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網膜にチップを入れて、文字が読めるようになった——欧州30か国で売れる装置が承認された

2026.08.21 ・ 執筆:フクリ
網膜にチップを入れて、文字が読めるようになった——欧州30か国で売れる装置が承認された

📌 本記事は公開情報(各社の発表、査読論文、業界紙の報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月21日時点のものです。

目の中心が見えなくなる病気があります。

加齢黄斑変性といいます。視野の周りは残るのに、まさに見たいところだけが欠ける。文字が読めない、人の顔が分からない。日本でも高齢者の失明の主な原因の1つです。

2026年7月、その中心視力を戻す装置が、欧州で売ってよいことになりました。

何が承認されたのか

PRIMA(プリマ)という装置です。開発は米Science Corporation。

項目内容
装置PRIMA(網膜下に埋めるチップ+カメラ付き眼鏡)
開発Science Corporation(米・未上場)
承認CEマーク(EU医療機器規則にもとづく認証。認証機関はDEKRA)
発表2026年7月22日(申請は2025年6月)
売れる範囲欧州30か国
対象加齢黄斑変性による地図状萎縮で中心視力を失った人
最初の処置ドイツで9月にも行われる見込み

⚠️ CEマークは「承認」ではありません。 EU域内で製品を売るために、基準に適合していることを示す表示です。米国のFDA承認とは仕組みが違い、国が一件ずつ審査して許可を出すのではなく、認証機関が適合を確認する形をとります。売ってよくなったということであって、各国が保険で払うと決めたわけでも、実施体制が整ったわけでもありません。

地図状萎縮とは、加齢黄斑変性が進んで網膜の細胞が失われ、地図のような形の欠損が広がった状態です。中心が見えなくなる一方、周りの視野は残るのが特徴です。

この装置は、失明を治すものではありません。 中心の視力だけを、限られた形で取り戻すものです。

どれくらい見えるようになったのか

試験の結果が、医学誌NEJMに掲載されています。

項目内容
試験名PRIMAvera(国際・多施設)
参加者38人が埋植、うち32人が12か月時点で評価
試験の型単群・非盲検(プラセボ対照ではありません)
12か月の結果32人中26人(81%)で改善。臨床的に意味のある視力の向上が見られました
視力表の改善平均25.5文字(5行以上にあたります)

⚠️ 「25.5文字」は視力検査で読めた文字の数です。日本でよく使う「1.0」「0.1」という表し方とは別の物差しで、5段ぶん見えるようになったという意味になります。

⚠️ この試験は「単群・非盲検」です。 薬を使わない比較群を置かず、手術前の自分自身と比べる設計でした。前に扱ったがんワクチンの記事の1,137人・実対照とは、証拠の重みが違います。

重い副作用も報告されています

重篤な有害事象が26件、19人に起きました。

内容件数
眼圧の上昇6件(23%)
周辺の網膜裂孔5人
埋植中の網膜下出血3人
全層の黄斑円孔3人
脈絡膜新生血管(抗VEGF治療が必要)2件

ただし81%は手術後2か月以内に起き、そのうち95%は2か月以内に回復しています。多くは装置そのものではなく、手術に関連したものと整理されています。

この装置には、もう1つの「初めて」があります。 文字や数字を読む力の回復について、CEマークを取得した初のブレイン・コンピュータ・インターフェース機器とされています。これは同社の説明にもとづくものです。

ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)とは、機械と神経を直接つなぐ技術の総称です。PRIMAは脳に入れるものではなく、目の中に入れます。 神経に電気で信号を渡すという点で同じ分類に入る、という整理です。

Science Corporationの創業者マックス・ホダック氏は、イーロン・マスク氏のNeuralinkの共同創業者でもあります。⚠️ 同社は未上場で、個人が直接投資する手段はありません。

実用化に残っている壁

売れるようになったことと、広く使われることは別です。

米国では2027年の投入を目指すと報じられていますが、FDAの審査はこれからです。

新しい治療にどう値段が付くかはAI医療機器と保険の記事で、患者数が少ない治療の採算はオーファンドラッグの記事で扱いました。

関連企業と日本の接点

⚠️ Science Corporationは未上場です。以下は「この論点に関係する上場企業」の整理で、投資対象として推奨するものではありません。

① 加齢黄斑変性の薬を持つ企業

加齢黄斑変性には、大きく2つの型があります。ここを混同すると話が食い違います。

型特徴主な治療
滲出型(ウェット)異常な血管が生えて出血・むくみを起こすアイリーア、ルセンティス、バビースモなどの注射
萎縮型(ドライ)=PRIMAの対象網膜の細胞がゆっくり失われる。地図状萎縮はこの進んだ状態有効な治療が限られてきました

PRIMAが対象にするのは萎縮型(ドライ)です。 下の表に挙げる薬は主に滲出型(ウェット)のもので、同じ病気の名前でも別の型を扱います。「薬が効かなくなった先を受け持つ」という関係ではありません。

企業(ティッカー)この話での位置
リジェネロン(REGN・米ナスダック)アイリーア(アフリベルセプト)。滲出型の主力薬の1つ
ロシュ(RHHBY・米ADR/本体はスイス上場)ルセンティス、バビースモ。いずれも滲出型向け
ノバルティス(NVS・米NYSE)ルセンティスを一部地域で展開

3社ともPRIMAの競合ではありません。 扱う型が違うためです。同じ「加齢黄斑変性」という名前の病気に関わっている、という以上の関係を読み取るべきではありません。

② 日本の接点

企業(証券コード)この話での位置
参天製薬(4536・東証プライム)眼科に特化した専業メーカー。国内の眼科医療で大きな存在です

PRIMAの日本での承認申請は公表されていません。 また参天製薬と本件との関係を示す材料もありません。「同じ眼科の領域にいる」という以上のことは言えません。

AIが医療機器の分野で何を変えているかはAI創薬の記事でも扱いました。

日本では加齢黄斑変性が失明原因の上位にあり、高齢化とともに患者は増えるとみられています。装置が日本に入ってくるかは、承認申請と保険適用の判断しだいです。

③ この1年、株価はどう動いたか

各社は眼科以外の事業のほうが大きく、この一致を眼科の話で説明することはできません。 リジェネロンはFOPの記事で扱ったように、希少疾患でも動いています。

フクリの見方:ここから先は、手術できる医師の数で決まります

見立て

効くかどうかの検証は、まだ途上です。それでも次に普及を決めるのは目の奥に精密な手術ができる医師が、どれだけいるかのほうだと考えています。

理由は、この治療の届け方にあります。

薬なら処方箋を書けば済むが、これは網膜の下にチップを入れる手術
入れた後も、脳が信号の読み方を覚えるまで訓練が要る
つまり装置を作る力ではなく、扱える医師と施設の数が上限になる

新しい治療がどう普及していくかという同じ論点はGLP-1を止める薬の記事でも扱いました。

同じことが、人工内耳でも起きました。 難聴の人に聴力を戻す装置ですが、承認されてから広く使われるまでには、手術できる施設が増えるのを待つ時間が必要でした。 PRIMAが「失明版の人工内耳」と呼ばれるのは、仕組みだけでなく普及の仕方まで似ているからです。

事業として見るなら、注目すべきは装置の性能ではありません。 1年に何人が手術を受けられるかです。ここが二桁のうちは、どれだけ性能が良くても規模になりません。

反対の見方もあります。 眼科医の数は多く、網膜の手術自体は日常的に行われている——だから訓練さえ整えば速く広がる、という読み方です。

それでもこの見立てを採るのは、この手術が既存のどれとも違う手技だからです。 網膜の下に異物を精密に置き、その後の調整まで担当する。どれだけの施設がこれをこなせるかは、まだ誰にも分かりません。 最初の症例がドイツで行われるのは9月です。そこから数えるところに、この技術はいます。

この見立てが外れる条件

何を見ていればいいのか

見るものどこで見られるかどう読むか
ドイツでの最初の症例Science Corporationの発表9月に予定どおり行われるか
実施できる施設の数欧州の眼科学会の発表二桁を超えて増えていくか
米国での申請FDAの公表資料2027年の投入に間に合うか

まとめ(3行)

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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