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レオポルドの転落は「AIバブル崩壊」ではない——21%の下落を67%に変えたもの

2026.08.08 ・ 執筆:フクリ
レオポルドの転落は「AIバブル崩壊」ではない——21%の下落を67%に変えたもの

📌 本記事は公開情報(各社報道、ファンドの投資家向け書簡、専門メディアの分析)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月8日時点のものです。

編集部は、このファンドを2回取り上げてきました。2026年6月30日に「13Fが映すAIインフラ投資」として、8月4日に「シタデルが買った160億ドル」として。

そして2026年8月3日、金融ライターのマーク・ルービンスタイン氏が、この一件に20年前の事件と並べる補助線を引きました。「アッシェンブレナー氏は3つとも抱えていた」——ヘッジファンド運用者スティーブ・コーエン氏が2021年に語った、市場で30年生き残るための3つのルールのことです。

結末まで書きます。

コーエンの「3つのルール」

スティーブ・コーエン氏は、ポイント72の創業者で、ニューヨーク・メッツのオーナーでもある著名なヘッジファンド運用者です。2021年に、市場で30年生き残ってきた秘訣をこう語っています。

「損はする。リスクを取るんだから、損はするんだ。大事なのは3つ——流動性、レバレッジ、集中。1つ持っているだけなら、まだやれるかもしれない。2つ揃うと、まずい。3つ揃ったら、それは墓場の前で口笛を吹いているようなものだ。」

このファンドは3つとも持っていました。 そして、コーエン氏がもう1つ添えた言葉が、そのまま起きたことを言い当てています。「うまくいく。うまくいかなくなるまでは。」

数字で見る:何が結果を決めたのか

ここがこの記事でいちばん大事なところです。保有株そのものは、そこまで暴落していません。

⚠️ 先に、3つの数字の意味を分けておきます。 混同すると話が狂います。

数字何を表すか
-21%保有していた米国上場の買い持ち29銘柄の下落率(単純平均)。売り持ち・未公開株・保有比率は含みません
-67%ファンドの1か月の損益率。株の下落に加え、売り持ちの損失や強制売却時の値引きも含みます
450億→約100億ドル運用資産(AUM)の減少=約78%。損益だけでなく、解約や資産売却も混ざった数字です

そのうえで見ていきます。保有していた米国上場の買い持ち29銘柄は、1か月で平均21%下げました。 これは大きい下落ですが、個別株では珍しくない幅です。今日公開した記事で扱ったとおり、S&P500ですら10%以上の下落は約5年に1回起きています(→ドローダウンとは)。

そのファンドが1か月で67%の損失を出しました。 報道されている範囲で、この差を生んだ最大の要因は最大4倍とされるレバレッジです。ここでいう4倍とは、自己資本に対して4倍の規模の建玉(ポジション)を持っていたという意味です。

⚠️ ただし、67%のすべてがレバレッジだけで説明できるわけではありません。売り持ちの損失、強制売却時に市場価格から10%超引かれたこと、資金の流出なども重なっています。レバレッジは主因の1つ、というのが正確な言い方です。

さらに、売り持ち(株を借りて先に売り、値下がりしたら買い戻して利益を得る取引。値上がりすると損になります)にしていたアドビが26%上昇しています。買った銘柄は下がり、売った銘柄は上がるという、最も苦しい形でした。

資産の推移はこうです。

残った約100億ドルの大半は、Anthropicの未公開株です(未公開株=証券取引所に上場していない会社の株式)。ここが3つ目のリスク=流動性そのものです。未公開株には日々の市場価格が無く、売れるとしてもいくらで売れるかが不確実という状態にあります。

本人が「取り付け騒ぎ」と書いていた

7月24日、アッシェンブレナー氏は投資家に書簡を送り、追加の出資を呼びかけました。書簡にはこう書かれていました。「良い買い場に見えるときには、そうお伝えすることがあります。資金を入れる機会を待っていた方がいれば、いまがそうかもしれません」

しかし、そのときにはもう手遅れでした。本人が後に書いた説明が、この局面を的確に表しています。

「こうした動きが進むにつれ、私たちと結びつけて語られる銘柄で、不利な取引が増えていくのが見え始めました。これは本質的に銀行の取り付け騒ぎと同じです。弱さがさらなる弱さを呼ぶのです。リスクの範囲内に収めようと努めましたが、ポジションが急速に逆行し、市場の流動性が枯れていくなかで、それは次第に難しくなりました。」

「あのファンドが持っている銘柄だ」と知られた瞬間、売られる——という循環です。3つのリスクが重なっていると、この循環から抜けにくくなります。

結果として、公開株のポジションをブロック取引(市場を通さず、大口の売り手と買い手が相対でまとめて売買する方法)1本でシタデルに売却しました。報じられている割引率は市場価格から10%超。これでレバレッジは全て解消され、以後は全額自己資金で運用すると表明しています

20年前と、驚くほど同じ

ルービンスタイン氏が引いた補助線で、いちばん鋭いのがここです。この一件に最も近い前例は、20年前のアマランス・アドバイザーズだ、というものです。

アマランス(2006年)Situational Awareness(2026年)
破綻の規模2週間で60億ドル(資産92.5億ドルの約3分の2)1か月でファンド-67%(450億→約100億ドル)
スター運用者ブライアン・ハンター氏(天然ガス)レオポルド・アッシェンブレナー氏(AI)
経験年数その職に就いて2年目ファンド設立から2年目
メディア破綻の1か月前にWSJが自宅取材の特集6月にWSJが特集(「ジェーン・ストリートを出資者に持つ24歳のAI奇才」)
引き取り手シタデル(とJPモルガン)シタデル
時期夏(9月)夏(7月)
コーエンの3つ3つとも該当3つとも該当

⚠️ もちろん、違う点もあります。 アマランスは天然ガス先物という1つの商品に建玉を積んだのに対し、今回はAI関連の株式と未公開株という別の資産です。アマランスはファンドそのものが清算されましたが、今回は公開株を売却して事業自体は継続しています。同じ事件ではありません。

編集部が意味があると考えるのは、リスクの構造が重なっている点だけです。すなわち流動性の乏しいものを、レバレッジをかけて、1つのテーマに集中して持っていたという3点です。

アマランスは天然ガス先物に集中し、レバレッジをかけ、流動性の薄い限月に大きな建玉を抱えていました。価格が2006年7月半ばの8ドル台から9月に5ドル前後まで下げたとき、建玉が大きすぎて手仕舞いできなくなったのです。「売れないほど大きく持っていた」という点が、今回と重なります。

大損したファンドは戻ってくるのか

ここは慎重に書きます。将来の予測ではなく、過去に何が起きたかだけを並べます。

運用者・ファンド何が起きたかその後
ケン・グリフィン(シタデル)2008年に主力ファンドが55%下落。危機のピークでは週に数億ドルの損失2009年に62%上昇。ただし高値を取り戻したのは2012年1月でした(3年以上かかった)
クリス・ホーン(TCI)2008年に43%下落。運用資産は190億ドルから50億ドル未満へ2009年に70%超の上昇。17年後の2025年には単年で過去最大級の利益を記録
ジョン・メリウェザー(LTCM)1998年にLTCMが破綻新ファンドJWM Partnersを立ち上げ、資産27億ドルまで拡大
ブライアン・ハンター(アマランス)2006年に破綻25人の投資家から8億ドルの出資約束を集めたが、新ファンドSolengo Capitalは立ち上がらなかった

戻ってきた人もいれば、戻れなかった人もいるというのが事実です。

トレーダーのジョン・アーノルド氏は、人を採用するときの考え方をこう振り返っています。「過去の破綻回数は、1回がちょうどいい」。一度大きく飛ばした人間はリスクの怖さを知っている、という意味です。

ただしルービンスタイン氏が「最良の先例」に挙げたのは、戻ってこられなかったアマランスのほうでした。

⚠️ 編集部は「アッシェンブレナー氏が復活するかどうか」については見立てを述べません。 それは個別の人物の将来を当てにいく話で、読者の投資判断の役には立たないと考えるためです。

フクリの見方:これはAIバブルの崩壊ではない

編集部の立場を書きます。

この一件だけを根拠に「AIバブルが弾けた」と読むのは早計です。編集部は、これは主として持ち方(流動性・レバレッジ・集中)の問題だったと考えています。

根拠は2つです。

① 構造:3つが揃うと、下落そのものより「売れないこと」が致命傷になる。 本人が「銀行の取り付け騒ぎと同じ」と書いたとおりです。弱いと知られること自体が、次の弱さを呼びます。これはテーマがAIであろうと天然ガスであろうと同じで、現に20年前の天然ガスで同じことが起きました。

② 実測値:保有株の平均下落は21%にすぎない。 ファンドが67%減ったのは、そこに4倍を掛けたからです。銘柄選びよりも、持ち方の影響のほうが大きかったということです。ここを取り違えて「この事例だけでAI株全般を評価する」と、判断を誤りやすくなります。

編集部は8月4日の記事で「淘汰されるのは『AI』ではなく『自己資金で投資できない企業』」と書きました(→シタデルが買った160億ドル)。今回わかったのは、それが企業だけでなく、投資家自身にも当てはまるということです。

そして、もう一段踏み込みます。 この一件で読者にとって意味があるのは、他人のファンドの成否ではなく、自分のポートフォリオに同じ3つが重なっていないかを点検することだと考えています。

この見立てが外れる条件

立場を取る以上、外れる条件も書いておきます

1. AI株の下落が今後も続き、レバレッジなしの投資家まで大きく傷む場合。 そのときは「持ち方の問題」ではなく「テーマの問題」だったことになります。現時点では、無借金の投資家がどこまで傷んだかを示すデータがありません。ここは編集部の見立ての最も弱い部分です。

2. Anthropicの評価額が下がる場合。 残った約100億ドルの大半は未公開株で、値がついていないだけで無傷とは限りません。ここが毀損すれば「流動性の罪」の代償はさらに大きくなります。

3. レバレッジをかけていた投資家が想定より広範囲だった場合。 現時点では1つのファンドの話ですが、同じ形の建玉が市場に広く積み上がっていたなら、これは「個別の事故」ではなく「相場全体の構造」の話になります。

日本の個人投資家に効く部分

この3つは、規模を問わず点検する価値があります。 ただし影響の出方は、資産の性質・資金管理・保有期間によって大きく変わります。以下は「自分の口座に当てはめて確認するための項目」として読んでください。

コーエンの3つ個人の場合、これに当たるもの
流動性出来高の少ない小型株・新興市場銘柄。売りたい日に売れないことがあります
レバレッジ信用取引。東京証券取引所の集計では、2026年6月26日申し込み時点の信用買い残高が7兆167億円と、統計開始以来はじめて7兆円を超えました(→信用取引とは
集中1つのテーマ・1銘柄への集中投資

1つなら、まだやれます。2つで危なくなります。3つ揃ったときが問題です。

そして、戻すのがどれほど大変かも数字で見ておく価値があります。

  • -21% から元に戻るには +27%
  • -67% から元に戻るには +203%
  • -85% から元に戻るには +567%

下げ幅が深くなるほど、必要な上昇率は跳ね上がります。 レバレッジは、この「必要な上昇率」を一気に押し上げる装置です(→ドローダウンとは)。

なお、このファンドを最初に取り上げた6月30日の記事では、13F(米国の大口保有報告)から読める中身を整理しています。当時何を持っていたのかは、そちらをご覧ください(→13Fが映すAIインフラ投資)。

まとめ(3行)

  • ピーク450億ドルのAIファンドが1か月で67%下落。ただし保有株の平均下落は21%にとどまり、差を生んだのは最大4倍のレバレッジでした。
  • スティーブ・コーエン氏が語った流動性・レバレッジ・集中の3つが重なっていました。20年前のアマランスともこのリスク構造が共通し、引き取り手はどちらもシタデルでした。
  • 編集部の見方はこの一件だけでAIバブルの崩壊とは読めず、主として持ち方の問題だったというものです。見るべきは他人のファンドではなく、自分の口座に同じ3つが重なっていないかです。

大きな数字のニュースほど、何がその結果を作ったのかまで分解すると、持ち帰れるものが残ります。いっしょに見ていきましょう。

情報源・参考

  • Net Interest「Leopold’s Fall」(2026年8月3日・Marc Rubinstein氏。コーエンの3つのルール、アマランスとの対比、復活の前例):netinterest.co
  • CNBC「Leopold Aschenbrenner’s Situational Awareness fund: $45B to fire sale」(2026年7月31日):cnbc.com
  • CNBC「AI investor Leopold Aschenbrenner forced to unwind all public stock positions after steep losses」(2026年7月30日):cnbc.com
  • Bloomberg「Situational Awareness Assets Drop to $10 Billion After Liquidations」(2026年7月30日):bloomberg.com
  • アマランス・アドバイザーズの破綻(2006年9月・約60億ドルの損失、シタデルとJPモルガンによるポジション引き取り):Bloomberg「JPMorgan Sells Half of Amaranth Trades to Citadel」ほか同時期の報道にもとづく。経緯の概観はWikipedia(Amaranth Advisors)も参照
  • 東京証券取引所「信用取引残高等」(2026年6月26日申し込み時点の信用買い残高):jpx.co.jp
免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

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