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AIを病院に入れる前に、門番の許可が要る——米電子カルテ最大手Epicに、FTCが動いた

2026.08.15 ・ 執筆:フクリ
AIを病院に入れる前に、門番の許可が要る——米電子カルテ最大手Epicに、FTCが動いた

📌 本記事は公開情報(報道、州の公表資料、市場調査、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月15日時点のものです。

昨日、AI医療機器の記事で「なぜ売れているのか」を書きました。答えは制度でした。米国には新しい医療技術に最長3年だけ上乗せで払う仕組みがあり、それが販売を後押ししていた、という話です。

今日はその手前の話です。制度で払ってもらえるとしても、そもそも病院のシステムに繋いでもらえなければ、機器もソフトも動きません。

そして米国では、繋ぐかどうかを決める会社が1社に集中しています。

何が起きたのか

2026年8月14日、ロイターが報じました。 米連邦取引委員会(FTC)が、電子カルテ最大手のEpic Systemsについて、独占禁止法違反の疑いで調査を始めたというものです。

FTCとは、米国で独占禁止と消費者保護を担当する政府機関です。企業の分割や取引方法の変更を求める権限を持ちます。

分かっていることを整理します。

項目内容
報道日2026年8月14日(ロイター)
段階初期段階。捜査官が少なくとも4人に接触したと報じられています
手法ヘルステック業界の他社へ民事調査要求(CID=Civil Investigative Demand。強制力のある資料提出命令)を送付。宛先は非公開
参加州司法長官も加わっているとされます
Epicの反論「私たちは患者ケアを支える相互運用性の担い手であり、反競争的な行為はしていない」

⚠️ これは調査であって、違反の認定ではありません。 初期段階と報じられており、何らかの処分に至るかどうかは現時点で分かりません。

Epicとは何者か

日本ではほとんど知られていませんが、米国の医療では避けて通れない会社です。

本社はウィスコンシン州ベローナ。非公開企業で、株式を買うことはできません。 患者向けポータル「MyChart」の運営元でもあります。

電子カルテ(EHR)とは、紙のカルテを置き換えた病院の基幹システムです。診療記録、検査結果、処方、会計まで扱う中心的な仕組みで、一度導入すると数年から十数年は入れ替えられません。

なぜ「門番」なのか

ここが投資家にとっての本題です。

AIで医療を良くしようという会社は数多くあります。画像診断、記録の自動作成、投薬のチェック。しかしどれも、患者データに触れなければ動きません。

1番目と2番目は、公開されたルールに沿って争えます。 承認基準も支払い制度も文書になっており、外から見えます。

3番目は違います。 接続の可否、条件、価格。これらは民間企業どうしの契約であり、外からは見えません。 ⚠️ 最終的にデータを預けているのは病院であり、接続を認める権限は病院側にもあります。 それでも、病床の57%で動いているシステムの提供元が、実務上いちばん大きな関門になるという構図は変わりません。

FTCが見ている2つの争点

報道によれば、調査の軸は2つです。

① 従業員の競業避止契約

Epicは従業員に対し、退職後に幅広い医療関連企業へ移ることを禁じる契約を結んでいるとされます。直接の競合だけでなく、間接的に競合する事業まで含む広さが問題視されています。

競業避止契約とは、退職後に同業へ移らないことを約束させる契約です。営業秘密を守る目的で使われますが、範囲が広すぎると人材の移動を止め、新規参入を妨げるとして問題になります。

これは業界にとって重い話です。 電子カルテを深く理解した技術者が、外の会社で医療ITを作れないなら、挑戦者を育てる人材そのものが供給されません。

② データアクセスの遮断

もう1つは、支配的な地位と病院顧客への影響力を使って、ライバルの技術企業が患者データにアクセスするのを妨げているのではないかという点です。

すでに複数の訴訟が起きています。

提訴者時期主張状況
テキサス州(パクストン司法長官)2025年12月データを握って競争を排除する手口。MyChartの初期設定で、子が12歳になると親の代理閲覧が制限される点も指摘係争中。Epicは「口実であり根拠がない」と反論
Particle Health口実を使ってデータ接続を切り、顧客の移行を促し、事業を不安定にした一部の主張はすでに却下
CureIS Healthcare2025年「直接の競合」と認定されてデータ接続を絶たれた。自社製品を優先する方針を顧客に求めたと主張係争中
Veeva Systems競業避止契約の広さを争った原告適格を欠くとして却下。控訴中

⚠️ いずれも原告側の主張であり、認定された事実ではありません。 Veeva、Particle Healthのように却下された例もあります。

テキサス州の訴状によれば、Epicのシステムには3億2,500万人以上の患者記録があるとされます。

日本は制度で先に潰そうとしている

同じ問題は日本にもあります。 病院ごとにベンダーが違い、システムを入れ替えにくく、データが外に出にくい。構図は米国と変わりません。

違うのは、日本が民間の交渉に任せず、国が仕組みを作りにいっている点です。

医療DX令和ビジョン2030では、「遅くとも2030年には、概ねすべての医療機関において、必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」とされています。

APIとは、外部のソフトが決まった手順でデータをやり取りするための窓口です。標準のAPIが義務づけられれば、接続の可否がベンダーの裁量ではなくなります。

どちらが良いという話ではありません。 米国型は市場に任せるぶん巨大な勝者を生み、そのあとの是正に時間がかかります。日本型は先に枠をはめるぶん、枠を作る側の設計が正しいかに依存し、進み方も遅くなります。

関連企業と日本の接点

⚠️ 以下は「この分野で事業を行っている企業」の整理です。

① 調査の対象

Epic Systems(未上場・米ウィスコンシン州)。個人が直接買う手段はありません。 上場していないため、業績も限られた範囲でしか外から見えません。

② 米国の競合・関係企業

企業(ティッカー)この話での位置
オラクル(ORCL・米NYSE)2022年にサーナーを買収しオラクル・ヘルスとして展開。病床シェア20.4%の2位。2021年以降で173病院を失ったとされます
Veeva Systems(VEEV・米NYSE)製薬向けソフト。Epicの競業避止契約を争い、原告適格を欠くとして却下され控訴中

いずれも米国の取引所に上場しており、日本の取引所には上場していません。

③ 日本の電子カルテ関連

企業(証券コード)この話での位置
NEC(6701)大規模病院向けの電子カルテ・医療情報システム
富士通(6702)同上。大規模病院で高いシェアとされます
ソフトウェア・サービス(3733)病院向け電子カルテの専業
EMシステムズ(4820)調剤薬局・診療所向けのシステム

⚠️ この一覧は投資対象として推奨するものではありません。 各社は電子カルテ以外の事業も持ち、業績はそちらにも左右されます。

④ 関連5社の株価は、この1年どう動いたか

3つに割れました。 大手のNEC 113・富士通 110、専業のソフトウェア・サービス 87・EMシステムズ 76、そしてオラクル 61です。

オラクルの下落を電子カルテ事業だけで説明することはできません。 同社はクラウドや企業向けソフトの比重が大きく、株価はそちらの要因で大きく動きます。ここで読み取れるのは、電子カルテという同じ言葉でくくられる企業でも、株価の動きがそろっていないという事実だけです。

フクリの見方:この調査の本当の争点はデータではなく、人です

見立ては1つです。2つの争点のうち、業界の形を変える力があるのは競業避止契約のほうです。

理由は、元に戻せるかどうかの違いにあります。データアクセスは、命じれば明日から開けられます。 接続を拒んでいたなら、開けさせればいい。技術的にも制度的にも可能で、実際に日本は標準APIでそれをやろうとしています。

人は違います。 電子カルテを深く理解した技術者が10年にわたって外へ出られなかったなら、その10年で生まれなかった競合は、契約を無効にしても遡って生まれません。 挑戦者が育つには、育った人が移ることが要ります。移動を止める契約は、市場の構造そのものを時間をかけて作り変えます。

反対の見方もあります。 医療データの扱いには高い専門性と守秘が要り、競業避止契約には正当な理由があるという主張です。それでもこの見立てを変えないのは、問題にされているのが契約の存在ではなく範囲の広さだからです。 直接の競合だけでなく間接的に競合する事業まで含むなら、それは秘密の保護ではなく人材の囲い込みに近づきます。

ここで述べているのは、公開されている争点についての見立てです。 Epicは反競争的な行為を否定しており、FTCは調査を始めた段階で、違反は認定されていません。

この見立てが外れる条件

何を見ていればいいのか

見るものどこで見られるかどう読むか
FTCの動きFTCのプレスリリース調査で終わるか、提訴や和解による是正命令まで進むか
テキサス州の訴訟テキサス州司法長官の発表却下されるか、審理に進むか
日本の電子カルテ情報共有サービス厚生労働省の医療等情報利活用ワーキング2026年度冬の全国展開が予定どおり進むか

まとめ(3行)

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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