

州の規制は州境で止まりますが、電気代の上昇は圏内で共有されます。

そして、この3層のどこにも申し込まない道もあります。 敷地の中に自前の発電設備を置き、送電網につながない形です。その場合、系統運用者の列に並ぶ必要がありません。 同じ日に公開したPoolsideの記事で扱う西テキサスの計画は、まさにこの設計をとっています。

36日のあいだに、3つの州が動いた

テキサスは、2番目でした。そして3番目がすぐに続きました。

ニューヨーク(2026年7月14日)

キャシー・ホークル知事が、新規の大規模データセンターを最大1年間停止する行政命令に署名しました。全米で初の州全体のモラトリアムです。

項目内容
対象ハイパースケールの新設データセンター
期間最大1年
既存施設対象外(新規のみ)
理由電気代の上昇、エネルギーと水の大量消費、送電網への負担

ハイパースケールとは、クラウド事業者が運営する超大型のデータセンターを指す業界用語です。明確な定義はありませんが、数十メガワット以上の電力を使う規模を指すのが一般的です。

ホークル知事の言葉はこうです。 「ニューヨークは、データセンター開発について全米で最も強い基準を作る道を先導します。企業がニューヨークのおかげで成功するなら、ニューヨーカーも成功しなければなりません」。

ペンシルベニア(2026年8月18日)

ジョシュ・シャピロ知事が行政命令に署名し、環境保護局の許可審査に条件を付けました。

項目内容
条件GRID要件を法的拘束力のある形で約束し、地元の承認を得た案件しか審査に進めません
要件の中身電気代の負担、環境保護、雇用と地域経済、透明性、住民との対話
電力施設に伴う電気代を全額自己負担し、相当部分を再生可能エネルギーから調達すること
手続きAIデータセンターを迅速審査の対象から外す。案件に秘密保持契約を使うことを禁止
背景過去1年で100件超の計画が確認され、うち58件が同局と協議に入っていました

この要件は、もともと税優遇と引き換えの任意の基準として提案されたものでした。州議会上院の支持を得られず、知事が行政命令で義務にしたという経緯があります。

秘密保持契約の禁止は、地味に見えて重い変更です。どこに誰が何を建てるかを、地元が着工前に知れるようになるという意味だからです。

テキサスは共和党、ニューヨークとペンシルベニアは民主党です。 立場の違う3人が、36日のあいだに同じ方向へ動きました。 これは党派の争点になっていません。 だから、選挙で政権が入れ替わっても元に戻るとは限りません。

なぜ推進派が止めたのか

いちばん大きいのは電気代です。

データセンターは雇用をあまり生みません。大型の施設でも常勤の従業員は数十人から百人程度で、建設中の雇用が終われば地元に残る仕事は多くありません。

それでいて電気は大量に使い、送電網の増強費用は料金を通じて広く負担されます。

電気代が上がる要因は、データセンターだけではありません。 古い発電所の閉鎖、燃料価格、送電網そのものの老朽化更新も効いています。費用の配分のしかたも、州や料金制度によって違います。

それでも有権者から見れば、値上がりと新しい大口需要が同時に来ていることに変わりはありません。

反対運動の広がり方が、この変化の速さを表しています。

  • 反対団体の数は2025年末の396から、2026年3月には833へ49州にまたがります
  • 2026年1〜3月だけで、少なくとも75件・約1,300億ドルのプロジェクトが阻止または遅延しました
  • この3か月の混乱の規模が、2025年の1年ぶんとほぼ同じです

データセンターの電力問題そのものはデータセンターの電力の記事で、着工が取り消される動きはキャンセルの記事で扱いました。 送電網を避けて自前で発電するやり方は燃料電池の記事、建物を工場で作って運ぶ方式はモジュール型の記事にあります。

関連企業と日本の接点

⚠️ 以下は「この論点に関係する上場企業」の整理で、投資対象として推奨するものではありません。

Stargateとは、OpenAIが主導する大規模なAI計算基盤の建設計画の呼び名です。テキサス州内に複数の拠点が置かれています。

① テキサスの基準に従うと表明した上場企業

企業(ティッカー)この話での位置
アルファベット(GOOGL・米ナスダック)グーグルの持株会社。2025年11月にテキサスへ400億ドルの投資を発表していました
メタ(META・米ナスダック)フォートワースのデータセンターは2015年から。テキサスでの歴史が最も長い1社です
オラクル(ORCL・米NYSE)テキサス州アビリーンのStargate関連施設。OpenAI向けの受注を大量に抱えています
デジタル・リアルティ(DLR・米NYSE)データセンター専業のREIT。貸す側の立場でこの規制に向き合います

REIT(リート)とは、不動産を保有して賃料を稼ぎ、利益の大半を投資家に配る形の会社です。自分でAIを動かすのではなく、施設を建てて貸すのが本業なので、規制のかかり方がほかの企業と違います。

ほかにコア・サイエンティフィック(CORZ)、クリーンスパーク(CLSK)、MARA(MARA)といったビットコイン採掘由来の事業者も表明しています。 ただしこれらの株価は暗号資産の価格に強く連動するため、この論点だけでは読み取れません。下のチャートからは外しました。

② 電線を持つ側は、ほとんどが上場企業です

申し込みを受ける送配電会社は、大半が上場企業の子会社です。

送配電会社上場している親会社(ティッカー)
テキサスオンコー(州最大)センプラ(SRE・米NYSE)が80.25%を保有
テキサスAEPテキサスアメリカン・エレクトリック・パワー(AEP・米ナスダック)
テキサスセンターポイント・ヒューストンセンターポイント・エナジー(CNP・米NYSE)
ニューヨークコンエジソン、オレンジ&ロックランドコンソリデーテッド・エジソン(ED・米NYSE)
ペンシルベニアPPLエレクトリックPPLコーポレーション(PPL・米NYSE)
ペンシルベニアPECOエクセロン(EXC・米ナスダック)
ペンシルベニアメットエド、ペネレック、ペンパワー、ウェストペンファーストエナジー(FE・米NYSE)

上場していない会社もあります。 ペンシルベニアのデュケイン・ライトは非上場です。

ニューヨークのNYSEGRG&Eを傘下に持つアヴァングリッドは、2024年12月にスペインのイベルドローラが完全子会社化し、2025年1月にNYSEの上場を廃止しました。ナショナル・グリッドは英国上場(米国ではADR)です。

③ 電線を持つ側の株価は、どう動いたか

ここが、この記事でいちばん意外だったところです。

7社の幅は、93から106まで。13ポイントしかありません。

使う側の企業は同じ1年で62から167まで、100ポイント以上ばらけました。 それと比べると、電線を持つ側は、ほぼ横並びで元の位置に戻っています。

理由は、公益事業の料金が規制されているからだと考えられます。 送配電の会社は、投資に見合った収益率を規制当局に認めてもらう仕組みで動いています。需要が増えれば設備投資は増えますが、利益が需要に比例して跳ねる構造ではありません。

実際、オンコーは2026年から2030年の5年間で475億ドルの設備投資計画を掲げ、16ギガワットの新規需要に応えるために70億ドルの送電線を建設すると発表しています。 それでも親会社のセンプラの株価は、1年前と同じ水準です。

なお、この横並びを規制だけで説明することはできません。 7社はそれぞれ地域も事業構成も違い、金利の水準も株価に効きます。この記事で言えるのは、規制の議論がこの7社の株価に目立った差を生んでいない、というところまでです。

④ データセンターを使う側の株価は、どう動いたか

この1年で、アルファベットは1.67倍、オラクルは0.62倍になりました。同じテキサスで、同じ基準に従うと表明した2社です。

この差を規制で説明することはできません。 オラクルの下げはOpenAI向けの受注に対する見方の変化が大きく、アルファベットの上げは検索と広告とクラウドの合算です。規制は5社の共通項ですが、株価を動かしているのは各社の別の事情です。

ただし、そろっていないこと自体が1つの答えでもあります。 市場はまだ、この規制を全社に等しくかかるコストとして織り込んでいません。

⑤ 日本の接点

企業(証券コード)この話での位置
ソフトバンクグループ(9984・東証プライム)出資先の米SB Energyが、2026年8月12日に基準へ従うと表明しました

この会社の立場が、いちばん分かりやすい例です。 米SB Energyはテキサス州ミラム郡で、OpenAI向けの1.2ギガワットのデータセンターを建てながら、隣接地で約900メガワットの太陽光発電所を動かしています。 電気を使う側であると同時に、電気を作る側でもあるという点で、ほかの企業と立場が違います。アボット知事の基準にある「州民の電気代を下げることに貢献する」は、この形をまさに求めています。

同じ名前の日本法人と混同しないでください。 国内の再生可能エネルギー事業を手がけていたSBエナジー株式会社は、2023年4月に豊田通商が株式の85%を取得しており、別の会社です。テキサスで表明したのは米国法人のほうで、ソフトバンクグループと米Ares Managementのファンドが出資しています。

⚠️ 米SB Energyは未上場です。 2026年1月にOpenAIとソフトバンクグループから10億ドルを調達したと報じられ、米国での株式公開を計画しているとも伝えられていますが、執筆時点で上場していません。

ソフトバンクグループの持分比率は公表されておらず、同社の業績にどれだけ影響するかは判断できません。

日本国内でも同じ論点は始まっています。 2026年4月に資源エネルギー庁が省エネ法にもとづくデータセンター向けの指針を出し、2026年7月1日以降に運用を始める施設はPUEを年平均1.2以下にすることが求められました。PUEとは、施設全体の消費電力を、サーバーそのものが使う電力で割った数値です。1.0に近いほど無駄が少ないという意味になります。

フクリの見方

結論

AIの設備投資に、これまで無かった費用が乗りました。それは電気代でも建設費でもなく、地元の同意という費用です。そしてこの費用は、いったん乗ったら下がりません。

理由は1つです。電気代の請求書は、毎月、全世帯に届くからです。

半導体の値段が上がっても、家庭には見えません。データセンターの建設費が膨らんでも、家庭には見えません。けれど電気代は違います。 毎月、全員に、数字で届きます。AIを使っていない人の家にも届きます。

政治がこれを見逃す理由がありません。 共和党の知事も民主党の知事も、有権者は同じものを見ています。だから36日のあいだに、党の違う3人が同じ方向へ動いたのです。

反対団体は3か月で396から833へ。増えたのは特定の州ではなく49州にまたがっています
2026年1〜3月に阻止・遅延したのは約1,300億ドル。この3か月だけで2025年の1年ぶんに並びました
アボット知事は税優遇そのものの撤廃にも言及しています。規制だけでなく誘致の条件が変わるという意味です
それでいて電線を持つ7社の株価は93〜106。この争点は、まだどの層の株価にも織り込まれていません

投資家として見るべき変化は、AI投資が減ることではありません。行き先が変わることです。

送電網につなぐ以上、地元の同意が要ります。 だから企業は、①自前で発電して系統から切り離れるか、②同意を得やすい場所へ移るか、③電力を供給する側にも回るか——のどれかを選ぶことになります。テキサスの5つの基準は、まさにその3つを求めています。

この見立てが外れる条件

何を見ていればいいのか

見るものどこで分かるか何が起きたら見立てが変わるか
テキサスの監査の進み方PUCT・ERCOTの公表資料数週間で全件通過すれば、一時的な足止めだったことになります
PJM圏の電気料金PJMの容量市場の落札価格落札価格が下がれば、政治的な争点としての勢いは弱まります
規制に踏み切る州の数各州知事室の発表4州目、5州目が続けば、これは州ごとの事情ではなく全国的な流れとして固まります
送配電会社の設備投資計画各社の決算説明資料オンコーの475億ドルのような計画が上積みされれば、規制があっても建設は続いていることになります

まとめ(3行)

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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