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日油の株価はなぜ上がらない? 防衛は伸びても、米国の薬に使う原料が減っている

2026.10.20 2026.11.06 更新
日油の株価はなぜ上がらない? 防衛は伸びても、米国の薬に使う原料が減っている

📌 この記事は公開情報(日油の決算短信・決算説明会資料、米国の薬の会社の年次報告、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年10月20日時点のものです。

🔄 2026年11月6日に更新しました。 11月5日の中間決算で、医薬・医療・健康の上期の営業利益は43.9億円と、前年同期の83.6億円からほぼ半分になりました。会社は薬の原料について「臨床開発品などの出荷の一部が次期に後ろ倒しになる」とし、この事業の通期の営業利益の予想を123億円から105億円に下げました。防衛を含む化薬は154億円から157億円への小さな引き上げで、あわせて50億円の自社株買いと年4円の増配を出しました。株価は11月4日の終値から6日の終値までの2日で、日油が−7.8%、市場(TOPIX連動ETF)が−5.9%で、市場より1.9ポイント下げました。予想(市場より下げる)は当たりました。ただ、差は普段の2日の動きの0.7倍にとどまり、大きく売られたとまでは言えません。6日は市場全体が6%下げた日で、日油の下げの大半は市場と一緒の下げです。

日油は、化粧品の原料や薬の原料、防衛の火薬などを作る化学の会社です。この1年、株価は化学株の平均に大きく負けました。防衛の売上が大きく伸びる予想なのに、です。

この記事の答えは、防衛は日油の株価を押し上げてきたが、米国の薬に使う原料の減少がそれを打ち消してきた、というものです。

株価を下げてきたのは、いつも薬の原料

この1年で日油の株価が大きく動いた6日のうち、下げた3日はどれも薬の原料が材料でした。上げた3日のうち2日は、防衛が材料です。

日油の事業は3つあります。化粧品の原料や車の防錆剤などの「機能化学品」、薬の原料や食品の油脂などの「医薬・医療・健康」、防衛やロケットの火薬などの「化薬」です。

株価を下げた3日は、どれも医薬・医療・健康の中の「DDS医薬用製剤原料」の減少が書かれた日でした。DDSは、薬を体の中の必要な場所に、必要な時間だけ届ける仕組みのことで、日油はその材料を作っています。

中心の製品は「活性化PEG」です。たんぱく質やペプチドの薬の分子につけると、薬が体の中に長くとどまり、注射の回数を減らせます。日油は、この材料で世界シェア1位だと説明しています。

日油の株価は、自分の決算の日に動く

2021年5月からの決算のうち、発表日が確かめられた17回を調べると、9回で、発表の日と翌日の2日の株価が普段の2倍を超えて動きました。

決算以外の日に、2日でそこまで動くのは25回に1回です。為替や金利、原油、米国株とも、日油の株価はほとんど一緒に動いていません(市場全体を差し引いた週ごとの動きで確かめました)。日油は、自分の決算の数字で動く株です。

今期、防衛の利益が薬の事業を上回る

化薬の利益が伸びるのは、防衛の「早期装備化」にかかわる売上が入るからです。早期装備化は、防衛の装備を前倒しでそろえる国の計画で、日油は火薬の工場を新しく建てています。その建設の費用を国が払う分(初度費)が、工事の進み具合に応じて売上になります。

会社の説明では、初度費の売上は2026年度と2027年度が山で、2028年度には収まります。

それでも、日油の株価は防衛株と一緒に動いていません。三菱重工・川崎重工・IHIの株価がそろって大きく動いた26日のうち、日油が同じ向きに動いたのは半分の13日でした。

原料の顧客は米国の薬の会社。薬は伸びたのに、原料は減った

日油は顧客の名前を出していません。米国の薬の会社3社が、日油から原料を買っていると年次報告に書いています。

日油の説明と、Apellisの年次報告は、時期が合っています。2025年5月の日油の決算説明会で、アナリストが「2025年の最低購入量の義務を終えると開示した顧客がいる」と質問し、日油は受け取るキャンセル料を2025年度の計画に入れたと答えました。

Apellisの年次報告には、2024年9月にこの義務を終え、その費用として640万ドルを計上したと書かれています。

顧客の薬は伸び、日油の薬の事業の利益は下がった

Syfovreの米国の売上は、2023年から2025年で2倍を超えました。2026年4〜6月期(途中の5月14日にBiogenが買収を完了)は、発売以来いちばん需要の強い四半期だったとBiogenは説明しています。

ところが同じ期間に、日油の医薬・医療・健康の営業利益は下がりました。2026年5月の説明会では、薬の原料の主要3社向けの売上が2023年度を頂点に下がっていることを、アナリストが質問しています。

会社の答えは、今期と来期は「特定顧客の市場浸透の遅れ」で売上が減り、2028年度以降に戻る、というものでした。頂点より下がった理由の1つに、欧州での承認申請の遅れを挙げています。

日油は、2024年度の売上の減少を「顧客における在庫調整」と説明していました。この数年、原料の売上は、顧客の薬の売上と同じ向きに動いていません。

顧客のニュースでも、日油の株価は動いていません。Ascendisの株価が普段の3倍以上動いた27夜のうち、翌日の日油が普段の2倍を超えたのは1回もありませんでした。

Apellisの大きなニュースの6日(承認、副作用の報告、欧州での否定2回、買収の発表、買収のあとの初めての決算)でも、日油が普段の2倍を超えたのは1日だけです。その日は、欧州で再び否定されたのに上げていました。米国の薬の審査や提携先の争いが日本の会社の株価にどう効いたかは、日本新薬の記事で取り上げています。

関連企業と日本の接点

日油の薬の原料の先にいるのは、米国に上場する薬の会社です。日本の取引所に上場しているのは日油だけです。

会社上場この話での位置
日油(4403)東証プライム活性化PEGで世界シェア1位(会社の説明)。今期は化薬の営業利益が、医薬・医療・健康を上回る予想
Biogen米ナスダック(日本の取引所には上場していない)2026年5月にApellisを買収。Syfovre・Empaveliの売上はBiogenの決算に出る
Ascendis Pharma米ナスダック(日本の取引所には上場していない)TransConの薬のPEGを日油が供給。製品の売上は2025年に前年の3倍
Amgen米ナスダック(日本の取引所には上場していない)2023年にHorizonを買収。Krystexxaの原料を日油から買う契約は2024年10月まで(その後は開示なし)

この1年の株価の差を、薬の原料だけで説明することはできません。BiogenはApellisの買収、AmgenとAscendisはそれぞれの薬の売れ行きで動いています。防衛株の受注と株価については三菱重工の受注残の記事と防衛の新規契約の記事で取り上げています。

次の山場は、11月5日の中間決算

11月5日の日油の中間決算で、薬の事業の上期の利益と、通期の予想を据え置くかが分かります。その前に、BiogenがSyfovreの売上を出します。

10月28水・米国
顧客の決算

Biogenの7〜9月期の決算

米国の取引が始まる前。Syfovre・Empaveliの売上

11月5木
日油の決算山場

日油の中間決算

見る数字

  1. 医薬・医療・健康の上期の営業利益(前年同期は83.6億円)
  2. 通期の予想(123億円)
  3. 会社が「下期に見込む」とした原料の出荷の説明
11月6金
答え合わせ

中間決算の翌日

市場より1.9ポイント下げ(予想どおり)

11月中旬未発表
顧客の決算

Ascendisの7〜9月期の決算

例年は11月中旬

2027年5月本決算
日油の決算

日油の本決算

来期の予想と、2028年度に原料の売上が戻る見通しが変わらないか

発表は例年14時です。中間決算で確かめることは2つです。

  • 医薬・医療・健康の上期の営業利益が、通期の予想のどこまで来ているか
  • 化薬の売上に初度費がどれだけ入り、上方修正があるか

予想:中間決算の2日で、日油は市場より下げる

11月5日の発表から翌6日の終値までの2日で、日油の株価は市場より下げると見ています。

理由は3つです。

  • 薬の事業の利益は、前年を下回る:第1四半期の時点で、医薬・医療・健康の営業利益は前年同期の4分の1以下でした。
  • 2026年の決算は3回とも下げた:薬の原料の出荷減が書かれた3回の決算で、株価は3回とも2日で市場より下げました。
  • 防衛の売上は、すでに予想に入っている:前年の中間決算の上げは、初度費を工事の進み具合に応じて売上にする形に変わったことによる上方修正でした(あわせて50億円の自社株買いを発表)。今期の予想には、この売上がはじめから入っています。

で、儲かるのか

この記事の答え

日油を防衛で上がる株として見るのは、この1年の値動きに合いません。株価を下げてきたのは薬の原料で、顧客の薬が売れていても、原料の売上は来期まで減ると会社は見ています。防衛の売上を押し上げる初度費の山は2026〜2027年度で、2028年度に収まります

見るのは、11月5日の医薬・医療・健康の上期の利益と、2028年度に原料の売上が戻るかです。

いちばん確か

薬の事業が前年を下回る

↓2日で
市場より下げ
防衛の上方修正

初度費の売上が予想を超える

↑前年のように
上げる
2028年度

原料の売上が戻る

→薬と防衛が
入れ替わる

情報源

  • 日油:2026年3月期 決算短信(2026年5月11日)、2027年3月期 第1四半期決算短信(2026年8月5日)、2026年3月期 第1〜第3四半期決算短信、業績説明会資料(2025年11月19日・2026年5月22日、スクリプト付き)、主な質疑応答(2025年5月・2025年11月・2026年5月)、「DDS事業の展開」(2024年11月)、有価証券報告書(2026年3月期・化薬事業の受注残高)
  • Apellis Pharmaceuticals:Form 10-K(2024年度・2025年度。日油との供給契約、2025年の最低購入量の義務の終了と640万ドル、Syfovre・Empaveliの米国売上)
  • Ascendis Pharma:Form 20-F(2025年度。TransConの薬のPEGは日油が供給)、2024年度・2025年度・2026年4〜6月期の決算発表(製品の売上)
  • Horizon Therapeutics:Form 10-K(2022年度。Krystexxaの原料の日油との独占供給契約)
  • Biogen:2026年4〜6月期の決算発表(2026年7月29日・Syfovreの売上)、Apellisの株式の公開買付けの書類(2026年4〜5月)、7〜9月期の決算日の案内(2026年9月16日)
  • 株価:Yahoo Financeの日次終値。市場との差=日油の騰落率−TOPIX連動ETF(1308)の騰落率。普段の振れ幅=前の250営業日の市場との差の標準偏差。決算の発表日は株探の決算ページ。米国の出来事は、東京で反応した翌営業日で数えた。防衛3社=三菱重工・川崎重工・IHI(3社の真ん中が普段の2.5倍以上動いた日)
免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

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フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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