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ロケットラボは「打ち上げ屋」を卒業する──宇宙軍3.97億ドルと、まだ飛んでいないロケット

2026.08.06 ・ 執筆:フクリ
ロケットラボは「打ち上げ屋」を卒業する──宇宙軍3.97億ドルと、まだ飛んでいないロケット

📌 この記事は公開情報(企業のIR発表・宇宙軍の契約公表・報道)にもとづく情報提供・解説です。数値・固有名詞は執筆時点(2026年8月6日)に確認できたもので、状況は今後変わり得ます。

2026年8月4日、米宇宙軍がロケットラボに3億9,700万ドルを発注したと発表されました。目的は「空を飛んでいる標的を、宇宙から追い続ける」こと。SB-AMTI(Space-Based Airborne Moving Target Indicator)という計画です。

見出しだけを追うと「ロケット会社がまた大型受注」で終わります。でも中身を読むと、この1件だけそれまでの受注と性質が違うことが分かります。

何が発注されたのか

宇宙軍はSB-AMTIに総額6億1,500万ドルを投じ、3社に分けて発注しました。

受注した企業金額上場
ロケットラボ(Rocket Lab)3億9,700万ドル米NASDAQ上場
STR(Systems and Technology Research)非公表未上場
3社目非公表企業名も非公表

3社目は「運用保安上の理由」で企業名すら明かされていません。軍事の常時監視という性質が、契約の見え方にそのまま出ています。

SB-AMTIが追いかけるのは、戦闘機・爆撃機・巡航ミサイル、そして場合によっては極超音速兵器です。これまでこの仕事は、レーダーを積んだ大型の監視機(早期警戒機)が担ってきました。

理由ははっきりしています。大型の監視機は、長距離ミサイルや高度な防空網がある場所には近づけません。乗員を乗せた大きな機体は、いまや狙われる側です。宇宙から見れば、その危険がありません。

ロケットラボが作るのはフラットライト(Flatellite)という衛星です。2025年2月に発表された、薄く平たくて積み重ねられる設計で、1回の打ち上げに詰め込める数を増やすことを狙っています。同社の推進系・姿勢制御・通信機器などを組み合わせ、大量生産を前提にしています。

この1件だけ、契約の中身が違う

ここが本題です。ロケットラボの防衛受注は、これが初めてではありません。この5か月で3件あります。

金額の大きさに目が行きますが、注目すべきは色の変わった一番右です

  • 2026年3月18日・1億9,000万ドル:極超音速の試験機(HASTE)を4年かけて20回飛ばす。打ち上げの仕事
  • 2026年7月27日・2億6,600万ドル:ミサイル防衛の評価用に、弾道ミサイルや極超音速の飛び方を再現する打ち上げを12回(最大18回)。アラスカに新しい射場を構える。これも打ち上げの仕事
  • 2026年8月4日・3億9,700万ドル衛星を作り、打ち上げ、そのうえ運用する

前の2件は「運び屋」への発注でした。今回は「監視網の運営者」への発注です。 同じ防衛受注でも、会社に求められている役割がまったく違います。

しかも今回は固定価格(firm-fixed-price)の契約です。決められた金額で仕上げる約束なので、うまく作れば利益が残り、手こずれば自社が費用をかぶります。運び屋の仕事にはなかった性質のリスクです。

問いの答えは、すでに決算に出ている

「ロケットラボは打ち上げ屋から変わるのか」——この問いには、実はもう答えが出ています。決算を見れば分かります。

2026年1〜3月期の売上2億30万ドルのうち、衛星や部品を作って売る「宇宙システム」が1億3,670万ドルで68.2%。打ち上げは6,370万ドルで31.8%にすぎません。打ち上げの2倍以上を、モノづくりで稼いでいます。

さらに、22億ドルを超える受注残に占める政府案件の比率が、35%から49%へ一気に上がりました(2025年10〜12月期→2026年1〜3月期)。

💡 受注残とは、契約は取れたけれどまだ売上として計上していない仕事の残高です。将来の売上の予約リストのようなもので、いつ売上になるかは契約ごとに違います

つまり「変わるのか」ではなく、すでに変わっていた。 今回のSB-AMTIは、その変化を裏づける材料のひとつという位置づけになります。

最大の弱点は、まだ飛んでいないロケット

ここで、この計画のいちばん弱いところを書きます。フラットライトを打ち上げる予定のロケット「ニュートロン(Neutron)」は、まだ一度も飛んでいません。

初飛行の目標は2024年→2025年→2026年前半→2026年後半と動いてきました。直近の延期は2026年1月、燃料タンクの試験中に起きた事故が要因とされています。開発費は2025年末までにおよそ3億6,000万ドルが投じられたとみられます。

7月の2億6,600万ドルの契約も、初回の打ち上げは2026年末以降とされています。つまりロケットラボの防衛事業は、これから飛ぶロケットと、これから開く射場の上に積み上がっているわけです。

受注は連取、株価は半値近い

事業の進み方と、株価の動き方は別ものです。ここは分けて見る必要があります。

ロケットラボの株価は1年前と比べればプラス67%ですが、2026年5月25日の週の終値からはおよそ48%下げています(いずれも週次の終値ベース、直近は8月5日時点)。7月には一段と下げ、そこから戻している最中です。

この下げの時期は、市場全体の動きと重なっています。 同じ7月、値動きの大きい成長株が市場全体で巻き戻されました。レバレッジ4倍のAIファンドが清算された局面と同じ時期です。上の図で、伝統的な防衛企業であるロッキードマーチンの線がほとんど揺れていないのと比べると、ロケットラボは「防衛株」ではなく「値動きの大きい成長株」として売買されていることがうかがえます。個社の要因がどれだけ効いたかは外からは分けきれませんが、受注が積み上がっている時期に株価が半値近くまで下げたという事実は残ります。

受注が積み上がっているのに株価は半値近い。 この落差こそが、いま起きていることの正体です。

関連企業一覧

確度を分けて整理します。投資対象としての推奨や投資判断を示すものではなく、事実の所在を区別するための一覧です。

① 今回の契約が公表されている企業(事実)

企業役割上場
ロケットラボ(RKLB)フラットライトの製造・打ち上げ・運用。3億9,700万ドル米NASDAQ上場
STR防衛研究。金額は非公表未上場(個人は直接買えません)
3社目非公表企業名も公表されていません

② 同じ「防衛×宇宙」という文脈に位置する企業(今回の契約とは無関係)

企業位置づけ
ロッキードマーチン(LMT)従来型の防衛大手。本記事では値動きの比較対象として使用
アンドゥリル防衛テック。未上場のため個人は直接買えません

※②は今回のSB-AMTIに関与しているという意味ではありません。テーマの広がりを示すための参考です。

フクリの見方:すでに「衛星を作って売る会社」になっている。残る問題はロケット

編集部の立場を書きます。「打ち上げ屋から変わるのか」という問いの立て方は、すでに古いと考えています。変化はもう起きました。いま問うべきは「その転換を完成させられるか」です。

では、何が何に変わったのか。この会社の稼ぎ方は、3段階で移ってきました。

変わったのは、この会社がお金をもらう理由です。 かつては「ロケットで運んでくれたから」でした。いまは売上の3分の2が「衛星や部品を作って納めたから」です。そして今回の契約で、「監視網を動かし続けてくれるから」という3つめの理由が加わりました。

そう言える根拠は2つあります。

1つめは、契約の中身が変わったことです。 3月と7月の受注は「打ち上げる」仕事でした。8月の受注は「作って、打ち上げて、運用する」仕事です。同じ防衛受注でも、頼まれている役割が運び屋から運営者へ移りました。 しかも固定価格の契約なので、量産の巧拙がそのまま損益に出ます。運び屋のままなら負わなかったリスクを、自分から取りに行った形です。

2つめは、売上構成です。 2026年1〜3月期で、衛星などを作る事業がすでに68.2%。受注残の政府比率も35%から49%へ上がりました。「ロケット会社」という呼び名のほうが実態から遅れています。

そのうえで、この見立てが外れる条件を3つ書いておきます。

  • ニュートロンがさらに遅れる、あるいは初飛行で失敗する。 これが最大の条件です。SB-AMTIはニュートロンで打ち上げる前提で、初飛行の目標はすでに3回うしろへ動いています。新型ロケットの初飛行が計画どおりに進むほうが、歴史的にはむしろ例外です。
  • 量産でつまずく。 フラットライトは「大量に安く作れる」ことが前提の設計です。固定価格の契約では、作るのに手こずった分は自社の持ち出しになります。衛星の量産は、まだ誰もが習熟した技術ではありません。
  • 防衛予算の方向が変わる。 宇宙からの常時監視は米国の現在の方針にもとづくものです。政権や脅威認識が変われば、優先順位は動きます。

記事を読むときの確認の順番も、はっきりさせておきます。 受注の金額そのものより、それが売上に変わる時期を見るほうが実態に近づきます。今回の3.97億ドルは長期にわたって計上されるもので、明日の利益ではありません。そしてニュートロンで打ち上げる前提の案件は、ロケットが飛ぶまで進みません(受注残のすべてがニュートロン頼みというわけではなく、既存の小型ロケットや衛星製造で進む仕事も含まれます)。

なお、この転換は業界全体の路線分岐としても読めます。衛星の「車台」を外から買う水平分業を進める動きがある一方、ロケットラボは作る・上げる・運用するを自社に囲い込む垂直統合を選びました。どちらが強いかはまだ決着していません。防衛と宇宙が接近する流れそのものは、NATOの相互運用構想スマホ直結衛星の競争でも扱っています。国の予算が企業の業績を動かす構造は防衛関連株の記事が入口になります。

次の確認点は近くにあります。 ロケットラボの2026年4〜6月期の決算は、2026年8月10日に発表される予定です。宇宙システムの比率と受注残、そしてニュートロンの進み具合。この3つがそろって初めて、転換が本物かどうかが見えてきます。

まとめ(3行)

  • 米宇宙軍がSB-AMTI(空を飛ぶ標的を宇宙から追う計画)に総額6億1,500万ドルを発注し、ロケットラボが3億9,700万ドルを受注しました。3社のうち1社は企業名も非公表です。
  • この1件だけ契約の性質が違います。3月と7月は「打ち上げる」仕事でしたが、今回は作って・打ち上げて・運用する仕事です。5か月で3件・約8.5億ドル。
  • ただし変化はすでに起きていました。この会社の売上の68.2%は、もう打ち上げではなく衛星や部品を作って売る事業です(2026年1〜3月期)。残る問題は転換の完成で、その鍵はまだ一度も飛んでいないニュートロンが握っています。

情報源

  • ロケットラボ「Rocket Lab Awarded $397 Million Contract to Build and Launch Flatellites for U.S. Space Force’s Space-Based Airborne Moving Target Indicator Program」(2026年8月4日):investors.rocketlabcorp.com
  • SpaceNews「Rocket Lab, STR win Space Force contracts for airborne-target tracking technologies」(総額6億1,500万ドル・3社への分割・3社目は非公表):spacenews.com
  • ロケットラボ「Rocket Lab Awarded Record $266M Missile Defense Contract with U.S. Space Force for Suborbital Launches」(2026年7月27日):investors.rocketlabcorp.com
  • ロケットラボ「Rocket Lab Secures $190M Contract for 20x HASTE Launches」(2026年3月18日・MACH-TB 2.0):investors.rocketlabcorp.com
  • ロケットラボ「Rocket Lab Announces Date of Second Quarter 2026 Financial Results」(2026年7月22日発表・決算は8月10日):globenewswire.com
  • ロケットラボ「Rocket Lab Announces Flatellite」(2025年2月27日・平型衛星の設計):rocketlabcorp.com
  • ロケットラボ 2026年第1四半期決算(2026年5月7日発表・売上2億30万ドル・宇宙システム1億3,670万ドル・打ち上げ6,370万ドル・受注残22億ドル超):investors.rocketlabcorp.com
  • SpaceNews「Rocket Lab delays first Neutron launch to 2026」(初飛行の延期):spacenews.com
  • 株価は各銘柄の週次終値(2025年7月末〜2026年8月5日)をFukuri編集部が集計・指数化
免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

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