防衛費は過去最高、それでも新しい契約は減っている——三菱重工・川崎重工など防衛株の次の分かれ目

📌 この記事は公開情報(財務省・防衛省の予算資料、防衛装備庁の調達実績と契約情報、各社の決算資料、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月25日時点のものです。
「防衛費が過去最高」というニュースは、毎年のように流れます。ただ、防衛の会社の受注を決めるのは、その数字ではありません。
受注のもとになる「新しい契約」は、もう増えていません。防衛株がもう一段上がるかは、年末の予算案で契約がもう一度跳ねるかで決まります。
防衛費は増えても、新しい契約は2024年度が天井だった
防衛費には「その年に払う額」と「その年に結ぶ新しい契約の額」の2つがあります。過去最高を続けているのは前者で、後者は2024年度をピークに2年続けて減りました。
護衛艦や戦闘機は、作るのに何年もかかります。国は契約した年に全額を払わず、完成に合わせて数年に分けて払います。そのため防衛の予算には、その年度に払う歳出と、その年度に新しく結ぶ契約の総額である新規契約額(契約ベースとも呼ばれます)の2つの数字があります。
会社の側から見ると、新規契約は受注に、歳出は売上に近い数字です。
新規契約額は、防衛力を5年で抜本的に強める計画(2023〜2027年度)の1年目に一気に2.6倍になりました。2024年度の9兆3,625億円が天井で、2025年度は9.9%減、2026年度も2.0%減です。
一方の歳出は毎年増えています。2023〜24年度にまとめて結んだ契約の支払いが、いま順番に来ているためです。「防衛費は過去最高」はこちらの話です。
減った中身は、予算の分野別の内訳で分かります。
| 分野(兆円) | 2023年度 | 2024年度 | 2025年度 | 2026年度 |
|---|---|---|---|---|
| 遠くから撃つミサイル | 1.4 | 0.7 | 0.9 | 1.0 |
| 迎撃ミサイルなど | 1.0 | 1.2 | 0.5 | 0.5 |
| 車両・艦船・航空機 | 1.2 | 1.3 | 1.1 | 1.0 |
| 維持整備 | 1.8 | 1.9 | 1.8 | 1.7 |
| 施設(火薬庫など) | 0.5 | 0.6 | 0.7 | 0.9 |
| 合計 | 9.0 | 9.4 | 8.4 | 8.3 |
当初予算の新規契約額で、財務省の資料にある概数です。合計にはほかの分野(宇宙・サイバー・研究開発など)も含みます。
大きく減ったのはミサイルです。 相手の射程の外から撃つミサイル(スタンド・オフ防衛能力)と、迎撃ミサイルなど(統合防空ミサイル防衛能力)を合わせると、2023年度の約2.4兆円から2026年度は約1.5兆円。逆に増えているのは火薬庫や司令部の地下化などの施設で、こちらは主に建設会社の仕事になります。
三菱重工と川崎重工は減り、増えたのは三菱電機だけ
2025年度の防衛装備庁との契約額は、主な7社のうち6社で前年度より減りました。三菱重工は33%減、川崎重工は48%減。増えたのは三菱電機だけです。
三菱重工は2年で見ると42%減です。三菱電機は2年続けて増え、これとは別に、スカパーJSAT・三井物産と共同で設立したトライサット・コンステレーションの代表として、2026年2月に2,831億円の衛星事業を契約しています。
ミサイルやイージス・システム搭載艦などの大型契約が一巡し、衛星など宇宙の契約が増えたという流れです。
⚠️ 防衛装備庁の中央調達は、各社の受注のすべてではありません。下請けとして受ける分、輸出、各部隊が地方で結ぶ契約は入っていません。
三菱重工が決算で示す防衛・宇宙事業の数字にも、同じ形が出ています。
受注高は2023年度に3.4倍の1兆8,781億円へ跳ね、そこから減っています。売上収益は2022年度から2025年度までに2.4倍の1兆1,445億円になりました。
2023年度に取った仕事を、いま作って納めている。だから売上と利益は伸びる。受注は、もう増えていない。
なお、2025年度の受注には豪州向けのフリゲート(護衛艦)が入っています。会社は、豪州向けを除いた受注は2026年度に前年度より増えると見ています。国全体の新しい契約が減るなかでこの見通しが当たるかは、11月の決算で分かります。
それでも防衛株は上がり続けた
2025年度、三菱重工は防衛装備庁との契約が33%減りましたが、株価は67%上がりました。この1年、契約と株価は逆に動いています。
株価を押し上げたのは足元の契約ではなく、「これから防衛費がもっと増える」という見通しでした。
三菱重工はガスタービンや原子力でも買われており、上昇がすべて防衛によるものではありません。
来年度の護衛艦と哨戒機は、まだ金額が決まっていない
8月31日に出た2027年度の予算要求は、新規契約額が約8兆円。護衛艦や潜水艦の建造、P-1哨戒機やC-2輸送機の取得には、金額が付いていません。
防衛省は、今の計画に沿った事業は金額を付けて要求し(歳出約9兆円・新規契約約8兆円)、年末に改定する安全保障関連3文書(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)の中身に左右される事業は「事項要求」にしました。事項要求とは、金額を示さずに「この事業をやる」とだけ要求しておくことです。金額は12月の予算案で決まります。
多くは、三菱重工・川崎重工・SUBARUがこれまで大きな契約を取ってきた品目です。 この3社が来年度にこれらの品目で受ける契約の大きさは、12月の予算案まで決まりません。
3文書の改定で論点になっているのは、防衛費の新しい目標です。政府は2025年度にGDP比2%を達成し、米国は3.5%を求めています。与党の自民党と日本維新の会も6月、防衛費のさらなる増額を求める提言を首相に出しました。目標が大きく引き上げられれば、2023年度のように新規契約がもう一度跳ねる余地が出てきます。
関連企業と日本の接点
防衛装備庁との契約で上位に並ぶのは、三菱重工・三菱電機・川崎重工です。3社とも防衛以外の事業が大きく、株価は防衛だけでは動きません。
三菱重工業
Mitsubishi Heavy Industries, Ltd.
防衛装備庁との契約額は、少なくとも2021年度から毎年1位です。ミサイル・護衛艦・潜水艦をつくります。防衛・宇宙の売上は2025年度に1兆1,445億円で、会社全体の23%にあたります。
三菱電機
Mitsubishi Electric Corporation
迎撃ミサイルの03式中距離地対空誘導弾、次期防衛通信衛星などを手がけます。上位の会社で、防衛装備庁との契約が2年続けて増えたのはこの会社だけです。

川崎重工業
Kawasaki Heavy Industries, Ltd.
P-1哨戒機・C-2輸送機・潜水艦・輸送ヘリコプターをつくります。2024年度は輸送ヘリコプター(CH-47)の契約で6,383億円に増えましたが、2025年度は3,308億円に戻りました。
ほかに防衛装備庁との契約が大きい上場企業は、次のとおりです。
| 会社(証券コード) | 契約額(2023→25年度) | 主な契約 |
|---|---|---|
| NEC(6701) | 2,954億→2,902億円 | 航空自衛隊のクラウド、無線機、警戒管制システム |
| 富士通(6702) | 2,096億→1,362億円 | 情報処理システム、通信基盤の機器 |
| 日本製鋼所(5631) | 570億→646億円 | 装輪装甲車、艦載砲 |
| SUBARU(7270) | 466億→543億円 | UH-2ヘリコプター |
| IHI(7013) | 1,257億→422億円 | P-1や次期戦闘機のエンジン |
| 石川製作所(6208) | 約81億→約8億円 | 機雷 |
石川製作所の額だけは、防衛装備庁が公表している契約ごとの情報を集計したものです(ほかの会社は同庁の上位20社の実績)。
小型株の石川製作所(機雷)も、大手と同じ形です。会社の決算では、防衛機器の受注高が2025年度に41.4%減り、売上高は27.9%増えました。それでも株価は2025年度に55%上がっています。
契約が増えた三菱電機も、減った川崎重工や石川製作所も、株価はそろって上がっています。 この差を防衛の契約で説明することはできません。各社は防衛以外の事業も大きく、株価は別の要因でも動きます。
で、儲かるのか
受注残で売上は伸びる。株価をもう一段押し上げるには、新しい契約がもう一度跳ねる必要がある。
2023〜24年度に取った受注で、売上と利益はこれから数年伸びる見通しです。一方で新しい契約は2年続けて減っています。
株価は「これから防衛費が増える」を先に織り込んできました。12月の予算案で新規契約が跳ねなければ、その見通しは数字で裏づけられません。
「防衛費は過去最高」は支払いの話で、受注の話ではありません。分かれ目は12月下旬の新規契約額です。
関連する記事:受注残の読み方/三菱重工の受注残と株価の倍率/防衛関連株の基本/パトリオットの「作れるのか」問題/ゴールデンドームと予算の落とし穴
情報源
- 財務省:令和8年度防衛関係予算のポイント(2025年12月)。歳出と新規契約額の推移(2019〜2026年度・当初予算)、分野別の新規契約額(2023〜2026年度)
- 防衛省:防衛力の変革に向けた予算——令和9年度概算要求の概要(2026年8月31日)。歳出約9兆円・契約約8兆円と事項要求の方針、事項要求の品目
- 防衛装備庁:中央調達における調達実績(令和5年度)・(令和6年度)・(令和7年度)。総額と上位20社の契約実績
- 防衛装備庁:契約に係る情報の公表(中央調達分)。2023年4月〜2026年7月の月別の契約一覧(128ファイル・2万3,091件、2026年9月25日取得)。全件を集計して上の年度実績と突き合わせ(差は1.5%以内)、石川製作所の契約額とトライサット・コンステレーションの契約を確認
- 三菱電機:特別目的会社「トライサット」が防衛省の衛星コンステレーション事業を受注(2026年2月20日)
- 三菱重工業:2023年度決算説明資料・2025年度決算説明資料(2026年5月12日)・2026年度第1四半期決算説明資料(2026年8月4日)。防衛・宇宙事業の受注高・売上収益と2026年度の見通し(受注1兆5,000億円・売上1兆2,500億円)、豪州向けを除いた受注の見方
- 石川製作所:2026年3月期 決算短信。防衛機器の受注高と売上高
- 時事通信(nippon.com):防衛費の規模・財源が焦点=3文書改定、抑止力強化急ぐ(2026年9月17日)
- 北海道新聞:防衛費大幅増に道筋 新しい戦い方への対応も 安保3文書年内改定へ与党提言。2026年6月の自民・維新の提言
- 防衛日報デジタル:令和7年度予算案が決定 防衛関係費は前年度比9.4%増の8兆7005億円。2024年12月27日の閣議決定
- 株価:Yahoo Financeの日次終値(2026年9月25日取得)
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