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1年で8倍になった半導体株がある——「値段は下がり続ける」という前提が、メモリだけ壊れた

2026.08.20 ・ 執筆:フクリ
1年で8倍になった半導体株がある——「値段は下がり続ける」という前提が、メモリだけ壊れた

📌 本記事は公開情報(各社の決算説明・発表、業界紙の報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月20日時点のものです。

半導体は、年を追うごとに安くなる。

これが半世紀ものあいだ、この産業の前提でした。同じ性能なら値段が下がり、同じ値段ならもっと性能が上がる。パソコンもスマートフォンも、その前提の上に成り立っています。

その前提が、メモリだけ壊れました。

何が起きているのか

値段が、1年で4倍になりました。

品目2025年9月ごろ2026年倍率
32GB DDR5(個人向け)100ドル400ドル超(8月)4倍超
64GB DDR5 RDIMM(サーバ用)873ドル(第1四半期)1,586ドル(第4四半期見込み)1.8倍

DDR5とは、いまのパソコンやサーバに入っているメモリの規格です。RDIMMはサーバ向けの、より信頼性の高い形。どちらもデータを一時的に置いておく場所で、記録を保存するSSDやハードディスクとは別のものです。

そして、買おうとしても順番が来ません。

  • SK ハイニックスは、HBM・DRAM・NANDの生産枠が2026年分すべて完売していると説明しています(2025年10月の決算説明)⚠️ これは同社が自社について述べたもので、業界全体の数字ではありません
  • 注文から納品までの期間(リードタイム)が40週を超えるケースが出ています
  • ある部品メーカーの経営者は「すべてのNANDメーカーが2026年は完売だと言った」と述べています

⚠️ 40週は約9か月半です。いま発注しても、届くのは来年の春以降になります。半導体の製造そのものの複雑さは半導体の記事で扱っています。

なぜメモリだけ逆を向いたのか

最も大きな理由はAIです。ただし、多くの人が思うのとは少し違う筋道です。

⚠️ ほかの要因もあります。 各社が過去の値崩れに懲りて設備投資を抑えてきたこと、古い規格(DDR4など)の生産終了が重なったこと——これらも重なっています。以下はいちばん効いている筋道の説明であって、唯一の原因という意味ではありません。

HBMとは High Bandwidth Memory(広帯域メモリ)の略で、メモリのチップを何段も積み重ねて、データのやり取りを速くしたものです。AIの計算では膨大なデータを高速で出し入れするため、GPUのすぐ隣にこれを置きます。普通のDRAMより何倍も高く売れます。

メーカーの立場で考えると、当然の選択です。 同じ工場、同じ設備で作れるなら、高く売れて、しかも数年先まで注文が確定しているほうを優先します。

⚠️ これは「AIがメモリを食い尽くした」という話ではありません。 作る側が、利益の大きいほうへ自分で枠を移したことが大きく効いています。需要が増えたというより、配分が変わったという筋道です。

AIの計算資源そのものの値段については推論の値段の記事で、AI設備投資の規模はGPUを担保にする金融の記事で扱っています。

「金より高い」は本当か、計算してみました

この不足を語るとき、「メモリは金より高い」という言い方をよく見ます。

本当でしょうか。実際に割り算してみました。

1グラムあたり金と比べると
(COMEX先物・8月20日)146.9ドル
DRAMチップ単体(1個20ドル/約0.4g)50.0ドル0.34倍
サーバ用64GB RDIMM(1,586ドル/約80g)19.8ドル0.13倍
32GB DDR5キット(400ドル/約65g)6.2ドル0.04倍

金の半値(0.5倍)に届くものはありませんでした。 いちばん高いチップ単体でも金の3分の1です。

重量は製品によって幅があるため、上の数字は目安です。 それでも、桁が変わるほどの差はありません。 「金より高い」という表現は、比喩として使われているのであって、計算した結果ではないと考えたほうが正確です。

では、何が本当に金を超えたのか。 値上がりの速さです。

同じ1年で、金は1.35倍。それに対し、メモリ最大手のマイクロンの株価は7.96倍になりました。株価は会社の価値であって、メモリそのものの値段ではありません。それでも、資本市場がこの1年でどちらに賭けたかは、この2つの数字がはっきり示しています。

いつまで続くのか

業界の側は、少なくとも2027年半ばまでと見ています。

発言者見通し
Apacer(台湾のメモリ企業)の経営者深刻な不足は少なくとも2027年半ばまで続く。値上がりの速度は2027年後半に緩むかもしれない
SK ハイニックス2026年分は完売。不足は2030年以降まで続く可能性に言及

これらは企業の見通しであって、確定した予測ではありません。 供給不足を語る当事者は、価格が上がるほうが利益になる立場でもあります。その点は差し引いて読む必要があります。

半導体には、これまで何度も同じ波がありました。 値段が上がる → 各社が工場を建てる → 数年後に供給が過剰になる → 値崩れする、という循環です。仕組みはシリコンサイクルの記事で扱っています。今回だけがその循環から外れる、と考える理由は今のところありません。

関連企業と日本の接点

⚠️ 以下は「この論点に関係する上場企業」の整理で、投資対象として推奨するものではありません。

① メモリを作っている側

企業(ティッカー)この話での位置
マイクロン・テクノロジー(MU・米ナスダック)米国唯一の大手メモリメーカー。DRAM・NAND・HBMすべてを手がけます
SK ハイニックス(000660・韓国取引所)HBMで先行。生産枠の完売を最初に説明した会社です
サムスン電子(005930・韓国取引所)メモリ最大手。HBMでは追う立場とされます

韓国の2社は日本の証券会社では原則として直接買えません。 韓国市場は外国人の個人投資家の直接取引に制限があり、通常は投資信託やETFを通じた間接的な形になります。

② 日本の接点

企業(証券コード)この話での位置
キオクシア(285A・東証プライム)NAND型フラッシュの大手。DRAMは手がけていません
東京エレクトロン(8035・東証プライム)半導体製造装置。メーカーが増産に動けば装置需要につながります
アドバンテスト(6857・同)半導体検査装置。HBMの検査工程で存在感があります

キオクシアの経営が揺れた経緯キオクシアの記事で扱いました。メモリは値段の波が大きく、会社の体力を直接左右します。

メモリ不足は、日本の消費者にも直接届きます。 パソコン、スマートフォン、ゲーム機、家電——メモリが入るものすべての原価が上がります。値上げか、性能を抑えるかのどちらかで吸収されます。

フクリの見方:これは不足ではなく、優先順位の変更です

見立て

メモリが足りないのは、作れなくなったからではありません。作る側が、儲かるほうへ枠を移した結果です。

理由は、不足の起き方にあります。

工場が壊れたわけでも、材料が採れなくなったわけでもない
同じ設備で作れるHBMのほうが高く売れ、数年先まで注文が確定している
だから一般向けが後回しになった——数量ではなく配分の問題

この違いは、企業の業績を読むときの論点になります。 作れないことが原因なら、解決には新しい工場と数年の時間が要ります。配分が主な原因なら、AI向けの注文が緩んだときに枠が戻る余地があります。 ただしすぐに戻るわけではありません。 製造ラインの切り替えには時間がかかり、顧客との契約も先まで結ばれています。

反対の見方もあります。 AI向けの需要はまだ数年ぶん確定しており、当面は緩まない。しかも各社は過去の値崩れに懲りて慎重にしか増産しない——という読み方です。実際、SK ハイニックスは2030年以降まで続く可能性に触れています。

それでもこの見立てを採るのは、この産業が同じ循環を何度も繰り返してきたからです。 値段が上がれば各社は必ず設備を増やします。そして増やした設備は、需要が緩んでも止まりません。 過去の値崩れは、いつもそこから始まっています。

この見立てが外れる条件

何を見ていればいいのか

見るものどこで見られるかどう読むか
各社の設備投資額マイクロン・SKハイニックス・サムスンの決算増産に舵を切るか
リードタイム業界紙の調査40週が縮まるか
個人向けメモリの店頭価格通販サイトの価格推移生活者に届く形での変化

まとめ(3行)

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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