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スマホ直結衛星(D2D)は誰が勝つか——Amazonの5,105基申請より前に、勝負は「電波の買収」で始まっていた

2026.07.29 ・ 執筆:フクリ
スマホ直結衛星(D2D)は誰が勝つか——Amazonの5,105基申請より前に、勝負は「電波の買収」で始まっていた

山の中でも、海の上でも、特別な機械なしに、いま持っているスマホがそのまま衛星につながる。この「スマホ直結衛星通信(D2D=Direct-to-Device)」に、2026年7月24日、Amazonが正式に参入を申請しました。最大5,105基です。

大きなニュースですが、調べていくと、勝負はもっと前から始まっていました。2025年9月からの10か月間で、電波の免許を持つ会社に対して、約390億ドル規模の取引が立て続けに起きていたのです。Amazonの申請は、その連鎖の最後に置かれた一手でした。

この記事では、その10か月に何が起きたのかを一次情報で並べ直します。

📌 本記事は公開情報にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年7月28日時点で確認できたものです。筆者・運営はここで触れる企業の株式等を保有していません。

そもそもD2Dとは何か

これまでの衛星通信は、専用の機械が必要でした。衛星電話は大きなアンテナ付きの端末を買う必要があり、Starlinkのインターネットも自宅にアンテナを設置します。

D2Dは、そこが違います。いま使っているスマホが、そのまま衛星と通信する。アンテナの設置は不要で、圏外に入ると衛星につながる、という設計です。

ただしひとつ補足が要ります。どの端末が使えるかは方式によって違います。地上キャリアの電波を空から使う方式なら手持ちの端末がそのまま対応しやすい一方、Amazonが今回申請した方式のように、対応するチップを積んだ端末が前提になるものもあります。「全部のスマホが自動的に使える」わけではありません。

なぜこれが大きな話なのか。携帯の基地局が建っていない場所が、地上にはまだ残っているからです。基地局には土地と電源と回線が要り、人が少ない場所では採算が合いません。海の上ならなおさらです。D2Dは、その「建てられない場所」を空から埋めます。

ただし、いまできることは限られます。先行するサービスもテキストメッセージ中心から始まっており、動画をなめらかに見るような使い方は、まだ先の話です。

Amazonの申請の中身

Amazonは衛星ブロードバンド事業の名称を「Kuiper」からAmazon Leoへ変更しています。今回はそのAmazon Leoが、D2D専用の衛星群についてFCC(米連邦通信委員会)に認可を申請しました。

項目内容
申請日2026年7月24日(発表は7月27日)
衛星数最大5,105基
軌道5つの軌道シェル。高度510・540・560・570・580km、傾斜角およそ56〜84度
周波数端末との通信はL帯・S帯(1.6GHz帯・2.4GHz帯)。地上局との通信はKa帯・V帯
提供機能音声・データ・メッセージング・緊急通報・遠隔地のIoT接続・災害対応通信
衛星の配備開始2028年から(サービス開始時期ではありません)

ここで見るべきは、周波数の欄です。このL帯・S帯は、もともとAmazonの電波ではありません。衛星電話会社グローバルスターが持っていたものです。

Amazonは2026年4月にグローバルスターとの合併契約を確定させています。買収額は約116億ドルと報じられ、クローズは2027年の見込みです。つまりAmazonは、衛星を1基も打ち上げないうちに、まず電波を会社ごと買いました

本題——10か月で連鎖した「電波の買収」

そして、これはAmazonだけの話ではありませんでした。時系列で並べると、こうなります。

💡 表に出てくる言葉AWS-4/AWS-3/H-blockは米国の周波数帯の呼び名です(携帯通信に使える帯域の区分)。企業価値は株式の価値に純有利子負債を足したもので、株式だけの値段より大きくなります。クローズは買収手続きの完了で、合意しただけではまだ完了していません。

時期何が起きたか規模
2025年9月EchoStarがAWS-4・H-blockの周波数免許をSpaceXへ売却で合意。SpaceXは次世代のStarlink Direct to Cellに使うと表明約170億ドル(現金最大85億ドル+SpaceX株最大85億ドル)。ほかにSpaceXがEchoStar債務の利払い約20億ドルを負担
2025年11月EchoStarが未対のAWS-3免許もSpaceXへ追加売却約26億ドル(SpaceX株)
2026年4月Amazonがグローバルスターの買収で合意約116億ドル(会社全体)
2026年6月12日SpaceXがIPO。NASDAQに上場(ティッカー SPCX)公開価格1株135ドル、5億5,555万株
2026年6月29日Rocket Labがイリジウムの買収を発表1株54ドル(現金27ドル+Rocket Lab株)、企業価値約80億ドル。2027年半ばクローズ予定
2026年7月24日AmazonがD2D衛星5,105基をFCCに申請
D2D向けの電波をめぐる取引額(2025年9月〜2026年6月) 170億ドル 26億ドル 116億ドル 80億ドル EchoStar → SpaceX AWS-4・H-block 2025年9月 EchoStar → SpaceX AWS-3(追加) 2025年11月 Amazon → グローバルスター 2026年4月 Rocket Lab → イリジウム 2026年6月
図:D2D向けの電波をめぐる主な取引(合意ベース)。⚠️左の2件は周波数免許そのものの売買ですが、右の2件は電波を持つ会社ごとの買収額であり、電波だけの値段ではありません。単純比較はできない点にご注意ください。出典は記事末尾。

4件を合わせると約390億ドル規模になります。10か月のあいだに、これだけの資金が「電波の免許を持つ相手」へ向かったわけです。この間、報道で話題になっていたのは打ち上げの回数や衛星の枚数でしたが、実際に動いていたお金はそちらではありませんでした。

ただし、この390億ドルを「電波の値段」と読むのは正確ではありません。グローバルスターとイリジウムの買収額には、衛星も地上設備も顧客基盤も既存の事業契約も含まれます。電波は取得目的の重要なひとつではあっても、全部ではない。ここは分けて理解する必要があります。

なぜ電波にこれだけ払うのか

理由は単純です。電波がなければ、衛星はただの箱だからです。

電波は誰でも自由に使えるものではありません。国が周波数帯ごとに免許を出し、その免許を持つ者だけが使えます。しかも、スマホがそのまま受信できる帯域は、すでにほとんど埋まっています。新しく作ることはできません。

3つの要素のうち、衛星は増やせます。打ち上げ能力も、時間とお金で買えます。しかし自社専用の免許を確保しようとすると、すでに持っている相手から取得する以外に道がありません。地上キャリアから借りて使う道はありますが、それは相手との関係に依存します。この非対称が、10か月の連鎖を説明します。

3社の現在地と、電波の入手方法

そのうえで、3社がいまどこにいるのかを並べます。

SpaceX(Starlink Direct to Cell)AST SpaceMobileAmazon Leo
商用サービス提供中(米T-MobileのT-Satelliteが2025年7月23日に商用開始)FCCが2026年4月21日に248基の星座とSCSを認可、配備段階未提供(衛星の配備開始が2028年から)
軌道上の衛星D2D専用が650基超(2026年1月時点)Block 2のBlueBird 8〜10号機を2026年6月17日に打ち上げ。2026年末までに約45基を目標D2D用はこれから。ブロードバンド用は390基超が軌道上
電波の入手方法借りる+買う。T-Mobile等の帯域を使って先行し、EchoStarから次世代用の免許を取得借りる。提携する地上キャリアの帯域を使う買う。グローバルスターを会社ごと取得
主な提携先T-Mobile(米)、One NZ(NZ)ほか。日本の3キャリアも採用AT&T、Verizon、Vodafone、楽天モバイルほかApple、Vodafone、DirecTV、オーストラリアNBNほか

ここで注意したいのは、「買う」と「借りる」は排他ではないことです。SpaceXはT-Mobileの帯域を借りて他社より早く商用化しながら、同時に次世代網のための免許を170億ドル超で買っています。借りて速く始め、買って足場を固める、という二段構えです。

一方、ASTは借りる一本です。米国ではVerizon・AT&T・FirstNetと調整のうえ、700MHz帯・800MHz帯という地上キャリアの低い周波数を空から使います。この方式はSCS(Supplemental Coverage from Space=宇宙からの補完的なカバー)と呼ばれ、利用者から見ると「いつもの電話番号のまま、圏外でつながる」という体験になります。始めるのは速く、資本も軽い。ただし電波の権利は自分のものではありません

なお、SpaceXはグローバルスターの帯域へのアクセスを求めてFCCに申し立てましたが、却下されています。すでに免許を持つ側の地位は、外から要求しても動かせなかった、という一例です。

💡 衛星の数だけを比べても意味がありません。SpaceXは小さい衛星を大量に、ASTは大きい衛星を少数、という設計思想がそもそも違うからです。ASTのBlock 2 BlueBirdは展開時の面積がおよそ2,400平方フィート(約223平方メートル)で、同社は低軌道の商業通信アレイとして過去最大としています。ただしアンテナが大きければ必ず有利、というものでもありません

この前提を崩しうる、ひとつの審議

ここまでの話は、「電波の免許は希少で高い」という前提の上に成り立っています。その前提を揺さぶりうる動きが、いま進んでいます。

FCCは、Wi-FiやBluetoothなどの免許不要の帯域を、衛星との直接通信に使えるようにするかを検討しています。これは規則がすでに変わったという話ではなく、公開会合で議論される検討段階です。

もしこれが広く認められれば、何十億ドルもかけて免許を買った側の隣に、免許料のかからない通り道ができることになります。ただし免許が要らなくなっても、技術基準・干渉対策・端末の対応・各国の認可は依然として必要で、携帯向けの免許帯をそのまま置き換えられるとは限りません

どこまで実用になるかは技術的にも制度的にも未知数で、現時点で結論は出ていません。それでも、この記事で見た約390億ドルの前提に対する最も直接的な反証材料がここにあります。編集部が最重要の観測点と考えているのは、次の打ち上げよりもこの審議の行方です。

日本への含意

日本の読者にとって、この競争は他人事ではありません。日本の3大キャリアは、すでに全部Starlinkだからです。

携帯キャリア採用しているD2D開始時期
KDDI(au)au Starlink Direct(SpaceX)2025年4月(国内初)
ソフトバンクSoftBank Starlink Direct(SpaceX)2026年4月10日
NTTドコモdocomo Starlink Direct(SpaceX)2026年4月27日
楽天モバイルAST SpaceMobileの衛星を使う計画2026年度第4四半期に開始予定

2026年4月に大手2社が相次いで追随した結果、大手3社の圏外向けD2Dの提携先は、そろってSpaceXになりました(地上の携帯網そのものの話ではありません)。この構図と、総務省が国産衛星網「J-LEO」に最大1,480億円を投じて楽天×AST連合を採択した経緯は、日本版Starlinkはなぜ楽天×ASTになったのかでくわしく扱っています。

Amazonが加わると、日本のキャリアに3つ目の選択肢が生まれる——とは言えます。ただし時間軸には注意が必要です。2028年はあくまで衛星の配備開始で、そこから日本での免許取得、キャリアとの提携、端末対応、サービス開始という段階が残ります。すぐに選択肢が3つになるわけではありません

さらに、キャリアにとってD2Dの提携先を変えることは、単なる仕入れ先の変更ではありません。自社の電波を相手に使わせるかどうかという話なので、簡単には動きません。Amazonが自前の電波を持つことにこだわった理由も、おそらくそこにあります。

関連企業一覧

⚠️ 以下は投資対象の推奨ではありません。 記事で触れた主体を、立場ごとに区分して整理したものです。買収が合意されている銘柄の株価は買収条件に近づく傾向がありますが、今回の2件はいずれも対価に買い手の株式を含むため、買い手の株価や成立確率によって乖離します。買収は規制当局の承認等を経るため、不成立の可能性もあります。

① D2D網を運営・計画する側

企業上場関与の内容
SpaceX米NASDAQ(SPCX・2026年6月12日上場)Starlink Direct to Cellを商用提供。EchoStarから次世代用の周波数免許を取得
Amazon米NASDAQ(AMZN)Amazon LeoとしてD2D衛星5,105基をFCCに申請
AST SpaceMobile米NASDAQ(ASTS)Block 2 BlueBirdを配備中。地上キャリアの帯域を使う方式
Rocket Lab米NASDAQ(RKLB)イリジウムの買収を発表(2027年半ばクローズ予定)

② 電波の免許を持ち、売却・被買収の当事者となった側

企業上場状況
グローバルスター米国市場(GSAT)Amazonが買収に合意(2026年4月・約116億ドル)。買収対象
イリジウム米NASDAQ(IRDM)Rocket Labが買収を発表(1株54ドル)。買収対象
EchoStar米NASDAQ(SATS)AWS-4・H-block・AWS-3の免許をSpaceXへ売却で合意

③ 日本の関係企業(サービスを提供・計画する側)

企業上場関与の内容
楽天グループ東証プライム(4755)楽天モバイルがASTと提携。J-LEOの採択事業者側
KDDI東証プライム(9433)au Starlink Directを国内で最初に提供
ソフトバンク東証プライム(9434)SoftBank Starlink Directを提供
NTT東証プライム(9432)傘下のNTTドコモがdocomo Starlink Directを提供(NTT本体の事業ではありません)

なお、J-LEOの採択事業者であるRAST株式会社は未上場で、個人が直接株式を買うことはできません。

フクリの見方:第一関門は打ち上げ能力ではなく、電波を確実に使える体制

編集部の立場を書きます。この段階のD2D競争で最初の関門になるのは、衛星を何基打ち上げられるかではなく、使える電波をどれだけ確実に押さえているかだと考えています。

根拠は2つです。

第一に、この10か月に実際に動いたお金の行き先です。約390億ドル規模の取引は、すべて電波の免許を持つ相手に向かいました。ロケットでも工場でもありません。企業が自分のお金をどこに置いたかは、その企業が何を希少だと考えているかを示します。

第二に、世界有数の資金力を持つAmazonが選んだ手段です。自力で電波を確保するのではなく、会社ごと約116億ドルで買うという道を選びました。SpaceXも、すでに商用サービスを走らせながら、次世代用の免許に170億ドル超を投じています。両社とも「買えるうちに買う」側に立っています。

この見方が外れるとしたら、次の3つの場合です。

  1. 免許不要帯の開放が進んだ場合。 FCCの審議が広い開放につながれば、高額で買った免許の希少価値は下がります。これが最大の反証条件です。
  2. 勝負の軸が「つながるか」から「速いか」へ移った場合。 いまはつながるかどうかの段階ですが、動画が普通に見られる水準を各社が競い始めると、衛星の性能と数が効いてきます。ASTの大型衛星路線はそこに賭けています。
  3. 地上キャリアが自ら衛星を持ちにいく場合。 借りる側と貸す側の関係が逆転すれば、この構図は組み替わります。

そして、この記事から「だからどの株が上がる」は導けません。 電波を高く売った側も、高く買った側も、それが利益に変わるかどうかはこれからです。買収が合意された銘柄の株価は買収条件に収れんして動きが鈍り、規制の承認を得られなければ話は白紙に戻ります。構造を理解することと、値上がりを当てることは別です。

宇宙インフラをめぐる同じ流れは、Blue Originの初の外部出資衛星の”車台”を売るビジネスNATO8カ国の衛星相互運用構想軌道上サービス市場でも扱っています。

まとめ(3行)

  • Amazonが2026年7月24日、D2D衛星5,105基をFCCに申請。土台はグローバルスター買収で手に入るL帯・S帯で、衛星の配備開始は2028年から。
  • ただし勝負はもっと前から動いていた。2025年9月からの10か月で、電波の免許を持つ相手へ約390億ドル規模の取引が連鎖した(EchoStar→SpaceX、Amazon→グローバルスター、Rocket Lab→イリジウム)。
  • 増やせるのは衛星と打ち上げ、増やせないのは電波の免許。ただしFCCが審議中の免許不要帯の開放は、この前提そのものを揺さぶりうる

情報源・参考

  • Amazon「How Amazon Leo plans to connect mobile devices from space」(公式):aboutamazon.com(衛星数5,105基・軌道シェル・L帯/S帯・2028年配備開始・グローバルスターとの合併契約・提携先)
  • SpaceNews「Amazon files application for direct-to-device satellite constellation」:spacenews.com(申請日2026年7月24日・高度・買収額と2027年クローズ・SpaceXの申し立て却下)
  • Via Satellite「Amazon Leo Files for 5,105 Satellites in Globalstar Spectrum for D2D」:satellitetoday.com
  • EchoStar「EchoStar Announces Spectrum Sale and Commercial Agreement with SpaceX」(IR):ir.echostar.com(AWS-4・H-blockを約170億ドル、現金最大85億ドル+SpaceX株最大85億ドル、債務利払い約20億ドルの負担)
  • EchoStar「EchoStar Agrees to Sell Full Unpaired AWS-3 Spectrum License Portfolio to SpaceX」(IR):ir.echostar.com(約26億ドル)
  • Rocket Lab「Rocket Lab to Acquire Iridium in Historic Deal」(IR・2026年6月29日):investors.rocketlabcorp.com(1株54ドル=現金27ドル+株式、企業価値約80億ドル、2027年半ばクローズ予定)
  • SpaceX「Announces Pricing of Initial Public Offering」(公式):content.spacex.com(2026年6月12日上場・NASDAQ「SPCX」・公開価格1株135ドル・5億5,555万株)
  • AST SpaceMobile「Announces Launch Date for BlueBird Satellites 11, 12, and 13」:businesswire.com
  • Via Satellite「FCC Grants AST SpaceMobile Commercial Authorization for Direct-to-Device Service」(2026年4月22日):satellitetoday.com(2026年4月21日付FCC命令・248基の星座とSCS・700/800MHz帯をVerizon・AT&T・FirstNetと調整・2026年末までに約45基の目標)
  • SpaceX「Starlink Direct to Cell」:starlink.com
  • 日本のキャリア動向とJ-LEOの経緯は、当サイトJ-LEO記事に記載の各社発表・総務省資料にもとづきます
免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

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