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未上場AI企業に殺到するお金は健全か──Coatue共同創業者がAll-Inで語った「2026年・4兆ドルIPOの波」と、個人投資家が知るべき裏口のリスク

2026.07.03 ・ 執筆:フクリ
未上場AI企業に殺到するお金は健全か──Coatue共同創業者がAll-Inで語った「2026年・4兆ドルIPOの波」と、個人投資家が知るべき裏口のリスク

📌 この記事は公開情報(Podcast・各社の公表・報道など)をもとにした情報提供・解説です。数値・固有名詞は執筆時点(2026年7月3日)で確認できた情報にもとづくもので、状況は今後変わり得ます。

「SpaceX・OpenAI・Anthropicの上場だけで、過去10年のベンチャー投資の出口価値の合計を超える」──。

2026年6月4日、米国の人気投資Podcast「All-In」が開いたイベント「All-In Liquidity Summit」で、著名テック投資ファンドCoatue(コーチュー)の共同創業者トーマス・ラフォン氏がこう語りました。この講演はPodcast本編でも「Thomas Laffont: The $4T AI IPO Wave, 2026’s Unicorn Economy, and the 10X Paradox」というタイトルで配信され、話題を呼んでいます。

そしてこの発言のわずか8日後、SpaceXが実際に史上最大のIPOで上場。ラフォン氏の言う「流動性(=持っている資産をお金に換えやすいかどうか)の転換点」は、少なくともその一部が現実のものになり始めました。一方でその裏側では、上場前の人気AI企業の株を個人に売りつける「裏口」の市場が過熱し、OpenAIとAnthropicが異例の警告を出す事態も起きています。

先に言ってしまうと、この記事の主役はSpaceXの派手な数字ではありません。買えないはずの株を、上場前に買いたくなってしまう個人の心理と、そこに群がる商売の構図です。①ラフォン氏の分析の中身、②2026年上半期に実際に起きたこと、③個人投資家が知っておくべき裏口のリスク、④バブル論の両論、を順に整理します。

まず、何が起きたの?

All-In Podcastは、投資家チャマス・パリハピティヤ氏やジェイソン・カラカニス氏らが司会を務める米国の人気番組です。その特別イベントとして2026年6月4日に開かれたのが「Liquidity Summit(流動性サミット)」で、目玉ゲストがCoatue共同創業者のラフォン氏でした。講演資料はCoatueが「State of the Union 2026」として公式サイトで公開しています。

ラフォン氏の分析の核心はこうです。

  • ユニコーン経済は数年ぶりに健全化した(とラフォン氏は見る):AIが成長のエンジンとなり、資金が本当に伸びている企業へ集中する構造に変わった。
  • 同氏が「マグニフィセント8」と呼ぶ未上場企業群──SpaceX・OpenAI・Anthropic・Stripe・Databricks・Revolut・ByteDance・Anduril──の評価額合計は約4兆ドル規模。日本の名目GDP1年分に匹敵する金額です。
  • そして2026年は、この巨大な未上場企業の価値が正面玄関であるIPOから一気に公開市場へ流れ出す転換点になる、というのが「4兆ドルIPOの波」論です。

📝 念のため:これはCoatueという当事者(未上場AI企業の大口投資家)による分析・見解であり、中立的な統計ではありません。同社はAnthropicの2026年2月の資金調達(評価額3800億ドル)を主導した投資家でもあります。ポジションを持つ側の強気分析である点は割り引いて読む必要があります。

「10Xパラドックス」──大きくなった企業ほど、さらに大きくなってきた

講演で特に注目されたのが、ラフォン氏が示した過去データの整理です。

普通に考えれば、企業は大きくなるほど成長が鈍るはずです。ところが過去のデータでは、評価額1000億ドルに達した企業の31%がさらに10倍(=1兆ドル規模)に到達してきた──小さい段階より、むしろ大きくなってからのほうが「次の10倍」の確率が高いというのがラフォン氏の言う「10Xパラドックス」です。勝者への集中がますます極端になる「べき乗則(パワーロー)」の世界では、価値の大部分を一握りの超大型企業が持っていく。だからこそ、その超大型企業が上場する2026年は歴史的な年になる、という理屈につながります。

実際に2026年上半期に起きたこと

ラフォン氏の分析と同じ方向を指す出来事が、2026年上半期に立て続けに起きました。

📝 用語の整理:この先「評価額」「調達額」「時価総額」という似た言葉が出てきます。評価額は未上場企業が資金調達の際に投資家と合意した「会社全体の値付け」、調達額はその際に新たに集めたお金、時価総額は上場後に市場の株価から計算される会社の値段です。評価額は公開市場の値段ではない、という点が本記事の随所で効いてきます。

史上最大となったSpaceXの上場は、既に起きた確定事実:講演の8日後の6月12日、SpaceXはナスダックに上場しました。公開価格135ドルで約750億ドルを調達し、上場時評価額は約1.77兆ドル。調達額はそれまで史上最大だったサウジアラムコ(2019年・約256億ドル)の約3倍にあたります。初日は19%高の160.95ドルで引け、時価総額は2兆ドルを突破。異例だったのは、個人投資家への配分が通常より大幅に厚かったことです(約3割が個人向けと報じられた。通常のIPOでは1桁%が多い)。ただしその後は6月16日に225.64ドルの高値をつけたあと反落し、6月下旬には153ドル前後と、高値から約3割下の水準で推移しました(出典:CNBC・Forbes、2026年6月時点)。

続くOpenAIとAnthropicは、まだ準備段階で上場は未確定:OpenAIは5月22日、Anthropicは6月1日に、それぞれ非公開のS-1(上場申請の下書き)をSECに提出したと報じられています。詳しくはAnthropicのIPO申請を深掘りした記事にまとめましたが、OpenAIについては上場を2027年まで先送りする可能性も報じられており、「波」が本当に続くかはまだ確定していません。

評価額の急伸:この間、未上場AI企業の評価額そのものも急ピッチで切り上がりました。OpenAIの資金調達時の評価額の推移を見てみましょう。

OpenAIの企業評価額の推移 1570億㌦ 3000億㌦ 約4000億㌦ 8520億㌦ 2024年10月 2025年3月 2025年10月 2026年3月末 単位:米ドル(資金調達・株式売却時の評価額)/出典:各種報道。2025年10月は従業員向け株式売却時の評価額。
OpenAIの企業評価額の推移(資金調達等の時点・報道にもとづく)。約1年半で5倍超に急伸したが、これは未上場企業が投資家と合意した評価額であり、公開市場でついた株価ではない。将来の株価や上場時の評価を示すものでもない。

Anthropicも2025年1月の600億ドルから2026年5月末には9650億ドルへと約16倍に急伸(推移グラフはこちらの記事)。xAIも2026年1〜3月期に約200億ドルを調達した(評価額ではなく調達額)と報じられています。検索AIのPerplexityは評価額約200億ドル台と報じられますが、年間経常収益は数億ドル規模との報道もあり、評価額と足元の売上の間には大きな開きがある企業も含まれます(いずれも報道ベース・執筆時点)。

ここが本題:正面玄関が開く前に、「裏口」に並ぶ個人投資家

ここからが、この記事でいちばん伝えたいポイントです。

ラフォン氏の言う「流動性の転換点」とは、IPOという正面玄関が開くという話です。ところが現実には、正面玄関が開くのを待ちきれない個人マネーが、裏口に殺到しています。「上場したら値上がりしそうな人気企業の株を、上場前に安く仕込みたい」──この心理は自然なものですが、未上場株の世界では、その自然な心理こそが最大の弱点になります。

大前提として、未上場企業の株式は、個人が証券口座で直接買うことはできません。それでも「買える」とうたう入口が2026年に入って急増しました。

それぞれの仕組みをもう少し詳しく知りたい方は、SPV・トークン化株式・デリバティブの入門記事で一つずつ整理しています。

この過熱に対し、2026年5月、当事者であるOpenAIとAnthropicが相次いで異例の警告を出しました。両社は、取締役会等の承認なしに行われた株式の売買・譲渡は「無効(void)である」と明言し、直接販売・フォワード契約(将来の株式引き渡しを約束する取引)・トークン化証券などをうたう第三者について「詐欺に関与しているか、譲渡制限により無価値になり得る商品を売っている可能性が高い」とまで踏み込みました(出典:TechCrunch 2026年5月12日、両社公式サイト)。この警告を受け、未上場AI株に連動するとされたトークンは約4割急落しています(出典:CoinDesk 2026年5月13日)。

SPVの手数料問題も深刻です。米Forbesの調査報道(2026年5月26日)は、SPVが何層にも重ねられ、各層で管理報酬と成功報酬が差し引かれる実態を伝えています。PitchBookのアナリストが挙げた試算では、3層のSPVを通じて200万ドル投資し、上場時に持ち分が1000万ドル相当になったケースでも、利益の半分近くが仲介業者の手数料に消える計算になります。しかも投資家は株式を直接保有していないため、換金の道筋自体が不透明です。

一方で、セカンダリー市場(未上場株の転売市場)そのものは制度化が進んでいます。2026年2月には米モルガン・スタンレーがEquityZenを買収、チャールズ・シュワブも大手プラットフォームForgeの買収を発表するなど、大手金融機関が相次いで参入しました。2026年1〜3月期のセカンダリー取引は、評価額200億ドル超の大型企業に取引の過半が集中したと報告されています(出典:EquityZen)。つまり「未上場株の売買」自体は金融の一分野として拡大しているのですが、正規のセカンダリー市場ですら原則としてプロ・適格投資家向けであり、日本の個人が気軽に参加できる市場ではありません。

日本の読者にとって特に注意したいのは、この「買えないはずのものが買える」という誘い文句が、昔から未公開株詐欺の定番だという点です。投資詐欺・怪しい儲け話の見分け方で解説したとおり、金融庁・証券取引等監視委員会はかねてから無登録業者による未公開株の勧誘に注意を呼びかけています。「話題のAI企業の株が上場前に買える」という勧誘を受けたら、まず業者が金融商品取引業の登録を受けているかを確認する──それだけで大半の危険は避けられます。海外のプラットフォームも多くは日本居住者向けのサービスではなく、税務・法務上の扱いも複雑です。

で、結局バブルなの?──強気と慎重、両方の見方

「未上場AI企業バブル」なのかどうか。ここは断定せず、両方の見方を並べます。

強気側(ラフォン氏ら)の論拠

  • 2021年の未上場ブームと違い、今回は売上の実態がある。Anthropicの年間経常収益(ARR=毎月の売上を12倍した年換算の数字)は2026年5月中旬時点で約470億ドルと報じられ、評価額の急伸は売上の急拡大とほぼ歩調を合わせている。
  • ユニコーン経済は資金が勝者に集中する形で「数年ぶりに健全化」した(ラフォン氏の見方)。IPOという出口が開くことで、未上場市場に滞留していた資金が循環し始める。
  • 公開市場に出てくれば、個人も開示情報にもとづいて検討できるようになる(ただし上場株でも値動きの荒さや投資の適合性の問題は残る)。

慎重側の論拠

  • 国際決済銀行(BIS)は、AIバブルの崩壊と「循環取引」(AI大手同士が互いに出資・発注し合い、評価を押し上げ合う構図)の破綻を、世界の金融システムの主要リスクに挙げたと報じられている。大手運用会社からも同様の懸念が発信されている。
  • 全米経済研究所(NBER)が2026年2月に公表した研究では、職場の生産性にAIが影響を与えていないと回答した企業が9割にのぼったと報告された。巨額の評価額に見合う収益が経済全体で生まれるかは、まだ証明されていない。
  • 循環取引の構図は、ドットコムバブル末期の「ベンダーファイナンス」(通信機器メーカーが顧客に融資して自社製品を買わせた構図)と似ているという指摘がある。
  • SpaceX株が上場直後に高値から約3割下落したように、「話題の超大型IPO」ほど初期の値動きは荒く、期待先行の値段はすぐに試される。

投資家として、どう読む?

  • ① 「上場前に買えばもうかる」は成立しない前提で考える:未上場株は個人が直接買えず、裏口の商品は当事者企業自身が「無効・無価値になり得る」と警告しています。「限定」「今だけ買える」という誘いほど、怪しい儲け話の典型に近づきます。
  • ② 正面玄関が開くのを待つ選択肢がある:上場すれば、財務や事業の開示情報を確認したうえで検討できるようになります。IPOの仕組みの記事で解説したとおり、上場直後は値動きが荒れやすく、SpaceXの例でも上場直後の過熱と反落が数日のうちに起きました。
  • ③ 評価額は「値段」であって「価値の証明」ではない:資金調達時の評価額は投資家との合意値であり、公開市場の株価とは別物です。リスクとリターンの関係に照らせば、高い期待が織り込まれた資産ほど、期待が外れたときの下落も大きくなります。

フクリの見方

ラフォン氏の「4兆ドルIPOの波」は、当事者の強気を差し引いて読む必要がありますが、2026年の未上場市場で大きな地殻変動が起きていること自体は、SpaceXの上場やS-1提出の報道が示すとおりです。ただ、フクリが気になるのは波そのものより、波を見て焦る個人の心理のほうです。「上場したら手が届かなくなる。今のうちに──」という気持ちが、手数料の何層構造も、譲渡制限も、「無効」警告も見えなくさせます。皮肉なことに、正面玄関が開く年だからこそ、裏口の商売がいちばん活気づくのです。急成長企業の物語に乗りたい気持ちは分かりますが、資産の土台は分散投資で守りつつ、話題の企業は「上場して、開示が出そろってから、ポートフォリオの一部として検討する」──そんな地味な順序も有力な選択肢だと、フクリは考えています。

まとめ(3行)

  • Coatue共同創業者ラフォン氏がAll-Inのイベント(2026年6月4日)で「2026年は未上場市場の流動性の転換点」と分析。8日後にSpaceXが史上最大IPOで上場し、OpenAI・Anthropicも非公開S-1を提出済み。
  • 一方で上場前の人気AI株を個人に売る「裏口」(SPV・トークン・デリバティブ)が過熱し、OpenAI・Anthropicは承認なき譲渡は「無効」と異例の警告。多層SPVでは利益の半分近くが手数料に消える試算もある。
  • 強気(売上を伴う健全化)と慎重(循環取引・収益実証はこれから)の両論があり、個人にとっては「上場後に開示を見てから検討する」という選択肢が常にある。

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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

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