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マクセルの対サムスン特許訴訟で株価は上がるのか——勝訴の評決は覆り、残るのはGalaxyの輸入差し止めの判断

2026.09.22
マクセルの対サムスン特許訴訟で株価は上がるのか——勝訴の評決は覆り、残るのはGalaxyの輸入差し止めの判断

📌 この記事は公開情報(米国の官報・米国際貿易委員会と裁判所の記録・各社の開示・欧州の裁判の報道・市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月22日時点のものです。

マクセルがサムスンと争っている特許の件で、マクセルの株価は上がるのでしょうか。

この争いだけで株価が大きく上がる筋は細い、という見立てです。 株価は特許の節目ではほとんど動いておらず、勝訴と報じられた評決もすでに取り消されているからです。

マクセルは特許の使用料でも稼ぐが、その金額は決算に出てこない

マクセルは、持っている特許を他社に使わせて使用料を受け取っています。ただし金額は部門の売上に混ぜて計上しており、いくら入ったかは外から分かりません。

マクセルは、カセットテープや乾電池で知られるかつての日立マクセルです。いまは医療機器用の電池や車載カメラのレンズなどが主力で、2026年3月期の売上は1,294億円、営業利益は78.9億円でした。

決算短信には、特許の使用料が何度も出てきます。

  • 2026年3月期:光学・システム部門の売上について「ライセンス収入の増加」
  • 2027年3月期の4〜6月:エネルギー部門の営業利益について「前年に一過性のライセンス収入の計上があった影響」で減益

サムスンとの争いは、マクセルによれば、サムスンが以前の使用料の契約を更新しなかったことから始まりました。マクセルは米国・ドイツ・日本などで、サムスンを相手に訴えを起こしています。

米国での戦い方は2つあります。

  • 裁判所に損害賠償を求める……勝てば、過去に使われた分のお金が入る
  • 米国際貿易委員会に輸入差し止めを求める……米国際貿易委員会は、輸入品が特許を侵害していないかを調べる米国の役所。勝てば、侵害している製品を米国に輸入できなくなる。お金は入らないが、相手は米国で売れなくなるので、使用料の交渉で強い材料になる

2025年5月の評決の額は、日本の報道では約177億円と伝えられました。評決の翌日の為替(1ドル=143.8円)で換算すると約161億円で、マクセルの1年分の営業利益の約2倍にあたります。

賠償の評決は、同じ年のうちに判事が取り消した

2025年5月に陪審が認めた賠償は、9月18日に判事が全部取り消しました。欧州でも、マクセルの特許が続けて無効とされています。

2023年マクセルがテキサス州の連邦地方裁判所でサムスンを提訴
2025年5月28日陪審が、特許3件の侵害を認めて1億1,170万ドルの賠償を評決(わざと侵害したとも認定)
2025年9月18日判事が評決を取り消す。3件とも「侵害していない」、うち2件は「特許として無効」と判断
2026年春米国の特許庁の審判部(特許が有効かを見直す部署)が、マクセルの別の特許の一部を無効と判断。欧州の統一特許裁判所(欧州の複数の国の特許をまとめて扱う裁判所)のミュンヘン地方部も、マクセルの特許1件を無効とした
2026年8月同じ裁判所のハーグ地方部が、スマホの動画をテレビに映す技術の特許を無効とし、侵害の訴えを退けた
2026年9月米国の特許庁の長官(審判部の判断を見直せる立場)が、審判部の判断2件の一部を覆した。マクセルの特許2件で、請求が1つずつ有効のままになった(マクセルの代理人の法律事務所の発表)

陪審評決とは、一般の市民から選ばれた陪審員が出す判断のことです。米国では、そのあと判事が「証拠から見て、この評決は成り立たない」と判断すれば、評決を取り消せます。今回はそれが起きました。判事は、賠償額についての判断を、控訴の結果を待つ形で保留しています。

日本語で読める記事は、見つかった範囲では評決の段階で止まっており、取り消しを伝えたものはありませんでした。

米国での輸入差し止めは、特許5件のうち1件でしか認められていない

米国際貿易委員会の判事が侵害を認めたのは、カメラのピントを合わせる枠を画面に表示する特許1件だけです。しかも、サムスンが設計を変えた製品は「侵害なし」とされました。

マクセルは2024年12月に、サムスンのスマホを米国に輸入させないよう、米国際貿易委員会に申し立てました。委員会の中で最初に判断するのは、行政法判事と呼ばれる委員会の判事です。その判事が、2026年7月1日に次のように判断しました。

判事は、委員会が違反を認めた場合には、サムスンの対象製品の輸入差し止めと、米国内での販売をやめさせる命令を出すよう勧めました。修理や保証のための輸入は除く、という条件つきです。

委員会は8月31日に、この判断を見直すと決めました。侵害を認めたピントの枠の特許は、判断の全体が見直しの対象です。委員会は当事者に、「枠」という言葉の意味や、1画素でも枠と言えるのか、設計を変えた製品はどう違うのか、といった点を追加で説明するよう求めました。当事者の意見書は9月14日、反論は9月21日が締切でした。

規則では、判事の最終的な判断は委員会の目標日の4か月前までに出すことになっています。7月1日から数えると、委員会の最終判断は11月初めが目安です(目標日そのものは公開資料で確認できませんでした)。委員会が差し止めを決めても、米国の通商代表部(大統領の代わりに貿易の判断をする役所)が60日のあいだに認めなければ、効力を持ちません。

マクセルは2026年7月にも、別の特許6件でサムスンを相手に新しい申し立てを出し、委員会は8月に調査を始めています。

株価は特許の節目ではほとんど動かず、決算の日に大きく動いた

評決・取り消し・判事の判断の翌日、マクセルの株価の動きはどれも2%以内でした。大きく動いたのは決算の翌日で、2026年4月は8.4%安、8月は24.2%高です。

出来事翌営業日のマクセル同じ日のTOPIX連動ETF
陪審の評決(2025年5月)+1.0%+1.3%
評決の取り消し(2025年9月)−0.4%−0.6%
判事がGalaxy S25の侵害を認めた(2026年7月)+1.6%+0.1%
2026年3月期の決算(2026年4月)−8.4%+1.0%
2026年4〜6月期の決算(2026年8月)+24.2%−1.3%

これまでの和解の日も同じです。マクセルは米国際貿易委員会で、サムスンの前に4件の申し立てを起こし、どれも委員会の最終判断の前に終えています。

  • アップル(2020年に申し立て)……2021年3月、テキサスの裁判の審理の直前に和解。条件は非公開。翌営業日のマクセルは−3.0%(TOPIX連動ETFは−2.1%)
  • レノボ・モトローラ(2022年)……1件は申し立ての取り下げ、もう1件は2023年に和解
  • VIZIO(2022年・テレビ)……2023年に双方の申し立てで終了
  • TCL(2024年)……2025年9月に和解で終了。終了が官報に載った日のマクセルは+0.2%

公表された和解の金額は、見当たりません(アップルとの和解の条件は非公開)。入ったお金は部門の売上に混ざるので、投資家は和解の値打ちを外から測れません。株価が特許の節目で動かないのは、このためとみられます。

関連企業と日本の接点(マクセル・6810)

この争いで日本の上場企業はマクセル1社です。サムスンは日本の取引所には上場していません。

東証プライム: 6810

マクセル

Maxell, Ltd.

訴えた側。電池・光学部品・粘着テープなどのメーカーで、特許の使用料も部門の売上に含めて計上しています。

株価(9月18日)2,554円
2026年3月期の売上1,294億円
2026年3月期の営業利益78.9億円
2026年4〜6月期の営業利益28.7億円

ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=マクセル株式会社)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

韓国取引所: 005930

サムスン電子

Samsung Electronics Co., Ltd.

訴えられた側。輸入差し止めの対象になりうるのはGalaxyなどのスマホとタブレットです。日本の取引所には上場していません。

ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=Samsung Electronics)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。

サムスンの株価は、2025年初めから5倍を超えて上がっており(メモリの値上がりが続いた時期と重なります)、マクセルと同じ図に入れると他の線が読めなくなるので外しました。

フクリの見方

特許の争いだけで、マクセルの株価が大きく上がる筋は細い、という見立てです。

フクリの見立て

特許の争いは、マクセルの株価を大きく動かす材料になりにくい。
株価を動かしてきたのは、本業の決算だ。

なぜそう言えるか

評決・取り消し・判事の判断・和解の翌日は、どれも3%以内の動き。決算の翌日は8.4%安と24.2%高でした。

では何が動かすか

委員会が設計を変えた製品まで侵害とし、その後の和解が決算の「ライセンス収入」として目に見える大きさで出たときです。

その日付

11月初めが目安の委員会の最終判断と、10月下旬・1月下旬の決算です。

理由は1つです。公表された和解の金額は見当たらず、入ったお金は部門の売上に混ざるので、投資家は特許の争いに値段を付けにくい。 これまでの和解の日にも、株価はほとんど動いていません。

そのうえ、今回はマクセルの手札が細っています。1年前の評決は取り消され、欧州では特許が続けて無効とされました。9月には米国の特許庁の長官が審判部の判断を一部覆しましたが、有効に戻ったのは特許2件の請求1つずつです。米国際貿易委員会で残る勝ちも、特許5件のうち1件で、サムスンが設計を変えた製品には届いていません。和解で決着するとしても、評決の額ほどの金額は見込みにくいと見ています。

この見立てが外れる条件

1委員会が、設計を変えた製品まで侵害と判断する
委員会はピントの枠の特許の判断を丸ごと見直しています。設計を変えた製品も侵害とされれば、サムスンは設計の変更で差し止めを避けられなくなり、和解の額が大きくなる理由ができます。
2決算で、ライセンス収入が営業利益を大きく押し上げる
サムスンとの和解がまとまり、その後の決算でライセンス収入が営業利益を大きく動かすと読み取れれば、特許の争いが株価の材料になります。評決の額は、1年分の営業利益の約2倍でした。
3評決の取り消しが、控訴で覆る
判事は賠償額の判断を控訴の結果待ちで保留しています。控訴審で評決が戻れば、1億1,170万ドルがふたたびマクセルの手札になります。

では、何を見ていればいいのか

いつ何が出るか見るところ
2026年9月中(予定)欧州の統一特許裁判所ミュンヘン地方部の判断(もう1件の特許)マクセルが欧州で初めて勝つか
2026年10月下旬マクセルの4〜9月期決算部門の説明に「ライセンス収入」が出るか
2026年11月初め(目安)米国際貿易委員会の最終判断違反を認めるか。設計を変えた製品まで対象にするか
最終判断から60日米国の通商代表部の審査差し止めが効力を持つか
2027年新しい申し立て(特許6件)と、テキサスでの2件目の訴え(特許10件)特許が生き残るか

同じ米国際貿易委員会が、関税の調査で日本企業に関わる判断をしている例は、インド製PFAの関税調査で書きました。サムスンの株価を押し上げたメモリの値上がりはメモリ株の記事、特許の期限が薬の値段を決める例はアムジェンの特許の記事にまとめています。大企業どうしの訴訟を投資家としてどう読むかは、アップルとOpenAIの訴訟も参考になります。

まとめ(3行)

1「177億円の勝訴」は、もう残っていない
2025年5月の評決(1億1,170万ドル)は、同じ年の9月18日に判事が取り消しました。欧州でも特許が続けて無効とされています。
2米国の輸入差し止めは、特許1件だけで争っている
判事はGalaxy S25がピントの枠の特許を侵害していると認めましたが、設計を変えた製品は侵害なし。委員会の最終判断は11月初めが目安です。
3株価を動かしてきたのは、特許ではなく決算
特許の節目の翌日は3%以内、決算の翌日は8.4%安と24.2%高。和解の金額が見えないので、株価の材料になりにくいと見ています。

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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