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AGIが来ても「希少」なものは何か?──DeepMindの経済学者が語る、自動化後の富と投資の論点

2026.07.02 ・ 執筆:フクリ
AGIが来ても「希少」なものは何か?──DeepMindの経済学者が語る、自動化後の富と投資の論点

📌 この記事は公開情報(各社の公表・報道・対談内容など)をもとにした情報提供・解説です。数値・固有名詞は執筆時点(2026年7月2日)で確認できた情報にもとづくもので、状況は今後変わり得ます。

「もしAIが人間の仕事のほとんどをこなせるようになったら、世の中で足りないものは何になるんだろう?」──そんな、SFのようで実はとても経済学的な問いに、米国の人気テック番組 Dwarkesh Podcast(ドゥワルケシュ・ポッドキャスト)が正面から挑みました。ゲストは、Google DeepMindでAGI経済学の責任者を務めるシカゴ大学教授と、AI研究機関Epoch AIの経済責任者。いわば「AIの中の人」と「AIを外から測る人」の経済学者コンビです。

なぜこれが投資家に関係あるのでしょうか。投資とは突きつめれば、将来も希少であり続けるものを、いま持っておくという行為だからです。土地が希少なら地価が上がり、半導体が希少なら関連企業の利益が伸びる。ではAGI(人間並みかそれ以上の汎用AI)が労働の多くを代替する世界で、希少なのは何か──この問いは「何十年か先の資産配分」を考えるうえで、意外なほど実践的なテーマです。

この記事では、①対談の概要、②AGI後も希少であり続けるかもしれないもの、③賃金と労働分配率の行方、④そしてフクリが注目した独自の観察ポイントとして「AGIが生む経済成長の果実は、株式指数を通じて広く投資家に届くのか」という論点まで、順にほどいていきます。

まず、この対談は何なのか?

2026年6月4日に公開されたDwarkesh Podcastのエピソード「What remains scarce after AGI?」、日本語にすると「AGIのあとに何が希少であり続けるか」です。出演者は次の2人です。

  • アレックス・イマス(Alex Imas)氏:Google DeepMindの AGI経済学ディレクター 兼シカゴ大学経済学教授。行動経済学が専門です。
  • フィル・トラメル(Phil Trammell)氏:AIの進歩を定量的に研究する Epoch AI の経済責任者、スタンフォード大学リサーチスカラー。

テーマは一貫して「自動化が極限まで進んだ経済で、賃金・富の分配・希少性はどうなるか」。対談では、労働分配率の歴史、人間が関わること自体に価値がある「関係性セクター」、AGIが生む富への課税、部分的な自動化が続く移行期のリスクなどが語られました。以下で紹介する内容は、確定した事実ではなく 対談で示された経済学者たちの見方(仮説や研究途中の議論を含む)である点に注意してください。

AGI後も「希少」なものは何か──人間・計算資源・本物

対談の出発点はシンプルです。モノやサービスがAIとロボットでいくらでも安く作れるなら、価格がつくのは「いくら技術が進んでも増やせないもの」だけになる。対談から浮かび上がった候補を整理すると、こうなります。

対談で語られた「AGI後も残るかもしれない希少性」
人間の関与「人がやること」自体の価値
計算資源賢いAIほど使い道が増える
物理資源電力・土地・素材
本物・一点もの唯一性への支払い意思
対談で示された見方の整理。どれがどの程度価値を持つかは未確定で、今後の実証研究しだいとされる。

「関係性セクター」──人間が関わること自体が商品になる

イマス氏が提唱するのが 関係性セクター(relational sector)という概念です。これは「人間が関わっていること自体が、その商品の価値の一部になっている」財・サービスのこと。たとえばバレエの舞台は、同じ動きをロボットが完璧に再現しても、生身のダンサーが踊るからこそ観客はお金を払う──という考え方です。

面白いのは、イマス氏が実験データを持ち出した点です。アート作品の支払い意思額を調べた研究では、人間が作った一点ものはAI製より大きく高く評価された一方、同じ作品でも「500部の複製がある」と伝えると価格差はほぼ消えたそうです。つまり人間の価値は「人間製だから」だけでなく「希少で本物だから」という条件とセットで生まれる、という示唆です。

一点もの・本物と伝えた場合人間の作品にAI製より高い支払い意思額
複製が500部あると伝えた場合同じ作品でも価格差はほぼ消えた
対談で紹介された実験の結果の整理。人間製というだけでなく「希少で本物」という条件が価値に効いていることを示す一例で、一般化できるかは今後の検証しだいとされる。

また氏は、仕事を「職業」ではなく「タスクの束」で見るべきだと強調します。医師の仕事のうち、保険書類の作成や製薬会社への電話など9割のタスクが自動化されても、患者と向き合うという関係性のタスクが残れば、医師という仕事の価値は形を変えて残りうる──そんな見立てです。ただしイマス氏自身、「人間への支払い意思が十分強くなければ、この話は成り立たない」と、仮説であることを率直に認めています。

計算資源──「ムーアの法則」の逆転現象

もう1つ注目すべきは 計算資源(コンピュート)の議論です。歴史的には「18か月ごとに計算の価値は半分になる」、つまり計算能力は増えすぎて安くなり続けるのが常識でした。ところが対談では、AI用GPUの代表格H100のレンタル価格が、技術が進歩したにもかかわらず3年前より高くなっているという現象が指摘されました。モデルが賢くなるほど計算の使い道が増え、計算1単位の機会費用がむしろ上がっている、というのです。これは「計算資源と、それを動かす電力が長期のボトルネックになる」という見方につながります。この構図は、AIの電力制約を扱った記事で紹介した議論とも重なります。

賃金はどうなる?──産業革命以降、驚くほど動かなかった「労働分配率」

投資家として押さえたい経済用語が 労働分配率(経済全体の生み出す価値のうち、賃金として労働者に払われる割合)です。対談によれば、この数字は産業革命以降の激烈な自動化にもかかわらず、およそ6割前後で驚くほど安定してきたとされます(経済学で「カルドアの定型化された事実」と呼ばれる観察です)。直近30〜40年では低下したとする研究もありますが、対談では会計方法の変化の影響を指摘する見方も紹介されました。

労働分配率のイメージ(対談で紹介された観察) 労働(賃金) 約60% 資本 約40% 経済全体が生む価値の分け前(イメージ) 出典:対談で紹介された観察(いわゆる「カルドアの定型化された事実」)。概数であり厳密な会計上の定義は論争がある。
労働分配率のイメージ図。対談で紹介された「経済全体の価値のうち約6割が労働側に分配される」という観察にもとづく概数で、正確な会計上の定義には論争がある。将来この比率がどう変わるかは未確定。

なぜ機械化が進んでも賃金の取り分が減らなかったのか。対談では、1820年ごろの経済学者リカードが「機械が仕事を奪う」と予測して、自動化そのものは当てたのに、モノが安くなった分のお金が新しい仕事・サービスに流れることを見逃した、という歴史が紹介されました。電話交換手も、自動化技術の登場後すぐ消えたのではなく、20年かけてゆるやかに減っていったそうです。

ただし今回が過去と違うのは、AGIは「新しく生まれた仕事」までこなせてしまう可能性があることです。トラメル氏は、サプライチェーンをさかのぼって資本と労働の取り分を計算するモデルを紹介し、一部の極端な仮定を置いた財では、資本の取り分が100%に近づく(=人間の関与に価値が残らない)ケースも理論上ありうるという見立てを示しました。これはあくまでモデル上の一つの可能性であり、そうなると決まったわけではありません。もし現実にそうした動きが強まれば、賃金より資本、つまり株式などの生産手段の所有に富が集まる度合いが強まる、という方向の議論です。もっとも、雇用データにはまだAIによる大きな置き換えの兆候は表れていない、というのが対談時点での両氏の認識でした。

独自の視点:AGIの果実は、株価指数を通じて広く届くのか

ここからが、フクリがこの対談でいちばん重要だと感じた観察ポイントです。多くのメディアは「どの仕事が残るか」に注目しますが、投資家にとっての核心はむしろこちらだと思います──AGIが生む経済成長は、S&P500や全世界株のような指数に広く反映されるのか、という論点です。

対談では、途上国がAIの恩恵を受ける方法として「米国株指数を買えばよいのでは」という素朴な案が検討され、一つの留保が示されました。AIの利益の相当部分を稼ぐとされる企業(OpenAIやAnthropicなど、いずれも未上場)が仮に未上場のままなら、指数を通じてその成長を直接には反映しにくい、という指摘です。あわせて、AIが社会にどう根づくかによって2つの方向性がありうる、という整理も語られました。

⚠️ ここで名前が挙がるOpenAI・Anthropicはいずれも未上場で、個人が株を直接買う手段は現時点でありません。将来の有望な投資先として名前を挙げているわけではなく、対談の議論を理解するための例として触れています。

📝 念のため:以下の「電気型/SNS型」という対比は、対談の議論を分かりやすく単純化したものです。実際にどちらに近づくかは、公開市場での取引の有無、未上場企業の比率、オープンモデルの追い上げ、各国の規制・課税など、複数の要因が絡み合って決まります。二択で決まる話ではありません。

電気型のAIあらゆる企業が使いこなし、恩恵が経済全体に薄く広く行き渡るイメージ
SNS型のAI少数のプラットフォーム企業に利益が集中するイメージ
対談で示された対比の整理(単純化した例え)。AIが「電気」のような汎用インフラに近づくか、「SNS」のような寡占ビジネスに近づくかは未確定で、実際は複数の要因が絡む。

この視点で見ると、いくつかのニュースの読み方に補助線が引けます。

  1. フロンティアAI企業の上場動向は、注目すべき観察ポイントの一つになります。対談ではトラメル氏が、未上場のAI企業について「遠からず上場に向かうだろう」という個人的な見立てを語っていましたが、これは確定した情報ではなく対談中の推測です。AnthropicのIPO観測を扱った記事で見たように、実際に上場が実現するかどうかも未確定な段階です。
  2. オープンなAIモデルの広がりも、一つの論点として押さえておきたいところです。対談では、オープンモデルが最先端の6〜9か月遅れで追いかけ続ける限り、AIの力が特定企業に独占されにくくなるのではという見方が示されました。AIの技術が模倣されやすいことは、AIの堀と蒸留を扱った記事ではAI企業側の弱みとして語られがちですが、見方を変えれば恩恵が分散する方向に働く可能性もある、という一つの読み方です。
  3. 不動産・土地についても一つの指摘がありました。対談では「土地の価値の源泉は他の人間の近くにいられることであり、それは将来の主要な生産要素ではなくなるかもしれない」という仮説的な見方が示されています。断定できる話ではありませんが、「持ち家か株式か」という古典的な議論に新しい角度を加える視点です。

これらはいずれも対談で語られた仮説・見立てであり、確定した予測ではありません。あえて一言で言い換えるなら、「AGI時代の資産形成を考えるとき、銘柄の分散だけでなく、富がどの器(上場株・未上場株・土地・自分の労働)に流れ込みやすいかという視点も持っておくと役立つかもしれない」という、フクリからの一つの提案です。

移行期の混乱と、富の分け方──「メッシーミドル」と課税の議論

対談では、いきなりバラ色でもディストピアでもない中間シナリオ、いわゆる メッシーミドル(messy middle=散らかった中間)も議論されました。一部の職業だけが自動化されて雇用不安が広がるのに、経済全体のパイはまだ十分大きくなっておらず、みんなを豊かにする再分配の原資が足りない──という「政治的にいちばん危うい」時期のことです。

一気に自動化が進む場合パイが急拡大し、再分配の原資も増えやすい(それでも分配の設計は課題)
メッシーミドルの場合一部の職だけ失われ、富の拡大は不十分。政治・社会が不安定になりやすい
対談で示されたシナリオの対比。トラメル氏は「メッシーミドルが成立する条件はかなり狭い」と懐疑的な立場も示した。

興味深いことに、トラメル氏はこのシナリオにやや懐疑的です。多くの仕事を自動化できる技術があるなら、パイも急速に拡大しているはずで、「職は奪われるのに富は増えない」という窮屈な条件がそろう窓は狭い、という理屈です。番組ホストのパテル氏も「ソフトウェアエンジニアを全員置き換えられる技術があるなら、他のホワイトカラー業務も自動化できてしまうはずでは」と、シナリオの内的な矛盾を突いていました。

富の分け方についても踏み込んだ議論がありました。イマス氏は、単純なベーシックインカム(毎月の給付)には「国民全員が政府の小切手に依存する状態は、権力の偏りとして危うい」と慎重で、代わりに国民に株式などの資本の持ち分を配るという「ユニバーサル・ベーシック・キャピタル」型の構想や、消費税のような広く薄い税で原資を集めて政府が株式を購入し広く分配する、といった案が検討されました。特定のAI企業だけに重課税すると「それなら誰もAI企業に投資しなくなる」という投資インセンティブの問題が生じる、という論点も出ています。どれも各国で決まった話ではまったくなく、学者たちが選択肢を並べてみせた段階です。

投資家として、どう読む?

この対談は未来予測の議論であり、投資判断の材料としてはかなり「遠い」話です。だからこそ、強気・慎重の両方の目で読むことが大切です。

強気に読むなら資本の取り分が増える方向の変化は、株式という資産クラス全体の長期的な重要性を高める方向の話。ボトルネック(計算資源・電力)や関係性ビジネスなど「希少側」に立つセクターを考える出発点にもなる
慎重に読むなら雇用統計にはまだAGIの経済的インパクトは表れておらず期待先行のリスクがある。すべて仮説段階の未来予測で、課税・規制しだいでリターンの形も変わりうる
対談の議論を投資家目線で整理した両論。どちらか一方が正しいと決まっているわけではなく、両方の目で見ることが基本。

強気に読むなら──資本の取り分が増える方向の変化は、株式という資産クラス全体の長期的な重要性を高める方向の話です。また、計算資源・電力といったボトルネック、人間の関与が価値になる関係性ビジネス、AIを使いこなす側の企業など、「希少側」に立つセクターを考える出発点になります。歴史上、自動化はつねに新しい需要と仕事を生んできたという事実も、経済全体の成長を信じる側の材料です。

慎重に読むなら──第一に、期待先行のリスクがあります。対談でも確認されたとおり、雇用統計にはまだAGIの経済的インパクトはほとんど表れていません。株価には期待が先に織り込まれやすく、現実が追いつくまでの時間差で大きな振れが起きえます。第二に、これは未確定の未来予測です。登壇した経済学者自身が「経済学者は歴史的に何度も予測を外してきた」と繰り返し認めており、関係性セクターも労働分配率の行方も、これから実証データを集めるべき仮説の段階です。さらに、課税・規制の設計しだいで投資リターンの形は大きく変わりえますし、利益が未上場企業に集中して指数投資家に届きにくいシナリオも残ります。どちらか一方に賭けるのではなく、リスクとリターンの関係を踏まえて、外れても致命傷にならない構えを保つことが基本です。

フクリの見方

わたしなりに、この対談から持ち帰りたいポイントを4つにまとめます。

  1. 値動きより「理由」を理解する対談として超一級です。AIブームの株価がなぜ動くのかの根っこには、「何が希少になるか」という問いがあります。AIと投資の基礎を押さえたうえでこの対談の構図を知っておくと、日々のAIニュースの位置づけがぐっと分かりやすくなります。
  2. 希少性の議論は、分散投資の理由を強くします。関係性セクターが花開くのか、計算資源が王様になるのか、恩恵が経済全体に薄く広がるのか──誰にも分かりません。分からないからこそ、分散投資で「どのシナリオでもそれなりに拾える」構えが理にかなうと、わたしは考えています。
  3. 指数に富が入ってくるかを見る、という新しいチェックポイントができました。S&P500や全世界株を積み立てている方にとって、フロンティアAI企業の上場動向や、AIの恩恵が幅広い企業の利益に波及しているかは、遠い話ではなく自分の資産に直結する観測ポイントです。
  4. 確定と未確定を切り分けましょう。対談の存在・出演者・語られた内容は事実ですが、中身はすべて「これから検証される仮説」です。未来の物語に心を動かされたときほど、時間を味方につける複利の基本に立ち返って、淡々と続けるのがフクリ流です。

まとめ

  • Google DeepMindとEpoch AIの経済学者が、AGI後に「希少」であり続けるものを議論。人間の関与(関係性セクター)・計算資源・物理資源などが候補に挙がった
  • 労働分配率は産業革命以降おおむね約6割で安定してきたが、AGIでは資本側に富が寄る可能性が議論され、資産を持つことの意味が変わりうる
  • 投資家目線の観察ポイントは「AGIの経済成長が株価指数に広く反映されるか」。恩恵が広く行き渡るか、少数企業に集中するかは複数の要因が絡み、未確定
  • すべて仮説段階の未来予測。期待先行に注意しつつ、分散と長期の基本で構えるのが現実的

情報源

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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

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