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衛星画像でデータセンターを数える会社が映す、AIの次のボトルネックは「電力」

2026.06.30 ・ 執筆:フクリ
衛星画像でデータセンターを数える会社が映す、AIの次のボトルネックは「電力」

📌 はじめに この記事は公開情報(調査会社のレポート・各社の決算発表・報道など)をもとにした情報提供・解説です。特定の銘柄の売買を勧めるものではなく、後半で挙げる関連企業の一覧も「どんな会社がこのテーマに関係しうるか」という事実の整理であり、投資の推奨ではありません。運営・筆者は本記事で取り上げる企業の株式を保有していません。数値・固有名詞は執筆時点(2026年6月30日)で確認できた一次情報・報道にもとづくもので、状況は今後変わり得ます。

AIの最前線で、いま最も読まれている調査会社のひとつに SemiAnalysis(セミアナリシス)があります。創業者のダイラン・パテルは「半導体とAIインフラの権威」と呼ばれ、その分析はエヌビディアのような巨大企業から大手投資家までが参照しています。

そのSemiAnalysisが繰り返し発しているメッセージが、今日のテーマです。「AIを伸ばすうえでの制約は、半導体(チップ)の不足だけでなく、それを動かす電力にも広がってきた」――。この記事では、①SemiAnalysisとは何者か、②なぜ電力がボトルネックなのか、③そのお金がどの産業に流れるのか、を順に整理します。

ちなみに、あなたがAIに質問して答えが返ってくるその裏側では、どこかのデータセンターでGPU(AI半導体)が動き、それを冷やし、電気を送るための設備が休みなく稼働しています。AIの「賢さ」は、こうした物理的なインフラの上に成り立っています。

まず、SemiAnalysisって何者?

SemiAnalysisは、半導体とAIインフラを専門に分析する調査会社です。特徴的なのは、その調査のやり方です。

彼らは世界の5,000以上のデータセンターを追跡しています。しかも、企業の発表を待つだけでなく、不動産登記・電力使用量・情報公開請求(FOIA)・衛星画像まで使って、「どこに、どれだけの規模の施設が、いつ建つのか」を独自に積み上げています。いわば、宇宙からデータセンターの建設を数えているわけです。

SemiAnalysisの調査手法
衛星画像建設の進捗を上空から把握
電力・登記データ使用量や不動産記録を収集
独自モデルで推計5,000超の施設を追跡
顧客は巨大企業ハイパースケーラーや投資家
SemiAnalysisは公開情報を地道に積み上げてデータセンターの実態を推計している。数値は同社による推計値。

報道によれば、SemiAnalysisは2026年に1億ドル超の売上を見込むまでに成長したとされます(情報源:The Information/Bens Bites)。AIインフラの「お金の流れ」を、これほど細かく地図にしている民間の存在は珍しく、だからこそ業界の注目を集めています。

なお、こうした推計はあくまで民間調査会社の見立てです。後で触れる国際エネルギー機関(IEA)など、他の機関とは数字の前提や定義が異なる点には注意が必要です。AIと半導体の関係をもう少し基礎から知りたい方は、半導体の基本AIと投資もどうぞ。

なぜ「電力」がボトルネックなの?

少し前まで、AIの制約といえばGPU(AI半導体)の不足でした。エヌビディアのチップが手に入らない、という話です。ところがチップの供給が改善するにつれ、より根深い壁が見えてきました。それを動かす電気が足りない、という問題です。

SemiAnalysisの推計では、世界のデータセンターのIT臨界電力は2023年の約49GW(ギガワット)から、2026年には約96GWへと、おおよそ倍増する見通しです。そのうちAIが約40GWを占めるとされます。米国に限ると、AI向けの電力需要は2023年の約3GWから2026年には28GW超へと、桁違いの伸びを見せると同社は分析しています。

世界のデータセンター電力需要(SemiAnalysis推計) 49 GW 96 GW 40 GW 2023年 世界DC全体 2026年 世界DC全体 2026年 うちAI分 単位:GW(データセンターのIT臨界電力)/出典:SemiAnalysis推計
世界のデータセンター電力需要の見通し(出典:SemiAnalysis "Datacenter Industry Model" の推計値・2026年6月時点で確認)。これは「予測」であって確定値ではなく、前提が変われば数字も変わる。国際エネルギー機関(IEA)は同じテーマを消費電力量(TWh)という別の単位で測っており、機関ごとに前提・定義が異なる点に注意。

1GWはおおむね大型の発電所1基ぶんに相当します。データセンターのために、数十基の発電所ぶんの電気を数年で追加で用意する――。電気は工場のように一夜で増やせず、送電線の新設にも時間がかかります。そのため、ここが詰まるとチップがあっても計画どおりにAIを動かしにくくなる。これが「電力がボトルネック」と言われる理由です(もっとも、自家発電や立地の工夫、計算の効率化といった回避策もあり、制約のすべてが解けないわけではありません)。

電気代が上がる?――家庭への意外な波及

この電力争奪は、私たちの生活にも飛び火し始めています。

米国最大級の電力市場 PJM(東部13州をカバー)では、将来の供給力を確保する「容量市場」の価格が、2025/26年度に前年の約9.3倍へ跳ね上がりました(出典:SemiAnalysis/IEEFA)。SemiAnalysisの分析では、PJM圏の6,700万人の住民の電気代が、AIデータセンター普及前と比べて2026年に平均で約15%上がる見込みで、標準的な家庭で月25〜30ドルほどの負担増になるとされます。

ただしSemiAnalysisは、ここで踏み込んだ指摘をしています。値上がりの主因はAIそのものというより、市場制度(容量オークションの設計)にあるというのです。実際、同じようにデータセンターが増えているテキサス州(ERCOT)では、市場の作りが違うため電気代がこの3年ほぼ横ばいだといいます。

📝 念のため:「AIのせいで電気代が上がる」という単純な話ではない、という点が重要です。データセンターの需要増が容量コストを押し上げた面は確かにある一方、その負担が家庭に回る度合いは地域の制度設計しだいで大きく変わります。原因を一つに決めつけない見方が役立ちます。

その電気は、どこから来るの?――ガス・原子力・再エネの綱引き

「電力が足りない」と言うとき、もうひとつ大事な論点があります。足りない電気を、何で作るのか――です。データセンターは、工場や家庭と違って24時間365日ほぼ一定の電気を必要とします。風が止んでも陽が沈んでも止められない。この「安定して供給できる電源(firm power)」をどう確保するかが、いま電力会社とAI企業の最大の悩みになっています。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、2024年時点で米国のデータセンターが使う電気の電源構成は、天然ガス40%・再生可能エネルギー24%・原子力20%・石炭15%ほどでした。

データセンター電力の電源構成(2024年・米国) 40% 24% 20% 15% 天然ガス 再生可能エネ 原子力 石炭 出典:IEA(2024年・米国データセンターの電源構成)。その他1%は省略。
米国データセンターの電源構成(出典:IEA・2024年)。割合は年や集計で変わる。これは「どの電源で電気を作っているか」の内訳であって、特定の発電方式や企業を推奨するものではない。

それぞれに長所と短所があり、AI企業はこの3つを綱引きさせています。

天然ガス最速(12〜18か月で建設)・安定。ただしCO2を出す
原子力24時間クリーンで安定。ただし建設・再稼働に時間
再生可能エネ安価でクリーン。ただし天候で出力が変動する
電源それぞれの長所・短所。AI企業は「速さ・クリーンさ・安定性」を天秤にかけて電源を組み合わせている。

いま最も速く電気を増やせるのは天然ガスです。だからこそ短期では、データセンター向けのガス火力の新設計画が相次いでいます。一方で、AI企業は脱炭素の目標も抱えているため、原子力への回帰も鮮明です。たとえばグーグルは、いったん閉鎖された原発(アイオワ州のデュアン・アーノルド)を再稼働させて25年間ぶんの電気を買う契約を結びました。「再エネ最優先」だったはずの電力大手までが、AIの常時稼働を支えるには原子力が要る、と判断し始めているわけです。

さらにその先には、SMR(小型モジュール炉)という次世代の小型原発も控えています。IEAによると、データセンター企業とSMRの供給契約の枠は2024年末の25GWから、足元では45GWへと拡大しています。実用化は2030年以降とされますが、「電源の奪い合い」は十年単位の長い物語になりそうです。

このお金は、どの産業へ流れる?

電力がボトルネックということは、裏を返せば、電気を作り・送り・冷やす産業に、かつてない注文が集まっているということです。投資の世界では、金鉱に殺到する人々ではなく「ツルハシとスコップを売る人」に注目する考え方があります。AIブームにおける”ツルハシ”の一角が、この電力インフラです。

参考までに、この電力インフラの各工程に関わる上場企業の例を挙げておきます。ただしその前に、ひとつ釘を刺させてください。ここに並ぶのは「銘柄の推奨リスト」ではありません。 各社が決算で公表している事実(受注や売上の伸び)を整理したものにすぎず、その事実と「株が報われるかどうか」は別の問題です。受注が伸びていても、すでに株価に期待が織り込まれていたり、競争や納期の遅れで利益が伴わなかったりすることは珍しくありません。購入の判断材料としてではなく、産業の地図として読んでください。

電力インフラは大きく、①電気を作る発電・電力会社と、②それを送り・冷やし・制御する設備・工事の2層に分けられます。お金は、AIの計算需要を起点に、この流れ全体へ波及していきます。

AIの計算需要 → 電気が流れる道のり
① 発電ガス・原子力・再エネ
② 送配電送電線・変電・配電
③ 冷却・電源液冷・UPS・電力管理
④ 計算GPUサーバーが消費
AIの計算需要は、発電から冷却までの電力インフラ全体に波及する。各工程に異なる企業が関わる。図は関係の整理であり、特定企業の推奨ではない。

それぞれの工程に関わる上場企業の例を、各社が公表している事実ベースで整理します。

① 電気を作る:発電・電力会社の例

企業ティッカー区分各社が公表している事実
ネクステラ・エナジーNEE(米・上場)再エネ・原子力・ガスの総合電力子会社フロリダ電力(FPL)のデータセンター向け要求が約21GWに達し、半分超で交渉が進行中と公表。グーグル向けに原発(デュアン・アーノルド)再稼働の長期契約も発表
コンステレーション・エナジーCEG(米・上場)原子力中心の発電米最大級の原子力事業者。データセンター向けの長期電力供給契約を相次いで公表

📝 念のため:2026年5月、ネクステラがドミニオン・エナジー(D)を買収することで合意したと報じられました(CNBCなど)。ただし大型買収は規制当局の承認などが必要で、完了するかは今後の手続き次第です。「報道・協議の段階」と「確定」は分けて見てください。

② 送り・冷やし・制御する:設備・工事の例

企業ティッカー区分各社が公表している事実(出典:2026年Q1決算)
GEヴァーノバGEV(米・上場)ガスタービン・送電設備Q1受注183億ドル(前年同期比+71%)と発表
バーティブVRT(米・上場)電源・液冷システムQ1売上26.5億ドル(前年同期比+30%超)と発表
イートンETN(米・上場)配電・電力管理Q1売上74.5億ドル、データセンター向け受注が前年同期比+240%と発表
クアンタ・サービシズPWR(米・上場)送電線・電力インフラ工事Q1売上78.7億ドル(前年同期比+26%)、受注残は過去最高と発表

⚠️ 上記2つの表は「各社が公表している事実」の整理であり、特定の銘柄を推奨するものではありません。株価は日々変動するため、本記事では個別の株価を扱いません。また、誤読を避けるためアナリストの目標株価やレーティングも載せていません。良い材料だけを見て判断しないことが大切です。

なお、これらはいずれも米国の上場企業です。日本の個人投資家も米国株米国ETFを通じて売買はできますが、為替変動や個別企業のリスクを伴います。テーマが話題だからといって飛びつくのではなく、分散の視点を忘れないようにしたいところです。

投資家として、どう読む?

このテーマを冷静に見るために、3つの観点を置いておきます。

  • ① 期待が先に走りやすい:「電力が足りない→関連企業が儲かる」という連想は分かりやすいぶん、株価に期待が先取りされやすい面があります。受注が伸びている事実と、その株が割安か割高かは別の問題です(PER・PBRの見方)。
  • ② テーマと個別企業の成否は別物:産業全体が伸びても、競争・コスト・受注の遅延などで個別企業の業績がついてくるとは限りません。グロース株とバリュー株の視点も参考になります。
  • ③ 予測は外れうる:96GW・28GWといった数字は民間の予測で、技術の効率化(同じ計算をより少ない電力で行う)や景気で上下します。「確定した未来」ではありません。

強気の見方は「電力制約は数年続く構造問題で、インフラ投資は長期化する」。慎重な見方は「すでに期待は株価に相当織り込まれ、効率化や過剰投資の反動もありうる」。どちらか一方ではなく、両方の目で見るのが健全です。

フクリの見方

  • SemiAnalysisの面白さは、煽りではなく地道なデータで「AIの制約は電力に移った」と示している点です。話題のニュースも、こうした一次データに当たると解像度が上がります。
  • 「AIが伸びる」と「どの企業の株が報われる」は、間に多くの段階があります。テーマ買いに飛びつく前に、一点集中を避けて分散するリスクとリターンを確かめる、という基本が効きます。
  • 電気代の話のように、ひとつのニュースにも「AIのせい」で片付かない制度の事情が隠れています。原因を決めつけず、確定と未確定を切り分ける姿勢を大切にしたいところです。

まとめ(3行)

  • SemiAnalysis(ダイラン・パテル)は衛星画像などで5,000超のデータセンターを追う調査会社で、「AIの制約はチップの不足だけでなく電力にも広がった」と分析している。
  • 世界のデータセンター電力は2023年49GW→2026年96GW(うちAI約40GW)と倍増の見通しで、米国では電気代上昇という形で家庭にも波及し始めている。
  • その電気を「ガス・原子力・再エネ」のどれで賄うかが新たな綱引きになり、発電(ネクステラ等)から送配電・冷却(GEヴァーノバ等)まで広い産業へお金が流れているが、テーマの拡大と個別株の成否は別物として冷静に見る必要がある。

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

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