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使う人が4人に1人から25人に1人まで減った薬に、患者が戻ってきた——貼り薬が買えない理由

2026.08.23 ・ 執筆:フクリ
使う人が4人に1人から25人に1人まで減った薬に、患者が戻ってきた——貼り薬が買えない理由

📌 本記事は公開情報(FDAの発表、薬剤師団体の供給情報、各社の発表、報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月23日時点のものです。⚠️ 本記事は医療上の助言ではありません。治療の判断は医師にご相談ください。

規制が厳しくなって、薬が減る。 これはよくある話です。

今回はその逆で、規制が緩んで、薬が減りました。

2025年11月10日、FDA(米食品医薬品局)が更年期のホルモン療法から最も強い安全性警告を削除しました。 その9か月後のいま、エストロゲンの貼り薬が薬局で手に入りません。

なぜそうなるのか。話は20年以上前から始まります。

なぜ、これほど患者が戻ってきたのか

更年期には、ほてり、発汗、不眠といった症状が出ます。 エストロゲンを補うホルモン療法は、その症状をやわらげる治療です。

1990年代の終わりには、閉経後の女性の4人に1人が使っていました。

それが2002年に、大きく変わります。

2002年、女性の健康に関する大規模研究が、途中で打ち切られました。 乳がんのリスクが上がったという結果が出たためです。この結果を受けて、2003年にFDAが最も強い警告を付けました。

そこから、医師は処方をためらうようになります。 処方は7割以上減り、2020年には25人に1人まで落ちました。

その後、研究の読み直しが進みました。 2010年ごろから、60歳より前、あるいは閉経から10年以内に始めた場合には、より安全に症状をやわらげられるという分析が出てきます。ただし、ホルモンに反応するがんの既往がある人などは対象外です。

つまり、こういう状態でした。

メーカーが備えられなかったのは、ここです。 少しずつ増える需要なら、生産計画で吸収できます。 けれど今回は、20年かけて減った処方が数か月で戻り始めました。

削除された警告の中身

項目内容
黒枠警告とは米国の添付文書で、枠線に囲んで表示される最も強い警告です。重い副作用や死亡の可能性がある場合に付きます
発表2025年11月10日(FDA・HHS)
措置ホルモン療法製品から黒枠警告を削除
削除された警告心血管疾患、乳がん、認知症の可能性に関するもの
残された警告子宮のある人がエストロゲン単独療法を受ける場合の子宮体がんの警告は残ります
発効2026年2月
手続き文献の包括的な見直し、専門家パネル、意見公募を経て決定

⚠️ すべての警告が消えたわけではありません。 削除されたのは3つで、子宮体がんの警告は残っています。

削除の是非については、専門家のあいだで議論があります。 本記事はその当否を論じるものではありません。

患者側では、こうなっています

指標内容
2026年2月時点45〜54歳の女性の約20人に1人がエストロゲン系のホルモン療法の処方を受けています
2023年との比較およそ2倍
受け取れているかある調査(約8,000人)で44%が処方を受け取れずに苦労したと回答。うち34%は生活への影響が大きいと答えました

この調査は民間企業(Midi Health)によるもので、公的統計ではありません。

なぜ貼り薬だけが足りなくなるのか

同じ成分の飲み薬は、大きな不足になっていません。困っているのは貼り薬だけです。

ここは、ほかの薬にも当てはまる話です。

薬が足りなくなるのは、成分が足りないときだけではありません。 薬の「形」が複雑なほど、需要が急に増えたときに追いつけません。

痩せ薬として知られるGLP-1の注射ペンが足りなくなったのも、同じ理由でした。 薬そのものより、それを体に届ける形のほうが先に詰まります。

メーカーごとの状況

メーカー状況
ノーベン需要増を理由に供給不足と説明されています
サンド一部の規格は割当、別の規格は入荷待ち
ヴィアトリス週1回型・週2回型とも供給ありとされています

これはASHP(米国医療薬剤師会)が公表している供給情報で、時点によって変わります。

FDAは「不足」と認めていません

もう1つ、押さえておきたいことがあります。

⚠️ FDAの公式のドラッグショーテージ・データベースには、エストラジオール貼付剤が「不足」として登録されていません。 一方で、ASHPは複数のメーカー・複数の規格で供給の制約を記録しています。

投資家にとって、この食い違いは重要です。 公式に「不足」と認定されると、特例の輸入や増産の後押しといった制度が動きます。認定されていない間は、それが動きません。

薬の値決めと制度の関係はAI医療機器と保険の記事で、患者数が少ない薬の採算はオーファンドラッグの記事で扱いました。 供給が詰まる論点そのものは半導体メモリの記事にもあります。

関連企業と日本の接点

⚠️ 以下は「この論点に関係する上場企業」の整理で、投資対象として推奨するものではありません。

① 米国で貼り薬を作っているメーカー

企業(ティッカー)この話での位置
ヴィアトリス(VTRS・米ナスダック)後発薬の大手。週1回型・週2回型とも供給ありとされています
サンド(SDZ・スイス取引所)ノバルティスから分離した後発薬専業。一部規格が割当・入荷待ちです
テバ(TEVA・米NYSE)後発薬の世界大手。本件での供給状況は個別に公表されていません

② 🔴 品薄になっている製品の作り手は、日本の会社でした

供給不足と報じられている「ノーベン」は、独立した米国企業ではありません。

ノーベン・ファーマシューティカルズは、日本の久光製薬の米国子会社です。フロリダ州マイアミの自社工場で、ヴィヴェル・ドットやミニヴェルといったエストラジオール貼付剤を製造しています。

つまり、米国で品薄になっている貼り薬の一部は、日本企業の製品です。

ところが、その久光製薬の株は、もう買えません。

2026年1月6日MBO(経営陣による買収)を発表。1株6,082円・総額およそ4,000億円
2026年2月19日公開買付けが終了
2026年5月11日上場廃止

日本の貼付剤の代表企業は、この論点が表面化する直前に株式市場から退出していました。

国内の貼付剤メーカーは、ほかも上場していません。 帝國製薬(香川県)、テイカ製薬(富山県)はいずれも非上場です。

③ 上場している日本企業

企業(証券コード)この話での位置
日東電工(6988・東証プライム)経皮吸収型製剤(テープ剤)を手がけています。粘着技術を医薬に応用してきた会社です

⚠️ 日東電工がエストラジオール貼付剤に関与しているかは、本記事では確認できませんでした。 「同じ経皮吸収型製剤の分野にいる」という以上のことは言えません。また同社は電子材料が主力で、医療関連の売上比率は限られます。

④ この1年、株価はどう動いたか

後発薬の3社が上げているのは、業界全体の再編や価格環境など別の要因が大きいと考えられます。この品薄だけで説明することはできません。

それでも、1つだけ言えることがあります。 供給不足と名指しされているノーベンの親会社は、この1年の株価チャートに載せられません。上場していないからです。

フクリの見方

結論

この品切れは、需要予測の失敗ではありません。規制が需要を動かす速さと、工場が供給を動かす速さの差です。そして日本の投資家にとっては、当事者の株が買えないという点のほうが重い事実です。

理由は1つです。規制の変更は1日で効きますが、貼り薬の増産には1年かかるからです。

FDAが警告を外したのは2025年11月10日。 医師の処方は、その日から変えられます。けれど工場のラインの割り当ては、年の計画で決まっています。

需要は即日で動き、供給は年単位でしか動きません。 しかも今回動いたのは、20年かけて溜まった需要でした。

使う人は4人に1人→25人に1人→20人に1人。20年かけて減った処方が、数か月で戻り始めました
詰まったのは成分ではなく剤形。同じ成分の錠剤で大きな不足は起きていません
FDAは公式に「不足」と認定していない。認定が無い間は、制度による後押しも動きません

投資家として見るべき変化は、この1品目の話ではありません。

規制緩和が、供給ショックの引き金になりうるという型そのものです。 これまで「規制強化=供給リスク」と考えられてきましたが、緩和も同じくらい供給を揺らします。 需要側の蛇口を開ける判断は、作る側の準備期間を待ってくれません。

そして日本にとっては、別の教訓があります。 米国で不足している貼り薬の作り手が日本企業だったのに、その株はもう買えません。 国内の貼付剤メーカーは、上場している会社のほうが例外という状態になっています。技術で世界に出ている分野なのに、投資家がそこに参加する手段が減っています。

この見立てが外れる条件

何を見ていればいいのか

見るものどこで分かるか何が起きたら見立てが変わるか
FDAのドラッグショーテージ・データベースFDAの公表サイト正式に「不足」として登録されたら、制度が動き始めます
ASHPの供給情報同団体の公表ページ「入荷待ち」の規格が減れば、増産が効き始めたことになります
後発薬各社の決算での言及各社の決算説明資料設備投資やライン増設に言及があれば、一時的ではないと各社が判断したことになります

まとめ(3行)

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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