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日本は「硫化カルボニル(COS)」を独占しているのか?半導体特殊ガスの実態と関連企業を徹底検証

2026.07.02 ・ 執筆:フクリ
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フクリ
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「硫化カルボニルという半導体材料を、日本が世界で独占しているらしい」——SNSなどで時々見かけるこの噂、気になったことはありませんか。今回の特集では、この説を企業の公開資料など一次情報ベースで徹底検証しました。調査結果の全体像は記事上部のスライド資料にもまとめてあるので、まずざっと眺めてから本文を読むと理解しやすいと思います。

先に結論を言うと、独占という表現は言い過ぎです。ただし、半導体で使える高純度品という狭い領域では、日本企業が非常に強いポジションを握っているのも事実でした。「独占ではないが、日本主導」——これが今回の調査で見えた実態です。

硫化カルボニル(COS)とは何か

硫化カルボニル(Carbonyl Sulfide、化学式COS)は、炭素・酸素・硫黄からなる無色のガスです。工業的には昔から農薬の中間体などに使われてきた化学品ですが、近年注目されているのは半導体製造用のエッチングガスとしての顔です。

半導体チップは、ウエハーの上に膜を作っては削る工程を何百回も繰り返して作られます。この「削る」工程(エッチング)で使われる特殊ガスのひとつがCOSです。日本酸素ホールディングス傘下の日本酸素の技報によると、COSはプラズマ中で硫黄を効率よく生成し、削った穴の側壁を保護する膜を作りやすい性質があります。これが、深く細い穴をまっすぐ掘る加工——特に記憶用半導体「3D NAND」の高層化——で重宝されているのです。

3D NANDはデータを保存するフラッシュメモリーの一種で、ビルのように記憶素子を縦に積み上げる構造をしています。積層数が増えるほど深い穴を高精度に開ける必要があり、COSのような側壁保護に効くガスの需要が伸びる、という構図です。AIサーバー向けの投資が半導体全体を押し上げている流れ(この背景は半導体サプライチェーンとAI電力問題の特集で詳しく解説しています)の中で、意外と見落とされがちな「材料ガス」の世界と言えます。

「日本独占」説を検証する

確認できたこと

今回、独立した2系統の調査で企業の公開資料を突き合わせました。確認できた事実は次の通りです。

  • 証券コード4047の関東電化工業は、COSを「半導体製造用エッチングガス」として公式に製品ラインナップに掲載している
  • 同社の中期経営計画関連資料では、COSの生産能力を年80トンから150トン、200トンへと段階的に増強する計画と、市場シェア60%超という水準が示されている
  • 日本酸素の技報では、半導体向けの高純度COS(純度99.9%)を商品化したことが説明されている
  • 証券コード4996のクミアイ化学工業は2025年4月、農薬中間体で培ったCOSの知見を活かし、半導体グレード高純度COSの販売開始を発表した

つまり、半導体で使える品質のCOSを公開情報で確認できる供給者は、現時点でほぼ日本勢に集中しています。

確認できなかったこと

一方で、次の点は公開情報からは裏付けが取れませんでした。

  • 日本の世界シェアが100%であること(=独占の直接的な根拠)
  • COS単体の売上高・利益率・顧客別の採用状況
  • 信頼できる市場規模や価格の統計データ

さらに、海外大手のエアリキードやリンデもCOSの純ガス・混合ガスを取り扱っており、中国でも電子グレードCOSの販売開始事例が報じられています。完全な独占ではなく、高純度品で日本が先行していると理解するのが正確です。ちなみに、半導体材料の国際競争と中国の追い上げという構図は中国メモリー半導体CXMTの記事で扱ったテーマとも重なります。

日本の強みの本質は「純度と供給の信頼性」

調査を進めて見えてきたのは、この分野の参入障壁が「ガスを作れること」ではなく、半導体工場でそのまま使える品質に仕上げて安定供給できることにある、という点です。COSは毒性のあるガスで、不純物がわずかでも混ざれば半導体の歩留まりに直結します。合成・精製から容器・配管・安全監視まで、一連の実装力が問われる世界です。

投資家目線で面白いのは、この三層構造のどこにもそれぞれ企業がいることです。ガスそのものが主役でも、実際にお金が流れるのは供給設備や安全装置まで含めた裾野全体、という見方ができます。

関連企業一覧

調査で登場した企業を、情報の確度で3つに区分して整理します。この区分け自体が今回の検証の核心なので、表の見出しに注目してください。

区分①:COSを公式に製品化・言及している確認済み企業

企業名コード上場確認できた内容
関東電化工業4047上場COSを半導体製造用エッチングガスとして製品掲載。能力増強計画・シェア水準も開示

区分②:COS生産への関与が公開情報にあるが、詳細未確認・事業比率が小さい企業

企業名コード上場確認できた内容
日本酸素HD4091上場傘下の日本酸素が高純度COSを商品化と技報に記載。売上に占める比率は不明
クミアイ化学工業4996上場2025年に半導体グレード高純度COSの販売開始を発表。本業は農薬
レゾナックHD4004上場高純度ガス製品群にCOSを含むとの情報あり。詳細は未確認

区分③:COSサプライチェーンの周辺(供給設備・分析・除害など)

企業名コード上場位置づけ
ジャパンマテリアル6055上場特殊ガス供給装置・配管・工場運営サービス。ガスの種類を問わず恩恵を受けやすい
エア・ウォーター4088上場半導体向け特殊ガス・供給システム全般。※同社は2026年に子会社を含む不適切会計が発覚し、累計利益の過大計上・社長報酬の一部返上・東証の特設注意市場銘柄指定という経緯がある。COS事業とは別問題だが、投資判断の際は必ず最新の開示情報を確認すること
KITZ6498上場子会社が超高純度ガスバルブを供給
CKD6407上場薬液・ガス供給ラインの制御機器
HORIBA6856上場ガス分析・計測機器
荏原製作所6361上場排ガス処理装置(スクラバー)
フジキン非上場超高純度バルブ・集積ガスシステムの重要企業だが直接投資は不可

なお、株価の参考水準として、関東電化工業は2026年6月下旬時点で4,000円前後・時価総額約2,100億円、日本酸素HDは6,000円台・時価総額約2.7兆円の規模です(関東電化工業は2026年上期に株価が急伸するなど値動きが大きいテーマのため、最新の株価は各自ご確認ください)。

強気シナリオと慎重シナリオ

特集記事の締めくくりとして、両方の見方を並べておきます。

強気の見方としては、3D NANDの積層化が続く限りCOSを含む特殊ガスの需要は構造的に伸びやすいこと、そして関東電化工業がCOSにとどまらず低環境負荷の新型エッチングガス「KSGシリーズ」でキオクシアやサムスン電子半導体部門への量産採用を公表していることが挙げられます。ニッチな材料でも、顧客の量産ラインに採用されれば置き換えられにくいのがこの業界の特徴です。

慎重な見方も同じくらい重要です。第一に、COS単体の売上や利益は非開示で、テーマの実際の業績インパクトが測れません。第二に、関東電化工業の株価は直近1年で大きく上昇しており、期待が先行している可能性があります。第三に、メモリー半導体は好不況の波が激しい業界で、設備投資が止まれば材料需要も冷え込みます。加えて、将来的に別のガスへ置き換えられるリスクもゼロではありません。

ニッチテーマの個別株は値動きが荒くなりがちです。こうしたテーマに触れる際も、リスクとリターンの関係分散投資の基本を押さえた上で、資産全体の一部として考えるのが現実的だと思います。

まとめ

  • 「日本がCOSを独占」という噂は、公開情報では裏付けが取れない。正確には「半導体グレードの高純度COSで日本企業が先行・主導している」
  • 中心にいるのは関東電化工業。COSの製品化・能力増強・シェア水準まで開示している唯一の企業
  • 日本酸素HDやクミアイ化学工業も関与を公表しているが、事業全体に占める比率は不明
  • 投資テーマとしてはCOS単体より、特殊ガスの供給・安全・分析まで含めた裾野全体で捉える方が実態に合う
  • ニッチ材料株は情報の非対称性が大きく値動きも荒い。噂ではなく一次情報の確認を習慣に

「独占」という言葉のインパクトに飛びつく前に、一次情報でどこまで確認できるかを見る——今回の検証プロセス自体が、テーマ株と付き合う上での参考になれば嬉しいです。

情報源・参考

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

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