元OpenAI研究員のファンドは、エヌビディアに弱気を張る──13F・137億ドルが映すAIインフラ投資

📌 はじめに この記事は公開情報(米SECへの13F開示など)をもとにした情報提供・解説です。特定の銘柄の売買を勧めるものではなく、有名投資家の保有をまねる「追随売買」を推奨するものでもありません。掲載する企業名や金額は「あるファンドが何を開示しているか」という事実の整理であり、投資の推奨ではありません。運営・筆者は本記事で取り上げる企業の株式を保有していません。数値・固有名詞は執筆時点(2026年6月30日)で確認できた一次情報(SEC開示)にもとづくもので、状況は今後変わり得ます。
「AGI(人間並みの汎用AI)は数年で来る」と強く主張する元OpenAIの研究者が、運用するファンドで何を開示しているか――。それが米SECの書類から読み取れます。中身は「AIブームの素直な勝ち組を買う」とは少しズレた、しかし筋の通ったものでした。
この記事では、①そのファンドと人物、②投資の考え方、③13Fから見える実際の中身(ここが本題)、④それが米テック最前線の議論とどう重なるか、を順にほどいていきます。先に結論を一言で言うと、「電力やデータセンターを買い、AIチップの象徴銘柄には広く弱気(プット)を持つ」という、かなり攻めた中身です。
まず、何が起きたの?
米国では、一定額以上の米国株などに投資の裁量を持つ機関投資家は、3か月ごとに保有内容を 13F という書類でSEC(米証券取引委員会)に開示します。誰でも見られる公開情報です(ただし後で触れるように、見えない部分もあります)。
元OpenAI研究者 レオポルド・アッシェンブレナー が率いる Situational Awareness LP(シチュエーショナル・アウェアネス)の13Fが、四半期ごとに急拡大しながら注目されています。
直近2026年3月末(2026年5月18日提出)の13Fでは、保有は 42件・評価額の合計は約137億ドル。注目はその「中身」です。
レオポルド・アッシェンブレナーとは何者?(本人の経歴)
ざっくり言うと、AIの未来を強気に語って一躍有名になった、早熟の人物です。
- コロンビア大学を 19歳で首席卒業
- その後 OpenAIの「スーパーアラインメント」チーム(超高性能AIを安全に制御する研究)に在籍
- 2024年4月にOpenAIを解雇(社内情報の扱いをめぐる見解の相違と報じられる)
- 2024年6月、165ページのエッセイ『Situational Awareness: The Decade Ahead』を公開
- その後、同名のファンドを設立(出資者にNat Friedman氏やStripe共同創業者などの名も報じられる)
彼の主張:価値は「アルゴリズム」でなく「電力と計算能力」(本人のテーゼ)
AIブームと聞くと、多くの人は「賢いAIを作る会社」や「GPUを売る会社」を思い浮かべます。アッシェンブレナーのエッセイは、もう一段おくを指しています。
彼の主張を乱暴に一言でまとめると、こうです。
みんながAIに群がるほど、足りなくなるのは「電気」と「計算する場所」。だから、その詰まりどころ(ボトルネック)を持っておこう。
GPUそのものより、GPUを動かす電気や設備に目を向けている、という発想です。これはAIと投資や半導体の構図を、一段ほりさげた見方とも言えます。
13Fから見える中身(ファンドの開示事実)
ここが本題です。2026年3月末の13Fを、種類別に整理します。これは「ファンドが何を開示しているか」の事実であり、買い推奨ではありません。
① 買っている(株式のロング)=電力・メモリ・データセンター
| 企業 | ティッカー | 位置づけ | 13F評価額 |
|---|---|---|---|
| Bloom Energy | BE | 燃料電池・電力 | 約8.8億ドル |
| SanDisk | SNDK | メモリ | 約7.2億ドル |
| CoreWeave | CRWV | AIクラウド(GPU貸し) | 約5.6億ドル |
| IREN | IREN | マイニング→AI転用 | 約4.0億ドル |
| Core Scientific | CORZ | マイニング→AI転用 | 約3.9億ドル |
| Applied Digital | APLD | マイニング→AI転用 | 約3.2億ドル |
| Riot Platforms | RIOT | マイニング→AI転用 | 約1.4億ドル |
| CleanSpark | CLSK | マイニング→AI転用 | 約1.0億ドル |
目を引くのは、IREN・Core Scientific・Applied Digital・Riot・CleanSpark という顔ぶれ。もともと暗号資産(ビットコイン)のマイニングで大きな電力契約と設備を持っていた会社が、その電力と土地をAIデータセンターに転用し始めています。「電気を確保している会社」というテーゼと関連づけられやすい一群です。
② 弱気(プット)=AIチップの象徴銘柄に、広く
そして、この記事でいちばん攻めどころです。同じ13Fには、半導体を中心に広くプットが並んでいます。
| 対象 | ティッカー | プット評価額(想定元本ベース) |
|---|---|---|
| 半導体ETF | SMH | 約20.4億ドル |
| エヌビディア | NVDA | 約15.7億ドル |
| オラクル | ORCL | 約10.7億ドル |
| ブロードコム | AVGO | 約10.1億ドル |
| AMD | AMD | 約9.7億ドル |
| マイクロン | MU | 約5.8億ドル |
| TSMC | TSM | 約5.4億ドル |
| ASML | ASML | 約4.9億ドル |
| インテル | INTC | 約1.6億ドル |
プットとは、一般に対象が下がる方向で利益を狙うオプションです(下落に備える使い方もあります)。つまりファンドは、AIブームの「主役」とされる半導体に、広く弱気のポジションを開示しているわけです。プットの合計は約84.6億ドルにのぼります。
ただし、ここを正確に押さえることが、この記事のキモです。
- 13Fでオプションは対象となる株式の時価(いわゆる想定元本)をもとに表示されます。実際に支払ったオプション料(プレミアム)ではありません。
- つまり「エヌビディアに約15.7億ドルのプット」は、15.7億ドルを空売りした・投じたわけではありません。実際のコストはその一部です。
- プットの価格は満期・行使価格・値動きの荒さなどで変わるため、「下がれば必ず儲かる」という単純なものでもありません。
③ 上昇にも賭けている(コール)=単純な「半導体売り」ではない
おもしろいのは、反対方向のコール(上昇で利益が出るオプション)も持っている点です。
| 対象 | 種類 | 13F評価額 |
|---|---|---|
| マイクロン | コール | 約4.2億ドル |
| SanDisk | コール | 約3.9億ドル |
| TSMC | コール | 約3.5億ドル |
| CoreWeave | コール | 約1.4億ドル |
メモリ(マイクロン・SanDisk)やTSMC、CoreWeaveには上昇方向のコールも持っています。マイクロンやTSMCはプットとコールの両方が並んでおり、「半導体を一律に売り」ではなく、銘柄ごとに強弱をつけた精緻なロング・ショートだと分かります。
13Fで「見えるもの/見えないもの」
初心者がだまされないために、13Fの限界を押さえておきましょう。
これは「一人の変わり者」の意見じゃない(業界の議論)
「とはいえ一個人の賭けでしょう?」と思うかもしれません。ところが、米テックの最前線にいる人物たちが、別の場で似た論点に触れています。インタビュー番組『Dwarkesh Podcast』での発言が象徴的です(それぞれ文脈は異なります)。
GPUを売る当事者も、AIを作る当事者も、業界を分析する専門家も、電力が次の制約になりうるという論点に触れています。アッシェンブレナーのポートフォリオは、この論点を一足先に形にしたもの、とも読めます(ただし本人がそう説明したわけではなく、私たちの解釈です)。
投資家として、どう読む?
刺激的なテーマですが、フクリらしく強気・慎重の両面を並べます。結論を急がず、「見るべき観点」として受け取ってください。
強気に読めるところ
- 「電力・計算インフラがボトルネックになる」という論点は、複数の当事者の発言とも重なる
- マイニング企業のAI転用など、まだ広く知られていない動きを拾っている
慎重に見るべきところ
- 13Fは45日遅れで、提出時点では中身が変わっている可能性がある
- 13Fは買い建てとオプションのロングしか見えず、株の空売りや実際のコスト(プレミアム)、海外資産は見えない
- テーマが当たることと、個別企業の株価が上がることは別物。期待が先行して割高になりやすい
- 有名投資家の保有をまねる「追随売買」は、気づいた時点ですでに状況が変わっているリスクがある
時価総額やグロース株・バリュー株の考え方とあわせ、「なぜそう動いたのか」を理解する材料にするのが健全です。
フクリの見方
- 値動きを当てにいくより、「地図」として読む。 「AI=GPU」だけでなく、背後に電力・メモリ・データセンターという広い裾野があると分かるだけで、ニュースの見え方が変わります。
- 事実とシナリオを分ける。 「13Fにこう開示がある」は事実。「だから上がる/下がる」は誰にも分かりません。ここを混ぜないのが、惑わされないコツです。
- 一点に賭けない。 どれだけ筋の良いテーマでも、分散という土台の上で考える。話題株でもそれは変わりません。
まとめ(3行)
- 元OpenAI研究員のファンドは、13Fで約137億ドル・42件を開示。電力・メモリ・AIクラウドや、AI転用が進むビットコインマイナーを厚く買っている。
- 同時に半導体(エヌビディア・AMD・ブロードコム・TSMC等)に広くプット(合計約84.6億ドル・想定元本ベース)。一方でメモリ等にはコールもあり、単純な「半導体売り」ではない精緻な戦略。
- 「電力が次の制約」という論点は最前線の議論とも重なる。テーマの理解材料にしつつ、個別株の値動きや追随売買とは切り分けて読みたい。
📎 本記事は情報提供であり、投資助言や売買の勧誘ではありません。13Fにもとづく追随売買を推奨するものではなく、投資判断はご自身の責任でお願いします。
情報源
- 米SEC EDGAR:Situational Awareness LP(CIK 0002045724)13F-HR Q1 2026(期末2026-03-31/2026-05-18提出)提出ディレクトリ
- 13f.info:Situational Awareness LP 13F一覧
- Fortune:Why Leopold Aschenbrenner’s AI hedge fund is betting big on power companies and Bitcoin miners
- Leopold Aschenbrenner『Situational Awareness: The Decade Ahead』(2024)
- Dwarkesh Podcast:ジェンスン・フアン回・ディラン・パテル回ほか
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。