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捕まえる相手は、17年前に日本が置いてきた3トンの残骸——アストロスケールが選んだ打ち上げ機

2026.09.03 ・ 執筆:フクリ 2026.09.06 更新
捕まえる相手は、17年前に日本が置いてきた3トンの残骸——アストロスケールが選んだ打ち上げ機

📌 本記事は公開情報(各社の公表資料、JAXAの公表資料、報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年9月3日時点のものです。

🔄 2026年9月6日に更新しました。この記事の見立ては外れました。 公開時は「打ち上げ機がまだ軌道に届いていないこと」をいちばんの心配として書きましたが、2026年9月5日、スペクトラム2号機は軌道に到達しました。 記事に挙げた「見立てが外れる3つの条件」の1つ目が起きています。該当箇所を書き直しました。

宇宙のゴミを「見る」のではなく、実際につかんで落とす——それを世界で初めてやる計画があります。

その打ち上げ機に選ばれたロケットは、記事を書いた時点で一度も軌道に届いていませんでした。

その2機目が、2026年9月5日に軌道へ届きました。

相手は、日本が出したゴミです

標的は2009年1月、温室効果ガス観測衛星「いぶき」を打ち上げたH-IIAの上段です。17年以上そこにあります。

何が決まったのか

用語を1つ置きます。

デブリは、役目を終えた衛星やロケットの残骸です。秒速7キロ以上で回っており、小さな破片でも衛星を壊します。 数が増えると連鎖的に壊れ合う懸念があり、片づける手段が要ると長く言われてきました。

2026年9月1日、アストロスケールの日本法人が、ADRAS-J2の打ち上げ機を発表しました。

打ち上げ機Isar Aerospaceの「スペクトラム」
時期2027年度(2027年4月〜2028年3月)
射場ノルウェーのアンドーヤ宇宙港
標的H-IIAの上段。全長約11メートル・直径約4メートル・約3トン
つかむ手段自社製のロボットアーム

創業者の岡田光信氏は発表で、「打ち上げの柔軟性と、私たちの要求を満たすという約束が、この節目のミッションにとって価値ある相手だと考えた」という趣旨の説明をしています。

先にやってあること

2024年、先行機のADRAS-Jが同じ上段に接近して撮影しました。 そこでつかむ場所(ペイロード結合部)に大きな傷みが無いことが確かめられています。

つまり「近づいて見る」は済んでいて、今回が「つかんで落とす」です。

デブリを見つける側の技術は住友商事とSBIが、累計1,000万ドルの米スタートアップに出資しましたで、片づけを軍が調達し始めた動きは使い終わった衛星を「回収してもらう」時代が来るで扱いました。

なぜ、この選択が異例なのか

スペクトラムが軌道に届いたのは、この契約が発表されたあとでした。

初号機は2025年3月30日、アンドーヤから上がって30秒で姿勢の制御を失いました。 調査では、離昇25秒の姿勢を変える動作の開始時に、通気弁が意図せず開いたことが原因とされています。

2号機はなかなか飛びませんでした。もともと2026年1月の予定でしたが加圧弁の不具合で延び、3月25日は立入禁止区域に船が入って中止、4月9日は圧力容器の漏れが見つかって中止、6月も延期、そして9月4日も中止になりました。

中止は打ち上げ延期であって、失敗ではありません。 安全のために止める判断は、どのロケットでも起きます。

その2号機が、9月5日に軌道へ届きました

2026年9月5日20時12分(世界標準時)、スペクトラム2号機はアンドーヤから離昇しました。 日本時間では9月6日の朝5時12分です。

同社の発表によれば、機体は高度100キロメートルのカーマンラインを越えてフェアリングを分離し、軌道速度に達したあと円軌道にするための噴射を完了、搭載していた衛星の分離まで成功しました。積荷は超小型衛星5基と、分離しない実験機器1点です。

これは、欧州大陸から軌道に到達した初めての機体になります。

同社の共同創業者で最高経営責任者のダニエル・メッツラー氏は、こう述べています。

本日、Isar Aerospaceは欧州大陸から宇宙を開きました。打ち上げは今も世界の宇宙産業にとって最大のボトルネックであり、今日からは商業・公共の顧客にとって本物の選択肢が存在します

4度の延期のあと、5度目で届きました。

依存は1件ではありません

アストロスケールの英国法人も、2026年3月にIsarと契約を結んでいます。 磁石を付けた衛星をつかむ実証ELSA-Mで、こちらは2028年度の予定です。

同じグループが、同じロケットに2件を預けています。 契約した時点では、その機体はまだ軌道に届いていませんでした。

米国では、誰の損得になるのか

デブリの片づけは、米国では軍の調達が動き始めた分野です。使い終わった衛星を落とすサービスを、国が買う形が出てきています。軌道上で衛星に手を加える事業の広がりは宇宙のAIデータセンター、見るべきは「何機打ち上げるか」ではないにまとめました。

ただし、今回のような「他人が残した大型の残骸をつかんで落とす」実証は、まだ世界のどこでも成功していません。

打ち上げ側の新興企業は、企業ごとに差が開いています。 この記事で扱うIsar Aerospaceは未上場で、個人が直接この会社の株を買うことはできません。

日本では、誰の損得になるのか

この計画は、日本の国費で動いています。

ADRAS-J2は、JAXAの商業デブリ除去実証(CRD2)フェーズIIとして実施されます。アストロスケールは2024年4月に選定され、契約額は約132億円(税込)です。

標的のH-IIAは、三菱重工業が製造していたロケットです。 ⚠️ これは同社に責任があるという話ではありません。 当時のルールでは上段を軌道に残すのが通常で、残っているものを国内の企業が片づけにいく構図だという意味です。

宇宙関連の株価

⚠️ 5社は事業も規模も違い、この差をデブリ除去で説明することはできません。 それでも、打ち上げ事業のファイアフライが49まで下げていることは、この分野の難しさを示しています。

関連企業と日本の接点

確度で3段に分けています。

区分企業上場この件での位置
① 契約の当事者アストロスケールホールディングス東証グロース(186A)ADRAS-J2の実施主体。CRD2フェーズIIを約132億円で受注
① 契約の当事者Isar Aerospace未上場(ドイツ)打ち上げ機の提供者。2026年9月5日に初めて軌道到達。個人は直接買えません
① 契約の当事者JAXA政府機関CRD2の発注者
② 標的にかかわる企業三菱重工業東証(7011)標的のH-IIAを製造していた。⚠️ 責任があるという意味ではありません
③ 同じ分野の上場企業ロケットラボ米国(RKLB)小型ロケットと衛星。打ち上げ側の比較対象
③ 同じ分野の上場企業ファイアフライ・エアロスペース米国(FLY)打ち上げと軌道サービス
③ 同じ分野の上場企業ASTスペースモバイル米国(ASTS)衛星通信。低軌道の混雑という点で関係します

株価は上の図で見ています。

フクリの見方

アストロスケールが引き受けたのは、デブリ除去の技術リスクだけではありません。打ち上げ機の開発リスクも一緒に抱えた、という見立てです。

理由は1つです。CRD2フェーズIIは約132億円の契約で、日程を含みます。 技術がうまくいっても、乗り物が間に合わなければ計画は動きません。

契約が発表された時点で、スペクトラムはまだ軌道に届いていませんでした。

🔄 この前提は、2026年9月5日に変わりました。 2号機が軌道に到達したため、乗り物のリスクは大きく下がっています。 以下の見立ては、そのうえで読んでください。

なぜ、それでも選んだのか

選択肢が少ないからです。

  • 小型・中型の打ち上げ枠は世界的に取り合いになっています(載せる場所が足りず衛星の形まで変わった例がロケットに載せる場所が足りず、衛星が平たくなりましたにあります)
  • 相乗りは行き先が他の客と共通で、捕まえたい相手の軌道に合わせにくくなります
  • 岡田氏は「打ち上げの柔軟性」を選定の理由に挙げています

つかむ相手が決まっているミッションでは、行き先を選べることが値段より重い——そう読むのが自然です。

⚠️ これはこの記事の見立てであり、同社が選定の経緯をそう説明したわけではありません。

「世界初」は、まだ2つ先にあります

この計画には関門が2つあります。

  1. スペクトラムが軌道に到達すること
  2. ADRAS-J2が3トンの残骸をつかんで落とすこと

1つ目は2026年9月5日に達成されました。2つ目は、まだ世界のどこも達成していません。

その1つ目は、2026年9月5日に越えました。

この記事がいちばん心配していたことは、公開から2日で解消しています。 残るのは2つ目——3トンの残骸を実際につかんで落とせるかという、技術そのものの話です。

この見立てが外れる3つの条件

では、何を見ていればいいのか

見るものどこで何が分かるか
スペクトラム2号機の打ち上げIsar Aerospaceの発表2026年9月5日に軌道到達。この関門は越えました
3号機以降の打ち上げ間隔同社の発表1回飛べたことと、定期的に飛ばせることは別です
ADRAS-J2の開発状況アストロスケールのIR2027年度に間に合うか
ELSA-Mの日程同社の英国法人同じロケットに預けた2件目。2028年度の予定です

2号機が軌道に届いたので、話は技術の中身へ戻ります。 ここから見るべきは「飛ぶかどうか」ではなく、2027年度までに必要な回数を飛ばせるかです。

まとめ(3行)

情報源

  • アストロスケール「アストロスケール日本法人がADRAS-J2の打ち上げにIsar Aerospaceを選定」(2026年9月1日)
  • Isar Aerospace のプレスリリースおよびミッション更新情報
  • JAXA 商業デブリ除去実証(CRD2)の公表資料
  • Isar Aerospace「Mission Updates」(2026年9月5日20時12分UTCの打ち上げ、カーマンライン通過・円軌道化・衛星分離の成功、CEOの発言):ページ
  • 欧州宇宙機関「Spectrum’s qualifying second launch」(Boost!計画の積荷):ページ
  • アストロスケール「JAXAの商業デブリ除去実証プログラムのフェーズIIの契約を獲得」(2024年4月・契約額 約132億円・税込)
  • Payload、Aviation Week、NASASpaceflight、European Spaceflight の各報道
  • 欧州宇宙機関「Spectrum’s qualifying second launch」
  • European Spaceflight「Isar Aerospace Calls Off 4 September Spectrum Launch Attempt」(2026年9月4日の中止・ノルドラン警察の規制発動と解除・現地の風速)
  • Yahoo Finance(株価の週次終値・2025年8月〜2026年9月3日)
免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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