日本新薬はなぜ4割下げた? いちばん効いたのはFDAの審査ではなく、米国の提携先との争い

📌 この記事は公開情報(日本新薬・キャプリコーの開示資料、FDAの審査資料、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年10月15日時点のものです。
京都の製薬会社、日本新薬(4516)の株価が、2026年に入って約4割下がりました。同じプライム市場の医薬品株は、真ん中の値で1割も下げていません。
下げの中心にあるのは、米国のキャプリコーという会社から仕入れて売る予定の新しい薬「デラミオセル」です。
この記事の予想は、11月22日にFDA(米国の食品医薬品局)はデラミオセルを承認せず、そのとき日本新薬の株価はほとんど動かない、というものです。
下げの半分は、提訴とFDAの2日で起きた
日本新薬の株価が今年いちばん大きく下げたのは、提携先のキャプリコーが日本新薬を訴えた5月8日でした。次がFDAの審査資料が出た7月28日で、この2日だけで今年の下げの半分を占めます。
デラミオセルは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーという、筋肉が少しずつ弱っていく男の子の難病の患者に点滴する細胞医療です。亡くなった人から提供された心臓の細胞を増やして作ります。開発と製造は米国のキャプリコー(米ナスダック上場)が担い、日本新薬は米国と日本で売る権利を持っています。
2025年12月、キャプリコーが「第3相試験(承認の前の最後の大きな試験)が成功した」と発表すると、日本新薬の株価は3日で6割近く上がりました。
その株価が、今は成功の発表の前日より安くなっています。2026年の下げを日ごとに分けると、大きく下げた2日の重さがはっきりします。
5月8日と7月28日は、どちらも日本新薬の普段の振れ幅の4倍を超える動きでした。一方、FDAの諮問委員会が否定した翌日や、審査の期限が延びた日は、普段の振れ幅の内に収まっています。残りの下げは、材料のはっきりした日ではなく、月をまたいで少しずつ出たものです。
いちばん効いたのは、FDAではなく提携先との争い
5月8日、訴えた側のキャプリコーの株価は1.3%しか下げていません。争いで値段が下がったのは、日本新薬のほうでした。
デラミオセルは、日本新薬の今期の売上予想に入っている
日本新薬は今期(2027年3月期)の売上収益を2,000億円と見込み、その中にデラミオセルの米国での売上114億円を入れています。発売は下期と見ていて、上期の予想には入れていません。
日本新薬にとってデラミオセルは、稼ぎ頭の後を継ぐ薬の筆頭でした。日本新薬の売上の約3割は、肺の血圧を下げる薬「ウプトラビ」などの海外の売上から入る使用料(ロイヤリティ)です。中井亨社長は2023年11月、ウプトラビの特許が米国で2026年10月、米国以外で2027年4月に切れ、売上が減ると説明していました。
5月8日、提訴で下げたのは日本新薬だけ
キャプリコーは5月7日(米国)、米国ニュージャージー州の裁判所に、日本新薬との米国の販売契約の取り消しと、日本新薬以外を通して売る権利を認めることを求めました。
キャプリコーの主張の中心は、値段の決め方です。米国の公的保険(メディケアなど)が病院に払う薬代は、作り手の売値をもとに決まります。デラミオセルの作り手はキャプリコーで、売る相手は日本新薬の米国子会社だけです。米国の医療ニュースのSTATによると、キャプリコーは、このままでは病院が受け取る薬代が、薬を仕入れて使う費用を下回ると訴えています。日本新薬の販売の準備が足りないという主張もしています。
日本新薬は、原告の主張は合理性を欠くとしています。8月10日、裁判所は差し止めの申し立てを退け、争いを仲裁(裁判の代わりに、選ばれた仲裁人が決める手続き)に回しました。キャプリコーは、仲裁はFDAの判断のあと、この秋に始まる見込みとし、契約の取り消しを求め続けています。日本新薬も、キャプリコーに反対の請求を出しています。
争っているのは「薬が効くかどうか」ではなく、「売れたときに誰が売るか」です。株価は、その争いを日本新薬の損として受け止めた形です。
7月28日、FDAは「事前に決めた解析では差が出ていない」
FDAは2025年7月に、1回目の申請を退けています。前の段階の試験(第2相)のデータでは効き目を確かめられない、という理由でした。キャプリコーは第3相試験の結果を足して申請し直し、2026年3月に審査が再開されました。
7月27日(米国)、FDAは諮問委員会(外部の専門家の会議)に出す審査資料を公開しました。FDAは、第3相試験は事前に決めた解析では、腕と手の機能(上肢の機能=試験の合否を決める主要評価項目)でも、心臓の機能でも、偽薬との差を示せなかったと書いています。
キャプリコーの「成功」は、試験の後に変えた解析によるもの、というのがFDAの見方です。FDAはさらに、デラミオセルを使った人に過敏反応が多く出ていて、誰が本物の薬を使ったかが分かってしまった可能性も指摘しました。キャプリコーは、最終の解析の計画は結果を見る前に固めたと反論しています。
7月29日の諮問委員会は、心臓の病気(心筋症)への効き目について3対9で否定しました。上肢の機能については投票していません。キャプリコーはその後、申請を上肢の機能に絞り、24か月の延長試験のデータを足しました。FDAはこれを大きな変更として扱い、判断の期限を8月22日から11月22日に延ばしました。
7月29日から、キャプリコー株と連動しなくなった
それまでの日本新薬の株価は、前の晩のキャプリコー株の動きに、はっきりついていっていました。
7月29日からは、ほぼ0です。8月14日、申請を上肢の機能に絞る方針を受けてキャプリコー株は58%上げましたが、日本新薬は0.7%しか動いていません。日本新薬の株価は、もうデラミオセルの承認の行方では動いていません。
関連企業と日本の接点
日本新薬は、米国の会社から新薬の権利を買い、米国で売る形を広げてきました。その提携先の株価も、1年で大きく動いています。
| 会社 | 上場 | この話での位置 |
|---|---|---|
| 日本新薬(4516) | 東証プライム | デラミオセルを米国と日本で売る権利を持つ。キャプリコーの株も5%超を持つ |
| キャプリコー(CAPR) | 米ナスダック(日本の取引所には上場していない) | デラミオセルの開発と製造。日本新薬を訴えている |
| リジェネックスバイオ(RGNX) | 米ナスダック(日本の取引所には上場していない) | 遺伝子治療「RGX-121」の開発元。日本新薬は2025年1月に1億1,000万ドルを払い、米国とアジアで売る権利を得た。FDAは2026年2月に申請を退け、8月には臨床試験も止めた。リジェネックスバイオは、当面は申請し直さないとしている |
| サレプタ(SRPT) | 米ナスダック(日本の取引所には上場していない) | デュシェンヌ型筋ジストロフィーの薬の最大手。日本新薬の「ビルテプソ」と同じ仕組みの薬を米国で売る |
キャプリコー株は値動きが大きすぎて同じ図に入らないため、別に示します。
RGX-121の申請が退けられたと開示した2月10日、日本新薬の株価は普段の振れ幅の内でした。各社の株価の差を、デラミオセルだけで説明することはできません。米国で薬の承認と株価がどう関係してきたかは武田薬品のオーゼイフルの記事で、米国の薬価の決まり方は薬価規則「GLOBE」の記事で取り上げています。
次の山場は、11月22日のFDAの判断
FDAの判断の期限は11月22日(日)です。その前の11月13日に、日本新薬の中間決算があります。
中間決算で確かめることは2つです。
- デラミオセルの114億円を、今期の売上予想に残すか
- 仲裁とRGX-121について、会社がどう説明するか
予想:FDAは承認しない。日本新薬はその日、ほとんど動かない
11月22日の判断は「承認しない(2回目の却下)」が本命で、そのとき日本新薬の株価は、医薬品株の真ん中との差で±5%の内に収まると見ています。
理由は3つです。
- FDA自身が、差は出ていないと書いている:申請は上肢の機能に絞られましたが、使うのは同じ第3相試験です。FDAは、その上肢の機能こそ、事前に決めた解析では差がなかったとしています。
- 諮問委員会が否定した申請は、多くが承認されていない:2010〜2021年に諮問委員会が否定した初回の申請60件のうち、FDAが承認したのは20件でした(米ハーバード大学医学部などのグループの研究)。細胞医療だけの数は出ていません。
- 株価はもう織り込んでいる:審査資料が出た日に大きく下げたあと、諮問委員会の否定の翌日も、判断の期限が延びた日も、日本新薬の動きは普段の振れ幅の内でした。
却下されれば、今期の売上予想からデラミオセルが消える見込みです。ただ、前回(2025年8月)の却下のとき、日本新薬は売上の予想だけを減らし、営業利益の予想は変えませんでした。
で、儲かるのか
日本新薬を「デラミオセルの承認に賭ける株」として見る段階は、もう終わっています。FDAは承認に後ろ向きで、株価はその見方を7月28日に織り込みました。承認されたとしても、日本新薬がどれだけ売れるかは、この秋からの仲裁で決まります
次に日本新薬の株価を大きく動かすのは、FDAの判断より、仲裁の結果です。
FDAが承認しない
→日本新薬はほぼ動かない
ただし取り分は仲裁しだい
↑上げる承認されても売る権利を失う
↓売上にならない
情報源
- 日本新薬:「2026年3月期 決算短信」(2026年5月15日・今期の予想、主力製品の売上予想〔デラミオセル(米国)114億円〕、地域別の売上、発行済株式数)、IRニュース(2026年2月10日・3月11日・5月8日・8月10日・8月25日)、「2024年度決算説明会」の書き起こし(2025年5月8日・デラミオセルの売上と原価の計上の仕方、2025年度の予想)
- キャプリコー:年次報告書 10-K(2025年12月期・米国と日本の販売契約の条件、欧州の仮の契約)、四半期報告書 10-Q(2026年6月期・訴えの中身、仲裁の見込み、日本新薬の反対の請求、諮問委員会の投票、欧州の仮の契約の失効)、訴えの発表(2026年5月7日)、諮問委員会についての発表(2026年7月30日)
- FDA:「BLA 125842 FDA Briefing Document」(2026年7月29日の細胞・組織・遺伝子治療諮問委員会・表7=解析の版ごとの主要評価項目の結果)
- 報道:STAT(2026年5月8日・値段の決め方をめぐる訴え)、BioSpace・CGTLive(2026年8月24日・判断の期限の延長)
- 前例:Daval CJR, Teng TW, Russo M, Kesselheim AS. “Association of Advisory Committee Votes With US Food and Drug Administration Decision-Making on Prescription Drugs, 2010-2021”. JAMA Health Forum. 2023;4(7):e231718
- ウプトラビの特許:薬事日報(2023年11月20日・中井社長の説明)
- リジェネックスバイオとの契約:リジェネックスバイオ・日本新薬の発表(2025年1月14日)
- 決算の発表日:日本取引所グループ「決算発表予定日」(2026年10月9日時点)
- 株価:Yahoo Financeの日次終値(日本新薬4516・キャプリコーCAPR・リジェネックスバイオRGNX・サレプタSRPT)。医薬品株の真ん中=東証プライムの医薬品(33業種)30社の、その日の騰落率の中央値。普段の振れ幅=市場との差の1日の動きの標準偏差
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。