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電気代が上がったのは本当にデータセンターのせいか——米最大の電力市場が見落とした発電所8基分

2026.08.16 ・ 執筆:フクリ
電気代が上がったのは本当にデータセンターのせいか——米最大の電力市場が見落とした発電所8基分

📌 本記事は公開情報(PJMの公表資料、調査会社の分析、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月16日時点のものです。

電気代が上がった理由として、いま最もよく聞くのは「データセンターが電気を食うから」です。

その説明は間違っていません。 米最大の電力市場では、来年度のピーク需要の増加分のうちほぼ全部がデータセンターだと、運営者自身が公表しています。

ただし、値段を決めているのは需要だけではありません。

「容量市場」は何にお金を払っているのか

PJM(ピー・ジェイ・エム)は米国東部13州とワシントンDCをまとめる送電網の運営者で、6,600万人以上に電気を届けています。世界最大級の電力市場です。

ここでいちばん分かりにくいのが「容量市場」という仕組みです。先に押さえます。

容量市場の費用は、最終的に電気を使う側が負担します。 家庭や企業の電気料金に乗る形です。

値段が10倍以上に跳ねた

PJMの容量オークションの落札価格は、この数年で桁が変わりました。

対象年度落札価格(1メガワット・1日あたり)
2024/25年度28.92ドル
2025/26270ドル
2026/27329ドル(上限で決着)
2027/28333.44ドル(上限で決着)
2028/29325ドル(上限で決着)

28.92ドルから333.44ドル。11倍以上です。 地域によって価格が分かれる年度もあり、ここでは市場全体の代表値を並べています。 しかも直近3回は、いずれも上限に張り付いて決まっています。

この価格が付くのは「UCAP」という単位です。設備の名目上の出力ではなく、実際に出せると見込まれる分を指します。同じ1メガワットでも、実績や故障率によって評価が変わります。

「上限で決着」とは、FERCが承認した価格の上限に張り付いたという意味です。供給がゼロだったわけではありません。 ただし、上限がなければもっと高く付いていた可能性を示します。

「1メガワット・1日あたり」という単位はイメージしにくいので、あとで金額に直します。

PJM自身の説明は明快です。 2025年12月17日の発表によれば、2027/28年度のピーク需要の見通しは前年より約5,250メガワット増え、そのうち約5,100メガワットがデータセンターによるものです。増加分のほぼ全部が該当します。

さらにこのオークションでは、目標に対して6,623メガワット足りませんでした。 PJMの歴史で市場全体が目標に届かなかったのは初めてです。

ここまでは「需要が増えたから値段が上がった」という素直な話です。 AIの電力需要がどこで詰まるかはSemiAnalysisの電力ボトルネック論でも扱いました。

必要量を決める式に、古い前提が残っているのではないか

2026年8月16日、調査会社SemiAnalysisが別の角度からの分析を公開しました。

同社はPJMが必要量を決めるのに使う中核のモデル「Reserve Requirement Study」を、半年かけて外から再現したと述べています。その結果、いまある発電所の実力を約4ギガワット(UCAPベース)過小評価している可能性があるというのが同社の主張です。

⚠️ これはSemiAnalysisの推計であって、PJMの公式見解ではありません。 同社はFERC(米連邦エネルギー規制委員会)への意見公募に、この分析を提出する当事者でもあります。立場のある発信として読む必要があります。

指摘されている中身は2つです。

なぜこうなるのか。 PJMは過去の実績データで発電所の信頼度を判定する設計だからです。2013年の極渦と2022年のStorm Elliottという2回の事故が、いまも計算の重しになり続けています。

この設計には、それ自体に問題があるとSemiAnalysisは言います。 実績で測るということは、どれだけ設備を直しても、その効果が数字に出るまで10年以上かかるということです。改修に金を使うほど損をする、という向きの誘因が働きます。

4ギガワットとはどれくらいか。 大型のガス火力でおよそ8基分、いまから建てれば約100億ドルかかる規模です。すでに持っているのに勘定に入っていない——これが同社の主張の要点です。

いくら余計に払ったとされるか

年度SemiAnalysisの推計
2025/2667億ドル
2026/2749億ドル
合計約116億ドル

同社は感度分析として80億〜145億ドルの幅も示しています。 ひとつの数字ではありません。

単位を身近にします。 116億ドルを、この市場が支える6,600万人で単純に割ると、1人あたり約176ドル(1ドル159円として約2万8,000円)。2年ぶんなので月あたり約1,165円にあたります。

⚠️ これは総額を地域の人口で割っただけの目安で、請求額の推計ではありません。6,600万人は契約者数でも負担者数でもなく、この市場が電気を届けている人数です。実際の請求は家庭・企業・産業で配分が違い、州や契約でも変わります。

もう1つの論点——新品と中古を同じ値段で買っている

モデルの誤りとは別に、市場の設計そのものへの指摘があります。

PJMは、新設の発電所と何十年も動いている既設の発電所を区別せず、同じ価格で買います。 SemiAnalysisはこれを「世界で唯一」と表現しています。

この差は、動いている発電所を持っているだけで受け取れます。 新しく建てなくても、需要が増えれば値段が上がるからです。新しく建てる側の事情は、認可の壁を扱った原子力スタートアップの記事と裏表の関係にあります。

2026年秋に、2043年までの契約が結ばれる

PJMは緊急のオークションを予定しています。

項目内容
日程2026年9月30日〜10月21日(結果は12月2日まで)
調達量6.8ギガワット
契約期間11〜15年(2043年まで)
価格上限平均555ドル(1メガワット・1日あたり)

⚠️ SemiAnalysisは「4ギガワットの補正だけで、この6.8ギガワットの過半は不要になる」と主張しています。 これも同社の推計です。

そして費用を誰が払うかが決まっていません。 新しい大口需要家(データセンター)に負担させる想定ですが、そのための制度をまだどの州も整えていないとされます。大口が自前の電源を確保して系統から離れれば、負担は残った利用者に戻り得ます。 どう配分されるかは州の規制と契約しだいです。 送電網を待たずに自家発電へ動く流れはBehind-The-Meterの記事で扱いました。

日本が名指しされている

この分析は、日本を具体例として挙げています。

日本は、1年ものの契約で全電源を一括して値付けしていた最後の市場だった。この設計では新規の発電所が建たないと結論し、新規参入者向けに20年のオークションを別に作った

実際、日本は制度をそう変えています。 電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営する長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源の新規投資や既設火力の改修に対して、原則20年にわたり固定費水準の容量収入を保証する仕組みです。従来の容量市場(1年ごと)とは別建てになっています。

日本と米国では市場の規模も構造も違うので、優劣を比べられるものではありません。 ただ、「新設と既設を同じ土俵で値付けすると新設が建たない」という論点に、日本が先に手を打っていたという位置づけで引かれています。

関連企業と日本の接点

以下は「この市場の中で事業を行っている企業」の整理です。容量オークションの価格が収益にどう効くかは、発電資産を自社で持つか、規制下の送配電が主体かで大きく違います。 その違いが見えるように並べました。

① PJM圏で発電所を持つ上場企業

企業(ティッカー)この話での位置
タレン・エナジー(TLN・米ナスダック)PJM圏の独立系発電。原子力とガス火力を保有
ビストラ(VST・米NYSE)同上。全米で発電資産を持つ
コンステレーション・エナジー(CEG・米ナスダック)米最大級の原子力発電事業者。データセンター向けの直接供給でも名前が挙がります(→データセンターの計画をめぐる記事
PSEG(PEG・米NYSE)ニュージャージー州の電力会社。送配電の規制事業が主体で、他の3社と収益の構造が違います

⚠️ いずれも米国の取引所に上場しており、日本の取引所には上場していません。 また、この一覧は投資対象として推奨するものではありません。

② 4社の株価は、この2年どう動いたか

容量価格が28.92ドルから300ドル台へ跳ねたのは、この2年の出来事です。 同じ期間の株価を、2年前を100として指数にそろえたのが次の図です。

この2年で、動きが分かれました。 発電所を持つ3社が上げています。 タレン273、ビストラ187、コンステレーション149です。一方で送配電が主体のPSEGは94と、2年前を下回っています。

この差を容量価格だけで説明することはできません。 4社は事業構成も保有する電源も違い、株価はデータセンターとの個別契約や金利でも動きます。ここで読み取れるのは「発電資産を持つ側と、送配電が主体の側で、この2年の動きが分かれた」という事実だけです。

そして、この値上がりはすでに起きたものです。 容量価格が跳ねたのは2024年以降で、上の指数はその後の株価を示しています。

③ 日本の接点

日本にも容量市場があります。 電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営し、2020年度から取引が始まりました。2023年度からは長期脱炭素電源オークションが加わり、原則20年の収入を保証しています。

企業(証券コード)この話での位置
東京電力ホールディングス(9501)日本の容量市場の主要な参加者
関西電力(9503)同上

日本の電力会社は制度も収益構造も米国の独立系発電と大きく違います。 2年の指数では東京電力76・関西電力95で、米国の3社のような動きにはなっていません。 同じ「容量市場」という言葉でも、中身が違うためです。

フクリの見方:値段を決めているのは物理ではなく、誰がどの数字を使うかです

見立ては1つです。電力の値段は需要と供給の物理だけで決まっているのではなく、必要量を計算する式と、その式に誰も触れない仕組みで決まっています。

理由は今回の構図そのものです。モデルが4ギガワットを過小評価しているかどうかは、いまも決着していません。 ここで確かなのは別のことです——外部の調査会社が半年かけて逆解析するまで、誰もこの式を検証できなかった。中核の計算式が事実上ブラックボックスで、中身が正しいか分からないまま値段が先に決まるという順序になっています。

反対の見方もあります。 保守的に見積もることは停電を避けるために正しく、余分に持つ費用は保険料だ、という読み方です。それでもこの見立てを変えないのは、コストが誰に回るかが決まらないまま2043年までの契約が結ばれようとしているからです。 保険料としても、支払う人が決まっていない保険は設計として成立していません。

⚠️ 約116億ドルという金額はSemiAnalysisの推計であり、PJMがこれを認めたわけではありません。

この見立てが外れる条件

何を見ていればいいのか

見るものどこで見られるかどう読むか
緊急オークションの結果PJMのニュースルーム2026年12月2日まで。落札量と価格
FERCの対応FERCのニュースPJMの統治改革に介入するか
日本の長期脱炭素電源オークションOCCTOの公表資料落札量と価格が新規建設に結びついているか

まとめ(3行)

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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