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AI医療機器はなぜ売れているのか——収益の出どころが「制度」と「紹介料」だったとき

2026.08.14 ・ 執筆:フクリ
AI医療機器はなぜ売れているのか——収益の出どころが「制度」と「紹介料」だったとき

📌 本記事は公開情報(STATの報道、CMSの制度資料、各社発表)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月14日時点のものです。

AIが医療に入っています。 画像を読んで異常を見つける、検査の順番を組み替える、記録を書く。導入の発表は毎月のように出ます。

そこで1つ問いを立てます。その売上は、製品が優れているから立っているのでしょうか。

最長3年だけ、上乗せで払う制度

米国の高齢者向け公的医療保険をメディケアといいます。入院医療の支払いは、病名や処置ごとに「1件いくら」と決められた定額が基本です。

この定額のままだと、新しくて高い技術は使われません。 使うほど病院の持ち出しが増えるからです。

そこで用意されているのが、新技術上乗せ払い(NTAP)と呼ばれる制度です。

条件は3つで、新しいこと定額の支払いより明らかに高くつくこと臨床上の意味ある改善が示せることです。⚠️ 「新しいこと」の判定は、既存の類似製品が市場に出てからの経過期間などをもとに行われますが、細かい要件は制度資料にあたる必要があります。

期間は特定の用途について最長3年金額は技術の費用の65%が上限とされます。

上乗せは、必ず切れる

制度の設計としては合理的です。 新しい技術に一時的な補助を出し、その間に価値を証明してもらう。問題は、売る側がこれをどう使うかです。

医療分野の報道機関STATによれば、AI医療機器を手がける企業の幹部は、営業の場面でこう説明しているといいます。

病院が「投資に見合うかどうかの前提を100%は信じられない」と思っていても、数年間はセーフティネットがある。

この一文は、裏返すと重い意味を持ちます。 契約済みでまだ売上になっていない分をどう見るかは受注残の記事でも扱いました。

しかも入口が狭くなろうとしている

もう1つ、見落とせない動きがあります。

画期的機器の指定とは、命に関わる病気などに対して大きな改善が見込まれる医療機器を、FDA(米食品医薬品局)が優先して審査する仕組みです。通常の承認・認可とは別に与えられる位置づけで、審査が速く進みます

この上乗せ払いには、その指定を受けた製品向けに条件をゆるめた別ルートがありました。 2020年に作られたもので、臨床上の改善が示されたものとみなして通す形です。

2026年5月、CMS(メディケアを運営する当局)がこの別ルートの廃止を提案しました。

⚠️ 提案の段階であり、確定した制度変更ではありません。 それでも方向としては、上乗せを受ける入口が広がるのではなく、狭まる側に動いていることになります。

つまりこの分野は、2つの締めつけを同時に受ける形になります。 すでに上乗せを取っている製品は期限が来れば切れる。これから取ろうとする製品は入口が狭くなる

もう1つの出どころ——紹介料

制度とは別に、もう1つの話があります。

診療所向けにAIツールを売る、評価額70億ドルの医療ソフト企業が、顧客を紹介した相手に数千ドルを支払う制度を打ち切りました。 2026年8月6日付で「30日後に契約を終了し、未払い分は全額支払う」と通知したと報じられています。

STATは同社に2026年6月5日に取材を申し入れ、その後この件を報じました。⚠️ 打ち切りと報道の前後関係は報じられているとおりですが、両者に因果関係があると確認されたわけではありません。

これが違法だと確定した話ではありません。 米国には、公的医療保険が関わる取引で紹介の見返りに金銭を払うことを禁じる法律(反キックバック法)がありますが、この件がそれに触れると判断されたわけではありません。 ここは論点として書いています。

この件で見るべきは、合法かどうかより後の経過です。 紹介料の制度が終わった後、導入や継続がどう推移するか。それが分かるのはこれからです。

関連企業と日本の接点

⚠️ 本記事に出てくるAI医療機器の企業(Aidoc、Commure)はいずれも未上場で、日本の個人投資家が直接買える対象ではありません。以下は「この制度の中で事業を行っている企業」の整理です。

① 画像診断などでAIを扱う上場企業

企業この話での位置
GEヘルスケア(GEHC・米ナスダック)画像診断装置とソフト。日本の取引所には上場していません
フィリップス(PHG・オランダ/米ADR)同上
シーメンス・ヘルスィニアース(独)同上
iRhythm(IRTC・米ナスダック)心電図モニタリング。同上

これらの企業が上乗せ払いにどれだけ依存しているかは公表されていません。 「同じ制度の中にいる」という以上の関係を示すものではありません。

② 日本の接点

日本にも、プログラム医療機器(ソフトウェアとしての医療機器)を保険の対象にする仕組みがあります。ただし米国のNTAPと同じ形ではありません。

日本で医療AI・医療ITに関わる上場企業には、エムスリー(2413・東証プライム)などがあります。ただし各社の事業は幅広く、AI医療機器だけで業績が決まるわけではありません。

バイオ・医療を投資テーマとして見る視点はバイオテック株の記事で、治験や承認をめぐる情報の扱いは予測市場の記事で扱っています。

関連4社の株価は、この1年どう動いたか

大手2社はおおむね横ばい、専業寄りの2社は2割以上下げました。 チャートを見ると、前半は4社ともほぼ同じ動きで、差が開いたのは後半です。

この差をAI医療機器の話で説明することはできません。 4社は事業構成も規模もまったく違い、株価はそれぞれの事情で動きます。確認できるのは「AI医療の話題は増えたが、関連する上場企業の株価はこの1年上がっていない」という事実だけです。

フクリの見方:見るべきは導入数ではなく、上乗せが切れた後の継続率

「AI医療機器の実力は、導入した施設の数ではなく、上乗せが切れた後も使われ続けているかで測るべきだ」という見立てです。

理由は1つです。上乗せがある間は、製品が見合わなくても導入できてしまうからです。3年の補助を前提に売られた製品は、3年後に初めて、定額の支払いだけで採算が取れるかを問われます

そして、その答え合わせはこれから来ます。 上乗せの入口が狭まる提案が出ている一方で、すでに上乗せを取った製品の期限は順番に到来するからです。導入が増えている今の数字だけを見ると、この時間差を見落とします。

産業として追うなら、何を見るか

見るものどこで分かるか何が言えるか
上乗せ終了後の継続率各社の決算・開示この産業の実力を最も直接に示す数字です。公表する会社が出てくるかどうか自体も情報になります
CMSの制度変更の行方CMSの規則・パブリックコメント別ルートの廃止提案が通るか。入口の広さが決まります
売上に占める新規と継続の比率各社の開示新規導入で伸びているのか、使い続けてもらえて伸びているのか

逆に、上乗せが切れた製品の継続率が高いと分かれば、この見立ては外れます。 そのときは、制度ではなく製品の力で売れていたことになります。

この見立てが外れる条件

まとめ(3行)

売上を見るときは、それがどこから出ているお金なのかを分けて見る。 制度から来ているのか、顧客の満足から来ているのか。いっしょに見ていきましょう。

情報源・参考

  • STAT「How Medicare pays for new AI medical devices」(2026年8月13日。上乗せ払いを販売に使う実態、企業幹部の発言):statnews.com 有料記事のため、本記事は読めた範囲と他の公開情報にもとづいています。
  • STAT「Commure terminates payments under customer referral programs」(2026年8月13日。紹介料制度の打ち切り):statnews.com 同上。
  • 新技術上乗せ払い(NTAP)の仕組み(3つの条件、最長3年、費用の65%が上限):advisory.avalerehealth.com
  • CMSによる「画期的機器」向け別ルートの廃止提案(2026年5月):ropesgray.com
  • 株価は週次終値(2025年8月〜2026年8月14日)をFukuriが集計し、1年前を100として指数化しました。配当は含めていません。エムスリーは円建て、他の3社は米ドル建て(フィリップスは米国預託証券)です。
免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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