時事

銀行の融資を増やすために、米国が変えようとしているのは現金の「数え方」です

2026.08.28 ・ 執筆:フクリ
銀行の融資を増やすために、米国が変えようとしているのは現金の「数え方」です

📌 本記事は公開情報(米財務省・FRB・各社の公表資料、報道、市場データ)にもとづく情報提供・解説であり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は特記なき限り2026年8月28日時点のものです。

米国の当局が、銀行の融資を増やそうとしています。

スコット・ベッセント財務長官名義の講演原稿には、いまの規制についてこう書かれています。

銀行が本来やるべきこと——貸すこと——を、いまの枠組みは過度に、そして不必要に制限してきた

当局が変えようとしているのは、銀行の手元資金の「数え方」です。

新しくお金を配るわけでも、自己資本のルールを緩めるわけでもありません。銀行がすでに持っている「中央銀行から借りられる枠」を、手元資金として認める。 変えるのはそこだけです。

この記事は米国の話です

当事者は米国の財務省・FRB・大手銀行で、日本の制度が変わるという話ではありません。

ただし、日本のメガバンクも同じ規制の下にいます。 この規制はバーゼルIIIという国際的な取り決めから来ており、日本では金融庁が2014年10月に告示を出し、海外拠点を持つ「国際統一基準行」に適用しています。

いまの数え方——なぜ銀行は現金を積んでいるのか

2008年の金融危機のあと、世界の銀行には「30日ぶんの備え」が義務づけられました。LCR(流動性カバレッジ比率)といいます。

用語を2つ補います。分子に入る資産はHQLA(高品質流動資産)と呼ばれます。 国債や中央銀行に預けたお金がこれにあたります。割引窓口は、中央銀行が銀行にお金を貸す窓口のことです。

この分子に、入っていないものがあります。

銀行はあらかじめ担保を中央銀行に預けておくことができます(プリポジションといいます)。担保を預けてあれば、必要なときにその分だけ借りられます。この「借りられる枠」が、分子に一切数えられていません。

そのため銀行は、借りられる枠を持ちながら、それとは別に現金を積むことになります。

金利が動く世界で何が起きるかは「金利のある世界」とは?、銀行の収益と金利の関係は銀行株と金利にまとめています。

どう変えるのか

2026年3月3日、米財務省とFRBの双方から、同じ日に同じ趣旨の講演が出ました。

財務省側はベッセント財務長官名義の原稿で、財務次官のジョナサン・マッカーナンが代読しています。

流動性カバレッジ比率の要件やその他の流動性規則は、割引窓口にあらかじめ差し入れた担保に紐づく借入余力について、上限つきで適切に算入すべきである

同じ原稿は、いまの枠組みをこう批判しています。

緩衝材として働くどころか、バッファー規制は流動性資産の抱え込みをかえって悪化させ、システム全体にストレスを伝播させることがある

FRB側では、監督担当副議長のミシェル・ボウマンが同じ日に、LCRの水準設定が銀行に過大なHQLA保有を促している——「流動性の抱え込み」——と述べました。

この提案を、さきほどの割り算に当てはめるとこうなります。

いくら動くのか

金額を具体的に挙げているのは、当の銀行です。ジェイミー・ダイモンCEOの2026年4月6日の株主宛て書簡にこうあります。

連銀の割引窓口の算入だけで、JPモルガン・チェースの貸出可能流動性は5,000億ドル近く増える

同じ書簡には、いまの状態についてこう書かれています。

JPモルガン・チェースだけで1兆ドルを超える使える流動性を持つことになるが、計算式が硬直的なせいで動かせない

1つの銀行だけで5,000億ドルです。

📝 念のため:銀行システム全体でいくら増えるか、という数字は本記事では使いません。 各所で「5,000億ドルから1兆ドル」という推計が引用されていますが、その出どころを一次資料までたどることができませんでした。 確認できたのは、ベッセント名義の原稿にある「数千億ドル、場合によっては数兆ドルの新規貸出余力」という定性的な表現までです。

なぜ、いまなのか

同じ時期に、FRBはバランスシートの縮小を検討しています。

規模はおよそ6.7兆ドル。2026年7月9日、ケビン・ワーシュFRB議長は5つのタスクフォースを立ち上げ、バランスシート政策の担当を外部の3人に任せました——ハーバード大学のカレン・ダイナン、シカゴ大学ブースのラグラム・ラジャン(元インド準備銀行総裁)、そしてハーバード大学のジェレミー・スタイン(元FRB理事)です。提言は年内に出る予定です。

FRB理事のスティーブン・ミランは2026年3月26日の講演で、縮小の余地について、1兆ドルから2兆ドルという数字を挙げています。 ただし本人が「大づかみに言えば」と断ったうえでの数字です。

中央銀行がバランスシートを縮めると、市場に出回るお金は減ります。

米国の財政が利払いに圧迫されている状況は国債を売る側の国が、自分の売った国債を買い戻し始めた、米国の金利が日本の資産にどう伝わるかは米国の金利が動くと、なぜ日本の私たちの資産も動くの?を参照してください。

関連企業と日本の接点

区分企業上場この議論での位置
① 名前が出たJPモルガン・チェース(JPM)米国上場
(日本の取引所には上場していません)
ダイモンCEOが書簡で「割引窓口の算入だけで貸出可能流動性が5,000億ドル近く増える」と明記
② 同じ規制の下(影響額は未公表)バンク・オブ・アメリカ(BAC)米国上場同じLCR規制の対象
② 同じ規制の下(影響額は未公表)シティグループ(C)米国上場同上
③ 日本で同じ規制の下三菱UFJフィナンシャル・グループ東証 8306金融庁のLCR告示が適用される国際統一基準行
③ 日本で同じ規制の下三井住友フィナンシャルグループ東証 8316同上
③ 日本で同じ規制の下みずほフィナンシャルグループ東証 8411同上

⚠️ この一覧は規制の適用範囲を整理したものであり、投資対象として推奨するものではありません。 ③については、日本で同じ見直しが検討されているという公表資料は、執筆時点で確認できていません。

米国の大手銀行3社

日本のメガバンク3行

日本のメガバンクのほうが大きく上がっていますが、これは今回の見直しとは別の話で、日本の長期金利が30年ぶりの高さになったことが材料として報じられています(→世界のAI投資11兆ドルのうち、5兆ドルは借金です)。

フクリの見方

ここから先は、事実の整理ではなく、この記事の見立てです。

この見直しを「銀行への規制緩和」として読むと、半分しか見ていないことになります。お金の出し手が、中央銀行から銀行に入れ替わろうとしている、と見ています。

根拠は、2つの動きが同じ時期に同じ方向で進んでいることです。片方でFRBは6.7兆ドルのバランスシートを縮めようとしています。もう片方で、銀行が数えられる手元資金を増やし、貸出の余力を広げようとしています。 前者だけなら引き締めですが、後者が同時に効けば、中央銀行の残高は縮んでも、経済に回るお金は減りません。

増えた貸出余力の行き先にも、すでに名前がついています。JPモルガンは2025年10月に「セキュリティ・アンド・レジリエンシー・イニシアチブ」を立ち上げ、10年で1.5兆ドルを重要産業に振り向けるとしています。対象は供給網と先端製造、防衛・航空宇宙、エネルギー、そしてAIを含むフロンティア技術です。

前の記事で、AIのデータセンターを建てる11兆ドルのうち5兆ドルが借金だと書きました。借り手の側を見たので、今度は貸し手の側です。

だから見るべきなのは、銀行株が上がるかどうかではありません。「引き締めているように見えて、実は引き締まっていない」という状態が起きうるかどうかです。

この見立てが外れる条件

投資として見るときの注意

まとめ(3行)

情報源

免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の投資勧誘や投資助言を行うものではありません。投資にともなう最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。記載内容の正確性には努めていますが、その完全性・将来の結果を保証するものではありません。

フクリ
フクリ Fukuri編集部のナビゲーターです。海外の投資・経済ニュースを、一次情報にあたって日本の読者向けにまとめています。記事の企画・編集・公開の責任は、運営責任者が負っています。
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