ルネサスのウルフスピード株は、次の決算のどこに出るのか——戻った帳簿の価値と、3か月で4割下がった株価

📌 この記事は公開情報(ルネサスの決算短信・半期報告書、米国SECへの各社の提出書類、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月22日時点のものです。
ルネサスが米ウルフスピードの破綻のあとに持つことになった株や社債は、これからのルネサスの株価と利益にどう効くのでしょうか。
株価を大きく動かす大きさではありませんが、次の決算の利益を読み違えさせる材料になる、という見立てです。 持ち分の値打ちは6月末から大きく目減りしていますが、その多くは利益の欄に出ず、一度きりの事業の売却益の陰に隠れるからです。
預け金は、株と社債に替わって手元に残った
ルネサスがウルフスピードに預けたお金は、破綻のあと、ウルフスピードの株と転換社債と新株予約権に替わりました。いまもルネサスが持っています。
ウルフスピードは、電気自動車などに使う炭化ケイ素(SiC)の半導体の材料をつくる米国の会社です。ルネサスは2023年、この材料を10年にわたって受け取る約束と引き換えに、約20億ドルを前払いで預けました。ところがウルフスピードは2025年に経営が行き詰まり、米国の破産法の手続きに入りました。
手続きのあと、預け金は次のものに替わりました(2026年6月30日時点・ルネサスの決算短信)。
| 持っているもの | 数 | 決算での扱い |
|---|---|---|
| 普通株 | 16,852,372株(8月13日時点の発行済み株数の31.8%) | 値動きは利益に出ない(その他の包括利益) |
| 転換社債(利率2.5%・2031年満期) | 転換すると11,096,247株 | 値動きが利益に出る |
| 新株予約権 | 4,943,555株分 | 値動きが利益に出る |
転換社債は、あとで決まった値段で株に替えられる社債(お金を貸した証書)です。新株予約権は、決まった値段で新しい株を受け取れる権利です。
ルネサスが議決権を使えるのは9.9%まで、転換して持てるのは39.9%まで、という制限がついています。このためルネサスはウルフスピードを子会社にも関連会社にもしておらず、持ち分を時価で評価しています。
時価で評価するとは、決算のたびに、その日の株価で持ち分の値打ちを計り直すことです。ただし、どちらの箱に入っているかで、値動きが出る場所が違います。 普通株の値動きは「その他の包括利益」という、利益とは別の欄に入ります。決算短信は、この欄を「純損益に振り替えられることのない項目」に分けており、株を売っても利益には出てきません。
6月末には、帳簿の上で損失とほぼ同じ額まで戻っていた
2025年4〜6月期の金融費用は2,397億円でした。2026年6月末の持ち分の帳簿の価値は2,345億円で、損失とほぼ同じ額まで戻っています。
金融費用と金融収益は、本業の外で、お金や持ち分の値動きから生まれる損失と利益のことです。2025年は、預け金の値打ちが下がった分がここに出ました。
日本語の報道は、2025年の「約2,500億円の損失」(日本経済新聞)の段階で止まっています。見つかった範囲では、その後に帳簿の価値が戻ったことを書いた日本語の記事はありませんでした。
戻った理由は、ウルフスピードの株価です。2025年9月に取引が始まったあと、2026年3月30日に14.80ドルの安値をつけ、5月26日には73.50ドルまで上がりました。
ルネサスの2026年4〜6月期は、金融収益が738億円(前年同期は40億円)で、株(決算書では「資本性金融資産」と呼びます)の値上がり880億円は「その他の包括利益」に入りました。6月末の普通株の帳簿の価値(1,321億円)は、株数×48.25ドル×1ドル162.63円でほぼ再現できるので、この値上がりはほぼウルフスピード株の分です。金融収益の内訳は開示されていませんが、転換社債と新株予約権の値上がりが含まれるとみられます。
その後の3か月で、株価は4割下がった
6月30日に48.25ドルだった株価は、9月21日に27.71ドルまで下がりました。42.6%の下落です。 この間に、ルネサスは取締役を引き揚げています。
6月末の米国の保有報告(13F)の株数と、8月13日時点の売り出しの登録の書類の株数は、どちらも16,852,372株で、この間に売った形跡はありません。
株の売り出しの登録は、持っている人が市場で売れるようにしておく手続きです。登録したことは、売ると決めたことではありません。 ルネサスは売るとも売らないとも公表していません。
7〜9月期は、値下がりの多くが利益の欄に出ない
7〜9月期のルネサスの利益には、タイミング事業の売却益が約4,433億円入る見込みです。ウルフスピード株の値下がりの多くは、利益とは別の欄に入ります。
ルネサスは7月1日に、タイミング事業(電子機器の動作の基準になる信号をつくる部品)を米SiTimeに売りました。対価は現金約15億ドルと、SiTime株3,558,691株です。決算短信は、この売却で約4,433億円の売却益が出る見込みだと書いています。
普通株の目減りは、6月末と9月21日の株価と為替で計算した値です。転換社債と新株予約権は、評価の方法が開示されておらず、株価と同じ割合では動かない可能性があるので、436億円は目安にとどまります。9月30日の株価で、実際の数字が決まります。
このほか、7〜9月期には次のことも重なっています。
- SiTime株:受け取った7月1日の703.84ドルから、9月21日は638.32ドル(9.3%安)。決算でどちらの箱に入れるかは、まだ開示されていません
- 熊本地震:7月28日の地震で、錦工場(熊本県錦町)と川尻工場(熊本市)が被災し、損害額は調査中と決算短信に書かれています
関連企業と日本の接点(ルネサスエレクトロニクス・6723)
この件で日本の上場企業はルネサス1社です。ウルフスピードとSiTimeは、日本の取引所には上場していません。
ルネサスエレクトロニクス
Renesas Electronics Corporation
自動車や産業機器向けのマイコンなどをつくる半導体メーカー。ウルフスピードの株・転換社債・新株予約権と、SiTime株を持っています。
ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=ルネサスエレクトロニクス株式会社)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。
ウルフスピード
Wolfspeed, Inc.
炭化ケイ素(SiC)の半導体材料と部品の米国メーカー。2025年に破産法の手続きを経て、株主が入れ替わりました。
ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=Wolfspeed, Inc.)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。
SiTime
SiTime Corporation
電子機器の動作の基準になる信号をつくる部品の米国メーカー。7月1日にルネサスのタイミング事業を買いました。
ロゴは同社の公式サイトから引用しました(出所=SiTime Corporation)。改変していません。当サイトと同社の間に提携関係はありません。
ルネサスの株価も、6月30日の4,807円から9月18日の3,309円へ31.2%下がっています。 この間には熊本地震や半導体の市況の変化も重なっており、この下落をウルフスピード株の値下がりで説明することはできません。
大きさで比べると、6月末の持ち分の帳簿の価値2,345億円は、9月18日の株価で計算したルネサスの時価総額(自己株式を除く約18.27億株×3,309円=約6.0兆円)の約4%です。ウルフスピード株だけで、ルネサスの株価を大きく動かす大きさではありません。ウルフスピードとSiTimeの株価は、振れ幅が大きすぎて同じ図では他の線が読めなくなるため、外しました(ウルフスピードは上の図を参照)。
フクリの見方
ウルフスピード株は、ルネサスの株価を大きく動かす大きさではありません。気をつけるのは、7〜9月期の利益の数字の読み方です。
7〜9月期の利益は、一度きりの売却益で大きく見える。
ウルフスピードの目減りは、その利益の外で起きている。
持ち分は時価総額の約4%。そのうち普通株の値動きは利益に出ない区分で、9月21日の株価なら約587億円の目減りです。
本業の実力を見るなら、利益ではなく営業利益です。売却益約4,433億円は一度きりで、来期には入りません。
10月下旬のルネサスの7〜9月期決算です。包括利益計算書の「資本性金融資産」の行も見ます。
理由は1つです。7〜9月期の利益には、一度きりの大きな売却益が入り、ウルフスピード株の目減りの半分以上は利益の欄に入りません。 利益の数字だけを見ると、本業の実力も、この持ち分の損得も読み違えます。本業を見るなら営業利益、持ち分の損得を見るなら包括利益の欄、と分けて見るのが確かです。
この見立てが外れる条件
では、何を見ていればいいのか
| いつ | 何が出るか | 見るところ |
|---|---|---|
| 2026年9月27日 | 取締役の退任が発効 | オブザーバーへの切り替え |
| 2026年9月30日 | 7〜9月期末の株価と為替 | 6月末の48.25ドルとの差 |
| 2026年10月下旬(予定) | ルネサスの7〜9月期決算 | 営業利益、金融費用、売却益の確定額、包括利益計算書の「資本性金融資産」の行 |
| 2026年11月14日まで | ルネサス米子会社の保有報告(13F) | 9月末に株を売っていたか |
| 2027年1月1日 | 議決権の制限(9.9%)の期限 | 契約どおり1年延びるか |
半導体の株価が同じ材料でも大きく振れる例は、キオクシアの株価急落やメモリ株の記事でも取り上げました。半導体の設計と製造の分業の基本はファウンドリとファブレスの入門、日本企業が米国の手続きの当事者になった例はインド製PFAの関税調査にまとめています。
まとめ(3行)
情報源
- ルネサスエレクトロニクス:2026年12月期第2四半期(中間期)決算短信(2026年7月30日)、半期報告書
- 米国SEC:ウルフスピード 株の売り出しの登録(Form S-3ASR・2026年9月16日)、取締役の退任(Form 8-K・2026年8月25日)
- 米国SEC:ルネサス米子会社の保有報告(Form 13F・2026年6月30日時点)
- 米国SEC:SiTime タイミング事業の取得完了(Form 8-K・2026年7月1日)
- 日本経済新聞:ルネサス、2500億円の損失 協業する米ウルフスピード破綻で(2025年6月)
- 株価・為替:Yahoo Financeの日次終値(2025年9月〜2026年9月22日・2026年9月22日取得)。持ち分の時価と目減りの計算は自前(6月30日=1ドル162.63円、9月21日=157.50円)
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。